妄想メンヘラ女はバニーガール先輩の夢を見ない 作:強炭酸カボチャ
今回は勘を取り戻すために短め。
原作を読んでいないと混乱するお話かもしれませんが、その辺は後に色々説明したりしなかったりすると思います。
アルバイト開始五分前に滑り込んだ私は、更衣室を出たところに我が物顔で居座っている梓川先輩に首を傾げた。私と同じファミレスの制服を着て、いつもの詰まらなそうな顔でぬぼーっとしている。
「なんでいるんですか?」
「俺もここで働いているからだ」
まあ、国見先輩が働いていることだし、仲の良い梓川先輩がここでバイトをしていたとしても不思議ではない。
相変わらず、この顔を見ると、何故だか家に帰って来たみたいな安心感を感じるので、これから仕事だというタイミングに止めて欲しい。(理不尽)
「一応聞いとくけど、枯木、
「えっ、何かのクイズですか?」
「ああ、分からないならいいよ、そういうのじゃないから」
その言い方、滅茶苦茶気になるんですが?仕事中ずっと考えてしまいますが?
「お前は毎回毎回、違う行動してたから、もしかしてって思ったけど、素で刹那主義者だったんだな」
尊敬するような、けどどこか小馬鹿にするような先輩の言葉の意味は全く分からないが、なんとなくマウントを取られている気がしたので足首辺りをゲシゲシと軽く蹴っておく。
「双葉曰く、『良い言い方をすれば繊細、悪い言い方をすればメンヘラ、だから少しの変化、バタフライエフェクトで行動が大きく変わる』ってさ」
「それって悪口ですか?」
「いや、双葉の愛情表現」
「ツンデレが美味しい」
部長のツンデレは基本的にツンが強いので見極めが大切です。慣れてしまえばツンも愛情表現。そこに気がつくとは、梓川先輩、やるな!
「ところで枯木」
「なんです?」
「お前、もうすぐ遅刻だぞ」
やっぱりこの先輩も嫌いだ!
◆
梓川先輩のせいで到着しているのに遅刻するという間抜けな事になりそうだったが何とか滑り込み、私はお仕事を開始していた。
主な仕事は先日国見先輩に教えてもらった、片付けとセッティングの作業。合間合間に注文の取り方とか、レジのやり方を少しずつ教わったりして、出来る事が増えていって、楽しい。
表情が死んでいるので接客には向いていないかなと思っていたが、梓川先輩曰く、お前くらいの容姿なら早々何も言われない、とのこと。梓川先輩の戯言だから信じてないけれど、今のところはなんとかなっている。
そうして労働に勤しみ、いくらか客入りが落ち着いてくる時間。入店を知らせる電子音に反応して梓川先輩が対応しに行くと、そこには我らが部長がいた。制服姿ではあるが、白衣は着ておらず、店の入口にやってきた梓川先輩に嫌そうな顔を向けている。
「あれ?双葉、珍しいな。今日は国見いないぞ?」
「うるさいっ!客にはいらっしゃいませだろ」
梓川先輩のツンを引き出す技術だけは天才だと思う。照れながら強がるように怒っている部長は本当に可愛い。
「で、なんだってここに?普段来ないだろ」
「夕飯だよ、
「ふーん、まあ良いけど。
部長は不満げな顔だけど、私も知り合いで練習させてもらった方が気が楽だ。私の華麗なる注文テクを見せてあげよう。
「ご注文をお伺いしますっ」
どやっ!私ちゃんと仕事できてるだろ!と見せつけるように部長の顔を覗いてみたけどその表情は虚無。えぇ、もうちょっと興味持ってよぉ。
「紅葉のせいで私は桜島先輩にこの時間まで捕まってたんだけど?」
「…………もしかして麻衣さん、すごく怒ってます?」
今になって考えると、バイトに来る前に麻衣さんとすれ違った時、何か言おうとしていた麻衣さんをぶっち切って来たわけで。そもそも怒っていた麻衣さんにそんなことしようものなら、もう答えは出ていたが、女子会をしていただけという一縷の望みに賭けて、一応訊いてみる。
「一睨みで恐竜を殺せそうなくらいにはね」
現実は無情であった。恐竜って!?例えにしても強過ぎませんか!?
