妄想メンヘラ女はバニーガール先輩の夢を見ない 作:強炭酸カボチャ
「麻衣さぁん、どうするんですかぁ、私、
「私が一緒に謝ってあげるから泣かないの。もう、なんで無表情で泣けるのかしら」
ここが電車でなければギャン泣きしている所である。麻衣さんに締め出されそのまま勢いで駅まで来たものの、定期券はサイフの中。
流石の麻衣さんも悪いと思ったのか、急いで準備して来てくれることになった。それでも30分以上かかったけどね!これでもう部長帰ってたら、いよいよもう私は終わりである。クビだ。
「大体、殆ど行ってない部活なんだから別に退部になっても良いんじゃないの?」
「青春と言ったら部活ですよ!クラスにも馴染めてないのに部活まで失ったらもう私、学校に居場所ないですよ!」
「気にしてたんだ……」
「そりゃそうですよ!私は3年間ぼっちのまま麻衣さんのように卒業したくないですっ」
「ねぇ、バカにしている上に、勝手に今年もそうだと決めつけてるわよね?」
頭をナデナデして慰めてくれていたのが一変。そのままガシッと頭を掴まれて揺らされる。
「芸能界復帰したらそうなりますよぉ」
芸能界復帰と同時に学校に行ける頻度は当然少なくなる。それに、これまで話しかけてこなかったクラスメイトは、麻衣さんが芸能界に復帰すれば益々声をかけにくくなり、麻衣さんも積極的に関わろうとしないだろうから、ぼっち確定。
「紅葉がいるでしょ」
あの、何気なくそういうこと言うの止めてくれませんかね。怖いよ、私は麻衣さんのイケメン力が怖い。しかもこの後、自分の言葉に自分で照れるというギャップすらかましてくるからもうお手上げ。もう一生付いていきます。
私は、江ノ電に揺られている短い時間の間に、すっかり麻衣さんに魅了されてしまったのであった。
麻衣さん、しゅき。
◆
「なんで桜島先輩がいるわけ?」
部長は、黒板前に立ってアルコールランプでビーカーを温めながら、開口一番そう言った。
「ちょっと事情がありまして」
話すと滅茶苦茶長くなる上に、部長に非現実的なことを信じさせるのは、相当に難しい。きちんと理論立てて説明した上で、証拠を見せれば信じてくれるのは信じてくれるだろうけど、その過程が果てしなく面倒くさい。
部長も長い話になると思ったのかそれ以上追求しない。
「やっぱり学校はまだ大丈夫みたい」
「ここに来るまでにも結構見られてましたし、やはり学校はまだ影響を受けていないみたいですね」
麻衣さんは少し安心したような表情を浮かべており、やはり不安だったことが窺える。強がり過ぎる前に言って欲しいけど、それが出来ないのは、まあ私も分かってしまうので何とも言えないところ。
「それで、今更来てどうしたの?」
「勿論、部活ですっ!」
「そう、科学部はもうクビになったから、他で頑張って」
「そんなこと言わないで、お願いしますよぉおおお」
私を完全に無視して、『二酸化マンガン』と書かれたラベルの貼り付けられたプラスチックボトルを引き出しから取り出す部長。ちなみに中身は砂糖。今の現実はそれほど甘くはないけどねっ!
ここは私も本気を出すしかないっ!
「私、覚悟決めて白衣着ますからぁ」
「罰ゲームみたいに言うな」
「えっ、罰ゲームじゃないんですか?」
「もう学校も
怒らせただけだった。
あんな自ら変わり者ですと主張するような白衣、本当は着たくないけど、涙を飲んで着ようと思ったのに!
「なんでそんな煽るのよ」
「麻衣さぁん、部長がいじめるよぉ」
「紅葉が悪いけどね」
腕を組んだ麻衣さんが完全に呆れた様な目で私を見てくる。腕を組んだ女子ってなんか良いよねって思うのは私だけだろうか。巨乳なら尚良し、さらに白衣でポイントアップ、眼鏡で満点だ。うん、部長にやってもらう案件だった。それは後で土下座してでも頼むとして、勿論、麻衣さんの腕組みも魅力的なんだと言っておかねばならないだろう。
麻衣さんはそういうちょっと傲慢っぽいポーズや仕草が本当に似合う。どうしてか絶妙に可愛いんだよね。こう、大人ぶってるというか、お姉さんぶっているというか、そういう感じで最高なんです。
私が麻衣さんの腕組み一つで妄想を発展させていると、麻衣さんがため息を吐いた。
「まあ、約束しちゃったし、私に責任がないわけでもないしね」
そんなツンデレとしか捉えようのない台詞を言いながら、麻衣さんは、部長の正面に立った。部長はビーカーで温めていたお湯をマグカップに移し、インスタントコーヒーの粉末を投入している。そういえば部長、普段ブラックでコーヒー飲むのになんで砂糖用意したんだろ?些細な疑問だったけど、実際今も砂糖を入れる気配はない。ちなみに私は砂糖ダブダブ派だ。苦いより甘い方が美味しいに決まっている。
「双葉さん、で良いのよね?」
「はい、2年の双葉理央です」
部長は一度、マグカップの中身をかき混ぜるのを止めて、顔を上げた。こういう律儀なところが部長の良いところだ。
「私、桜島麻衣。3年生よ」
「知ってますよ。知らない人の方が少ないと思います」
思春期症候群の影響で、現状では実は知っている人の方が少ないのだけど、折角麻衣さんが私のために行動してくれているので、茶々を入れたりはしない。私にだって空気を読むくらい出来る。斜め読みだから読み間違えが良くあるけども!
