妄想メンヘラ女はバニーガール先輩の夢を見ない   作:強炭酸カボチャ

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一章最終話が長くなり過ぎたので分割。




22話 一方的な出会い

麻衣さんを初めて見たのは、実はあの図書館よりずっと前で。それこそ、高校に入学する前で。

 

私は、高校を悩んでいた。より詳しく説明すると私の通っていた中学校は中高一貫だから、そのまま高校へ上がるか、別の高校を受けるかの二択で、だ。一人暮らしをすることは決まってて、だから一番近い峰ケ原高校を見学してみたのだけど、そこで私は麻衣さんに出会ったのだ。

 

見学コースの途中、二年生の授業を見学した時、麻衣さんは窓際の隅の席で、黙々と黒板の文字を書き写していた。

わざわざ二年生の、麻衣さんのクラスを見学コースに選んだのは、学校側に、あの桜島麻衣が我が校にいるのだ、と見せたい意図があったのは間違いないだろう。実際、他の見学者達は、男女問わず色めきだっていて、「顔ちっさ」とか「俺昔ファンだった」とか「マジで可愛い」とかそんな肯定的な言葉ばかりではあったけれど、それ以降、話題はもう桜島麻衣でいっぱいだった。

 

でも、そのどれもが私の受けた印象とは違った。私が感じたのは、何て寂しそうなんだろう、だった。まるで自分を見ているみたいだった。何のために生きているのか定まっていないのだろう。ただ機械的に楽しくもない学校へ行き、帰る。それを寂しいと感じる感情さえ失っていそうだ。

 

私の知る桜島麻衣はそうではない。テレビでは見たことがないが、私が聞き及んでいた桜島麻衣はもっとずっとカッコ良くて、生き生きとしていた。少なくとも、私に桜島麻衣のことを楽しそうに話すあの人(・・・)の笑顔を簡単に作ってしまえる、そんな魅力溢れる人のはずなのだ。

 

そんな悲しそうな顔をしないで欲しかった。

 

桜島麻衣はあの人の憧れで目標で。

それに少しだけあの人に似ている気がして。

そんな顔されると辛い。

 

私の初恋をいとも容易く奪っていたあの人は、今も貴女のファンで、目標で、そのために努力していて。それこそ私が付け入ることなんて出来ないくらい頑張っていて。それなのに、目指しているものがこんな、悲しそうで寂しそうなのでは、あの人がバカにされている気がした。八つ当たりかもしれない。いや、間違いなく八つ当たりだ。

 

でも私は、桜島麻衣の、寂しそうで、なのにそれを表面上は取り繕って諦めている、あの横顔がどうしても頭から離れなかった。

 

「……バカなのは私なんじゃ」

 

結局、私が決めたのは峰ケ原高校だった。

進学校ではあるけど国内有数という程ではないし、父には少し渋い顔をされたけれど、元々、知名度とか偏差値とかで高校を選ぶ気は無かったし、一人暮らしするマンションから近いし、私はそのまま峰ケ原高校へ進学した。

 

一人暮らしは楽しかった。一人暮らしと言ってもかえちゃんがいるし、何より自由だ。

 

好きな時間に好きなようにご飯を食べられる。マナーで文句を言われることもないし、まどろっこしくコースで一品ずつしか料理を食べられないなんてこともない。

 

テレビもあるからアニメも見れる。小難しい演劇や、眠くなるだけのオペラより、30分のアニメのが良い。

 

登校も電車と徒歩だ。初めて電車に乗ったときは興奮した。ICカードをかざして改札をくぐった時、少し誇らしかった。黒塗りのやたら目立つ車より、江ノ電の方が私は好きだ。

 

学校では相変わらずぼっちだった。入学して数日で、気がついたらぼっちになっていた。怖い。なにもしてないのに不思議とぼっちになっていたのだ。周囲にはあっという間にグループが出来ていて。

香芝 玲奈(かしば れな)とのID交換時に、携帯を持っていないことを伝えたからか、変人扱いすらされている。良いんだ、わたしにはかえちゃんがいるから。

 