「激オコ所の騒ぎじゃないですよね、それ!?」
「たまごサンドのドリンクセット。ドリンクはホットコーヒー」
「ここで注文!?」
「注文を取りに来たんでしょ、店員さん」
「そうなんですけどね!今、私は一世一代のピンチを迎えているわけで!」
部長が正論ではあるけれど、この場合、私は悪くないと思うのです。誰だって恐竜を殺せそうなくらいキレてる相手がいたらビビるよね!?
「ほら、注文できたなら、向こう片付けてこい」
「うぐぐ」
梓川先輩に指摘されるのは悔しいが、今回ばかりはその通りだったので、大人しく引き下がり、ついさっきお客様が立ち去ったばかりのテーブルへ向かう。とりあえず、帰ったら土下座しよ。
そして、バイト終わりには、お気に入りのケーキ屋さんは閉まっちゃってるだろうから、コンビニで贅沢スイーツを大量買して献上する。食いしん坊な麻衣さんならそれで許してくれるはず!
私は麻衣さん懐柔作戦を考えながら通常業務へと戻った。麻衣さん許してぇ……。
「お前、本当面倒見良いのな」
「梓川もね」
トボトボと紅葉が立ち去るや否や、咲太は感心したように理央に言う。純粋な感心の言葉も素直には受け取れないのか、理央はそっぽを向いて言い返した。
理央が紅葉に用があるのだと悟って、自然に紅葉を理央の元に送った気遣いや、こうして理央と話している間も、紅葉の方へ注意を向けていて、何かあってもフォローできるように準備もしていることを考えると、咲太も十分、面倒見が良い部類だろう。
妹がいるからか、元来の性格か、そのどちらもか、咲太は年下のフォローが上手い。
「……いつまでもケンカされてても迷惑だから」
紅葉が麻衣をぶち切ったことで、科学部の活動は麻衣の愚痴・怒りを理央がひたすらに聞くという会になったわけだが、その前に紅葉からも同様の件で相談を受けていたため、理央はうんざりしていた。
愚痴や怒りの中に、隠し切れない惚気があり、そして、紅葉も麻衣も、適当に話を聞いていると機嫌を損ねるタイプという面倒くささ。
理央はやれやれとうんざりした気持ちを隠そうともしない表情であったが、その奥に、頼られていることの嬉しさ、友達と呼べる存在への親愛が感じられ、実際のところ、そう悪い気持ちではないのだろう、ということを咲太は見抜いていた。
ケンカが長引いたり、二人が決裂しないよう、こうして態々、紅葉のバイト先にまで現れ、謝るように促すくらいなのだから、咲太でなくとも、紅葉風で言うところのツンデレ的言動の本心には気がつけたかもしれないが。
「部長は大変だな」
「うるさい、早く仕事いけ」
「はいはい、お客様」
からかわれ、理央が辛辣な言葉をぶつけるも、気にした様子もなくヘラヘラしながら立ち去る咲太。
彼も彼で、理央に自分達以外の友人が出来たことを嬉しく思っていながら、それをおくびにも出さないのだから、二人は似たもの同士なのかもしれない。
「あ、そうだ双葉。サンキューな」
「は?何のこと?」
唐突な礼に、理央は不審そうな顔で聞き返すが。
「何度でもどんな日でも、お前は俺を助けてくれたってことだよ」
「益々意味が分からない。遂に頭がおかしくなった?」
咲太の回答は理央の疑問を解消するものではなく、新たな謎を増やすばかり。しかし、咲太はもう言いたいことを言い切ったのか、そのまま踵を返す。
「ま、何か困ったことあったら言えよ」
ごゆっくりどうぞ〜、と店員の固定台詞を覇気のない声で垂れ流しながら、今度こそ去っていく咲太。
「これだから青春ブタ野郎は……」
不満そうな言葉を呟きながらも、理央は特にその言葉の意味を問いただすことはなかった。
――ただ。
「……助けられてるのは私の方だよ」
誰にも聞こえないほど小さな声で、そう零したのだった。
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