神殺しin―――ハイスクールD×D   作:ノムリ

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京都で会談

 手紙に書かれていた場所である寺の鳥居を潜るとさっきまで人の話し声が聞こえていた観光地とは打って変わって物静かな場所。

 灰色の景色に建物ですら現代のものから一昔前の和風建築にと変わっている。

「…結界の一種か」

「此処は裏京都にゃ」

「裏京都ですか?」

「裏京都は妖怪が主の生活する京都にゃ」

 確かに外よりも肌に感じる魔力濃度が濃い、多分、妖怪とから最も住みやすい環境になってるんだろう。

「来たようじゃの」

 コツコツ、と石畳の上で下駄を鳴らしながら歩いてきた金髪の女性。腰から伸びる九つの尻尾に金色の着物を黒歌のように胸が見えるように着崩した着方。後ろには烏の顔の人、妖怪の烏天狗と呼ばれる者たち。

「アンタが案内役ってことでいいのか?」

「ああ、妾は八坂。裏京都を束ねておる。お主たちの事は天照様から聞いておるわ、神無月涼との会談をするから案内するようにとな」

 こっちじゃと道を先に進む八坂の後ろをついていくとあちこちから視線が注がれているのが感覚で分かる。恐怖、畏怖、興味、色んな視線が俺へと向けられている。

 和風の建物に入り、部屋に案内されると茶と羊羹を出された。

「なんか普通ですね」

「てっきり難癖付けて襲ってくるかと思ってた」

「二人は京都の妖怪を何だと思ってるにゃ!?」

 怒る黒歌をほっといて羊羹を一口大に切って口に運ぶ。やっぱり洋菓子も良いけど、和菓子も旨い。セレナも気に入ったようだし。

 顔を横に向けると羊羹を食べて、緑茶を啜ってはぁ~と和んでいる。

 

「準備が整いました、神無月様のみ此方へ」

 戸を開けて声を掛けてきたのは八坂ではなく妖怪でもない普通の人間の巫女だ。

「え!私たちは行けないんですか!?」

「はい、天照様からお一人のみで来るようにと仰せつかっております」

 二人は不満とばかりにお使いの巫女に視線を送っているが、彼女に何を言ったってしかたがない。

「はいよ、それじゃ二人は待機ってことで。何かあったら連絡してくれ」

 心配そうに俺を見送るのを置いて、俺は巫女についていくと此処ですと障子の前に案内された。

「此方から高天原に繋がっております」

 そう告げて巫女も何処かへ行ってしまった。

「戦うことにならないと良いけど」

 障子を開けるとそこは部屋ではない。雲の上だろうか、床も畳ですらない足が何かに触れている感触はあるのに柔らかい。何とも不思議な感覚。

 進んでいくとあったのは首を上に上げなくては見ることの出来ない巨大な鳥居。

「こりゃ~、圧巻だ」

 鳥居の向こうは白く光って何があるのか分からない。

 覚悟を決めて鳥居潜った。

 

「よく参った」

 眩む目を開いてみればそこは一室。

 机もなく窓もなく。あるのは藁で組まれて座布団だけ。中心に置かれて一つ座布団の周りに日本の神々が円形に囲むように座っている。

 

「えっと、どうもでいいのかな」

「構わん、座ると良い」

「それじゃ遠慮なく」

 普通なら正座して座るべきなんだろうけど、ここで下手に出ると良いように使われかねない。

「さて、まずは其方の事を聞きたい。神格をその身に宿す理由をな」

 やっぱり、分かるのか。まつろわぬ神も見ただけでカンピオーネと分かったし、天照の言う神格が関係してるのかもな。

「そんじゃ、まずは俺自身の事からってことで」

 俺がカンピオーネになったこと、他のカンピオーネの権能によってこの異世界へとやってきたこと、冥界で黒歌に出会い悪魔の駒を抜き取ったこと、偶然見つけた教会で行われていた聖剣使いの人体実験の被検体を保護したこと、現在は日本で賞金稼ぎとして活動していることを包み隠さず話した。

 

 

 

 

「……そうか、異世界で人と神は戦っているのか」

 天照は人と神が戦っていることに顔を歪めているが、軍神のタケミカヅチ、スサノオは神と肩を並べて戦える人間が居る事を喜んでいるようにも見える。

「まあ、こっちの世界の事じゃないんだ気にしなくてもいいだろ、それより日本に滞在することは許可貰えるかな」

「それは問題ない。お主のお陰で日本内のはぐれ悪魔による被害が減って寧ろ助かっておるわ。三大勢力の被害は日本でも多い、悪魔は人間だけでなく妖怪にも、堕天使は神器を持って生まれたからと殺され、人を守る天使ですらも悪魔祓いを育てるという理由で才ある者が攫われることもある」

「アイツら好き勝手やってんな、滅ぼしちゃダメなのかよ」

「日本神話の間でもその話は幾たびも上がった。だが、我らは争いを是とはしない、とは言え民が傷付けられるのみ我慢ならん。そこでお主に白羽の矢が立ったというわけだ。実力もあり、妖怪の黒歌と聖剣計画の被害者の少女も連れているそれだけで一目見る価値はある」

「そいつは高評価をどうも、それで俺は何をすれば?」

「三大勢力と協力しろとは言わん、我らも恨みが無いわけではない。ただ民が傷つく危険が迫る時守ってやって欲しい。ただそれだけだ」

 俺の世界の神とは全く違う。これなら敵対する理由も無いな。

「俺は俺の身内を守るだけさ、その時に周りに被害が出そうな時はそっちに連絡でも入れるってことで」

「それで構わん。アイツらは連絡もせんからな」

 ……三大勢力よ、よく今まで滅ぼされなかったな。

「そうなれば、妖怪の統領の八坂と話をしておいておくように言っておく、陰陽師関連からも人を出すようにも言っておく」

 これで一応は一安心だな、とはいえ、黒歌みたいな同意なしで転生悪魔にされる件も少なくない。その辺は俺の力でなんとかするしかないか。

 

