妄想メンヘラ女はバニーガール先輩の夢を見ない   作:強炭酸カボチャ

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25話 労働者のススメ

6月ももうすぐ終わる。

色々あったといえばあったし、いつも通りといえばいつも通りの1ヶ月を過ごし、麻衣さんはすっかり復帰して大忙し。今も何やら台本なのか資料なのか、冊子のようなものを読んでいる。最近の麻衣さんは夕飯までの時間、こうして何かを読んでいることが多い。女優というのは、現場での撮影だけではなく、こうした下準備がえらく大変なのだと思わされる。これって実質、サービス残業みたいなものだと思うんだよね。私には絶対無理だ。

 

「今日、私はいつものように、机に顔を伏せてクラス内の情報を収集していたんですよ」

 

「いつものようにぼっちだから、寝たふりをしながら盗み聞きしてたのね」

 

「意訳が酷すぎるのに、強ち間違っていないから否定できない!?」

 

言い方に悪意があるけど、その通りと言えばその通りだった。寝たふりをすることでぼっち感を緩和し、ただ眠いだけの人に見せかけることができる私の完璧な偽装を、そんな言い方しないで欲しい。睡眠孤独偽装(パーフェクトゼロ)という、私の考えた最高にカッコいい技名があるのだ。ちなみに、起き上がる時に、眠そうな顔するのがポイントだ。(殆んど変化ない)

 

「まあ良いです、話を続けますよ」

 

そう、私がいつものように睡眠孤独偽装(パーフェクトゼロ)で情報を収集していた時のこと、私が心の中で密かに推しているともえたんが、何とアルバイトを始めたというのだ!それもファミレスだ!見たいよ!可愛い制服のともえたんが見たいよ!絶対ドジっ娘だと思うんだよね!お皿とか割っちゃってごめんなさい、みたいな!?可愛くない?可愛いよね!?ミスしちゃって涙目のともえたん可愛いよね!?

 

「それで、私もアルバイトを始めようと思うんです!」

 

「駄目」

 

「えぇええええー!?」

 

私が話している内に段々と不機嫌になっていって、そのまま私の提案を無慈悲に却下した。しかも腕も足も組んで激おこぷんぷん丸モードになっている。

 

「紅葉、アルバイトする必要ないわよね?」

 

「お金だけは苦労したことないです」

 

「ドヤ顔で言わない」

 

女子高生の一人暮らしどころが、女子寮を軽く経営できそうなくらいの額が毎月振り込まれているし、実は実家の関連企業の株を大分持っているので資産的にはもう一生働かなくても遊べるくらいの蓄えはあったりする。

 

「大体、一生働きたくないとか言っていたじゃない」

 

「だからこそ、ここで経験しておくのもいいかなって」

 

「絶対続かないんだから止めなさい」

 

麻衣さんはこの話は終わりとばかりに、冊子とは別の雑誌を手にとって読み始める。酷い。

私はまともにアルバイトも出来ない駄目な子だと思われているのだろうか。

 

私がファミレスでアルバイトしている姿を想像してみる。華麗に接客して、軽やかに配膳し、速やかに食器洗い、レジ打ちもバシバシやっちゃう。完璧だ。想像の中の私は皆からの尊敬を集めていた。

 

この光景を見せれば麻衣さんも私を見直すはず!脱駄目な子!私は麻衣さんを見返すため、こっそりアルバイトを始めることを決意した。私がカッコ良くアルバイトしている姿を見せつけて、ぎゃふんと言わせちゃうもんね!

 

 

 

「えっと、うちはファミレスなんだけど」

 

履歴書というものを初めて書いたので、とりあえず思い当たる資格やら経歴、特技を書きなぐったのだけど、この程度じゃアルバイトはできないのだろうか。

確かに、ピアノやヴァイオリンは勿論、漢検1級も数学検定1級もファミレスではあまり役に立ちそうにない。でも英検1級とか外国人の方が来たときには役立つと思うんだよね。これでも日本語、英語含め、六か国語話せるし、接客は任せて欲しい。

 

「はい、分かっています。皆さんに美味しいご飯を速やかに提供する、任せてください」

 

「やる気は伝わってくるんだけどね」

 

店長は苦笑いして履歴書を見ていたけど、私の熱意が伝わったのか、最終的には採用してくれた。感動だ。初めてのアルバイト、気合い入れて頑張る!