「実は紅葉が部活に来れなかったのは私のせいでもあるの」
「……別に謝らなくても良いですよ」
部長はそう言いながら、ビーカーに残ったお湯をもう一つ取り出したマグカップに注ぎ、まだ半分ほどお湯の残っている
マグカップにもインスタントコーヒーの粉末を入れて、どうぞ、と麻衣さんにマグカップを渡し、その横にビーカーをすすっと滑らすようにして置く。あの、もしかしなくてもビーカーのまま飲めってことですかね?一応、麻衣さんが使ってるマグカップ、私のなんですけど。まあ、気分的には麻衣さんと間接キスだから全然良いんだけどね!
「元々、紅葉を退部させたりしないですし」
「えっ!?じゃあ私の頑張りは!?」
「そもそも遅刻するな」
あんなに必死でここまで来たのに!いや勿論、退部を免れるのは嬉しいんだけど!そもそもサボり、遅刻を繰り返す私が悪いんだけど!
「じゃあ、なんであんな電話してきたんですかぁ。私、今日学校サボ……お休みしてたんですよ」
「別に」
私は部長が一瞬動揺したのを見逃さなかった。それによって私の天才的頭脳(自称)は最適解を導きだす。真実はいつも1つ、なんだぜ?
「もしかして
「勘違いも甚だしいね」
部長がそっぽを向いた。しかし私から逃げられない。世界を取れるかもしれないフットワークで、部長の顔をロックオンして離さない。部長は意外と顔に出るし、嘘が下手だ。僅かに色づいた耳は私の言葉を否定してはいない。
「部長、私のこと大好きですもんね!」
「それはない」
なんでここ真顔!?そこは照れるところじゃないんですかね!?明らかにツンデレ的なものじゃなくてガチじゃないですか!
「……でも嫌いでもない」
落として上げるの止めてっ!私、単純だから!そういうことされると簡単にデレちゃうから!顔を背けて、でも少し赤くした耳を晒している部長を見ていると、ニヘニヘと顔が緩んでしまう。まあ、緩んでも口許しか変化ないけどね!
「痛っ、いたたたた!?ま、麻衣さん!?なんで耳引っ張るんですっ!?」
「何となく」
「理不尽!」
自分の苦労が徒労に終わったからだろうか、麻衣さんが執拗に私の耳を虐める。このままだと片耳だけエルフみたいになっちゃうんで止めて!
「部長、助けてくださいよ!」
「なんで?」
心底不思議そうに首を傾げる部長。可愛いけど今じゃない!今は本気で助けて欲しいやつ!何故か部長に助けを求めてから耳を引っ張るのさらに強くなったし!
「助けてくれないなら部長の初恋話暴露してやるっ!」
「なっ!?」
部長が僅かに頬を朱に染めて、驚愕の表情で私を見る。ずり落ちそうな眼鏡も可愛い。代償は大きかったけど、前にスーパーだる絡みして聞き出したのだ。
「さあさあ、私を助けるのですっ部長!」
「……紅葉の初恋話もしていいならね」
「すいませんでした、調子乗りました、ごめんなさい」
そうでした。私も話す代わりに聞き出したんでした。私が己の愚策に震えていると、パッと麻衣さんが耳から手を離した。そしてにっこり笑顔。
「紅葉、明日のデート、やっぱりキャンセルだから」
「なんでですかぁあああああああ」
それだけ言って帰ろうとする麻衣さんの腰に抱きついて動きを阻害する。服越しでも分かるくらい腰細すぎなので、これはやっぱりもっと食べさせようと考えつつ、この不機嫌な麻衣さんがどうすれば機嫌を直してくれるのか策を巡らせていた。
うん、詰んだ。急に不機嫌になった原因が分からない!麻衣さん気まぐれ過ぎるよ!
コーヒーを啜りながら、スマフォを弄っている部長。
ぷんぷん頬を膨らませて帰ろうとする麻衣さんと、それに縋り付く私。
――この美少女だらけ(勿論私含む)ながら、圧倒的カオスとなっている空間に突如としてガラガラとドアがスライドされる音が響く。
「おい、双葉ー。僕のシフト表忘れてなかった……か?」
眠たげな男の先輩が、ノックもなくドアを勢い良くスライドさせて入ってくると、直後に目で周囲を確認して固まった。
「あれ、いつからここはこんな人気部活に?」
「帰れ」
帰った。
紅葉の主人公らしい?鈍感さと原作主人公降臨&退場。
今話、裏テーマはツンデレとツンテレです。新しいジャンルを作っていくスタイル。