妄想メンヘラ女はバニーガール先輩の夢を見ない 作:強炭酸カボチャ
ハンバーグの中にチーズを仕込むのは王道ではあるけれど、王道とはつまり王の道。美味しくないはずがないのである。
ジュゥと肉の焼ける音と共に広がる肉の香りは食欲をそそられ、パンパンに膨れ上がったその肉の塊にどれだけの幸福が詰め込まれているのか考えるだけで幸せな気持ちになれる。
ハンバーグを調理しつつ、別のフライパンで同時に付け合わせの野菜も作る。今日はシンプルにニンジン、ポテト、インゲンの三種類をバターでソテーしていく。こだわりはニンジン。グラッセしたもので、何にでも合うので定期的に作っているものだけど、これが付け合わせに加わるだけで一気に豪華になるんだよね。甘いニンジンとハンバーグを同時に頬張って、熱いポテトをホクホクしながら食べて、インゲンで箸休め。無限ループの完成である。ついでにコンソメスープも作ったのでこちらにもニンジンを投入。
いつもは釜で炊いているご飯だけど、今日は麻衣さんが自分の部屋から炊飯器を持ってきたのでそれで炊きました。やっぱりあったらあったで便利なので炊飯器の購入は検討するべきかもしれない。
さて、炊いたご飯にも一工夫。オリーブオイルと薄切りにしたニンニクを混ぜて、レンジでチンする。そうして出来たガーリックオイルとご飯をフライパンに投入し、黒胡椒や塩、醤油・砂糖などの各種調味料を加えて炒めれば、無敵のガーリックライスが完成。
ハンバーグとガーリックライス、犯罪的組み合わせを生み出してしまったぜ……。
が、私は止まらない。まだまだこの料理は変身を残しているっ!
たっぷりとすりおろした玉ねぎに余ったガーリックオイル、そこに醤油と隠し味の酢を加えて、ハンバーグを焼いていたフライパンで玉ねぎが飴色になるまで加熱すれば、絶品ハンバーグソースの完成!
では、食卓に並びました今日の夕飯を改めて紹介しましょうっ!
まずは紅葉ちゃん特製こだわりのふわふわハンバーグ!パン粉と玉ねぎを多めに入れてしっかり捏ねたことでそのふわふわ具合は間違いなし!そのハンバーグに相性抜群の特製玉ねぎソースをかければ敵なしだ!そして!ハンバーグの中には三種類のチーズを少量の牛乳と共に配合したスペシャルチーズが潜んでいるぞ!ハンバーグを二つに割ればとろーりとチーズが流れ出す!
そんなハンバーグを支えるのは忘れちゃいけない付け合わせのお野菜達!バターでシンプルに味付けしただけでも十分なのに、ニンジンはグラッセだから特別なアクセントとして活躍すること間違いなし!
そして、優しさだけで出来ているコンソメスープ!
濃い目の味付けなハンバーグに、さっぱりしたコンソメスープは絶妙にマッチするはず!
最後に、全ての料理に命を吹き込む最終兵器、ガーリックライス!美味しさを2倍にも3倍にも膨れ上がらせるこいつは、食のリミッターを外す禁忌の味っ!私は躊躇わない!食欲のためにこいつを解放するぜっ!
「なんでそんなにテンション高いのよ……」
私が料理実況していると、自分の部屋でちょっと用事を済ませていた麻衣さんが帰って来て、呆れたような目で私を見ていた。
「一人で暮らしてるとこうなりません?」
「ならない」
麻衣さんはぴしゃりと言いながら、戸棚を開けて、食器類を用意し始めた。
「一人で作らせちゃってごめんなさい、今度は私が作るから」
「それはとても嬉しいのですが、私が好きでやっていることなので気にしなくて良いですよ。美味しく食べて貰えればそれで満足です」
麻衣さんが美味しそうに食べてくれるのを眺めているだけで幸せな気持ちになれる。この幸せは一人では味わえない初めての、麻衣さんが教えてくれた幸せだ。かえちゃんと一緒に食べられたらなー、なんてワガママなことを考えてしまう。
「あっ、麻衣さん、一人分多く用意してもらえますか?」
「……花楓の分?」
「はい、ハンバーグは大好物だから用意しとかないと拗ねちゃいます」
お腹いっぱいになる前に食べるのを止めとかないとかえちゃんが食べられなくなっちゃうから、私としては理性との戦いだ。いつもなら欲望のままに食べてしまうけど、今日の自信作はかえちゃんにも絶対食べてもらいたいからね。お代わりは一回まで……いや、二回までで止めとこう!
