妄想メンヘラ女はバニーガール先輩の夢を見ない   作:強炭酸カボチャ

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31話 砂糖まみれのロジカルウィッチ

 

仲直りしろ、と半ば命令とさえとれるくらい強く言ったのは確かに自分である。それ故に、後輩である紅葉も、先輩である麻衣も、部員として部室にやってきて、その仲の良さを見せつけられたところで、理央は砂糖のように甘い口の中に、苦味の強い安物のインスタントコーヒーをブラックで流し込むしかなかった。

 

「麻衣さん」

 

「紅葉」

 

紅葉はともかくとして麻衣までも、なんだかスイッチが入ったままぶっ壊れている様で、麻衣の膝の上に内向きで座った紅葉の頭を撫でながら名前を呼び合っている。二人の容姿が飛び切り良いため、写真集にすれば何万部も売れそうな光景ではあるが、それぞれの友人である理央にとっては、尊さなんてものよりも共感性羞恥的な恥ずかしさの方が圧倒的に強い。すぐにでもこの桃色空間から逃げ出したいところではあるが、この科学部の部室から部長である理央が逃げ出して屈するというのはどうにも許せない。絶賛絶望的な片思いをしている理央には毒過ぎるのだが、謎のプライドが彼女をここに縫い留めていた。

 

とはいえ、このまま無言でこの状況を静観しているのはキツ過ぎる。理央が止めぬ限り死ぬまでやっていそうな勢いなので、理央はしっかりとブラックコーヒーの苦味を噛み締めてから口を開く。

 

「…………仲直り出来たんだね」

 

「えへへ、謝ったら麻衣さんが許してくれました」

 

弾むような声で返した紅葉の様子を見るに、あっさりと許されたようだと推察した理央は麻衣に視線を向ける。

昨日、散々自身に不満をぶち撒けてキレ散らかしていた女王様はどうしてしまったのだと、その目には呆れと批難が7:3くらいで混じり合っていた。

 

「……ちょっと甘いんじゃないですか?」

 

「それは自覚してるけど……仕方ないじゃない」

 

自覚はあったのかバツが悪そうに答えた麻衣。

言い訳をするのなら、そもそもの発端は麻衣の嫉妬だったということ。

自分の知らぬところで知らない女と買い物に行って、お揃いの財布にした上そのことを自慢気に話されたのだから、それは全くもって正当なものであるのだが、相手は紅葉である。

頭が頗る良い反面、常識に疎く、斜め上な発想とそれを可能にしてしまう能力を持つという厄介さ。ただ、そこが魅力だと麻衣は知っているし、理解していながら嫉妬を抑えきれなかったのは本当に余裕がないと情けなくすらなってくる。無邪気な紅葉に強く当たり過ぎたのは完全に自分が悪かったと思っている。

 

とはいえ、ああして怒っていなければ紅葉は自身の問題発言も問題行動も反省することなく繰り返しただろうから後悔はしていなかった。ここで下手に我慢して、延々とそんなことを繰り返されては堪ったものではない。

麻衣も今回ばかりは簡単に許す気は無かったのであるが、無表情ながら、潤んだ瞳と寂し気な声で謝罪されれば、それに否と答えることなど出来ようはずもなく。二人は紅葉がアホみたいに買ってきたスイーツを食べて、一緒のベッドで眠りについた。一度喧嘩をしたことで二人の距離感や周囲への配慮がぶっ壊れており、どうにか部室までは我慢したものの、ここに来てその我慢した分まで爆発しているというわけだ。理央にとってはいい迷惑でしかない。

 

「部長、良かったらこれどれでも好きなの食べちゃってください」

 

コアラのように麻衣に引っ付いたまま、紅葉が指したのはパンパンに膨らんだコンビニのビニール袋。中からは話題のコンビニスイーツが溢れている。

 

「紅葉が買い占める勢いで買ってきてたのよ。昨日も食べたのだけど、とても食べ切れなくて」

 

「私は麻衣さんがあーんしてくれればいくらでも食べられますよ!」

 

「紅葉は食べ過ぎ。夜中でもなんでもカロリーを気にしないんだから」

 

今は紅葉もハイになっているから平然と甘えているが、後で素になったとき、死ぬほど恥ずかしがるだろうなと、しらーっとした目を向けつつ、理央は無言でコーヒーゼリーを手にした。こんな吐くほど砂糖まみれの空間でさらに甘いものを食べるなんて自殺行為はしたくない。

 

「美味しいものをいっぱい食べたら幸せなんですから何も気にしなくていいのに」

 

「……なんでこれでスタイルが良いのか不思議よね」

 

国民的知名度を誇る現役女優が恨めしそうな目でスタイルが良いと称すのだから相当である。実際、理央の目から見て紅葉の外見は、身近に桜島麻衣がいたとしても見劣りしないくらいには整っている。その上、体に染み込んでいるのか、姿勢良く、所作も上品で、黙っていれば誰もが憧れる完璧美少女なのだ。愉快な頭の中は外見に現れないのが幸いである。

 

