マシュの部分をアンデルセンにするか悩んだのですが、マシュとジャンヌオルタの絡みも書きたかったのでこんな形になりました。
新宿組いいよ、新宿組。
なんでも許せる人だけ読んでください。
感想、ご意見等々、お待ちしております。
「おい、突撃女」
カルデアの廊下を歩いていると、不意に背後から声を掛けられた。
声、その呼び方からして間違えようのない相手だ。あのいけ好かない冷血女。
思い切り不機嫌な顔を作り、振り向く。
「なによ、れいけっ!?」
振り向いた顔に突如煙が吹き掛けられ、それに驚いた私は情けなく声を上げてしまった。
その様子が気に入ったのか、どこか得意げに此方を見る冷血女。
「フ…随分と驚いたようだな?」
「…誰だっていきなり顔に煙を掛けられたら驚くっての。っていうか何コレ、煙草?」
喫煙癖があるわけではないが、喫煙者はいる為、その煙の正体に気がつくのは容易い。
「ああ、そうだが?」
「アンタ煙草なんて吸うワケ?」
「いいや、貴様を揶揄ってやろうと思ってな。それだけだ」
「はあ?なによそれ?」
「もう反応は見た。ではな、私は忙しい。」
不快感全開で返した言葉にも、なんの反応も示すことなくアイツは背を向けて歩いていった。
アイツに文句を言えなかった分、腹の底にイライラが溜まって、誰かに言ってやりたいと思ったけれど、私にはそんなことを態々聞かせられるような相手もいるわけがなく、ただなんとなく、不機嫌な顔のまま食堂に居た。
「あの…オルタさん」
暫くそうしていて、いつまでも居ても仕方ないと、部屋に戻ろうかと思った時に盾女が、恐る恐る話しかけてきた。
「あ?なによ?」
「い、いえ、特に用はないんですけど…とても機嫌が悪そうだったので…。」
「…そうね、今機嫌が悪いの。それが分かってるなら話しかけなきゃいいじゃない。」
「いえ、もしここの生活に不満があるのでしたら私の方からもお願いしますので、お話だけでも聞かせて頂けたらな…と。」
盾女の予想は見当違いもいいところだった。
だけど、さっきまで話し相手を探していたワケだし、折角だからコイツに話してみようと思った。
「別にそんなんじゃないわ。ちょっとした嫌がらせを受けたってだけ。」
「嫌がらせ…?もっと大変じゃないですか!詳しく聞かせてください!」
途端に食いついてくる相手に、此方が思わず引き気味になる。お人好しなのはマスターだけじゃなくてコイツもだった。
「い、いや、大したことじゃないっての。ちょっと冷血女に…。」
「冷血女…?ああ、アルトリアオルタさんのことですね。」
「そ。そいつに煙草の煙を吹きかけられたのよ。思い切り、顔に。」
「………えっ、顔に煙草の煙を掛けられたんですか?」
「そうよ?」
「………。」
急に黙り込んで、何か考えているらしかった。
どうして盾女はこんな反応をしているのだろう。今のはそんなに気にかかる所なのか。
「ちょっと? 」
「あ、す、すみません!少しどんな意味なのかと考えてしまいまして…」
「…意味?アンタなにか知ってんの?」
「えっと…オルタさんは知らないんですか?その…煙草の煙を吹き掛けるのは…えーと……」
言いづらそうに口籠る相手に、少し苛ついてしまう。わざわざ私に話しかけてきたというのに。
「なによ、はっきり言いなさいよ」
「…そ、その…夜のお誘い…だとか…」
「………は?」
「……。」
自身が口にした言葉に恥ずかしさを感じているらしく、盾女の頬は薄っすら赤くなっているように見えた。
少し妙な間が流れたが、こちらから口を開く。
「…アンタ、なんでそんなこと知ってんのよ?っていうか、それ本当なの?」
「今まで読んできた本の中に、そういうシーンが描かれている物があったんです」
「なんだ、本の中の話なら只の作り話なんじゃないの」
「ですが、煙草の煙を顔にかけるという行為が、そういう意味を持つという地域があるだとか…アルトリアオルタさんがそれを知っていたのかは分かりませんが…」
「ふーん…そうなの」
