赤ずきんーーーおばあちゃんが病気になっちゃったからこのお土産をおばあちゃんの家に届けて来て。
だけど森の中へ入ってはいけないよ。あそこには怖い狼がいるからね。
失礼ですがお母様、まずお祖母様の病状を見るに肝硬変だと思われます。
それなのにお土産の中に赤ワインを入れるとはお母様はもしかしてお祖母様に多額の保険金でもお掛けになられているのでしょうか?
そしてお祖母様の家に行くには近道である森の中へ私が入る事は考えられるのにも関わらずそれを口頭注意だけに留めているのもとても気になります。
それに狼とは言い方が悪い。
ポップな比喩表現は逆に子供に好奇心を抱かせます。
ここは直球に人攫いに攫われて変態の慰みものになると言った方が効果的だと私は思います。
そしてお母様、私の名前をなぜ赤ずきんとしたのでしょうか。
もし私が気が変わって赤い頭巾を被らずに青いスカジャンを着ていたら私は青スカジャンちゃんとなるのでしょうか
余りにも流暢に、そして的確に物語を破綻させる赤ずきんにお母様は思わずなんだコイツ!?と叫んでしまいました。
でも赤ずきんはいい子なのでお母様の言いつけを守りおばあちゃんの家へお使いに行きました。
途中、やはりと言うべきかおばあちゃんの家への近道である森への入口に辿り着きました。
ふむ、空の様子を見るにこのままでは雨が降るでしょう。
しかもお土産の中にはパン等濡れてはいけないものが入っています。
そのくせ飲み物はやはり赤ワインだけなのですね。
やはりお祖母様には保険金が掛けられているのでしょう。
しかしこれでは折角のパンが濡れてしまいます
ここは1つ近道を使いますか。
赤ずきんはおかあさんの言いつけを破り森の中へ入っていきました。
森の中へ入ると、女性の叫び声が聞こえます。
助けてー!誰かー!攫われてしまう!
赤ずきんは木陰から様子を伺いました。
すると人攫いが若い女の人を縄でしばりつけ麻袋に入れようとしている、まさに人攫いの瞬間でした。
だが赤ずきんは見てしまいました。
若い女はブスだったのです。
お取り込みの所失礼致します。
なんだお前!?と人攫いは叫びました。
失礼ですがこの女性を攫った所で娼婦としても値がつけられません。この女性はブスです。なれて精々奴隷でしょう
人攫いは困惑しました。若い女は泣いていました。
それでも赤ずきんは続けます。
このような女性を攫うほどに貴方は切迫していると見受けられます。
その頭飾り…あなた、ご結婚なされて子を持っていますね
その風貌を察するに恐らくは農夫として働いていたものの作物の収穫が間に合わず路頭に迷っていた所を奴隷商人に目をつけられ人攫いとして働いてる、そんな辺りでしょうか。
それならば朗報です。私のようなか弱い少女を攫うのです
さすれば金持ちの変態はこぞって高値を付けるでしょう。
貴方に幸福があらん事を。
そういうと赤ずきんはおばあちゃんの家へ向かって歩き始めました。
人攫いはぽかんとしていましたが我に返ると、赤ずきんはこの先の家に用があるようだと感づき、先回りをするためにかけ出しました。
若い女は置いていかれ、ブスだという事実を突き付けられ泣いていました。
おばあちゃんの家へ先回りした人攫いは床に伏したおばあちゃんと会うと手厚い抱擁を交わしました。
おばあちゃんと人攫いは出来ていたのです。
アナタ、待っていましたよ。
おばあちゃんはメスの顔で人攫いを見つめます。
遅れてごめんよ、さぁ、貴方は街の医者に見てもらうんだ。
大丈夫、その病気はきっと治る。
人攫いはそういうとおばあちゃんを馬車に乗せ街へと走らせました。
馬車を見送った人攫いはおばあちゃんの寝巻きを着てベッドに横たわり、赤ずきんを待ちます。
ところで思ったんですけどこれ誰が馬車の舵取りしてるんですかね?
やがて赤ずきんちゃんはおばあちゃんの家に辿り着きました。
お祖母様、お土産を持って参りました。
失礼致します。
丁寧な入室をした赤ずきんを出迎えたのは明らかに無理がある変装をした人攫いでした。
おやおや、赤ずきん。わざわざありがとうね。
おばあちゃんはそういいました。
少し待ってください。
お祖母様、なぜ貴女の声はそんなにガラガラなんですか?
赤ずきんがそう聞くとおばあちゃんは、病気で声が枯れてしまったんだといいました。
おかしいですね。お祖母様は肝硬変だと思われるので喉への異常は無いはずですが、と赤ずきんが答えると、人攫いは、ほら皮膚に黄疸が出ているだろう?と誤魔化しました。
次に赤ずきんは明らかにおばあちゃんがデカくなっていることに気付きました。
お祖母様、なぜそこまで筋骨隆々になっているのでしょうか?