部活動を始めた。絶対何か部活をやろうとは決めていたのだけど、毎日通うのはきっと私には無理だからゆるっとやれるような部活を探していて、見つけたのは科学部だった。

科学実験には興味無かったけど、部員が一人しかいないというのが良かった。たくさん部員がいたりしたら、学校だとコミュ障モードの私には荷が重い。

部長の双葉理央さんはそういう意味で私と合っていた。そんなにお話は上手くないけれど、頭が良くてカッコいい。不器用だけど優しい。それが分かって、これなら頑張れるかも、仲良くなれるかもって、そう思って入部したのが最初だ。入部届けを出したときの、白衣に手を突っ込んだまま、押し殺すように嬉しいのを我慢して、そう、と呟いたのが可愛い過ぎて悶えたのが懐かしい。

 

瞬く間に私の高校生活は過ぎていって、高校初めての長期連休、ゴールデンウィークになった。勿論、ぼっちの私にはスケジュールは何もない。いつもの休日と変わることなく好きなように過ごして、最終日。

 

私は、バニーガール先輩(麻衣さん)に出会うことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅葉、もう良いんじゃない?」

 

「え?ああ、そうですね、少しぼーっとしてました」

 

 

今日は麻衣さんが思春期症候群から解放されたということで、祝勝会的なプチパーティーを開こうということになり、こうして準備をしていたのだった。部長を招いているからその時間までには料理を仕上げておきたい。揚げていた唐揚げは程よくジューシーに仕上がったのではないだろうか?帰ってすぐに下準備をしておいたから味もしっかり染みているはず。

 

揚げたてをつまみ食いしちゃいたいけど、今日はパーティー。皆でいただきますをするまで絶対食べないぞ!この家に二人も来てくれるなんて、とても楽しいんだ、最高のパーティーにしたい。

 

「うん、美味しいわね」

 

「ちょっ!麻衣さん!何、つまみ食いしてるんですか!」

 

私がぐっと我慢したのに、隣で麻衣さんが平然と食べていた。モグモグしながら口許を隠して感想を言う麻衣さんは可愛いけど、今回ばかりは許さないぞ!

 

「ほら、美味しいわよ」

 

私は怒っているのに、麻衣さんは気にした様子もなく、私の口に出来立ての唐揚げを放り込んできた。アツアツの唐揚げをいきなり口に入れるとか鬼畜の所業かと思ったけど、どうやら最初の頃に油から出しておいたものみたいで、火傷する程熱くはない。サクサクの衣に、噛むとじわっと広がる肉汁、特製たれの濃すぎない、でもご飯が欲しくなるような甘辛い味付けで美味しい。下手なアレンジもしていないTHE唐揚げという感じだ。

 

「ごめんごめん、でもこれでおあいこでしょ?」

 

悪戯っぽく笑う麻衣さんはそう言って、ポテトフライの用意をし始めた。どうやら私は共犯にされてしまったらしい。

 

「皆で一緒に食べたいって言ってるのに」

 

「出来立てが一番美味しいのよ。作ってる人の特権」

 

やっぱり麻衣さんは食いしん坊だ。料理が好きな人は絶対そうに決まっているし、こんなこと、食いしん坊しか言わない。私の中でデフォルメされた麻衣さんが唐揚げを食べては膨れていき、やがて爆発した。煙の中からはぷくぷくに膨らんだ麻衣さん。目をバッテンにして、もう食べられない、と苦しそうに言っている。うん、可愛いね。

 

「ねえ、失礼なことを考えているでしょ?」

 

「まさかー」

 

麻衣さんの鋭さが怖い。この私が妄想すら出来なくなりそうだ。市販品の冷凍ポテトフライを袋から出していて、こっちを見てすらいなかったはずなのに、瞬時に察知するなんて。

私は誤魔化しながら、ポテトサラダを作り始める。ポテトだらけになってしまうけどパーティーだから気にしない。

 

既に材料の下準備は出来ていて、後はジャガイモを潰して、野菜とゆで卵を混ぜるだけ!

