妄想メンヘラ女はバニーガール先輩の夢を見ない   作:強炭酸カボチャ

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ちょっといつもより長いです。


7話 紅葉(こうよう)の時間

「あー!なんでシャワー浴びてきてるんですかっ!遅いと思ったらしょうもないことを!」

 

部屋に戻ってきた麻衣さんは大きめのTシャツに、短パンのラフな格好で、やや頬を上気させていた。

部屋着なのだろうがファッションに明るくない私でもオシャレだと分かるそれは、果たして『桜島麻衣』だからこそそう見えるのか、そもそもオシャレアイテムなのか、恐らく『どちらも』というのが正解なのだろうが、玄関を開けて、この姿の女の子が立っていたら、今夜は寝かせないぜ、と彼氏は思うこと間違いなしだろう。

 

あえて言おう。今夜は寝かせないぜ。

 

と、そんな彼氏面するより今は重要なことがある。麻衣さんの頬が上気していることからも分かる通り、なんと彼女はお風呂に入ってから来たのである。なんだよぉ、それぇ!

 

「な、何よ」

 

「一緒に入ろうと思ってたのに!きゃっきゃうふふしたかったのに!」

 

「お風呂入ってきて正解だったわ」

 

うう、密かにお気に入りの下着を準備して、あざと可愛いきぐるみパジャマを用意していたというのに。

 

「貴女、無表情でも悔しがっているのが分かるって器用ね。女優出来るわよ」

 

「私、一生働く気ないので大丈夫です」

 

うわぁ、と心底引いたとばかりに声を上げて、ゴミを見るような目で私を見下ろす麻衣さん。

 

「一緒にお風呂入りましょうよー」

 

「嫌よ、髪も乾かしたし、それに何されるか分からないもの」

 

拝み倒せばいけるかなと思ったけど取り付く島も無かった。

 

「アイスあげますよ?こだわりのバニラですよ?」

 

「……ねぇ、もしかして私を食いしん坊だと思っていないかしら?」

 

食べ物で釣ろうとすると、じとっと睨まれる。

 

「アイスいらないんですか?」

 

「……今度入ってあげる」

 

それ、今一緒に入るより嬉しいです。だってまた次があるってことだからね!ちょっぴり恥ずかしげな麻衣さんが顔を背けるので、私はその頬をつんつんしたい衝動をぐっと堪えるのが大変だった。

今後も困ったら食べ物で釣ることにしよう。

 

約束は取り付けたので、アイスは私が出てから一緒に食べることにして私は一人でお風呂に入った。今日の深夜アニメが始まるまで、後20分ある。女子力を置き去りにした私ならば十分に間に合う時間だ。

 

「なんで髪乾かしてないのよ」

 

「自然乾燥派なんですよ」

 

流石の女子力をどこかへ忘れてきてしまった私でも、ビシャビシャのままではリビングに行かない。バスタオルで拭き取ってから来ている。アニメ開始まで後3分、ベストタイミングだ。

 

「乾かしてあげるからちょっとこっち来なさい」

 

「アニメが始まっちゃうので」

 

「別にドライヤーやりながらでも見れるでしょ、ほら」

 

テレビの前を断固として動くつもりは無かったのだが、麻衣さんに引っ張られ、仕方なく少し移動する。テレビの音量を上げて、ドライヤーに負けない準備も同時に行った。

 

「そんな雑にして、なんでこんなに綺麗なのかしら」

 

「私の髪は強い子なので」

 

ソファに座った麻衣さんの正面に、私は足を伸ばして座る。麻衣さんの両足の間に背を預ける感じだ。そのまま足で挟んで欲しい。

 

「貴女、顔は良いのに残念よね」

 

「麻衣さん、それ一番傷つくやつ」

 

これは両親に感謝するべきなんだろうけど、私は少しばかり容姿に恵まれているらしい。らしい、というのは、私は私の容姿に無頓着なので、あくまで客観的意見としての捉え方だからだ。

髪も一度も染めたことはなく、近いというだけで通っている店でお任せカットして出来上がっている量産型ヘアースタイル。肩よりやや長めの位置で切り揃えられており、可もなく不可もなくのアレンジ次第な髪型だ。私の女子力ではそんなこと出来ないのだけど。

 

「スタイルも良いし」

 

何も考えずに食べたいものを食べたいだけ食べているのだが、芸能活動をしていて美男美女、モデルや俳優を見慣れているであろう麻衣さんからそう言われるとは。

食べ過ぎたことを気にしていたし、いくら食べても体型変わらないとか口にするのは止めた方が良いだろう。なんだか今日(いち)の睨みをされる気がする。

今日も今からケーキを爆食いする予定なのだけど。

 

