八雪はアッタカイナリ   作:うーど

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この話、前回と前々回のメガネと会談の文字数足しても此方のほうが多いのですよね...。


戸部とモテタニくん2

「あれ、戸部?...それにヒキオに雪ノ下さんまで。なにこれ、どういう集まり?」

 

 声がしたほうを見ると、そこには金髪縦ロールが特徴な三浦優美子が立っていた。

 三浦は席案内をしていたであろう店員に「ここでいいです」と一言告げると、戸部の足を軽く蹴って席を詰めさせ、戸部の横に座った。ますますなんだこの集まり。

 

「あんれー?優美子?やべっ、超奇遇!ってか優美子がサ〇ゼとか珍しくねー?」

 

 そんな軽い調子で戸部が言うと、三浦はピクッと一瞬肩を震わせる。...ってか戸部、お前軽くとはいえ蹴られてたぞ。そこはスルーなのか。普段から蹴られ慣れてんのか...。戸部の苦労を垣間見た瞬間であった。

 

「ヒキオがっ!」

「...は!?俺!?」

「ヒキオが教室で戸塚と一緒に延々とサ〇ゼの魅力について語るからっ...!」

 

 そういや週末は部室内だけでなく教室でも戸塚とサ〇ゼリヤの話してたわ...。あーしさん聞いてたのか...。

 

「ヒキタニくん、サ〇ゼの売上貢献しすぎっしょ!」

「あら、三浦さん。ここに一人で来たのかしら?」

 

 おっと?雪ノ下が自分のことは棚上げして超いい笑顔で三浦を煽りだしたぞ。

 そしてその煽りにまんまと三浦は引っかかり、雪ノ下をキッと睨みつける。大丈夫だよあーしさん。今あんたが睨みつけてる相手も一人で来たから。何なら俺はいつも一人で来てる。

 

「別にファミレスだからって一人で来てはいけない決まりなんてないし!...それに結衣と海老名を誘ってみたら二人とも今日は忙しいっていうし...」

 

 語尾がどんどんと小さくなっていく三浦。うーん、これに似たセリフちょっと前に聞いたな。由比ヶ浜が人気すぎる。

 

「三浦の言うとおりだ。別にファミレスは一人で来てもいいんだ。俺もサ〇ゼリヤには一人でよく来るし、まあ、ほら、食べに来たんだろ?戸部の奢りだから遠慮なく注文しな」

「お?まじ?戸部、あんた太っ腹じゃん」

「え、ちょ、え?あ...あんれー?」

 

 三浦はベルを鳴らして店員を呼んだ。そして雪ノ下はチラッとこちらを見てきた。

 

「...なんだよ?」

「いえ、特には。強いて言えば貴方が話せる話題はサ〇ゼリヤぐらいしかないのかしら?と思っているぐらいよ」

「めっちゃ特にあるんじゃねえか。ばっか、ばかお前、サ〇ゼリヤの他にもト〇ザらスについても語れるわ」

「それを語られても困るのだけれど?」

「お?ト〇ザらスを愚弄したな?何なら飯食ったら行くか?ト〇ザらス。一瞬で虜にしてやるぞ」

「どうして私が貴方とト〇ザらスに行かないといけないのかしら?行くなら一人で行ってなさい」

 

 こんな感じに雪ノ下と口論を繰り広げていると、三浦は既に注文を済ませていたようで、俺等の口論を聞いていたようだ。三浦はそんな俺達のやり取りをまじまじと見て、ンー...と軽く唸り声をあげた後に、戸部のほうへと視線を向ける。

 

「戸部ー、ヒキオと雪ノ下さんってさ、やっぱ付き合ってんの?」

 

 そんな三浦の言葉に俺も雪ノ下もピタッと会話が止まる。

 

「え、ヒキタニくんと雪ノ下さんが?流石にそれはないっしょー」

「そお?あーしとしては結構お似合いって思うけど。ほら、雪ノ下さんとこうも言い争えるのってヒキオぐらいだし?」

 

 戸部、俺が雪ノ下や由比ヶ浜を侍らしているっていう話は信じて、付き合っているってことには否定を唱えるのかよ。俺のこと何だと思ってんだよ。ってか三浦よ、なに末恐ろしいこと言ってんだ。んなこと言ったら雪ノ下が...。雪ノ下、そこで黙って顔赤くするのって反則だろ...。

 

 

 三浦が注文した料理も届いて、しばし食事をしていると。

 

「つーか、普通に流されたけどあーしの質問にも答えろし。これ何の集まり?」

 

