神殺しin―――ハイスクールD×D   作:ノムリ

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王の都

 一誠とヴァーリの戦いは一方的なヴァーリの勝利で終わるかと思っていたけど、一誠がミカエルから譲られたアスカロンに貯めた倍化の力を譲渡することで龍殺しの力を強化。龍殺しの強化された力は一誠の足りない実力を埋めるのに一役買っている。

 

「Half Dimension!」

 空に上がり。両手を広げたヴァーリが掛け声と共に技を発動すると空間に歪みが生じていく。

 

「なんだあれ?」

「あれは物体だろうと空間だろうとなんだって半分にしちまう反則みたいな技だ」

 アザゼルに聞いてみると、分かりやすく解説してくれた。 

 半分ね、消し去れるわけじゃないのか。それでも便利だよな、使いようによっては結構使える。

「それで一誠はその半分にするのに対抗する技なんてなくね?いまだってアンタの道具で無理やり禁手を使ってる状態だろ」

 アザゼルは大声で一誠に呼びかけるといきなりこのままだとリアスたちの胸が半分になると叫びやがった。

 確かに、何でも半分にするなら胸も半分になるけどさ、それを聞いてパワーアップするってどうよ。

「……主、変態がいるよ」

「流石にあれには引きますね」

「だな、俺もドン引きだ」

 セレナと灯巳と話しながら流石に胸が小さくなるで強くなる一誠に変態のレベルにドン引きしていると一誠と殴り合っている。

 なんとも泥臭い戦いだが、俺もまつろわぬ神と戦う時はどんな手でも使ってきたから結構、こっちのほうが好きだな。レベルとしては子供の喧嘩くらいだけど。

 一誠との戦いにテンションが上がってきたのか。俺が聖句を口にするのと同じようにヴァーリが小さく何かを口ずさむ。

 

 

「我、目覚めるは覇の理に全てを奪われし二天龍なり」

『待て、ヴァーリ!覇龍は早すぎる!』

 背中の白い翼からヴァーリの行おうとしてる覇龍というものを辞めるように諭す声。その主は一誠の左腕に宿る赤き龍”ドライグ”と対を成す白き龍”アルビオン”だ。

 アルビオンの注意も聞かずに技を発動しようとしていると結界を突き破って入ってきた人物が一人。

 

「ヴァーリ迎えにきたぜ!」

「美猴か、余計なことを」

「ヴァン神族と戦るから戻ってこいってさ」

 サーフボードにのるように雲に乗っている美猴という人物。肩には赤い棒を担ぎ、もう片手でヴァーリを抱えて飛んでいく。

「誰だあれ」

「美猴。西遊記でいうクソ猿だ」

「孫悟空!?」

 アザゼルと一誠の会話を聞いてもう一度上を見上げると既に二人の姿は無く逃げ切られたみたいだ。

 奇襲やら裏切りやらあったものの会談は無事?に終了となり、三大勢力は和平を俺は脅しをして終わりとなった。

 

 

 

 

@ @ @

 

 

 会談でサーゼクスたちに脅しのかいあってか、黒歌のはぐれ認定も解けて晴れて自由の身になった黒歌は家のリビングで正座をしていた。

「………白音、足痛いにゃ」

「ダメです」

「…しろ」

「ダメです」

 俺が悪魔に渡した報告書を読み、黒歌に会うために家を訪ねてきた小猫こと白音。

 黒歌との仲直りは終わったものの、白音との怒りは収まることなくこうして黒歌は反省中なわけだ、正座で。

 その姿はイラズラが母親にバレた娘にしか見えず、何処か微笑ましく思えてしまう。

「仲がいいな、全く。俺もイリナたちを向こうで待たせてあるからもう行くよ」

「涼先輩は何処かに出掛けるんですか?」

首を傾げて聞いてくる小猫に黒歌が答えた。

「今日は涼の支配する都市に行くにゃ。涼の元に集まった人間とか、人外とかが皆が住んでる都市。この世界で一番安全な場所にゃ」

「あの、私も付いていっていいですか」

「いいけど、黒歌と一緒に行動してくれよ、あと、靴持ってきな」

はい!と元気よく返事をする小猫と正座のし過ぎで脚が痺れて生まれたての子鹿みたいになっている黒歌を連れて権能を発動すると三人を包むように光の膜が生まれて視界は光に包まれ、転移された。

 

 俺を権能によって生み出した(みやこ)月の都(ムーン・ホールド)』へと。

 

