妄想メンヘラ女はバニーガール先輩の夢を見ない 作:強炭酸カボチャ
並べられた料理が殆んど全て手料理であることに目を丸くして驚いている部長を交えて、私達の女子会は始まった。
やはり話題のスタートは、今日の集会のことからだった。
「あの声、やっぱり梓川先輩だったんだ」
「そう。で、その後が国見とその後輩達」
こうして三人で祝勝会のようなことをしているものの、今回の成功はこの二人無しにはありえなかった。観測の最後の一押しは間違いなく彼らだったのだから。
梓川先輩の掛け声、最高のタイミングでのあれがあったからこそ、私達は麻衣さんを取り戻せたのだ。
「国見が、人数が必要ならバスケ部の後輩にも頼んでおくって言ってたから」
部長にとっては梓川先輩のスーパーファインプレーはどうでも良いのか、国見先輩の話ばかりだ。確かに、人数を集めてくれた国見先輩には、今回ばかりは感謝するしかないだろうけど、そんな、乙女全開の顔で話してちゃ、絶対麻衣さんも部長の片想いの相手を察してる。
「頼んでおいて何ですけど、梓川先輩、良くあの静まり返った空間で大声出せましたよね。鋼のメンタルですよ」
部長から二人に頼んでもらったのは、指定のタイミングで『桜島麻衣だ!』と叫んでもらうこと。いくら事前に指示されていたって、いざあの全校生徒が静まり返った空間で、いきなり大声を出せる人がどれだけいるだろうか。況してや先輩は言葉の意味も分かっていないのだから。
「紅葉が泣きそうなのが見えたんだって」
「へ?」
部長の唐突な物言いに、思わず間抜けな声を上げながら首を傾げた。
「元々、二人とは合図が決めてあったんだよ。私が二回目に『桜島麻衣』、と言った時に掛け声をお願いってね」
部長の意図は分かる。一度目の桜島麻衣、つまり作戦が滞りなく成功すれば二人の掛け声はいらないし、何よりタイミングを流動的にコントロール出来た方が不測の事態にも対応しやすい。
でも、そうだとしたらおかしな話になる。だって、梓川先輩は一回目の桜島麻衣の後、間を空けて声を発したのだから。
「紅葉が泣きそうなのが見えて、助けてやらなきゃって思ったんだってさ。紅葉の顔が妹と被って放っておけなかったって」
「なんですか、それ?」
「さあ?青春ブタ野郎の考えることなんて分からないよ」
私が泣きそうな顔?そんなわけないね!一瞬も不安とかなかったし!成功の二文字しか浮かんでなかったね!
「むぎゅぅ!?ちょっ、麻衣さん何ですか!」
突然、麻衣さんが私の口に唐揚げを押し付けてきた。もう熱くはないけれど、一口で食べるには苦しすぎる。
「紅葉、嬉しそうな顔してた」
不機嫌そうな麻衣さんが頬杖をついてそっぽを向いた。誤解だ。別に嬉しいとか思ってない。だって、私は袖の袖にいて、生徒達からは殆んど見えてなかったはずだし、梓川先輩は部長の指示をこなすために階段を注視していたはずなのだから。
ただもし本当にそうなら。(そもそも泣きそうになんてなってないけども)
少しだけ、そうまで想われる妹さんが羨ましいと思っただけだ。うん、本当にそれだけ。
「そういえば紅葉、集会はどうやって開かせたの?私が何とかするの一点張りだったけど」
誤魔化したい案件だったけど流石にこのまま流せるような話ではないだろう。麻衣さんにはある程度、事情を知られてしまっているしね。
「いやー、その、ほら、私って、実はお嬢様なんですよ」
隠していたわけではないけれど、いざ言うとなると気恥ずかしい。
「まあ、それは大体分かってたけどね」
「えぇええ!?」
自分で言うのも何だけど、お嬢様感は全然無かったと思うんだけど!昔の自分が好きではないから、私自身があえてそういう風に振る舞っているのだから、隠していないとはいえ、分かるようなものじゃなかったはず。
「ドアの開け方や食事のマナー、歩き方に座り方、自覚ないかもしれないけど所作が丁寧過ぎるんだよ」
部長に指摘され、自分の頬が熱くなっていくのが分かる。隠してたわけではなくても、お嬢様とは程遠い自分になれていると思っていたから、無意識に出ていた部分を指摘されると途端に恥ずかしくなってしまった。えっ、じゃあ私部長から、お嬢様の癖に無理してんなーとか思われてたの!?それともお嬢様なのに残念な奴とか思われてたの!?どっちにしろ恥ずかし過ぎるよ!気がついてるのなら言っておいてよ!
