妄想メンヘラ女はバニーガール先輩の夢を見ない 作:強炭酸カボチャ
私はクラスに友達がいない。いや言い過ぎた。学校に友達がいない。
科学部部長の双葉理央先輩をカウントしていいのなら、一人ということになるが、友達とはお互いにそう思っていなければ成立しないものだと私は思っている。
私は彼女を友達と思っているが、恐らく彼女の方は私のことを『うざい後輩』くらいに思っていそうなので、友達と言えない気がする。
ちなみに、先輩の毒舌はただのツンデレだと思うとめっちゃ萌えられる。何と罵られようと、ただの可愛い照れ隠しに早変わり。先輩のあのツンツンしている感じが私的に最高にツボだ。
入学してしばらくして、先輩の噂は聞いていた。
部員たったひとりの科学部に所属。部活の実験中に学校の一部を停電させたとか、ボヤ騒ぎを起こしたとかで、変人として知られた存在。白衣を年中着ているということで、噂と相まって悪目立ちしてきた。
私はそういう人間が嫌いではない。
この、空気を読んで生きましょう、という現代のルールを無視して自己を貫く精神性が好きだ。あるかどうかも分からない、誰が決めたかも分からない、曖昧で不安定なものを、心底大切にして生きているより、きっとずっと自由で素晴らしい。
だから、科学部を覗いてみた。
見学と称して、彼女と話してみた。
分かったのは、彼女はとても不安定な人間だということだ。彼女は現代のルールを無視して自己を貫く精神性を持ってはいたが、それを好んではいなかった。彼女は自分のことが好きではないのだ。
そういう人間は危うい。自己を認められない人間はやがて壊れてしまうのだ。得てしてそういう人間は自分の中に何もかも閉じ込めてしまうもので、それが間違いだと気がつかない。自分一人では解決できないこともあると、そんな当たり前なことに気がつかない。
気がついてしまった以上、そんな彼女を放っておくわけにもいくまい。
彼女には友人が二人いる様だが、片方は『病院送り』なんて噂されてるぼんやりした男。図書館で割と会うのだが話したことはない。物理実験室にも時折来るようだからそのうち会うこともあるだろう。
もう一人は爽やかなイケメン先輩だ。洗い立ての白いシャツみたいな男だ。イケメンの具現化みたいな男だ。そして、どうやらそんな人に彼女は恋心なんてものを抱いてしまっているらしい。それが彼女の綻びの原因なんだろうなって私は思っている。
つまりだ。
彼女の友人二人は『ぼんやり』と『原因』という感じで全く役に立ちそうになかったのである。断言できるが、あいつらは絶対彼女が爆発するまで行動しない。へたれ共だ。
そんな奴等には任せておけない、というわけで私は科学部に入部したのである。とはいえ、元々サボり癖がある私が毎日参加するわけもなく、週一以下しか参加しない幽霊部員状態となっていた。別に科学実験とか興味ないし、今は彼女も爆発しそうにないし、モチベーションがないのだから仕方がない。
たまに先輩とおしゃべりして、からかって、締め出されて、そんな感じで部活動しており、実験とかは全くやっていないのが現状であった。
話を戻そう。
私には友達がいない、という話だ。
クラスで孤立しているという話だ。
一緒にお昼ご飯を食べる人がいないという話だ。
「枯木さん、ID教えて」
入学初日、茶髪でいかにも強気そうな目をしたクラスメイトの女子にそう聞かれた。SNSのIDのことだろう。
ギャルっぽいと言うと些か古臭いイメージに受け取られてしまいそうだが、今までの人生、ずっとスクールカーストの一番上のグループにいたんだろうなって感じの女子生徒だ。確か名前は
で、その女子にそう聞かれた私はこう答える。
「ごめん、持ってないんだ」
「忘れちゃったの?」
彼女がストラップなんかがついちゃったり、耳みたいなのが出ちゃってるスマフォケースが特徴的なスマフォを片手に首を傾げた。
「そういうわけじゃなくて、そもそも持ってない」
「え!?親が厳しいとか!?」
「いや、別に」
「じゃあなんで!?」
「持つ理由がないからかな」
私は何か悪いことを言っただろうか。聞かれたことに正直に答えていただけだ。
が、この会話を機に、私はすっかり変人扱いだ。
香芝玲奈は私が抱いたイメージ通り、このクラスの女子の頂点の立ち位置となった。そんな彼女が私を変人扱いしているとなれば、誰も私には寄ってこない。
そして私も積極的にはクラスメイトと関わろうとはしていない。
香芝玲奈は自分の気に入らない人間を排他するタイプ。
私が話しかけたりして仲良くなって、友達、なんて呼べるような仲になれば、その娘は晴れて変人女子の仲間入りだ。
これが女子高生ルール。
これこそ、空気を読んで生きましょう、の最たるものかもしれない。