 三浦がここにきて最初に言った疑問を覚えていたらしく、再度それについて訊いてきた。

 だが、この集まりが何なのか、馬鹿正直に答えるのはまずい。とりあえず俺が適当にでっちあげようとしたのだが。

 

「ん?あーそれは...」

「あー悪い悪い、完璧にわすれてたわー」

 

 戸部が俺の言葉にかぶせてきた。まずい、戸部にこたえさせるのはまずい。

 

「お、おい、戸部。俺が...」

「いやー、ヒキタニくんがモテるってもっぱら噂だったもんで、そのモテる秘訣を教えてもらおうって思った訳よー。まあモテる話はガセだったんだけどー...。雪ノ下さんはヒキタニくんと話している時に一人で来て、まあ一緒にご飯食べてるって感じだべ」

 

 俺の努力も空しく、戸部が全部説明してしまった。ついでに雪ノ下が一人で来たってとこまでも説明してしまった。

 

 そんな戸部の説明を聞いて三浦がジロリと雪ノ下のほうを睨む。

 

「ちょっと、あんたも一人で来てんじゃん」

「...別に私は一人で来ていないなんて一言も言ってないわ」

 

 雪ノ下はフイッと顔を横に向け、三浦と視線を合わせないようにしている。おまえ今すっげえ見苦しいぞ...。

 そんな雪ノ下の態度に三浦はハァとため息をはいた後、視線を雪ノ下から戸部へと移す。

 

「で、戸部。そのモテがどーのこーのの話って海老名のことまだ諦めてないってこと?」

 

 三浦がそういうと、リアクション芸人ばりに肩をびくつかせる戸部。そしてしきりに自分の襟足を引っ張りだし、視線はあちこちと泳がせている。戸部、今のお前の表情めっちゃ気持ち悪いぞ。

 

「ん...んー、まあそんなとこ?」

「はぁ、やっぱり」

 

 戸部の回答に三浦はもう一度ため息をはいた。まずい、案の定三浦にバレた。三浦は訳あって海老名さんが言い寄られることを快く思っていない。また、修学旅行の海老名さんへ告白大作戦の顛末を聞いた時もかなりの難色を示していたらしい。

 

「あんさー、今からキツいこと言うけどさー。戸部、あんた全体的に軽いんだよ。本気とか口では言ってるけどあーしからしてみればまったく本気には思えないわけ」

 

 うっわ、ほんとキッツ...。三浦のキツい言葉に戸部は一瞬でしゅんとなり、俺もたじろいだ。雪ノ下だけは平常運転で優雅にパスタを口に運んでいる。めちゃくちゃ食べ方綺麗だなー。一瞬ここが高級イタリアン料理店に見えたわ。

 だが、修学旅行での告白時の戸部は俺から見れば本気に思えた。現に今でも海老名さんのことを思っているわけだし。

 

「で、でも優美子、俺は本当に本気で...」

「ヒキオがモテないって話はガセとか言ってたけどさ」

 

 戸部がたじたじになりながらも小さく反論しようとしたが、その言葉に三浦が重ねてきた。ってか何で急に俺の話?

 

「あーしとしてはそれ本当だと思う。ただ皆がヒキオを知らないだけ。これは結衣から聞いた話なんだけど、入学式の日にさヒキオって事故にあったんだけど、それの原因が見ず知らずの人の飼い犬が車に轢かれそうになっている所を自らを犠牲にしてまで助けたっていうらしいじゃん。自己犠牲が美しいとは言わないけど、いざという時に危険を顧みず行動できるってやっぱカッコいいよ」

 

 三浦が話しだした内容がまさかの入学式の日に俺が事故に合った内容でマジでびっくりしてる。由比ヶ浜、なに話してんだ...。しかも三浦からカッコいいとか言われる日が来るとは...2度びっくりしてる。

 戸部は戸部で「まじで!?」みたいな顔をこっちに向けてくる。

 そして実はこの事故の関係者でもある雪ノ下は流石にこの話は反応せざるをえず、食べている手をとめ俯いてしまった。ってかなに俯いてんだよ、この話は俺とお前の間で既に終わったことだろ...。

 

「それで戸部、あんたは海老名のためにこんぐらいのことやってのけれるわけ?」

 

 そこで戸部は言葉を詰まらせる。いや重いよ!?高校生の恋愛なんてもっとフワッとしたもんで良くね?街で見かけるウェイウェイ言ってるカップルとかまじでフワッフワじゃん。コットン100%かよ。

