むかしむかし、とある村があった。
村は貧しく、土地は痩せこけていたが村の民は少しずつ収穫した農作物を皆で分け合い、助け合って生きていた。
そしてその村の外れ、少し離れた所にローディーという心優しい老婆が居た。
ローディーは悩める村人の相談役であった。
どんな人間が相手でも分け隔てなく善く話を聴いてやり、
善く励ましていた。
村人は彼女を親しみを込めてローディーおばさんと呼んでいたものだ。
ある日、とある旅人が村へ訪れた。
旅人の顔は疲れきっており、そしてその体は痩せこけていた。
聞けばもう三日三晩休まず食べず、最後口にしたのは水だったと語るではないか。
彼は一宿一飯を村人に乞うた。
「お願いします。この哀れな旅人にどうか食事を」
村人は彼を気の毒だとは思ったが、彼に分け与える分の食料の余裕は無かったのだ。
「申し訳ないが貴方に食事を分け与えるだけの余裕がこの村には無いのだ。」
村人はそれを聞くと座り込み悲嘆にくれた。
もう主の救いはないのだと悲痛な叫びが木霊する。
その叫びに耐えきれなくなった1人の青年がこう言い始めた。
「そうだ!ローディーおばさんならきっと食事を出してくれるに違いない!」
その声を切っ掛けに村人達は口を揃えてそうだ!ローディーおばさんならば!と喚き散らしたのだよ。
旅人はそれを聞くとその青年にローディーの家へと案内を願った。
青年はそれを快く承知しローディーの家へと案内した。
家に着き青年はローディーに事情を説明した。
「彼は哀れな旅人なんだ!もう三日三晩飲まず食わずで旅を続けている!お願いしますローディーおばさん!彼に食事と暖かいベッドを!」
それを聴いたローディーは笑顔で答えた。
「ええ、ええ。大変だったでしょう。さぁ、お上がりなさい。今食事を用意しましょう。」
旅人は歓喜の余りに涙を流しながらローディーの食事を平らげた。
そして彼の心も落ち着き、ローディーへ感謝を述べた。
「ありがとう名も無き村の聖母よ。貴女がいなければ私はきっと野垂れ死んでいたに違いない!」
それを聴いたローディーは思わず恥ずかしくなってしまい、いいえ、人助けは当たり前の事ですよと謙遜してしまった。してしまったんだよ。
旅人は一通りローディーと話すと旅の支度を始め、すぐに出発すると彼女に話した。
そして去り際に彼はローディーへとこう言葉を投げ掛けた
「聴きなさい、聖母よ。貴女は素晴らしい人間だ。人助けをして当たり前だと言い切れるその精神は誰よりも高潔だ」
「だが覚えておきなさい。世界は貴女の様に高潔では無い。下賎に満ち、自身が助かれば良いと考える人間が大半なのです。旅をしてあらゆる所を見た私が言うのです」
そう言うと旅人は出て行った。ローディーは彼の言う事がどういう意味だったのかをひたすら考えていた。
その次の日である。あの青年がローディーを訪れた。
「ローディーおばさん!どうかお願いです!私の家のニワトリが死んでしまったのです!どうか貴女の家のニワトリを分けてくれませんか!」
ローディーは困った顔をして、それは出来ない。私にも生活があるのだから、と断った。
すると青年は「あの旅人をお救いになられたのは気まぐれか!」と叫び始めた。
ここで彼女はそうだと言えばよかったのだ。だが心優しいローディーはその言葉に深く傷付いた。
「ええ、ええ、済まないね。ニワトリだったね。すぐ連れて来るから持っておいき。」
「ありがとうローディーおばさん!」
彼は爽やかな笑顔でローディーの下を去っていった。
彼はローディーの善行を村に広めた。
「ローディーおばさんがニワトリをくれたんだ!」
それを聞いた村人は大挙してローディーの下へと押し寄せた。
「ローディーおばさん!どうかお願いです!」
「ローディーおばさん!」「ローディーおばさん!!」
「ローディーおばさん!!私の願いを聞いて下さい!」
「ローディー!」「ローディー!!」
「ええ、ええ、大変だったね。少しお待ち、もう大丈夫だからね。」
ローディーは村人達の願いに応え続けた。
食料が無いと言われれば少ない備蓄を切り崩し、家財が欲しいと言われれば家財を分け与えた。
寂れていくローディーの家とは対照的に、村は少しずつ活気に満ち始めた。
やがてローディーは自身の食料すら出せないほど貧しくなった。
飢えに耐えかねたローディーは村へ行き、村人に食料を少し分けてくださいとお願いした。
だが村人はローディーに食料を分け与えなかった。
ただでさえ貧しい村なんだ。人にやる分は無いとまで言い切ったのだよ。全く腹立たしい。
それを聴いたローディーは深く悲しみ、家に戻り、冷たい床に静かに寝転んだ。
そして少しずつ消えていく意識の中で、あの日やってきた旅人の言葉を思い出していた。
そしてローディーは死んだ。
人に尽くし、人を助けた彼女の最期は何もかも奪われた家でたった一人で死んでいった。
ローディーの献身で余裕が出来た村人は新たな土地を開拓し、裕福になっていった。
そして、村人達はローディーを忘れ、皆で幸せに暮らしたとさ。