正直、盾女の話はあまり耳に入って来なかった。最初に聞いた『夜のお誘い』というワードが耳に残って離れなかったからだ。
「…まあいいわ、ただの嫌がらせでしょうし、そんな風に考えるアンタが変わってるのよ、案外助平ね?第一に女同士よ」
「なっ!ちっ、違います!私はただ!読んだことがあるというだけで!決して助平なんかでは!!」
顔を真っ赤にして、声を上げて否定する盾女。こういう素直で揶揄い甲斐のある奴は嫌いじゃなかった。
「ちょっと、アンタ声が大きいわよ。周りの奴等が見てる」
「あっ…す、すみません…」
言われてハッとしたのか、盾女は恥ずかしそうに縮こまり声を潜めた。
その様子が可笑しくて、気分が良くなったので部屋に戻ることにした。
「まあ、話を聞いてくれたことには感謝してあげるわ、それじゃ。」
「は、はい。またお話しましょうね、オルタさん」
席を立つ私に向かって小さく手を振り、笑いかける盾女。それに対して私は背を向けて片手をひらひらとさせ"気が向いたら"とだけ返した。
自室に戻ってとりあえずシャワーを浴びる。その最中も時折頭に『煙草の煙を顔に吹き掛けるのは夜のお誘い』という盾女の言葉が過った。
我ながら馬鹿馬鹿しいと、シャワーの温度を上げた。
浴室から出て、下着だけ身につけて部屋に戻り、どうせ私室なのだからと、そのままベッドに横たわる。
そのまま気が付いたら寝ていたらしい。身体はすっかり冷えていた。
それでも、起きてから暫くぼーっとしていたが、そろそろ服を着ようという時にドアを叩く音がした。
「おい、突撃女。入るぞ」
「え、ちょ、ちょっと待ちなさい!」
アイツが制止の言葉を聞くはずもなく、いきなりドアを開けられる。
とりあえず慌てて布団を手繰り寄せて身体を覆い隠す。
冷血女は小首を傾げながら興味なさそうに
「なんだ?お前裸族だったのか」
「そんな訳ないでしょ!アンタがいきなり開けたんじゃないの!」
「そんな格好で居るお前が悪い」
思い切り睨み付けながら怒鳴るも、意に介した様子も無い冷血女。
「…勝手に部屋に入ってきておいてよく言うわ。それで、何の用よ」
「いや、もしかして昼間の件を気にしているのではないかと思ってな?」
「昼間…?」
どうやら思っていた以上に時間が経っていたらしい。
昼間の件、と言われれば思い付くのは一つしかない。
『煙草の煙を顔に吹き掛けるのは夜のお誘い』
盾女の言葉がまた頭を過って、顔が熱くなる気がする。
見透かしたように笑みを見せながら、冷血女は口を開く。
「フ…その様子だと、どうやら期待していたのか?」
「んなっ!?…な、なんの話よ?さっぱり分からないわね」
思わず上擦った声が出てしまったが、平静を装う。
「…フフ、お前は嘘が下手だな。実に分かりやすい」
そう言ってベッドに近付いてくる冷血女。
「だ、だから、なんの話よ」
アイツは片膝をベッドに乗せ、睨み続ける私の顔に、自分の顔を近付けて頬に片手を添えてくる。
益々顔が熱くなる感覚。
「分からない程、初心ではなかろう…?」
何も言葉を返せないでいる私を見るアイツの顔は、見たことがない顔だった。
妖艶…というのはこういう顔なのだろう、と思った。
いつもなら出て来るはずの悪態をつくことすら出来ず、どうしていいか分からなくて、私はただアイツの顔を見ていた。
そのまま無言でいると、少しずつアイツの顔が近付いてくる。
心臓の鼓動がうるさい。
あと数センチで唇同士が触れる。
私は目を閉じる。
そして……。
アラートが鳴り響く。
いつもの特異点擬きが発生したのだろう。
何名かサーヴァントの名が読み上げられ、至急レイシフトに向かうという旨の
放送が流れる。
その中に冷血女の名前もあった。
アイツは、私から離れると
「残念だったな、どうやらまたの機会にお預けらしい。それまで楽しみにしておけ」
薄く笑って、いつもより幾分柔らかい声色で、それだけ告げると、部屋から出て行こうとする。
私は下を向いて
「……うっさい」
とだけ呟いた。