私は別に友達がいない、ということが悪いことだとは思っていないし、別に良いと思っている。
しかし、困ることもある。学校生活を送る上で、必ずある必須イベント。
二人一組を作りましょう、グループを作りましょう、的なものだ。
クラスの女子は18人。男子は20人。
つまり偶数なわけで、もしペアをつくるとなると余りはでないわけで。なんとなくグループ内での立場が弱くて、溢れてしまった女子が私と組むことになる。
この気まずさは、本当に酸素が無くなったかと思うくらい苦しい。
「……バックレてしまった」
今日の体育はテニスだった。間違いなくペアを組まされる。それも自由に、という余計な一言付きで、だ。出席番号順という迅速かつスムーズに決められるやり方があるのに、この学校の体育教師は生徒に組ませる方式を取る。
それを分かっていながら体育に参加するだろうか。いいや、しない。
私は体調不良(女の子特有のやつ)という切り札を使い保健室にて、惰眠を貪っていた。
保健室の先生は何やら授業中に骨折したやつがいたとかで、病院に付き添っている。私は誰もいない教室でお昼寝状態
そう、過去形である。
「枯木さん、大丈夫?」
今風のオシャレなショートボブ。まだ少し幼さを残した輪郭。ぱっちりと開いた大きな目。うっすらとメイクした頬はほんのり色付き、表情を柔らかいものにしている。
クラスメイトの古賀朋絵ちゃんだ。
「古賀さんの顔見たら元気になったよ」
「なして!?」
「冗談。サボりだから最初から元気だよ」
ちょっぴりお国の言葉が出ているが、バリ可愛いので指摘しない。指摘して赤面する顔をみたい気持ちはあるのだが、それはお楽しみに取っておく。
「もぉ、枯木さんキャラ変わりすぎ!冗談とか分かんないよ!」
「私はどういうキャラなんだ……」
「んー、孤高って感じ?」
「それただのぼっちじゃん」
「違うよ!休み時間もひとりで、お弁当もひとりで食べて、トイレもひとりでいく、普通なら恥ずかしくて教室にいられないようなことを堂々とやっているところが格好いいんだよ」
「酷い悪口を言われた!?」
天然って怖い。
私にグサグサと刺さってるぜ。
えー、休み時間ひとりで、お弁当もひとりで食べて、トイレもひとりでいってるけど、良く教室にいられるな、とまで思われているとは。
「で、そんな古賀さんはどうして保健室に?見たところ怪我もなさそうだけど」
一年生で入学したばかりだからか、少し袖の長いジャージが、あざと可愛いし、長袖のズボンは生足を隠してしまっているが、そのダボッとした感じが古賀さんの桃のようなお尻と相まって、妙にエロスを感じさせるレジェンドアーマーとなっている。
つまり、彼女は体育着を着ていて、まだ体育の授業時間中ということだ。
「玲奈ちゃんが足擦りむいちゃったから絆創膏取りにきたの」
自分で取りに行けよ、と私ならば言うだろう。可愛い女の子は大好きだし、愛しているし、甘やかす私であるが、あの手の人間は好きじゃない。
自分が一番と思っているのなら良いのだが、自分以外が下位だ、と思っていそうなところが嫌だ。
やはり愛でるなら朋絵ちゃんみたいな、純情な娘(決めつけ)に限る。
凄く頑張ってセットしているのであろう、髪をぐしゃぐしゃに撫でて怒られたいし、ぷくぷくの頬をツンツンしてうざがられたいし、褒めちぎって照れさせたい。
「古賀さん、頭撫でてもいいかな」
「なして!?」
「冗談、可愛い髪型だね」
「もおぅ、枯木さん、ずっと真顔だからやっぱり冗談か分かんないよ!」
ぴょんぴょん跳ねながら抗議してくるけど、このあざと可愛さはもうどうしようもないね。いちいち動作が可愛いからね。もうね、私がこの娘を守るっていう気持ちにさせられるね。一言で言うと、尊い。
そんな風に、私が心の中で朋絵
「あー!授業終わっちゃった!絆創膏持っていかないといけないのにぃ!」
どこぉー!と声をあげながら、ガチャガチャと色々な引き出しを開けていく朋絵たん。保健室は散々な状態になったが、これ絶対後で怒られると思うよ。
「あったぁー!じゃあ枯木さん私もういくね!お大事に……って元気なんだった!」
騒がしく私に声をかけて、大慌てで保健室を出ていく。後ろ姿もまたキュート。彼女の真骨頂はやはりその桃のようなお尻にあったらしい。1回でいいからかぶりつかせてもらえないだろうか。
私はそんなことを考えながら、保健室を見渡す。
そこには殺人現場よりもずっと酷く散らかった惨状が広がっていた。
「これ、やっぱり私が直すしかないか」
私は朋絵たんの生尻を想像しながら、次の授業をサボって、保健室を復活させた。
とりあえず一通り原作キャラと絡ませたので、次話から麻衣さん捕獲作戦本格始動です。