八雪はアッタカイナリ   作:うーど

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 たくさんのお気に入りや評価、たいへんありがとうございます!ほんとうに嬉しいです!やっぱ八雪は最高だな!!

 
 ちょっと投稿に間が出来てしまいましたね。ここ最近はリアルが忙しくて...。パレスの攻略とコープのレベル上げがほんと忙しくて...。今後もリングを持っての冒険やら配達業やら仲間を増やして次の町へなど...リアルが、リアルが忙しい!!


 それと今回、なかなかいいネタが思い浮かばなくて大変でした...。タイトルだけでいつどこで浮かんだネタなのか丸わかりですね。それと何をさせたいのかも。

 だいたい想像通りな内容になっていますが、楽しんで頂けたら幸いです

 
 今回も長くなってしまったので分割しました。


満員電車1

 冬の真っ只中、こんな寒い日にも関わらず今日も今日とて学校もあれば部活もある。俺はもうヒキガエルでいい、プライドなんていらない、暖かいお布団でとにかく冬眠したい。

 

 そんなことを部活中に由比ヶ浜に言ったら「え、気持ち悪っ...」と言われる。おい、いつもの「ヒッキーキモい!」はどうした。真顔マジトーンやめろ。ガチすぎて泣けるんだけど。

 

「ゆきのん、ヒッキーがカエルになりたいんだって。ちょっと引くよね」

「どうした由比ヶ浜、今日のお前めっちゃ辛辣なんだけど。そろそろまじで泣くぞ」

 

 途端に由比ヶ浜が勢いよく席から立ち上がる。

 

「だって!こんな寒い日にかぎって何でストーブ壊れちゃうの!?ほんとマジない!ヒッキー直して!」

「気持ちはわかるが落ち着けよ...」

 

 由比ヶ浜は「うぅ...」と小さく呻いた後、ゆっくりと席に座った。寒いから不機嫌になってたんかこいつ...。

 

「それに直せ言われても素人が変に手を出すもんじゃないだろ。トレース使えないし」

「トレー...何?」

「...まぁ、このネタ伝わらねえよな」

 

 トレース・オンっ!!

 

 材木座だったらネタを拾ってくれるんだがな...。そう思うと何だかんだ言って材木座とは馬が合うのか...?新たな新事実に打ちひしがれる。戸塚や小町のことを考えて精神を安定させないと。

 

 それにもし俺がストーブを直せたとしても結局お前等だけで占領するだろうが。こっちは寒いままなんですけど。

 

 そんな意味合いを込めて由比ヶ浜のほうを見るが、由比ヶ浜は既に俺のほうを見ていないため視線に気づいて貰えなかった。

 

「ゆきのーん、寒いよぉ~!」

 

 由比ヶ浜は雪ノ下の席の間を埋めるよう席を密着させてから雪ノ下に抱きつく。本日も奉仕部恒例のゆるゆり空間が展開される。こうなると俺の居場所が無くなってしまう。元からあるかどうか微妙なところだが。

 

 

「...ゆきのん?」

 

 俺がゆるゆり空間に耐えるために空気と同化を進めていたところ、由比ヶ浜の心配するような声が聞こえた。

 

 そういえば先ほどから雪ノ下の口数が少ない。雪ノ下は元々そこまでお喋りが好きではないのだが、俺に毒を吐く時は饒舌になる奴がヒキガエルの(くだり)で何も言ってこない時点で違和感に気づくべきだった。

 

「お前、体調悪いのか?」

「ゆきのん、そうなの?」

 

 雪ノ下は俺や既に拘束を解いた由比ヶ浜に問われると、ゆっくりと俺達の方へ顔を向ける。頬にほんのりと赤みがかかっている。

 

「...これぐらい平気よ。気にすることはないわ」

「否定はしないってことはやっぱ体調悪いんだな」

「それは...」

 

 強がる雪ノ下に俺はため息を一つ吐く。こいつ変に強がる癖どうにかならんのか。強がっても何も良いことはない。なので俺は体調悪い時は三割増しで相手に伝えることにしている。大袈裟なぐらいが丁度いいのだ。とはいえ母ちゃんも伊達に俺と長年過ごしていないのかそこんとこは普通に見抜かれて学校行かされる。なぜ世の母親って息子の仮病を的確に見抜けるのだろうか...。社会人になったら学生の頃に出来なかった分だけ仮病で休んでやる。まず働かないけど。拙者は流浪の身、決して働かないでござる!働きたくないでござる!!