「貴女ってやっぱり本当に残念よね」

 

「それで締めくくるの止めてくれませんか」

 

そう締めくくると、今までのポジティブな情報全否定になるから。私、結局残念な娘ってことで完結しちゃってるから。

美少女でスタイル抜群、それで良いじゃないですか。

 

「麻衣さん、貴女っていうのも他人行儀なので紅葉って名前で呼んでくださいよ。あだ名や愛称でも可です」

 

麻衣さんは暫し考え――

 

「残念美人」

 

「これほど、不名誉な名誉も珍しいですねっ」

 

美人だけなら称賛なのに、残念が付くだけで、どうしてこうも感じ方が変わるのか。美人なのは否定されていないのに、だからこそそれより酷い弱点がありますよ、と言われているようなものなので、容姿が整っている程不名誉な称号となる。ただ、それはあだ名とか愛称って括りでは絶対ない。

 

「じゃあ、紅葉で良いでしょ」

 

「紅葉たん、ではなく?」

 

「貴女それで良いの?」

 

「……ごめんなさい」

 

「人にやられて嫌なことはしないように」

 

「……はい」

 

私に『たん』とか吐き気がした。うん、やっぱり朋絵たんみたいな純情・天然・ふわふわの美少女にしか使っちゃいけない。おこがましいことを考えてしまい誠に申し訳ございませんでした。私に『たん』は千年早かったです。

 

「紅葉って本好きなの?」

 

ある程度乾いた髪を櫛で梳かしながら何気なく麻衣さんが言う。

早速名前で呼んでくれるとか、惚れてまうやろーっ!自然とそういうことしてくるのは本当にイケメン過ぎるっ。

 

「好きですよ。私、意外にも文学少女なので」

 

真新しい本棚は全く埋まってはいないが無駄に大きいだけで、本はざっと100冊くらいは入っているのではないだろうか。整理整頓されていないため、ジャンルも滅茶苦茶で、逆さまに入っている本すらある。麻衣さんはそういうのが気になるタイプなのか、視線が本棚に行ったようだ。

 

「全体的に統一感がないのに、えっと、由比ヶ浜かんなさん、かしら?この人の本は綺麗に揃っているのね」

 

本棚のスペースに対して本の数が少ないため、本が斜めになっていたり、横にして積んであったりする中、本棚の一角で『由比ヶ浜かんな』の本だけはしっかりまとまって並んでいた。背表紙がカラフルなパステルカラーになっていて、クレヨンのようで可愛らしい。

 

「その隣の本とか最近映画化も発表されましたし、おすすめですよ」

 

最近人気になってきた売り出し中の女優が主演ということで、話題沸騰中の小説だ。これさえあればぼっちでも話の種になるかも!と思ったけど、その種に水をやる人、つまり話しかけてきてくれる人もいなかったので意味はなかった。悲しい過去である。小説が面白かったのが唯一の救いだ。

 

「読んだことあるわ。映画化するのも知ってる」

 

麻衣さんが少し不機嫌になる。

あー、確かこの女優さん麻衣さんと同い年だし、自分が演じたかった的な想いがあるのだろうか。最近街中で、この映画の広告が良く目に入るけど、話題性を重視したのか、あまり作品の雰囲気に女優さんが合っていない気もする。そこをどうにか演技で覆すのが女優の腕の見せ所なのだろうけど。

そういえば、麻衣さんが現役で女優をやっていた頃は、あまりテレビも見てなかったし、『桜島麻衣』の演技というのはまともに見たことがない。

私は等身大の『桜島麻衣』、こうしてそこにいる麻衣さんしか知らないのだ。

 

「麻衣さんって面倒見良いですよね」

 

「何よ、急に」

 

女優関連の話は麻衣さんの地雷を踏みそうなので避けようと話を変えたのだが、麻衣さんが照れた様な表情を見せたため、この方向で話を進めることにした。

 

「世話焼きというか、お姉ちゃん気質というか」

 

どんなに下らない話でもきちんと返してくれるし、意外に押しに弱いし、こんな風に、私がまともに髪を乾かしていないことに気がついて、髪を乾かしてくれる。これで世話焼きでないならなんだと言うのか。

 

「その、無表情で口許だけニヤニヤするの止めなさい!」

 

自分の髪を弄りながらそっぽを向いて言うのが可愛すぎる。ちょっと自覚があるんだろうなって感じさせるところとか私を最高に萌えさせるのだ。何年か前にはこれをテレビをつければ見られただなんて、あの頃の私は何をやってたんだ!テレビなんて殆ど観てなかったのが悔しくて仕方がない。