 視界を塗りつぶす光が消え、ゆっくりと瞼を開けると視界に広がっていたのは人の活気に溢れる声が聞こえてくる町。

 顔を動かして周り見れば現代よりも少し文化レベルは下がっているが寧ろ、石畳の地面や道の左右に露店が出ている夕景がゲームで出てくるようにな町にも見えて真新しいを彷彿とさせる。

 

「……すごいです。本当に都ですね」

「ああ、俺の身内は全員がここに住んでる。出るのは簡単だけど、入るには俺の許可が必要なんだ。まあ、都市に入る以前に見つけること自体が難しんだけどね」

 

『月の都』と名付けているが存在するのは生と死の境界であるアストラル界。

 曖昧であるアストラル界に都市を築くことなど不可能に近い。『月の都』は都を作るだけじゃない、人が住むのに困らないだけのいくつかの効果を持っているからこそアストラル界なんて本来人が住むどころか存在すること自体が厳しい環境でもこうして笑って過ごすことが出来る。

 

「さあ、眺めてるだけじゃつまらないだろ、行くぞ」

「はい!」

「ゴーにゃ!」

 

 二つの柱に囲まれ円形に敷き詰められた石畳みの上、それこそ正しくゲームに出てくる町から町へと転移する為に設置されるようなゲートっぽい雰囲気のある場所から踏み出し、神殺しを王と主と崇めた者たち住まう都へと。

 

 

 

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小猫side

 

 目的の場所に向けて歩くこと数分。

 小猫は彼が涼先輩が此処に住む人たちにどれだけ慕われているかを知った。

 道を歩いているだけで買い物しているおばちゃんには元気かい?と言われ、露店の店主には並べられている商品の中から今朝入った一番良いもんだ!と笑顔で手渡してくる。果てには小さな女の子が白い花を編んで輪っかにしたものを恥じらいながらどうぞと言って、頭に乗せている。既に頭には輪、首にはネックレス、手には食べ物と花束。いまだに目的地までは遠いというのに既に涼先輩の両手は埋まってしまっている。

 それだけじゃない、都にいるのは人間だけじゃないことに小猫は驚いた。天使、堕天使、悪魔、妖怪もいれば、吸血鬼。そして誰もが分け隔てなく楽しく喋り、子供も種族なんて関係なく友達として走り回っている。

 その光景は少し前まで種族同士で争っていた三大勢力を嘲笑う光景にしか小猫は思えない。

 誰も迫害なんてしていない、互いを理解して、尊重して、手を取り合って生きている。種族同士が協力して生きる、理想が此処に体現されていた。

 

 それが出来るのは恐らくこの世界で目の前を歩くこの人だけだ。

 涼先輩は誰よりも強いと信頼して、命を預けられる。涼先輩が守って、皆が支えて、誰もが自分をじゃない誰かの為に動いている。自己利益なんて欲深いことなんて思ってないからこうして種族関係なく都が作れるんだ。

 

 悪魔には絶対にありえないことだ、と経験からそう思えてしまう。

「白音も此処に住んだらきっと幸せにゃ」

「……黒歌姉様は涼先輩と一緒に居て幸せですか?」

「幸せにゃ。愛してくれるし、何があっても守ってくれるにゃ。でも普通の男の子みたいに弱さも見せてくれて信頼されてるって感じる時が一番うれしいにゃ」

 その顔はアーシアさんがイッセー先輩に見せる顔にそっくり。恋する女の子の顔。少し羨ましいと思いながらも分かる。彼には無意識に引き付けられる自分がいるから。

 強さに憧れるけれど、それだけじゃない。懐の深さというか、器の大きさに惚れてしまう。繕うこともせず、ありのままを見て、ありのままを見せてくれる。

 家を訪ねた私を特に警戒もせずに家に入れてくれたのは強さへの自信かと思ったけど違った。黒歌姉様の妹だからと無償で信頼していたから。

 

「…黒歌姉様、もしライバルになったら容赦しませんからね」

「久しぶりに再会した妹からライバル宣言されたにゃ!」

「お喋りしてないで行くぞ二人とも。あんまりのんびりしていると荷物が両手じゃ収まらなくなっちまう」

 体のあちこちに花を身に着けている涼先輩が私たちに声を掛けて、私たちは笑いながら少しだけ足を速めた。

 

 

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 部屋に入るなり全身を一斉に襲い掛かってくる強烈な熱量。真夏の外なんかとは比較にならない