 

 途中から超どうでもいい事を考えながらも俺は鞄を持ちながら席をおもむろに立つ。

 

「もう今日は誰も来ないだろ。帰るぞ」

「そうだね!今日はもう帰ろう!」

 

 俺とは対照的に由比ヶ浜は先ほどと同じように勢いよく席を立つ。こいつ動作がいちいち大袈裟だよな。

 

「でも...」

 

 既に荷物を持って席を立っている俺等を前にしても雪ノ下は渋る。しぶのん。

 

「ゆきのん、帰ろ?」

 

 しかし如何にしぶのんでも由比ヶ浜スマイルと由比ヶ浜圧しの前では圧倒的に無力。渋々ながらも今日の部活動の終了を了承する。

 

 

 

 

 

 

「あたし、ゆきのんを送っていくね!」

 

 鼻息を荒くしながら任せろと言わんばかりに自分の胸を叩く由比ヶ浜。叩いた時に由比ヶ浜メロンが揺れたのを俺は見逃さなかった。男の子だもん!仕方ないよね!...あっ、雪ノ下がゴミを見るような目でこっちを見てる...。

 

「由比ヶ浜さん、その...気遣いには大変嬉しいのだけれど、陽が落ちるのが早いこの時期だとあなたの帰る頃には真っ暗になってしまうと思うの。そのなかを一人で帰すのはとても心苦しいわ」

「うーん、そっかぁ...。明日も学校あるし泊まっていく訳にもいかないしね...」

 

 由比ヶ浜の提案をやんわりと断る雪ノ下。ってか学校無かったら泊まっていくつもりなのか...。

 

「仮に由比ヶ浜が泊まったら体調が更に悪化しそうだしな」

「それどういう意味だし!」

 

 そのまんまの意味だし!

 

 由比ヶ浜は俺を睨み付けながら「うぅ~」と唸る。こいつが睨んでもびっくりするほど怖くねえな。そもそも雪ノ下が怖すぎる。あれと比べたら大抵は可愛いもんだ。その他にも川...川...なんとかさん?とか金髪縦ロールの女王様とか独身様とかも睨んできたら超怖い。なんだよいっぱいいるじゃん。魔王は存在そのものが怖い。

 

 由比ヶ浜は一頻り唸った後、何かを思い付いたのか顔をハッとさせる。

 

「そうじゃん!ヒッキーがゆきのんを送っていけばいいじゃん!あたし頭いい!ゆきのん褒めて!」

 

 名案が浮かんだとばかりにはしゃぐ由比ヶ浜。まったくもって名案じゃないんだが...。

 

「由比ヶ浜さん、その案は却下よ。私の身の危険が過ぎるわ」

「ヒッキーの信用無さすぎじゃない!?」

「フッ、まあな」

「褒めてないから!」

 

 俺も雪ノ下もぼっちっていうのはだいたい人を信用しないものだ。ほとんどの人が敵。あれも敵。これも敵。自分以外はみんな敵。私以外私じゃないの!雪ノ下に関しては更に気難しいとこや過去のこともあるから猶更人を信用しない。しなさすぎて実姉すら信用していないまである。...いや、あの人は仕方ないわ...。なので雪ノ下に信用されていないのは俺のせいじゃない。ぼっちが悪い。...それだと俺も含まれてるじゃん。

 

「大丈夫よ由比ヶ浜さん。体調が悪いといっても少しだけだから。だから一人でも帰れるわ」

 