「明日から一週間、ドラマの撮影で鹿児島に行かないといけないのに、こんなので大丈夫なのかしら」

 

「だから、寂しくならないように充電中ですっ。たっぷり甘やかすことをオススメします」

 

「もう十分甘やかしてるでしょ」

 

グデグデに甘やかされてご満悦な紅葉を眺めながら、コーヒーゼリーを口にするものの思ったほどの苦味はない。

 

「充電どころが逆効果な気もするけどね」

 

理央の呟きは未来予知の如く、正確に当たることになる。しかし、その被害の大半がどこへ押し寄せてくるのかまでは、このロジカルウィッチも考えてはいなかった。

 

 

 

 

 

麻衣さんが鹿児島へ撮影に行ってから2日。私はあまりの寂しさと孤独感から完全にヘラっていた。かえちゃんに長文で麻衣さんへの愛を書き綴った結果、返ってきたのが『りょ』の一言だったことから、もう私の構って欲しい欲は限界まで高まっている。

 

なのに部長は可愛い後輩が抱きつこうとしても、心底嫌そうな顔で拒否してくる。人肌恋しいお年頃なのに無情過ぎる。かくなる上は師匠に抱きつかせてもらおうと思ったのだけど、そんなことをして国見先輩にチクられでもしたら私は恥ずかしすぎてバイトにいけなくなってしまう。泣く泣く諦めるしかなかった。

 

そんなわけで、かえちゃんにも、部長にも、師匠にも甘えることが出来ずに完全メンヘラモードへと移行した私は、最早趣味に走ることにした。

 

つまり!私がデビュー当時から推しているアイドルグループのライブへ参戦するのだ!

 

「それで、なんで私がついていかなきゃいかないわけ?」

 

「一人じゃ電車乗れないですし」

 

タクシーで行くって手もあるのだけど、それだと長いこと運転手さんと二人きりになってしまって気まずいので、なるべく使いたくはない。それに電車で移動ってワクワクして楽しそうだ!私は殆ど江ノ電しか乗ったことないから、いつか乗ってみたかったんだよね。

 

「チケットとか電車代とか、かかる費用は全部私持ち!」

 

「行かなければ掛らない費用だよね」

 

どやって言ったのに冷静な顔で流されるっ!部室で説得することかれこれ二十分。部長は全く行く気になってくれず、淡々と科学部の本業である実験のレポートを書いている。ロジカルウィッチとでも呼べそうな理論武装最強の部長をこれ以上動かすことは出来そうにないので、私はもう拗ねることにした!

 

「いいですよもうっ。師匠にお願いしますし?滅茶苦茶お願いすればたぶん何とかなりますし?」

 

実際は素気なく断られそうな気もするのだけど、何だかんだ師匠は優しいので押せばいける気がするっ!

 

「…………師匠って」

 

「勿論、私の目指すオシャレJK番長、上里沙希師匠のことですよっ!」

 

「へぇ」

 

流行りの髪型、程よい化粧、着崩した制服、高いコミュニケーション能力!私に持っていないオシャレセンスを全て持っている最強JKなのだから師匠としてこれ以上ない人なのである。私が目指すべき師匠についてその凄さを語ると、部長が不機嫌そうなオーラをバリバリに出してきた。えっ?もしかして部長、怒ってる?

 

 

「……私よりそっちの方を頼りにするんだ」

 

小さな声なのに、それは先日、麻衣さんを怒らせたときのような威圧感を伴っていた。

あれ?あれっ?もしかして私、やらかしたっ!?

 

「いやいや!部長のことは凄く頼りにしてますよ!我らが科学部の部長なんですからそれはもう!」

 

冷や汗がだらだらと流れるのを感じながら、必死に脳を絞って言い訳をする。何がいけなかったのか分からないから取り敢えず褒めるっ!

 

「……行く」

 

「えっ?」

 

あまりに小さな声だったのと、その呟きの意味が瞬時には理解できなくて聞き返してしまう。すると。

 

「行くって言ったの」

 

今度は強い口調でそう言い切ると、それっきり再びレポートへと集中してしまう部長。この『行く』というのは会話の流れ的に、私と一緒にライブへ行ってくれるということなわけで、それは間違いなく望んでいた通りの結果、喜ぶべきことなんだけど素直に喜べない。

だってムスッとした空気はそのままなのに、どうしてかさっきまでとは真逆の事を言い出したんだよ?いつも論理的で理性的な部長が、これまでの発言を全て覆すような、式も全部飛ばして答えを出したような、そんな不可解な反応なわけで。

最近、麻衣さんを怒らせてしまって以来、私は気遣いが出来るガールとなるべく意識している。アルバイトの経験もあって中々成長したと思う。それ故に私は部長の口から言わせるまでもなく、この不可解な反応の原因を突き止められたので、部長が正直に言い出しやすいように配慮した言葉を投げかけた。

 

「部長、生理なら無理に付き合ってくれなくても大丈夫ですよ?」

 

「出てけ、このばか!」

 

 

滅茶苦茶怒られた。





時系列が原作と若干違うのは仕様ですのでそういう世界線ということで。


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