「紅葉って意外と家庭的よね、料理もできるし、部屋も綺麗にしてるし」
「意外とって酷くないですかっ?褒められてるのに貶められてる気がする!」
「今朝だって着替え脱ぎ散らかしてったし、化粧もしないし、部屋着も可愛くないし」
「女子力ぅ!」
切実に女子力が欲しいです。この女子力の無さは友達が少ないことが原因なんだろうか。一人で生きてる分には女子力っていらないもんね!
ただ麻衣さん、この部屋着可愛くないんですか?ひらがな縦書きで『ぬぼーん』と真ん中に書かれた白Tシャツ、お気に入りなのに。
ちょっと落ち込んだけど、今は目の前の料理だ!美味しいものを食べれば嫌なことを忘れられちゃうのが私の良いところなのです。
「紅葉、明日から朝走るわよ」
「えっ、朝というのはつまり学校へ行く前にってことですか?」
「そうね」
「それはちょっと難しいかなーって、お布団で過ごす幸せな時間もありなんじゃないかなーって私思うんですけど」
私の作った最強メニューをお代わりまでして平らげた麻衣さんは真剣な顔でとんでもないことを言い出した。
朝からランニングとか絶対嫌だ。朝はゆっくりぬくぬくと布団の中で過ごしたいっ。
「これから芸能活動を再開する前に準備をしないといけないの」
「どうせ何してもどこぞの誰かさん達が、太ったとか、劣化したとか多少なりともネットで叩きますからどうしたって一緒……はぐぅっ!」
テーブルの下で思いっきり足を踏まれた!手加減なんて微塵もなかったよ!?潰す気だったよ!?
「紅葉、貴女にはまずランニングよりデリカシーの教育が必要かしら」
基本的に一人行動の私にその辺の気遣いは求めないで欲しい。自分の感性だけで生きてるから自分が気にしないことはデリカシーとか考えずに発言してしまう悪い癖なんです!個人的に友達が出来ない理由って私のこういうところなんじゃないかと、思うのだけど直しようもないし、自由でいたいからもうしょうがないかなとすら思っている。
だからそんなにガチな感じで睨まないで下さい……。足グリグリするのも止めて……。
「明日は仕方ないからナシにして上げる。お出掛けするし、朝からバタバタしたくないもの」
「えっ、明日のデートってキャンセルになったんじゃっ!」
「何よ、嫌なの?」
「最高だと思います」
足を踏まれたままだったために変態チックな発言になってしまったが、嬉しいものは嬉しい。やっぱり麻衣さんはなんだかんだ言っても優しいよね!好きです。
「鎌倉って修学旅行生も多そうですし、麻衣さんのことをまだ覚えているファンもいそうですね」
私が何気なくそう漏らすと、麻衣さんは一瞬呆けた後、顔を赤くして小さく「……そうね」とだけ呟いた。
「どうかしたんですか?」
「なんでもない」
「なんでもなくはないでしょ……って痛い!なんで蹴るんですか!?」
「なんでもない」
「だとしたら酷過ぎる!」
麻衣さんの理不尽も、まあ可愛いからいいか、と許せてしまう私は重症です。
◆
桜島麻衣は戸惑っていた。
思春期症候群なんて詳細不明な未知の現象によって消えようとしている自身の存在に、恐怖し、不安だったはずなのに。今も何一つとして解決しておらず、事態は進んでいるというのに……。
――紅葉といるとそれを全部忘れているなんて。
あんなに不安だったのに、紅葉といると全部忘れていた。思春期症候群のことをこれっぽっちも考えていなかったのだ。
騒がしくて、へたれで、デリカシーがなくて、なのに安心する。こんなに誰かに心を許せる自分が信じられない。
「そんなにポコポコ蹴らなくたって良いじゃないですかぁ」
無表情なのに、少し拗ねたようなのが読み取れる自分が嬉しくて、また紅葉のことを知れたことが誇らしくて――
麻衣は、紅葉の少し膨らんだ頬をつついた。
「じゃあ、蹴った分だけ頭撫でてあげようか?」
「……こ、心の準備だけさせてください」
――少し照れたように視線を明後日の方へ向けてへたれた紅葉。
どうしようもなく愛しいのだと、自覚してしまえば心が浮き足立った。
その感情が心地好くて、温かくて、ああこれはもう
「――しっかり準備しておきなさい」
――色々と、ね。
そう麻衣が小さく呟いたことなど聞こえなかった紅葉は、この言葉に込められた意味を当然ながら馬鹿正直にしか読み取れはせず、ただひたすらに自分の頭を撫でて文字通りシミュレーションをしていたのだった。
麻衣 ガンガンいこうぜ