 俺たちがあれこれ話している内に帰り支度を終えていたのか雪ノ下はコートに身を包み首にはマフラーを巻き肩に鞄をかけて席を立っていた。普段よりもゆっくりとした動きで俺の近くまで歩くと俺に部室を施錠する鍵を渡そうと鍵を持った手をこちらに伸ばす。

 

「悪いけれど、今日は比企谷くんが部室の鍵を教員室まで返してもらえるかしら?」

「お、おぉ。まあこの程度なら別に」

 

 雪ノ下から鍵を受け取ろうと俺も手を伸ばしたが、俺が受け取る前に横から由比ヶ浜が雪ノ下から鍵を引っ手繰る。由比ヶ浜が引っ手繰った際に受け取る寸前だった俺の手に由比ヶ浜の手が思いっきりぶち当たって超痛い。

 

 ちょっとー?手が痛いのですけどー?訴えかけるように由比ヶ浜のほうを見るが由比ヶ浜は俺の手にぶつかったことに気づいていないのか些事な事で済ましてしまったのかこっちを見ておらず、まっすぐと雪ノ下のほうを見ている。見て?こっち見て?超痛いアピールしてるんだけど?見てもらえないとなんかすっごい恥ずかしいんだけど?あ、ちがう、雪ノ下は見なくていいから!こいつ何してんの?みたいな顔しなくていいから!

 

「だめだよ!鍵ならあたしが返しに行くから!だからゆきのんはヒッキーと一緒に帰って!ヒッキーのこと信用できなくてもヒッキーのことを信用している私のことを信じて!」

 

 勢いよく捲し立てる由比ヶ浜にたじろぐ雪ノ下。なんか某激熱アニメの名台詞っぽいの聞こえた気がするんだけど。思わず「アニキィ!」って叫ぶとこだったわ。これ以上の奇行はまじでよくない。

 

「由比ヶ浜さん、その、本当に大丈夫だから...」

「ゆきのんのそういう時の『大丈夫』は全然信用できない!こういう時は大げさなぐらいが丁度いいの!...それに、ゆきのんにもしもの事があったらあたし嫌だよ......」

 

 雪ノ下は「うっ...」と声を漏らし、言葉が詰まる。そして考えあぐねたのか横目で俺のほうを見る。俺は横目で見てきた雪ノ下に対し、小さく溜息を一つ吐き、頭をガシガシとかいた。

 

「諦めろ雪ノ下。俺はもう諦めた」

 

 俺のそんな返答に雪ノ下は伏し目になり、小さく溜息をもらす。

 

「そうね...。では、その...比企谷くん、お願いできるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 学校を出て、いつもよりゆっくり歩く雪ノ下に歩幅を合わせて自転車を手で押しながら雪ノ下の隣を歩く。とくにこれといった会話は無く、ただただ街の喧騒のみが聞こえてくる。まさか雪ノ下と一緒に帰る日が来るとはな。「一緒に帰って、友達に噂とかされると恥ずかしいし...」ぐらい言っておくべきだったか?サイコマンティスよ、人が妹に隠れてやってたゲームを暴露するのやめろ。

 

「その、駅までで大丈夫だから」

 

 ときめいちゃうメモリアルなことなど考えていると前触れもなく雪ノ下が話し出した。危うく聞き逃すとこだった。何とか聞き逃さす聞こえた雪ノ下の言った内容に僅かばかり笑いそうになる。

 

「悪いがお前のマンションまで行くぞ。由比ヶ浜に『絶対に駅までで大丈夫とか言うけどちゃんとマンションまで送って』って言われたし」

「うっ...」

 

 なんというか本当にその通りなこと言ったな。きっと、相手の言いそうなことなどわかってしまうぐらいには彼女達は一緒の一時を過ごしてきたのだろう。ナイフのように尖りまくっていた俺の横を歩く少女にそんな友達が出来たんだなと思うと感慨深いものがあり、つい顔が綻ぶ。

 

「でもその...電車賃のこともあるし...」

 

