妄想メンヘラ女はバニーガール先輩の夢を見ない 作:強炭酸カボチャ
「祐真が貴女と歩いてるの見たって娘がいるんだけど?」
放課後、掃除当番をバックレようとしたところを担任に確保され、仕方なく教室を強制労働して綺麗にし、部長が寂しがるから今日は麻衣さんいないけど部活行ってあげるかー、と科学部の部室へ向かおうとすると、教室の近くに二年生の女子生徒が待ち構えていた。
ぱっちりとした大きなお目々に、やや赤みがかったような茶髪は肩の辺りまで伸ばされ、くるんと内巻きにカールしている。強気そうな表情とか、左手を腰に当てている態度とか、端的に言って、私の苦手なリア充エリート女子だ。べ、別にびびってないし!溢れ出るリア充オーラに気圧されたりしてないし!
「祐真?」
素で首を傾げる。心当たりが無かった。私が校内で話すのなんて部長と麻衣さんだけ……と考えたところで私は今日の昼のことを思い出した。最近お昼は麻衣さんと空き教室で食べているのだけど、今日のように麻衣さんが休みの日は部長を呼び出して部室で食べる。もうともえたんに、孤高とか格好いいとか言われてた、一人で昼食を食べられる強い私はいなくなってしまった。寂しくなっちゃう。
そんなわけで私は部長を迎えにいくべく2年生の教室へ向かっていたのだけど、その途中で梓川先輩に会った。
「双葉ならさっきすれ違ったぞ」
相変わらず眠そうな梓川先輩がパンの袋を2つ持って、声をかけてきたのだ。うっ、部長に逃げられた、と私はすぐに気がついた。部長は私と昼食を食べるのを避けたがる。なんでも「紅葉が教室に来ると目立つ」らしい。やっぱり後輩が先輩の教室へ乗り込むのは目立つということなんだろうか。
「部室で待ってるってさ」
部長のツンデレが愛し過ぎてやばい。あの嫌々付き合ってますという態度はやはりツンデレだったか。本当は部長も私と食べたかったんですね。
「付きまとわれるのもうざったいから、って言ってたぞ」
「先輩、それ言わなくていいやつ」
梓川先輩は、俺も今日は部室で食おう、コーヒータダだしな、と着いてくる。
麻衣さんの入部でマグカップは三つに増えて、晴れて私はビーカー生活を卒業したわけなのだけども、梓川先輩、頻繁に部室に現れるし、もう用意しといたら良いと思うんだけど。
「最近、ビーカーで飲むのもまあ乙かなって思い始めてる」
乙の定義とは?と疑問を投げ掛けたくなるが、まあ先輩が良いならそれでいいかと、私は納得して頷いた。
こうして私と梓川先輩は二人で廊下を歩いて部室へ向かったのだけど、もしかしてこのことだろうか。この後、部長をツンデレと弄って先輩共々部室から追い出されることになったけど。
梓川先輩の下の名前ってどうでも良すぎて忘れちゃったけど、なんかおめでたそうなイメージがある。祐真なんて爽やかな感じではなかった気がするものの、私が今日一緒に歩いていたのは梓川先輩だ。
「私ね、祐真の彼女なの」
リア充先輩がドヤ顔気味に言い放った。なるほど。
「梓川先輩の彼女さんだったんですか」
「私に死ねって!?」
「ごめんなさい、これは確かに侮辱でした」
そんなわけがなかった。激怒されて当然である。殴られても文句は言えない。だって、私がこんなこと言われたら最悪な気分になる。昨日だって国見先輩に咲太みたいだって言われて――ん?
「もしや、国見先輩の彼女さんですか?」
「そうよ!」
国見先輩の下の名前って祐真って言うのか。ついでに梓川先輩は咲太だった。思い出した。人の名前を覚えるのは得意なんだけど、やっぱり覚えようとしないと覚えられないものだ。
それにしても、やはり国見先輩の彼女は可愛かった。あの先輩、将来ハゲ散らかすくらいの業がないとズル過ぎると思うんだ。
「
「一年一組の枯木紅葉です」
「知ってる。貴女有名人だから」
「えっ」
もしや私ってぼっち過ぎて校内で噂されてる?
あの一年生もうぼっちだよ、休み時間もひとりで、お弁当もひとりで食べて、トイレもひとりでいく、普通なら恥ずかしくて教室にいられないようなことを堂々とやっているよ、やべーよ、とか言われてるんだぁ!うわーん!
「それで、なんで貴女が祐真と二人で歩いていたの?」
ズズズズ、とリア充オーラとは別のエネルギーが彼女から出ている気がする程の威圧感。睨まれてるよ!なんで私が嫉妬されなきゃいけないんだ!これも全部、国見先輩のせいだ!