 炉の中に燃える炎を熱が部屋全体を支配している。

 薪が燃え、高熱を放ち。日常では味わうことのない高温の空気と鉄の叩かれる音。どれもが今の現代社会では遠のいた光景だ、それでもこの場所では生活を支える大切な一部。他の勢力から援助を受けない涼たちにとってゼロから全てを作るほかない。現にこの町の家や食べ物も全てが自分たちで作ったものだ。

 

「涼先輩、此処は?」

「見ての通り鍛冶場だ。部下たちの持つ武器やら日用品を制作してる場所。今日はイリナの武器が出来たからって連絡が入ってな」

 

 炉の前には短い脚の椅子に座って剣の形になりつつある真っ赤な鉄の塊を金鎚で叩いている少女の姿がそこにはある。タンクトップに厚手のズボンという女の癖に色気もない姿だが、その姿に誰もが目を奪われる職人の姿がある。

「マルテット」

「ん?あぁ、アンタか。刀ならイリナに渡したよ。いま裏庭でセレナと試してるとこ。……始めて見る顔だね」

「黒歌の妹の小猫ちゃんだよ。」

「初めまして、えっと…」

「あぁ、マルテットだ。苗字はないから好きに名前で呼んでな。武器が欲しくなったら言ってくれ好きな物作ってやるよ。特に剣は一級品が出来るぞ」

 叩いていた剣を冷水に浸して急激に冷やし、取り出したそれは小猫にとって見慣れた剣だった。

「魔剣、ですか」

「あぁ、魔剣創造(ソード・バース)私が持っている神器だ。これのせいで堕天使に狙われてたんだが、今は持って生まれてことを感謝してる。なんて言ったってこれのお陰で戦えない私は皆の役に立てるからな」

 布で水気の取られて魔剣は薄い青色の刀身が部屋の僅かな光を反射して輝く。

 魔剣創造や聖剣創造の創造系神器は総じて、質の悪さを量や属性によって補う。マルテットはそれを量を捨て、質と属性を突き詰めることで伝説とされる魔剣にすら劣らない一級品の魔剣を生み出す。それを一流の剣士が使ったならば、まさに鬼に金棒という言葉がぴったりだ。

 因みに、セレナの義手を作ったのも彼女である。

 

 

「イリナたちは裏庭で武器の試し切りしてるよ、こっちだ」

 奥に進んでいくとあちこちに職人の姿がある。

 巨大な鎧を整備していたり、三人がかりで誰が使うんだと思えるほどの巨大な大剣を動く回転している砥ぎ石で削っている。

 大量生産ではなく一つ一つ、手間と丹精込めて作られていく武器たち。

 簡易な木製の扉を抜け、裏庭に出るとそこではゼノヴィアとイリナがいつものように斬り合う姿があった。

「いい感じだな」

「ええ、この刀は手に馴染むわ!」

 ゼノヴィアの手には聖剣デュランダル。

 イリナの手にはその聖剣と刃を交えようとも欠けることなく姿を保つ薄紫色の刀身の刀。

「イリナは剣より刀の方が使い慣れていたからな。刀にしておいた」

 マルテットの言う通り、イリナの手にはどことなく剣にも見える鞘や装飾だが、反り返った刀身や剣には無い柄巻が武器にはあるのが見える。

「作った魔剣を刀にするのはなかなか苦労したけど、伝説の聖剣と斬り合っても折れないんだ。いい結果だ」

 ゼノヴィアの全力の振り下ろしを受けてもイリナの刀は難なくその攻撃を受け、素早く斬り返す。

 試し切りも終わったのか、二人は武器を下ろす。

 

「マルテットさん!最高だ!デュランダルと斬り合っても折れないし、寧ろ、刃を交えても刃も欠けない!」

「当たり前だ。お前専用の刀だからな名前は”ユカリ”。切れ味と耐久度に特化した属性の魔剣を四本も溶かして一本にしたんだ聖剣にも負けない一級品だ」

 それはまた豪華。

 マルテットの魔剣は本物の剣を作る様に一本一本時間を掛ける、それを四本も溶かして一本にするなんて本来なら絶対にしない。

 

「イリナ、アンタはきっと涼たちと一緒に前線で戦うことになる。もし刀が折れても気にするな、一番にアンタの命を考えろ。折れても何本だって作ってやる、刀と違ってお前の命に代えはきかないんだからな」

 イリナの目を見つめてしっかりと伝えるマルテット。

 マルテットは職人だ。

 戦場に出られず、戦えもしない。けれど職人にとっては鍛冶場が戦場だ。

 戦場に出る者たちが命を預ける武器を作るのに、手を抜かない。戦場に出られない自分たちが彼らに出来るのはそれだけだからと。

  


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