 それでも尚も抵抗を試みる雪ノ下。そんな雪ノ下に多分一番効果的な一言を言い放つ。

 

「そうやって友達に心配させるつもりか?」

「うぅ...」

 

 俺の一言に雪ノ下は先ほどと同じような声を漏らして顔を俯かせる。そして観念ともとれるため息を一つ漏らして困った表情で此方に顔を向ける。その表情は俺にではなく、きっとこの場にいない彼女へと向けたものだろうな。

 

「......マンションまでお願い」

「おう、まあ運賃については気にするな。小町経由で親から貰うし」

「気にしないことにはならないのだけれど...」

 

 

 

 

 

 

 その後、歩くほど数分で俺達は駅についたんだが...。

 

「えぇ...、なにこの人の量...。人、人、人、うわぁ...」

 

 駅のホームは人でごった返していた。軽く吐ける。食道オールグリーン!八幡、出ますっ!いや出さないけど。

 

「雪ノ下、お前いつもこんな中で帰ってたの?」

「いえ...。本来はもっと空いてるはずなのだけれど...」

 

 どうやらこのごった返しは雪ノ下も知らないらしく、俺の袖をつまみながらわたわたと困惑している。

 

 こういう時はツイッターで調べるに限る。路線の名前で検索かければ誰かは原因をつぶやいているものだ。駅で公表されないサイレント遅延などもツイッターで調べれば一発で原因特定!だいたいの原因は荷物挟まりとかだけどね!皆も電車への無理な乗車はやめようね。これ、遅延の元となるから。八幡との約束だよ!

 

 雪ノ下につままれてないもう片方の手でスマホを取り出しぬるぬるくぱぁと操作してツイッターを開く。フォロワー数3という数字はとりあえずスルー。ちなみにフォロワーの三人のうち二人がよくわからん外国の人。あと一人は誰かって?......材木座だよ。特に教えてもないのに俺がアカウント作ったその日にフォローしてきやがったからな。しかも矢鱈とフォロワー数が多い。ネットの世界では強いな材木座。

 

「あー...なんか隣の△△線が事故によって止まってるらしい...。だからこっちに人がなだれ込んだのか」

「そ、そう...」

 

 原因特定!まあ特にはこっちの路線は混雑以外は何もないらしい。調べたついでに俺の何ともない呟きに毎度毎度応答してくる材木座に「カレーでも飲んでろ」と返信しておく。カレーは飲み物!ってよく聞くが材木座とカレー屋行ったらまじで飲んでた。ファミレスのドリンクコーナーにカレーが追加される日もそう遠くない。

 

「どうするよ?人が少なくなるまでどっかで待っておく?」

「いつ掃けるかわからないものを待っていても仕方ないでしょう...。たった数駅分ぐらい我慢するわ。...でも」

 

 雪ノ下は言葉を言いよどんだ後、つまんでいた手をそっと離して遠慮がちに此方のほうを見つめる。眉は垂れ下がっており、見つめきた大きく透き通った瞳は忙しなく揺れ動いている。

 

「比企谷くんは嫌でしょう?我慢することないわ...。ここで帰っても......」

 

 混雑しているホームのがやがやした音にかき消えそうな弱弱しい声で喋る雪ノ下。向けられた顔はどんどんと下がっていき、最後には完璧に俯き加減となる。そのせいで語尾は完璧に周りの喧騒でかき消された。

 

 そんな雪ノ下にまた溜息を吐いた。今日の俺溜息吐きすぎじゃね?逃げる幸せ残ってないから別にいいけど。

 

「アホか。マンションまで送るって言っただろ。それにこの惨状を見て猶更帰れんわ」

 

 俺のその言葉に対して雪ノ下から何かしらの返答は特になく、返事代わりにもう一度俺の袖をつまんできた。いつも大人びて綺麗である彼女のその小さな子供のような行動が普段のギャップも合わさってとても可愛いと思ってしまった。

 

 電車が駅に到着するまでの間、雪ノ下のその手はずっと離れず袖をつまんでいた。

 


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