 

「悪いけど中途半端に海老名に言い寄られても海老名もあーしもめっちゃ迷惑なんだよ。だからその程度ならもう諦め...」

 

 三浦の止まらない口撃に戸部の表情が締まる。そしてまだ三浦が話している途中にも関わらず、その口を開いた。

 

 

 

「俺は本気だ!!!!」

 

 

 

 そして戸部の怒声がこもった声が響いた。先ほどの気づかれないような小さな反論とは違い、三浦の目を真っすぐと見つめながらの大きな反論となった。急な大きな声に俺も雪ノ下も肩をびくつかせ、雪ノ下は俺のほうを見ながらワタワタし始める。

 そして三浦はいきなりの戸部の反論に呆けていると、ほんの一瞬だけ笑ったような気がした。その笑みに気づいたのはどうやら俺ぐらいのようだが。そしてすぐさままた戸部を睨みつける表情をつくる。

 

「で、何がどう本気なわけ?」

 

 そんな三浦の問いに、戸部は先ほどの大きな声とは違い若干小さな声でぽつぽつと話しだした。

 

「そりゃあまあ、修学旅行の時の俺はどこか焦っていたっつーか、俺だけ突っ走った感はあったさ。そのせいで海老名さんにもそして奉仕部の皆...特にヒキタニくんには多大に迷惑かけたって反省してる」

 

 多分戸部が言ったのは俺の嘘告白のことなんだろう。俺が戸部の告白を阻止するために戸部の目の前で海老名さんに告白をした。そしてこれがすべての原因という訳ではないが、奉仕部の間に亀裂が入る発端の一部ではあった。

 

 雪ノ下はこの話に思うところがあるのか、再度俯いてしまった。俺はそんな雪ノ下の反応を横目で見る。戸部は迷惑をかけたって言うが、あそこで一番迷惑かけたのは誰でもない俺だ。誰にも何も伝えず言わず二人の気持ちを何一つ理解せずあのような行動を起こしてしまった俺が一番迷惑をかけたと思っている。雪ノ下に「嫌い」と言わせてしまった、由比ヶ浜に「人の気持ちをもっと考えて」と言わせてしまった。俺はあの時の二人の表情を昨日のように思い出せる。そして忘れてはいけない、俺の戒めだ。

 

 それにあの件に関しては告白を台無しにされた戸部も被害者の一人なのだろうに。戸部は戸部であの件には思うところがあるのかもしれない。

 

「それに後々に思い返せば、海老名さんから脈が少なかったっつーか、あそこで告白出来ていてもフラれていたっつーか、それでも俺は諦めれないっつーか...、でもそれって俺の独りよがりじゃね?っていか...」

 

 しどろもどろになりながらもこたえていく戸部。そしてそんな戸部に雪ノ下が俯きながらもぽしょりと「少ないというより皆無だったわね...」と戸部に聞こえないぐらいの声量で呟く。落ち込んでんのにそこに関しては突っ込むのかよ。いや、俺も内心思ってたけど。でもまあ口に出てしまったとはいえ戸部に聞こえない程度に収めたところをみると雪ノ下も成長したんだなぁ...。

 

「だから俺はやり方を変えた。海老名さんにちゃんと俺っていうのを見て貰えるように、俺の本気を見て貰えるように。でもそれは少なくとも高校生の間では到底無理な話だと思う。なんなら一生かけても見てもらえない可能性もあるかもしれない。でもそれは諦める理由にはならない」

 

 そして戸部のいつものフザけた口調は鳴りを潜め、どんどんと力強い口調へと変わっていく。自分がどれだけ本気なのかを三浦に本気で訴えかけるために。

 

「そして海老名さんが俺のことをちゃんと見てくれるようになって初めて俺は海老名さんに告白出来るとおもう。だからこそ俺はもういい加減ではいられない。いついかなる時でも俺は常に本気の姿でいなくちゃいけない。その姿勢を俺は何年も何十年も貫き通す。それが俺の本気だ」

 

 打ち明けられた戸部のおもいに俺は愕然とした。俺は戸部翔という人物を完璧に見誤っていた。そして俺の隣では雪ノ下も同じ気持ちなのか呆けた表情を戸部に向けていた。

 

 三浦は戸部に向けていた視線を外す。

 

「あんたがいい加減じゃなく、本気だってことはよくわかった。でもあーしはあんたの手助けは一切してやらない」

 