 

数日後、私は出勤初日を迎えた。自慢したくて、部長に今日はバイトなんで部活休みます、と何度も言いまくりうざがられ、いつまで続くか見物だね、と突き放された。麻衣さんに言えない分、部長に自慢したかったのだけど、冷たい。

 

残念ながら、睡眠孤独偽装(パーフェクトゼロ)で得た情報によると、ともえたんの出勤はないようだけど、初めてのアルバイトでテンションがとても上がっている。ワクワクだ。

 

「おっ、やっぱり枯木ってそうだったんだな」

 

ワクワクは、一気に冷えて無くなった。店長が新人である私に指導する先輩として紹介したのは、憎っくき我が科学部の宿敵、国見先輩だったのである。私の部長を誑かし、恋する乙女に変えた張本人であり、可愛い彼女もいる。バスケ部で高身長で、さわやかイケメンで、性格も良いらしい、正に全高校生男子の敵みたいな人だった。私はこれまで話したことが無かったけれど、部長からの話と、睡眠孤独偽装(パーフェクトゼロ)で入手した一年生達のきゃいきゃいとした噂話からある程度のことは知っていた。

今も初対面の、無表情でいかにも絡みにくい私に、こうしてさわやかな笑顔を張り付けて声をかけてくるくらいだ。噂通りの好青年に違いない。へ、いつまでそれが続くかな、私がお前の嫌なところを見つけ出して部長に報告してやる!

 

「さっき店長に新人の枯木さんって教えられて、科学部の枯木さんかなって思ってたんだ」

 

「なんで私のことを?」

 

「双葉から聞いた」

 

なんか部長が私のことを友達に話してるとか、ちょっと照れる。嬉しいけどむずがゆいというか。

 

「全然部活来ないのに態度だけは大きい迷惑な後輩だってさ」

 

やっぱりこの人嫌い。私の感動を返して欲しい。

 

「枯木さん、相当双葉に好かれてるのな」

 

なんで今のでそうなったんだ!リア充の考えていることは全く分からない!いっちょん分からん!

私が部長に悪口言われてたことを、そんなさわやかな笑顔で密告しておいて、好かれてるとか頭おかしい。

 

「さて、そろそろ行こうか」

 

一言も喋らず、にこりとも笑わない私にどうしてこうも笑顔で接せれるのか。不思議でしかない。

 

「初日だし、今日は基本的に片付けとセッティングを覚えようか」

 

平日だからか今日はあまり客入りが良くない。有り体に言えば、暇なのだ。よって、国見先輩は片時も離れることなく私の世話を焼いていた。

教え方は丁寧で、重い食器は持ってくれるし、ミスを咎めたりもしない。なんだこの好青年。弱点がないんだが。

引っ込み思案で無愛想、奥手で初心な部長の初恋相手としては悪過ぎる。『私の考えた最強の彼氏』みたいな人じゃんこの人。基本的に、はい、か、いいえしか話さない私に嫌な顔一つしないとか、どういう育てられ方をしたんだ、親の顔が見てみたいね(良い意味)

 

「もうバッチリだな」

 

バッチリも何も、ただ食器を片付けてキッチンへ持っていき、テーブルをセッティングするだけの仕事だ。慣れてしまえば何てことのない作業、出来て当たり前である。それをこうも嬉しそうに褒められると、何だか凄いことをやり遂げた様な気さえしてくる。この褒め上手め。

 

そんな感じで今日のところは、国見先輩の指導の下、せっせと食器を運び、テーブルを拭いて、決められた位置にカトラリーやらメニューやらを用意してと、それだけに費やした。忙しい日では無かったらしく、国見先輩は私に付きっきりだったのだけど、部長に報告するような嫌なところは見つからなかった。

 

「送っていこうか?」

 