 

「絶対、妹さんとも仲良くなれますよ」

 

「そうだといいわね」

 

そっぽを向いたまま素っ気なく言ったけれど、それが麻衣さんの本音であることは疑いようもなかった。

私が妹になりたい。

 

 

 

 

もう時刻は深夜1時。深夜アニメリアルタイム視聴派の私は、もう寝ようとする麻衣さんをしっかり横に座らせて、アイスを食べながら視聴。ケーキにも手を伸ばしたものの、鬼の形相の麻衣さんに止められた。なんでもこの時間にアイスを食べているだけで犯罪級らしい。えっ、じゃあ毎日、その他にポテチ食べたりケーキ食べたりしている私って相当ヤバイのだろうか。

生活習慣を見直す時が来たのかもしれない。

 

と、そんな絶対直すわけないことを考えても仕方がない。今は目の前の問題に集中するべきだ。

 

「麻衣さん、この家にベッドは一つしかありません。よって我々は同じベッドで寝ます。右側と左側どっちが良いですか?」

 

「紅葉は床で寝なさい」

 

「家主なのに!?」

 

「だって私は床で寝たくないもの」

 

「それ故に一緒に寝ましょうって話だったんですよ!?床に私を放り投げようとしたの麻衣さんなんですよ!」

 

眠たげな麻衣さん可愛いけど、言ってることが鬼過ぎるっ。自分の家に人が泊まりに来てて、折角大きなベッドがあるのに、床で寝るって、それは流石にレベルが高過ぎて私でも躊躇うよ!

 

「じゃあ私右側で寝るから」

 

「自由気まま!私のツッコミ全スルーしてベッドに入らないで下さいよ!一人でごちゃごちゃ言ってて恥ずかしいじゃないですか!」

 

「おやすみ」

 

「麻衣さぁーん!」

 

眠さが限界なのか、私がうざいのか、麻衣さんは私の言葉に何の反応も示さずにさっさとベッドに入ってしまう。止めて、そんなに冷たくされると、変なスイッチが入ってしまう。

私は寂しい気持ちになりながらも、麻衣さんの反対側からベッドに入った。

 

「紅葉」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「狭い」

 

私は麻衣さんの肩にピタリと肩をくっつけるようにして寝ていた。私の左側にはまだ人1人分が余裕で寝れるくらいのスペースがある。家具選びをしている時、妄想が膨らみ過ぎて、ついつい大きなベッドを買ってしまったが、いざこういう状況になった時、小さいベッドの方が得出来るのだと、悟った。大発見である。

 

「まだ向こういけるでしょっ」

 

言いながら手で押してくるが、別に離れた分だけ近づけば良いので意味はない。麻衣さんは諦めたのか、もうっ、と可愛らしく言いながら体を捻って反対を向いてしまった。拗ね麻衣さんが可愛い過ぎてツラい。

 

そうして薄暗い部屋に静寂が訪れる。

カチカチという時計の音と、何かの小さな機械音。寝息は聞こえない。麻衣さんもまだ眠ってはいないようだ。

 

「ねえ、紅葉。どうして私を助けてくれたの?」

 

反対を向いたまま、麻衣さんが言う。

 

「可愛い先輩にお近づきになりたかったからっていうのはどうでしょう」

 

「ふ~ん」

 

麻衣さんが納得したような声を発した――瞬間。隣でバッと素早く麻衣さんが動いたかと思うと、目の前に麻衣さんの顔があった。

 

「ま、麻衣さん!耳!耳!いたっ、取れちゃいます!」

 

耳を引っ張られ、くるっと無理矢理回転させられた私は、額がくっつく程接近して、麻衣さんと向かい合わせになっていた。

麻衣さんは美しく整った顔立ちの肌のきめ細かささえ分かるようなそんな距離で、私の目をじっと見つめている。

例えようもなく美しい、間違いなく私の生涯で一番美しい目の前の黒い瞳は、私を捉えて離さない。

 

降参するしかなかった。

 

「……初めて麻衣さんと会った時から、あっこの人昔の私(・・・)と同じなんだなって思ったんですよね」

 

「同じ?」

 

「生きているのに死んでる人だなぁって」

 

生きているのに死んでいる。

この意味を言葉で完全に表現するのは難しい。例えようもないもどかしい感覚こそが、この言葉を表現できる全てだからだ。無気力とはまた違う、正に、人生を浪費している、というような、そんな感じ。

 

「やりたいこと、あるんじゃないですか?」

 

麻衣さんは何も言わない。私は問の答えを待たずに話を進めた。

 