 戸部の熱を帯びた声とは裏腹に三浦の声はどことなく冷めているように感じた。しかし、三浦は「でも」と一言言うと、戸部のほうへ顔を向ける。

 

「あんたの本気、カッコよかったよ。もうあーしからは何も言わない。ま、うまくやってみせろし」

 

 優しい声色で、そして優しい表情を戸部に向けた。俺はそんな三浦がどことなく息子の成長を喜ぶ母親のように思えた。

 

 

 

 

 その後の俺たちは食事を終えて支払いを済ませた。勿論俺と三浦のぶんも戸部が払ってくれた。雪ノ下だけが「私は施しは受けない」と言い、自分が食べた分を支払っていた。戸部が奢ってくれるって言ったときには「では遠慮なく」って言ったのにな。いつの間にこんな茶目っ気になったことやら。

 

 そして今はサ〇ゼリヤの店先にいる。これでもう解散っていう流れになると思うのだが、不意に三浦がこちらに近づいてきた。

 

「あんさー、あんたがモテるっていう話、雪ノ下さんはなんて言ったの?」

「ん?あー、普通に否定されたけど?」

「ふーん、ヒキオのこと知っているなら否定なんて出来ないと思うけど。単にあんたに言うのが恥ずかしいのか、それとも他の人に知られたくないのか。まあいいや、じゃああーし帰るわ。じゃあね」

「お、おう...」

 

 そう言い残し三浦は去って行った。なんか今日のあーしさん俺のこと褒めすぎじゃない?小町がなんか賄賂でも渡したのか?

 そして三浦と入れ替わる形で次は戸部が近づいてきた。

 

「いやー、ちょっと恥ずかしい話しちゃったわー。ヒキタニくん、今日俺が言ったの皆に内緒な?」

「別に端から言いふらすつもりはねえよ。それよりもあまり役に立てなくて悪かったな」

「ん?いや、そんなことないっしょ。それにヒキタニくんのこと色々知れたし?それで俺もヒキタニくんのカッコよさがどことなくわかったっつーか」

「いや...俺はカッコよくないわ。お前のほうがカッコいいよ戸部」

「ちょ...ちょー!そんな面と向かって言われると照れるわー!ま、まあ、俺もそろそろ行くわ、またな!ヒキタニくん!」

「おう、じゃあな」

 

 戸部もそう言うとこの場を去って行った。戸部よ、色々知れたと言っているが、ヒキタニなんて人物はどこにもいない。

 

 

「比企谷くん」

 

 三浦や戸部のやりとりを眺めていたであろう雪ノ下が、一人になった俺に静かに近づいてきた。

 

「彼、凄かったわね」

「ああ、戸部な。まさかあいつの本気がここまでとは思わなかったわ」

「ええ。ふふっ、もしかして海老名さんはとても幸せ者かしらね」

「かもな。自分のことをああも思ってくれる奴なんてそうそういないしな」

 

 クスクスと笑う雪ノ下を見つめる。駄目だ、これは戸部に完璧に触発されたわ。

 

 見つめられていることに気づいた雪ノ下が小首を傾げる。

 

「比企谷くん?」

「ん?ああ、悪い。なんでもない。それはそうと雪ノ下、今からでもト〇ザらスに...」

「行かないわよ。はぁ、やはり比企谷くんは比企谷くんね...」

「そりゃあどういう意味だよ」

「特に深い意味はないわ。では、私もそろそろ行くわね」

 

 雪ノ下がスタスタと俺から離れていく。すかし数歩歩いたところでピタッと止まり、クルッとこちらのほうへ体を向ける。

 

「また...ね」

 

 何時ぞやの文化祭準備の日のような、雪ノ下は胸の辺りまで手を上げて小さく手を振った。そんな雪ノ下にどことなく愛おしさを感じた。

 

「ああ、またな」

 

 俺がそう告げると、雪ノ下は小さく笑い今度こそこの場を去って行った。

 

 

 俺は去って行く雪ノ下の背中を眺めた。俺が知る中で一番いい加減だった男が一番本気を見せてくれた。そんな姿を見せられては俺も、俺自身も本気にならなくてはならない。

 

 いつまでも、今のままではいられないから。




八幡のカッコいいとこを書くよりも先にまさかの戸部のカッコいいとこを書いちゃったよΣ

今回の話、八雪成分がちょっと足りなかったかもしれませんね。いえ、前回と前々回もそこまででしたけど。
そろそろいい加減に八雪フルオープンアタックな話を書くべきですかね...。それと八幡がカッコいい話

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