私は国見先輩に文句を言ってやりたくなったが、こうして聞いてきたということは問答無用でどうこうしようってわけじゃなさそう。正直に話してお怒りを静めて頂きましょう。
「アルバイトの帰りに送ってくれたんです。私がバイト初日だったので気を使って頂いたのかと」
家の付近、国見先輩が帰りやすいところで別れたし、そんなに長い時間だったわけでもない。とりとめもない話をして、仕事のアドバイスとか貰って、それだけだ。
なのに、何故か上里先輩の怒りが上がった気がする。ズズズズだったのが、ゴゴゴゴになった感じだ。
「……なんで貴女みたいなお嬢様がバイトなんてするのよ」
「な、なななななんで私がお嬢様だと!?」
「噂になってるわよ、見てれば分かるものだし。貴女が使ってる財布とかいくらすると思ってるのよ」
私、もう学校来ない。
部長にだけじゃなく、二年の先輩全体に私がお嬢様だって噂になっているだなんて、そんなのもう学校来れないよ!恥ずかし過ぎるよ!だってあいつお嬢様のくせに無理してんな、とか、あれのどこがお嬢様だよ、とか思われていたってことでしょ!?もう駄目だ、私は引きこもるんだ。お部屋に引きこもって、ご飯作って、麻衣さんが帰ってくるのを待つだけのお留守番少女に転職するんだ!
大体、お財布の値段なんか気にしないよ!物買うのに値段なんか気にしたことないよ!だってカードだもん!カード出せば何でも買えるもん!(錯乱)
「な、何よ。泣かなくたって良いじゃない」
私がぷるぷるしていると上里先輩が慌て始めた。いや、別に泣いてないし。目にゴミが入っただけだし。何なら汗だし。
「お、お嬢様じゃないもん」
「いや、別にそこは否定しなくても」
「電車も一人で乗れるし、買い物だってできます。知ってます?百円玉五枚で五百円玉になるんですよ」
「それを引き合いに出す時点で……」
あ、憐れむような目で見られてるっ!この娘、バカだって顔してる!うう、私が何をしたっていうんだ。なにもしてないのになんでお嬢様だってバレるんだ!
五百円玉だとユーフォーキャッチャーが6回出来るんだぞ!百円ずつだと5回しかできないのに、だ。こんなことお嬢様なら絶対知らないね。だって私、一人暮らしするまで小銭持ったことも無かったもん。
「女子は皆、人の物を結構見てるわよ。貴女みたいなハイブランドの超高級財布持ってたらそりゃ良いところの娘って分かるわ」
呆れたみたいに上里先輩が言う。
ブランドなんて気にしてないからこの財布がどこのブランドのものかも分からない。一人暮らしを始めるのに、初めて財布というものを買うってことになってどんなのが良いのか分からなかったから、家に良く服やアクセサリーを売りに来る人に、財布売って、と頼んだら出てきた奴なのだ。お金は実家払いで私が払ったわけじゃないけど……そういえば、その人が今仕入れている中で一番おすすめって言ってたんだけど、それって単純に高いってことだったんだろうか。だからあんなにニコニコしてたんだろうか。
私は、この状況を打開する妙案を思い付き、ん!と上里先輩に財布を突き出す。
「何よ?自慢?」
イラッとしたように片目を吊り上げる上里先輩だけど、そういうことじゃない。
「交換してください!私の財布と上里先輩のを!」
あの、全男子高校生の敵みたいな国見先輩の彼女だ。それはつまり、女子高生として最高水準の能力を持っているということ。上里先輩は私の思い描くイケてる女子高生そのものなのだ。つまり、その上里先輩の財布を貰えば、私もイケてる女子高生に一歩近づくはず!部長に言われた所作とかはそう簡単に直るものじゃないけど、まずは見た目からだ!
「嫌よ!私がカツアゲしたみたいじゃない!」
「私が良いって言ってるんですから!」
「貴女やっぱりバカでしょ!?それ、たぶん何十万円するわよ!?それだけあれば私の財布なんて何十個も買えるわよ!」
そう言って、上里先輩が出したのは薄いピンク色の小さな財布で、何かのキャラクターなのか動物のキーホルダーが付いていた。
こ、これが最上位女子高生の財布!ご利益がありそうだ。
「ほら、このお店に売ってるから!」
上里先輩がスマートフォンで検索したのか、画面には何やらおしゃれなお店の写真と、英語の店名が載っていて、それを私に見せてくる。おいおい上里先輩鬼過ぎるよ、こんなおしゃれな店に私一人で行ったら笑われるよ!麻衣さんにどれだけ私服をダメ出しされたと思っているんだ!どれだけ麻衣さんがコーディネートしてくれた服を着たって、麻衣さんや、上里先輩みたいなおしゃれオーラは出ていないに決まってる。下手したら入り口で見えない壁に弾かれたりしそうだ。
最近麻衣さんは忙しくて一緒にお出掛けなんて出来なそうだし、部長は絶対行ってくれないだろうし……詰んだ。もう駄目だ。私はずっと残念お嬢様って笑われ続けるんだ。
「なんでまた泣きそうになってるのよ」
「一緒に買いに行ってくれる人いないですもん」
「一人で行けば良いでしょ!」
「こ、こんなところに私みたいなのが一人で入っていったら笑われますっ。いえ、それどころが入る前に弾かれるかもしれません」
「そんなわけないから!意外に卑屈なのね、貴女」
そりゃ卑屈にもなるよ!麻衣さんや周りの皆が話しているおしゃれ会話に一切着いていけてないんだから!タピオカだって飲んだことないんだぞ!女子高生の最低ラインタピオカすら経験してない私がそんなおしゃれショップに一人で入れるわけがないんだ。
「ああもう!じゃあ私が一緒に行ってあげるからそれでいい!?」
やけくそ気味に上里先輩が言った。私はあまりの迫力に、言葉の意味を理解する前にコクコクと頷く。
「全くなんでこんなことに……ほら、予定合わせたりしたいから、ID教えなさい」
ギクッ、と音が聞こえそうな程に私は固まった。最近聞かれることも無くなって、すっかり気にしていなかったけどこのパターンは前にも。
「……貴女まさか、持ってないの?」
頷く私。上里先輩は、はぁ、と露骨なため息を吐いてスマフォを操作し始めた。あう、やはり女子高生はスマフォを持っていないとコミュニケーションを取る権利すら剥奪されるらしい。
だって仕方ないじゃん!なんかスマフォ持っていると得たいの知れない恐怖心に襲われるんだもん!電話の音ですらビクって反応しちゃうしね!私、そこまでビビりだったとはね!