「丁度、二年前くらいですかね、ちょっと私も色々溜め込んで爆発しちゃった時期がありまして、それはもう酷かったですよ。自分のスマフォを父のゴルフクラブでメタメタにして、そのまま勢いで家中滅茶苦茶破壊して」

 

そうなった理由を、私は語らなかった。麻衣さんも聞こうとしない。きっとそれは、麻衣さんがやりたいことや、なぜそれをやらないのかを語らないのと同じだろう。誰かに知って欲しいわけでもない、知られたい話でもない。だから私は意図的にその部分を省いた。

 

「結果、こうして島流し的に一人暮らしです。お金があるのを良いことに父がこの部屋を買ってこうして放り込まれました」

 

一人暮らしをするには不相応な部屋だし、高校行くだけならアパートでも良かったのに、こうしてマンションを与えたというのは、もう帰ってくるなというアピールなのかもしれない。悲しいとは思わない。そう思えない。その事実こそが悲しかった。私に家族なんていなかったのだと気づかされたから。

 

「……さっき昔の私って言ったわよね?そんなことがあったのに、どうしてそう思えるの?」

 

「――今が一番幸せだからですね。何か解放されたというか、『あ~生きてる』って感じるんです」

 

美味しい朝食を食べる。幸せだ。

寝坊したけど気にせず昼から学校へ行く。幸せだ。

授業中、窓際特有の日溜まりの中でのお昼寝。幸せだ。

美味しいケーキ屋さんを見つけた。幸せだ。

深夜アニメをリアルタイムで視聴する。幸せだ。

――バニーガールな先輩が隣で眠っている。幸せだ。

 

好きなことやって、自由に生きる。それだけで、人生は楽しい。こんなにも楽しい。

 

「麻衣さん、私が見てますから」

 

図書館に現れたバニーガールな先輩。

調査のためにそんな格好で徘徊していたなんて、きっと建前だ。表面上の理由でしかない。本当は誰かに見つけて欲しかったんだ。叫んでいたのだ。

 

『桜島麻衣』はここにいると。

 

ならば、私はただ見つけてあげればいい。どこにいたってどうなったって、私は麻衣さんを見つける。

 

「それは……凄く安心するわね」

 

麻衣さんはそのまま私の手を握って目を瞑った。麻衣さんの手は少し冷たくて、少し、震えていた。私もぎゅっと握って目を瞑る。繋いだ手の震えはもう止まっていた。隣から穏やかな麻衣さんの寝息が聞こえ始める。もしかすると、ここ最近、不安や恐怖であまり眠れていなかったのかもしれない。

 

「……起こしちゃったらごめんなさい」

 

麻衣さんに言っていないことがあった。

麻衣さんのことを私と同じだと思ったのにはもう1つ理由があって。そのことはどうせ後でバレることなのに言い出せなくて。

 

麻衣さん、私が見てるから、どこにいてもなにがあっても探し出すから、だから――麻衣さんも私を見つけて欲しい、だなんて、そんなこと言えなくて。

 

結局私もまた、踏み出せずにいるのだろう。あの『暗くて狭い部屋』に囚われているのだろう。笑顔と一緒に、今までの何もかもを捨て去ってきた、あの部屋に。

 

「麻衣さん、優しくしてあげて――彼女は私の唯一の友達なんだ」

 

私に幸せを教えてくれた恩人。

ここまで私が楽しく暮らせているのは彼女がいてくれるから。私を支えてくれている大切な親友。

 

私は麻衣さんの手を強く握ったまま、沈んでいく意識に逆らわず、そのまま眠りに落ちていく。

 

そうして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お姉さん誰ですか!?なんで私と一緒に!?」

 

桜島麻衣が、体を揺すられ、まだはっきりしない意識で目を開けるとそこには赤があった。正確には、燃えるように鮮やかな真っ赤な髪だ。

それは昨日まで黒かったはずだ。真っ黒で艶やかなその髪は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……貴女、誰?」

 

紅葉、とは呼ばない。彼女は絶対に紅葉ではない。その芸能人顔負けに整った容姿が全く同じでも、繋がれた手がそのままでも、その真っ赤に染まった髪のように、何かが決定的に違う。

 

麻衣から見て彼女は――全くの別人だった。

 

「わ、私は――」

 

彼女も状況が分かっていないのか、()()()()()()()()()()()()言った。

 

「私はっ、花楓(かえで)です」

 

麻衣は思った。

どうやら野生の迷子が現れたようだ、と。

 




一体どこの花楓さんなんだ(棒)
紅葉という名前が伏線として安直すぎた感はありますが、これが大きな伏線でした。
これ関連の他の小さな伏線も回収しつつ、次話で発展させていくのでお楽しみに!
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