「姿勢も良いしね。表情が変わらないから余計にそういう小さな所作の綺麗さが際立っているのかも」
不機嫌そうだった表情が一転、ニヤニヤと楽しそうな麻衣さんが追撃してくる。止めて!もっとぞんざいに扱ってよ(錯乱)!別に褒められているだけなのだけど、謎の羞恥心で正常な思考が出来ていない。
テーブルに突っ伏して頭を抱える。憧れの普通の女子高校生になれてると思ってたのに、端から見たら無理してるように見えてたとか最悪だ。恥ずかし過ぎる。別に無理してる訳じゃなくて、これが私の素で、ただ生まれたときから教育されてきたから、どれが普通じゃないとかもう分からない。
「褒めてるんだから恥ずかしがらなくてもいいのに」
「じゃあニヤニヤするの止めてくださいよ!」
ツンツンしてくる麻衣さんは大変楽しそうで、それはもうからかっているのが丸分かりだ。ここにいる二人は二人共、世間一般の女子高生とはズレ過ぎてるから参考にならない。国民的美少女も、年中白衣を着ている美少女も、普通は学校にいない、おとぎ話やファンタジーの話だからだ。
私はこれからもっと女子高生を勉強することを決意しつつ、この弄りから脱するため、話を本来のものに戻すことにする。
「集会をどうやって開かせたのかってお話でしたけど、どうやっても何も、ただ科学部で発表をしたいから集会を開かせてくれってお願いしただけです」
「うん、それで?」
この期に及んでどうにか有耶無耶に出来ないかと悪あがきしてみたけど駄目だった。圧がすごいよ!
「私の実家がこの学校にまあまあな寄付金を納めてたり、教育委員会とか文部科学省にも顔が利くと言いますか……」
「つまり札束で殴って、権力で従わせたんだね」
「言い方が悪過ぎませんか!?」
そんな極悪人的方法だと思われたくないから言葉を選んでいたのになんてことを言うんだ!私は誠心誠意お願いしただけなのに!
「きちんと集会の意義やメリットをプレゼンして、校長先生にご納得頂いたんですっ!」
「どんな反応だったの?」
「……ひたすらコクコク頷いていました」
「社会の縮図だね」
うわぁぁああ!部長がいじめるよぉおおお!
そうだよ!私も気がついてたよ!私のプレゼンに納得したんじゃなくて、断ったら寄付金無くなったり、仕事に悪影響が出たりすんじゃね?という恐怖心で校長先生が頷いていたことなんてさ!集会中も私の顔色をずっとうかがっていて、過剰な手助けまでしくれたからね!どうするんだろうね、テストに加点するとか言っちゃってたけど!私は知らないよ!
「まあまあ、面白いのは分かるけどこの辺にしておきましょうか」
麻衣さんがくすくす笑いながら部長のいじめを止めてくれたけど、面白いのは分かるって何!?私が涙目でぷるぷるしてるのがそんなに面白いですかね!?本気で落ち込んでるのに酷いよ!
麻衣さんが頭をヨシヨシしてくれるけど納得がいかない。
「麻衣さん、あんなに歌えるなんて知らなかったです」
「私だって紅葉がピアノ弾けるの知らなかったわよ?」
それもそうだった。私と麻衣さんがこうして話すようになってまだ数日なのだ。お互いに相手の過去を意図的に聞かないようにしていたのもあって、知らないことの方が多い。
「劇団にいた頃にね。ミュージカルもあるから歌も踊りも一通り練習してるの」
私は女優の桜島麻衣を良く知らないから劇団に所属してたなんてことも知らなかったけど、それなら納得だ。明らかに素人がカラオケで歌う上手い歌とは違う、魅せる歌だったから驚いていたのだ。
「私も実家にいた頃に。お嬢様っぽい習い事は一通り」
「何よ、お嬢様っぽい習い事って」
「ピアノとかヴァイオリンとか……後はご想像にお任せします!」
このまま話を続けたら、また私のお嬢様弄りが始まってしまう。バレエ習ってたとか言ったら絶対笑われる。他にも何言っても弄られる気がするから私は断固として話を断ち切った。
そうしてある程度、今日の話が終われば雑談の内容は私と麻衣さんの出会いへと移行する。図書館バニーガール事件を知っている部長になら包み隠さず話しても問題はない。麻衣さんはまた、バニーガール衣装で徘徊していた頃の自分に落ち込んでいた。
「二人が同じマンションだったなんてね」
部長が生ハムサラダを食べながら言う。
部長には、私と麻衣さんがどうやって知り合ったのかは勿論、同じマンションに住んでいることも言っていなかったからね。麻衣さんとどうやって知り合ったのか見当もつかなかったのだろう。
偶然同じマンションだったことを知り、納得したように頷いた。
「紅葉なら気がつきそうなものだけど」
「それってどういうこと?」
部長の何気ない呟きに麻衣さんが何かを感じたのか食いついてしまった。この話題はまずいんですよ!
「紅葉は入学前から桜島先――」
「そういえば!部長、昨日は徹夜してたみたいですけどちゃんと寝てきましたか!?」
部長は私の初恋話から、入学秘話まで、全部知っているのだ。学校に話す人が部長しかいなかったからついつい話し過ぎてしまったんだよね。麻衣さんに知られるのは恥ずかし過ぎるから必死で阻止する!