野菜はシンプルにキュウリ・ニンジン・タマネギを薄く切って、ゆで卵は荒く切って食感を残した。

 

ジャガイモを水分を飛ばしながら良い感じに潰していく。潰しながら、そういえばハムがあったな、と思い出して冷蔵庫から取り出して食べやすいサイズに切った。ハムは良く送られてくるから常に冷蔵庫にある食材だ。

 

潰したジャガイモに野菜達とゆで卵、ハムを入れて、そこへマヨネーズを投入。実は私、マヨネーズって少し苦手なんだよね。あの独特の酸味がどうしても駄目で、基本的には食べない。だけど、不思議なことにポテトサラダは食べられるのだ。でも、気持ち少なめに投入した。食べられると分かっていても苦手なものをドバッと入れる勇気はない。

 

そうして食材を入れて混ぜ混ぜ。塩・胡椒で味付けしつつ、隠し味で酢をほんの少し投入。うむ、美味しそうだ。

 

ポテトサラダを盛り付けて、私は次なる料理を作り始める。と言っても、もう盛り付けるだけなのだけど。

 

目の前には色とりどりの野菜達。

 

今日は揚げ物が多いし、ポテトサラダ以外にもサラダを数種類用意することにしていた。女子会っぽくて良いと思うんだ。

 

まずは生ハムのサラダ。我が家には生ハムの原木があるから生ハムはかけ放題。追加したい人のために、食卓に、どどーんと原木を配置した。普通の原木は表面を削り取らないといけないのだけど、これは全て掃除済だ。ホルダーにセットしてそのままスライスして食べられる優れもの。

サラダは、キュウリ・キャベツ・コーン・トマトを使って、色合いも綺麗に仕上げました。

 

続いてオリーブとトマトのサラダ。調子に乗ってトマトを切りすぎてしまったので、トマトをメインにサラダを作っていくことにした。といっても、盛り付けた千切りキャベツの上に、塩漬けにしたオリーブとトマトを載せて、オリーブオイルをカッコつけつつかければ完成……なのだけど、ここで一工夫。オリーブオイルにレモン汁とお酢、みりんを加えて特製レモンドレッシングに。さっぱりとした味わいは揚げ物との相性も抜群だ。

 

最後にツナサラダ。

食べやすいサイズに切ったレタスに、まだまだ余っているトマト、短冊切りした大根を合わせる。メインのツナをどーんと一缶分投入して、そこに粗く崩した豆腐を入れる。ツナサラダはマヨネーズで合えるのが一般的だけど、私の個人的趣向により、ここは塩だれでいこうと思います。ごま油にみりん、醤油・塩・黒胡椒、そして鶏ガラの粉末を適量ずつ加えて完成のお手軽タレだけど、なんにでも合う万能タレだ。これをサラダにかけて、その上からパリパリの海苔を載せて完成!

見た目こそボリューミーだけど、あっさりしてて、パクパク食べられる。

 

私が完成したサラダを食卓に並べていると、どうやら麻衣さんの方も完成した様でメインの料理が並んでいく。唐揚げとポテトフライ、それにピザ。

 

生地から作った自信作。オーブンに入っていたのを麻衣さんが持ってきてくれたのだ。

トマトとモッツァレラチーズだけのシンプルなピザに、薄切りのチーズでさらにチーズを増して、バジルを載せた王道マルゲリータピザ。このトマトソースを作るためにトマトを大量に切ったのに、ホールトマトが家にあったため、それをトマトソースに採用し、結果としてトマトが大量に余ったのである。

 

「後は双葉さんが来たらコーンスープを出して完成ね」

 

コーンスープは麻衣さんの手作り。私がせっせとピザを作っている間に作っておいてくれたのだ。ちなみに、冷蔵庫には特製プリンを冷やしてあるので、デザートまで完璧だ。

 

うん、こうして料理を並べ終えると、ワクワクが止まらない光景が目の前に広がっていた。正にパーティー、食器が三人分置いてあるなんて夢みたいだ。

 

時計を見ながらそろそろ部長が来る時間だなーと思っていると、家電が鳴った。集合時間10分前。電話に出ると、着いた、というぶっきらぼうな一言が聞こえてきて、思わず部長らしい、と思って麻衣さんと目を合わせてしまう。

くすっと笑った麻衣さんは、きっと私と同じ事を思ったんだろうなって、麻衣さんも部長のことを理解してくれているみたいで嬉しかった。何となくだけど、今日の活動を通して、二人の間にも友達のようなそういう関係が出来上がりつつあると私は思うのだ。

 

私と麻衣さんは部長を迎えにいくため、部屋を出た。誰かを迎えにいく、というのがそれだけでワクワクした。




麻衣さん奪還作戦の裏話なんかは次話で。
次話、一章最終話です。

あの人とは一体誰なんだ(棒)
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