 高天原を出て黒歌とセレナが待っている部屋の障子を開けようとすると中からセレナと誰かが会話する声が聞こえてきた。

「そうか、セレナはその涼という男が好きなのか」

「そうですね。私を助けてくれて、名前もくれて優しくて強い人です」

「いいな、私もそんな男と会ってみたいのお」

 セレナは前よりも明るくなって良いことなんだけど、すっごい入り辛い。

「それは高評価どうも」

 聞こえてないフリをして障子を開ける。

「りょ、涼さん!もももう、歓談はよろしいんですか!?」

 耳まで真っ赤にして話を聞かれてないか、慌てているセレナ。

「あ、涼お帰りにゃ」

 机にべた~と突っ伏してくつろいでいる黒歌。

「おおむね、成功って感じかな。敵対はせず、三大勢力と対するときは協力するってことになった」

「それはいい傾向にゃ」

「それでそちらのお嬢ちゃんは?」

 セレナの膝の上に座って話している巫女服を着た金髪の少女。

「八坂の娘の九重にゃ、涼が出て行った少し後に遊びにきたにゃ」

「そうか、俺は神無月涼だ。多分、何度か此処にも顔を出すことになるからよろしくな」

「うむ、よろしくなのじゃ!」

 

 

 

@ @ @

 

 

 天照との会談を終えて、セレナが京都を見たいというので二人で京都観光に行くこととなった。因みに黒歌は八坂と気づいたら酒盛りを始めていた。

「見てください!金色、金色ですよ!」

 元気にはしゃいでいるセレナを見て観光に来たお年寄りは微笑ましい笑顔で彼女を見ている。

 あそこまではしゃがれると金閣寺よりもセレナに目が行ってしまう。

「涼さん!次は清水、清水寺に行きましょ」

 手を引いて前を歩くセレナ。

 出会ってすぐはあまり無理した笑顔だったけど最近は普通に笑うようになった。

「どうかしましたか?」

「いや、今日も可愛いなと思ってさ」

「ふぇ!?」

 頭に手を置いて撫でると顔を赤くしながらも抵抗することなく撫でを受け入れる。甘える猫のように俺の手に自分から頭を擦り付けてくるあたりが可愛らしい。

 ……周りの男からの視線が地味に痛いな。そうでなくてもセレナは外国人で目立って、外見も可愛らしい。

「行こうか」

「あ、あの!」

「どうした?」

「て、手を繋ぎたいです!」

「いいぞ、はい」

 手を差し出すとお菓子を貰ったこどもみたいに目を輝かせて両手で俺の手を取った。

 セレナよ、両手で手を取ったらお前はどうやって前を見る気だ。

「えへへ」

 嬉しそう笑うセレナの手を握り、手を引っ張って進む。

 セレナの行きたいと言っていた清水寺に着くとやっぱり制服を着た修学旅行の学生が観光客に交じっている。

「清水寺って此処から飛び降りてたって本当なんですか?」

「本当らしいぞ、傘を持って飛び降りると恋が叶うって話もあったくらいだしな」

 へ~、とセレナは木製の手すりから下を覗き込んでいる。

「お前なら無傷で着地しそうなもんだけどな」

「流石に無理がありますよ。着地で擦り傷くらいは出来ますって」

 その程度で済むのか、俺の権能のせいでチート臭くなってきたな。

「それよりも、近くに美味しい和菓子と抹茶が飲めるところがあるって八坂さんに聞きましたから行きましょう!」

 

 

 

 

「にっっが~い!」

 茶碗の中に入っている甘くない寧ろ本来の味である苦みに悶えているセレナ。

 あむっ!と花の形の和菓子を頬張りあま~い!と和んでいるがいまだ茶碗の中にはたっぷりの抹茶が残っている。

「抹茶は苦いもんだ。和菓子を先に食べてその甘さで苦い抹茶を飲んで苦さを味わうもんだ」

「え……なんでこんな苦いのに、もっと苦くして味合わないといけないんですか」

 そんな、唖然とした顔をせんでも。

 ほら、隣に座っているおばちゃんが笑ってるじゃないか。

「…しかも、和菓子食べちゃったから残りは抹茶しかない……」

「はぁ~、これやるから最後に食べろよ」

「ありがとうございます、涼さん。こく……苦い、やっぱり苦いです!」

 くぅ~、と体をくねらせて全身で苦いを表現しているセレナは何とも珍妙な生物である。周りのおばちゃん達はそんなセレナを見て笑っている。

 結構、美味しいと思うけどな。

 茶碗に入った抹茶を口に含むと独特な苦さが口に広がる。

「涼さんは苦くないんですか」

「俺はこの苦さは嫌いじゃないかな、抹茶味は好きだし」

「涼さんは好きですが、この苦さは好きになれないです」

 セレナはうむ~と言いながら残った抹茶を飲み干し、渡した和菓子を美味しそう食べている。

 いきなり好きなんて言うから、おばちゃん達からあらやだみたいな顔しながら俺を見てくるじゃねえか。

「全く、そういうことを言われると恥ずいだろ」

「いいんですよ、好きなものは好きなんですから」

 ふふ、と笑っている顔はいつも子供っぽい癖に何処か大人っぽく見えた。

 

 




次回から原作に入る予定です。
エクスカリバー編から始める予定ですが、もしかしたらちょっと変わるかもしれないです。

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