まるで力仕事に精を出していた農夫の様ですと赤ずきんが尋ねると、人攫いは、それはね、赤ずきんに弱った姿を見せたくないからトレーニングを欠かさなかったんだよと誤魔化しました。
だから無理があるだろ。
そして赤ずきんは、お祖母様、いえ、
なぜあなたはここに居るのですか?と聞きました。
すると人攫いは、お前を攫って金持ちの変態に高値で売り付けるためだ!と赤ずきんに飛び掛りました。
だが赤ずきんは抵抗しませんでした。
それを不審に思った人攫いは、なぜ抵抗しないのか赤ずきんに尋ねました。
すると赤ずきんは涙を流しながら答えました。
私はこの性格のせいで誰とも当たり前に接する事が出来なかった。
私に友達なんて出来なかった。家族からは生まれて来なければ良かったと言われた。
だから死にたかった。
だから森の中で貴方達に声を掛けたのだ、と。
それを聴いた人攫いはポロポロと涙を流し始め、自身の子供と変わらぬ歳の子がここまで苦しんでいたとはと心を痛めました。
人攫いは赤ずきんの目を見ていいました。
赤ずきん、俺は君を攫う。今日から君は俺の子だ。
もう君を泣かせはしない。
君は君のまま。ありのままでいいんだ。
だから泣き止んでおくれ。
そう言うと人攫いは赤ずきんを強く抱きしめました。
その時赤ずきんは初めて人の優しさに触れ、いつもの舐め腐った態度は消え、年相応の子供として泣きました。
人攫いは赤ずきんを抱きかかえ、森の中へと歩いていきます。
赤ずきん、君の事はなんと呼べばいい?
そうですね、私は物心着いた頃から赤ずきんと呼ばれていて名前は…付けられていません。
なので…その…名前を付けて頂けませんか?
貴方に付けて貰えるのなら私も本望です。
そうか、そうか、と人攫いは頷き、少し考えた後、
ソフィアはどうか。と赤ずきんに聞きました。
ソフィア、ですか。いい名前です。とても美しい響きだ。
分かりました。私は今日からソフィアです。
よろしくお願いします。お父さん。
ソフィアはそう言うと、人攫いはまた泣き始めました。
泣き虫ですね、お父さんは。と、ソフィアは笑顔で話しました。
森の入口へ差し掛かり、暗い森の中から明るい未来へ踏み出そうとした瞬間、背後で何かが動いた気がして人攫いは後ろを振り向くとそこにはナイフを持ったブスがいました
あなた達だけ幸せにはさせない…!
赤ずきん、貴方だけは絶対に殺してやる…!
そう言うとブスはナイフを脇に抱えソフィアへと突進しました。
純然たる殺意を向けられたソフィアはああ、やはり私に幸せなど過ぎたものだったと、諦めていました。
もう目の前に迫ったブスを後目にソフィアはそんな事を考えていました。
さようなら…お父さん…。ごめんね…。そう呟き目を閉じ死を覚悟したその時!
人攫いがソフィアを庇ったのです
お父さん…?なんで…。
なんでって…そりゃ…子供を守るのが親の役目…だろ?
ナイフは人攫いの腹部へ深々と刺さっていました。
ひぃ…ひぃー!ブスは報復を恐れ森の中へと走って逃げていきました。
ははは…ちょっとまずいな。
人攫いはそう呟くと刺さったナイフを抜こうとしました。
それをみたソフィアは…
失礼します!
ナイフを抜いてはいけません。そのナイフは深く刺さってはいますが内蔵を傷付けてはいません。
それを抜いてしまえば断裂した血管の詮となっているものが外れ出血多量でショック死します。
苦しいとは思いますが安静にしておいて下さい。
今助けますと応急処置を始めました。
ソフィア…お前…
初めてなんです。この性格が、この無駄な知識が初めて人の役に経つ時が来たんです。
お父さん、私は必ず貴方を助けます。
だからここは任せて休んでください。
赤ずきんは笑顔で人攫いに語りかけました。
処置の甲斐もあり人攫いは一命を取り止めました。
その後ソフィアの家へと運ばれた人攫いはそこでソフィアの母親と話し合いをし、ソフィアを街の看護学校へと通わせ、その際の衣食住は人攫いの家に提供してもらうという形で和解をしました。
そして入学当日
まさか貴女にそんな才能があったなんてね。
赤ずきん…いえ、ソフィア、だったかしら。
はい、お母様。私はソフィアです。
ええ、ソフィア。頑張ってきなさい。
私は貴女を愛せなかった。だけどやっと貴女との付き合い方が分かってきたのかもしれないわね。
はい、お母様。貴女は私を愛していませんでした。
でも…とても感謝しています。
今までありがとうございました。
次に帰ってきた時は…きっと…お互いがお互いを愛せる。
そう信じています。
ええ、ソフィア。待っているわ。いつも、いつまでもね。
だから元気にやってらっしゃい。
ありがとうございます。お母様。
最後の挨拶を済ませ家を出ると…
さぁ、行こう。
ええ、行きましょう。お父さん
そこには罪を精算した父親と
赤い頭巾を脱いだ少女が未来へと歩み始めていた。