大体、使い方も良く分からないし、友達欄がまっさらなアドレス帳とか見たくない!
今時のSNSってグループとかあるらしいし!クラスのグループに私だけ入れてもらえなかったら三日三晩泣くし!だったら最初から持たないのが正解!はい、Q.E.D!
「ほら、これ私の携帯番号。どっかにメモしときなさいよ」
携帯番号と思われる数字の羅列が映されたスマフォの画面を向けて、上里先輩がぶっきらぼうに言った。予想外の反応に思わず目を丸くしてしまう私。
「スマフォ持ってないんでしょ?家帰ったらここにかけなさい」
「へ、変に思わないんですか?」
「は?変に決まってるじゃない、宇宙人よ、宇宙人」
滅茶苦茶言われた。どうやら私は宇宙人だったらしい。
「今時、携帯持ってないのなんて貴女と梓川くらいよ」
「それを言われると十台でも二十台でも持っておくべきな気がしてきました」
「極端過ぎるわね」
上里先輩のことが分かってきた。基本的に優しいし面倒見も良いけど、一度決めたら曲げないタイプ。たぶん、国見先輩は尻に敷かれている。
「じゃあ話戻すけど、なんで貴女みたいなお嬢様がバイトしているの?」
お嬢様じゃないって言ってるのにナチュラルに無視された。まあ、実際そうなんだけど、嘘なんだけどさ!
「クラスの娘がそこでバイトしてるのでもしかしたら友達になれるかもって思いまして」
昔は友達なんてかえちゃんがいればそれで良いとさえ思っていたけど、部長に出会って、麻衣さんに出会って、やっぱり私は寂しがり屋なのかなと気がついてしまったのだ。
人と触れあって初めて幸せはあって、新しい発見があって、楽しさが膨れて。
私が求めていたものは、そういうものだから。だから、私は今更ながら本気で友達を作ろうと頑張ることにしたのだ。ともえたんは前に楽しくおしゃべり出来たから、なんかいけそうな気がするんだ!
……普通に教室で話しかければ?とかは言わないで欲しい。それが無理だからこうしてコソコソやっているんだから。ともえたん、いつもクラスのキラキラ女子グループにいるから、とても話しかけるなんて無理なの!きっと、私が声を発しただけで驚かれる。大体、香芝さんとか絶対私のこと嫌いだ。この前なんて
そんな空間に、ぼっちなやつがいつまでもいるんだからそりゃ邪魔扱いされる。でもね、でもね、私は自分の席しか行くところがないんだよ!情けないことに、いつも昼休みに教室へ帰ってくる時、誰かが私の席に座っていやしないかとビビってるよ!いままで一度も無かったけどね!それはそれでなんかちょっと嫌な想像しちゃうよね!あいつの席なんか座りたくねーよ的な!?
「普通に教室で話しかければ良いじゃない」
はい、言った!思っても絶対口にしちゃいけないことを、不思議そうな顔で言った!これだからキラキラ女子は!可愛くても、おしゃれでも、友達がいない麻衣さんを見習え!
と、私が麻衣さんにバレたら絶対怒られることを考えていると、ふと思い付いた。そう、見習えば良いのだ。
以前私は、部長と麻衣さんに散々お嬢様弄りをされ、普通の女子高生を勉強することを決意したのだけど、そのお手本として上里先輩は最強なのではないだろうか。おしゃれな髪型、程よい化粧、着崩した制服、リア充キラキラ女子の頂点みたいな人なのだから。
「上里先輩!私の師匠になってください!」
「は?」
私を教室でクラスメイトに話しかけれるようにして下さいな!
私はきょとん、とした顔で固まっている上里先輩にキラキラとした視線を送りながら答えを待った。