アルバイトが終わって着替えを済ませた私に、国見先輩は極めて自然に言い放った。下心の欠片も感じられない。くっ、ここで鼻の下伸ばしてグヘグヘ笑いながら誘ってくれてれば部長に即チクれたのに。こんな無愛想な女では駄目か。

別に送ってもらう気はなかったのだが、会話している内に、なんとなくそういうことになって私達は隣り合って夜の道を歩く。国見先輩はわざわざ自分の自転車を押してまで歩いているので何だか申し訳ない。

散々言っておいてなんだけど、この人にも麻衣さん奪還作戦で何だかんだお世話になっているし、今日のバイトで本当に良い人なんだというのも分かった。つまりそれは部長が突き進む片想いが、茨どころが有刺鉄線の道くらい困難だということ。某ギャンブラー御用達のブレイブメンロードの方がまだマシである。

 

「双葉さ、明るくなったろ」

 

「そうですか?」

 

「そうだよ」

 

明るくなったのだろうか。部長は部長のまま変わっていないと思う。麻衣さんが思春期症候群を克服して1ヶ月以上。麻衣さんが科学部に加入したものの、麻衣さんは芸能活動を再開して色々忙しい時期だしあまり参加出来ていない。相変わらず私は気まぐれでサボるし、部活動と言ってもそうそう実験なんてやるもんじゃないから、雑談して終わりって感じ。この前なんて久しぶりに麻衣さんが参加できる日だったから実験でもしようかってなったんだけど、何故か麻衣さん共々追い出された。イチャイチャし過ぎたかもしれん。

 

「良いやつだろ、双葉は」

 

「それは勿論。部長がいなかったら学校辞めてたかもしれません」

 

私は自分が学校という空間に馴染めるなんて思っていなかった。実際、クラスに馴染めていない。

学校というのは特殊な空間なのだ。子供中心の社会。先生すらも学生から教師になった以上その人生の殆んどを学校というコミュニティで過ごしている人間だ。出来上がるのは当然、普通の社会とは違う独特なコミュニティ。私にとっては異国のようなものだった。

 

科学部はそんな中で私の居場所なのだ。

部長の存在は、部長には伝わっていないと思うけど、とてつもなく大きい。頭が上がらない。たぶん部長のお願いなら無条件で了承してしまうくらいには、私は部長に大層恩義を感じているのだ。

 

「そ、良いやつなんだよ、双葉はさ。友達だ」

 

国見先輩はただ前だけを見ていた。他に言葉はない。自転車を押すカラカラという音と、車道を走る車の音。信号機の電子音とざわざわとした風の音。ただ歩くこの無言の時間に、国見先輩がどんなことを考えていたかなんて、私にだって分かる。

 

国見先輩は、部長の片想いに気がついてる。気がついていて、それに対する答えも決まっていて、でも――友達なんだ。

その関係が崩れるのが怖いから、嫌だから、分かっていても言い出せない。

 

部長が言わないことを良いことに、知らないふりをする。

 

「なんだか国見先輩のことが分かった気がします」

 

「俺の事?」

 

国見先輩が不思議そうに首を傾げる。梓川先輩がやったら思わず殴りたくなりそうな仕草もこの人がやると、CMのワンシーンみたいになる。リア充のイケメンで、バスケが出来て、彼女がいて、性格も良くて――そんな女子高校生の妄想でしか存在してなさそうな彼も、結局のところは。

 

「普通の男子高校生なんですね。思春期の」

 

人並みに悩みだってあるし、躓くし、怖いし、躊躇う。国見先輩は何も特別なんかではない。きっと、梓川先輩の方が、余程頭が飛んでいる。

普通の男子高校生。青春真っ只中で、色恋に悩み、友情で迷う。

 

私が国見先輩に一方的に持っていた敵対心は無くなっていた。そもそもやっかみみたいな敵対心だし、麻衣さんの時に、国見先輩にも手伝ってもらっていて、恩だってある。まあ、恋心があったとしても、部長が友達やってるんだから悪い人なわけがないんだけども。

 

私がそんな風に、国見先輩の好感度を上げていたところに、屈託なく笑った国見先輩が言う。

 

「はは、枯木さん、なんか咲太みたいだな」

 

 

――やっぱりこの先輩、嫌いだ。

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