「心配しなくても今日は
その色々の中に含まれているであろう、私と麻衣さんのキスシーンは記憶から消してほしい。
そうして、私は部長が口を滑らそうとする度に阻止しつつ、麻衣さんが聞き出そうとするのもかわして、このパーティーを過ごした。人生最高の食事があっさりと更新された。
◆
「なに?紅葉?」
デザートのプリンを口にしようとしていた麻衣さんが首を傾げる。さっきまで食べ過ぎたことを気にしていたのに、デザートにはあっさり手を伸ばした。美味しそうに食べている麻衣さんが嬉しくて見過ぎてたかもしれない。でも仕方ないと思うなー。
「なんでもないです。ただ、麻衣さん好きだなぁって思っただけですよ」
「なっ」
今の麻衣さんは笑ってる。とても楽しそう。生き生きしていて、人生を楽しんでるって感じだ。
それが何より嬉しいんだ。
だって、それは私が初めて誇れることだから。あの、桜島麻衣の笑顔を取り戻したのは私なんだぞって胸を張れる。死ぬまでずっと、私の一番の誇りだ。
「何よ、急に」
少し照れたようにジトッとした目線を向けてくる麻衣さん。揚げ物を食べ過ぎたからか、プリンが甘過ぎたのか、胸焼けしたみたいな顔をしている部長。
急なんかじゃないんだ。ずっと思ってることを口にしただけ。恥ずかしくていつもは言えないけど、今なら言える気がしただけ。麻衣さんと部長、二人のことがとても大切だ。二人に向ける感情はそれぞれ違うけれど、私にとっては選び難い程に大切な二人。
伝えておこう。伝えたいんだ。心から思うから。
「二人とも、大好きです」
ポトッと麻衣さんがスプーンを落とした。部長も目をぱちくりとさせている。
生まれる静寂。
え、確かに恥ずかしい台詞だったかもしれないけど、そんなに沈黙されると不安というか、どうしたらいいか分からないと言うか。
「紅葉、貴女今、笑えてるわよ」
少し涙目の麻衣さんが、私の頭を胸に抱き締めた。
笑えてる?私が?どんなに頑張ってもにこりとも出来なかったのに?
じわっと涙が溢れてきてしまう。麻衣さんの服を濡らしたくないから堪えたいのに止まらない。
麻衣さんは気がついていたのだろうか。本当はずっと笑えないことが辛かったのが。悩んでいることも、笑えなくなった原因も、何も話していないのに私を抱き締めるのはきっと気がついていたからだ。だから、良かったね、と一緒になって泣いてくれるのだろう。何も聞かなかった麻衣さんの優しさに、察していながら私は甘えていたのに。
部長だってきっと気がついてた。それでも何も言わなかったし、態度も変えなかった。部長はずっと部長でいてくれて、それだけで私にとっては学校で一番安心できる場所になって、一番頼れる人になって、孤独を感じなかった。クラスに友達がいなくてもヘッチャラだった。
こんな、大好きな二人と一緒にパーティーをしていたのだ。麻衣さんと二人で一生懸命料理して、それを三人で美味しいねって食べる。
そうか、そりゃこんなに楽しいんだもんね。人生で一番楽しいんだもんね。これで笑ってなければ嘘だ。私は笑える。今はほんの一瞬かもしれないけど、これから麻衣さんと部長と、そしてかえちゃんと、過ごす日々が楽しくないわけがないんだから。
この後、三人で写真を撮った。
表情から角度から、素人のそれではない写真写りが良すぎる麻衣さんと左腕を組んで。
やや照れているのかちょっとカメラから顔を逸らすようにして澄まし顔をしている部長と右腕を組んで。
真ん中の私は相変わらず無表情だったけど、何となく笑っている気がして。
一生の宝物が出来た。
楽しかったパーティーも終わりは来る。
部長に泊まってもらってパジャマパーティーもしたかったのだけど、遠慮されてしまった。
部長は徹夜明けで仮眠しかしていないし、夜遅くまでおしゃべり、とかは出来なそうだったから仕方ないか。かえちゃんにも部長にかえちゃんのことを言っても良いのか聞いておきたいしね。
それに、楽しみが残ったと思えば、それもまた良いことのように思えるし。
部長を見送るべく、マンションの玄関まで三人でやって来るとやっぱり無性に寂しくなった。泣きそう。
「また部活でね」
不器用に、少し躊躇うように、部長が私の頭に手を置いた。私が頷くと部長はそのまま去ろうとしたのだけど、それを麻衣さんが呼び止める。なんだろう?
「――そういえば双葉さん、私も科学部入るから」
「えっ?」
不敵な笑みでそう告げた麻衣さんに、ちょっと嫌そうな部長の声が面白かった。
これにて一章完結!ということで次話から波乱の二章スタートです。
白状しますと、実は何も考えずに勢いだけで投稿を始めたため、元々紅葉の思春期症候群は全く別の設定で、花楓の登場予定もなかったし、麻衣さんの取り戻し方も21話を投稿するまで決めておらず……など、殆んど全てが後付けの作者的にドタバタの一章でした。書いてる途中に設定を思い付いてぶちこんでいただけです。プロットも設定も何も用意されてません。
感想などで設定が作り込まれているとか言われると嬉しくも心が痛かったです(笑)
二章もそんな勢いと百合だけで突き進んでいきますので、よろしくお願いします。