2019年8月31日に集った、『彼ら』のちょっとしたお話です。

※注意! この作品は『劇場版仮面ライダージオウ Over Quartzer』の盛大なネタバレを含みます。該当作品未視聴の方は閲覧注意です。

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0000:アフター・フェスティバル

 

逢魔降臨暦(おうまこうりんれき)』。

この本によれば、元・普通の高校生常磐(ときわ)ソウゴ。

彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた。

 

しかし、それも過去の話。

常磐ソウゴは平成(へいせい)という時代の終わりを見届ける『最終王者』になった。

20の平成ライダーを束ね、その歴史を証明した仮面ライダージオウは、仲間たちと共に、新たな未来へと歩き始めたのであった。

 

さて、今より語られるは歴史の1ページ。

ありえたかもしれない、『私達』の物語。

 

◆◆◆◆◆◆

 

2019年8月31日。

夏の終わりを人々が噂する日の、夜のことであった。とある街に浮かび上がる、巨大な祭壇を訪れる一人の男がいる。

深緑のコートを着て、首元にマフラーを巻いた長身の男。およそ時期に合わない服装をしたこの男の名はウォズ。普通の高校生であった青年・常磐ソウゴを『魔王』へと導かんとした末に、その役を果たした家臣であった。彼は祭壇の頂点にある、赤い玉座に向かい合っている。

この玉座に座る者はいない。かつて『真の魔王』としてここに座っていた、ウォズの真なる主であった者は、平成という歴史を締めくくる決戦の末に倒された。今のウォズにとって、臣下として仕えるは常磐ソウゴただ一人である。

 

ウォズが玉座を見つめていると、風を切る音と共に数体の人型ロボットが背後に飛来した。黄金色の機体は、無表情の仮面を付けたまま、ウォズに対して跪く。

「……まったく。畏まったつもりなら、せめて私が振り向いてからにすることだね」

ウォズが振り向くと、ロボットの一体がノイズ混じりに喋り出した。

『そう言うな。さて、始めようじゃないか。()()んだろう、新たな王の誕生を?』

「ああ。我が魔王には内緒の、サプライズといこう」

黄金のロボット……カッシーンはウォズが手を叩くと同時に散開し、『祭典』の準備を始めた。

 

準備が始まると、新たなカッシーンが徐々に集まってくる。意思持つ個体は最初に集まった数体だけだが、彼らは迅速かつ的確に、様々なオブジェクトの配置を進めた。

祭壇の四方に大きな太鼓を置き、撥を持ったカッシーン達が打ち鳴らす。太鼓の点検を兼ねたリハーサルであった。長い筒を道の両端に並べ、玉座の前に大きなジュークボックスが置かれる。ジュークボックスは祭壇のあちらこちらに置かれたスピーカーと繋がっている。中継役のカッシーンが、設置完了を示すように親指を立てた。

 

「久しぶりだな、ウォズ」

最後の筒を配置し終えたウォズに話しかけたのは、ウォズと同じ服装をした複数の男達であった。

「まさか、最初は君達が協力するとは思わなかったけどね」

「俺達も同感だ。歴史の管理者を名乗ったクォーツァーが、よもや祭りの準備とはな」

男達は『クォーツァー』という組織の構成員であった。ウォズもかつてはその一人であり、『真の魔王』に仕えていた過去がある。しかし、魔王が倒れた今、彼らは新たに始まる歴史を見届ける決意と共に去った。彼らがここに戻ったのは、その『新たな歴史』の始まりを祝福するためである。

「カッシーンを操っていたのも君達かい? 妙な芸当をするものだ」

「お前には敵わないさ、ウォズ」

「……クォーツァーは新たな歴史を見守る、そうだね?」

「ああ。平成が終わり、令和(れいわ)という新時代がこれから始まっていく。渡されたバトンを握って走る、次代の仮面ライダー達。たとえ美しくはならないとしても、誰も見たことがない未来を俺達も見てみたくなってな。ソイツはまさに……本に書いてない未来、ってヤツさ」

 

クォーツァーの一人が、近くにいたカッシーンに現在時刻を尋ねた。20時58分です、とだけカッシーンが答える。既に祭典の準備は終わり、彼らは静かに開演の時を待っていた。

「そろそろだな。ウォズ、戻った方が良いんじゃないのか?」

クォーツァーの言葉を受け、ウォズが顔面を蒼白に変える。本来ならばこの場に、自分の主達を呼ぶつもりだったのだ。

「……しまった! もうこんな時間か!? マズいぞ……あと2分で往復でき——」

 

「ウォズ! 何してるの?」

 

青年の声が響く。自らが仕えると決めた、新たなる王者の声が。

「——我が魔王!」

ウォズが満面の笑みを浮かべ、諸手を広げて青年を出迎える。青年の名は常磐ソウゴ。彼こそ新たな未来を生きる、平成の最終王者たる男。

「何をしている、ウォズ。手伝いなら俺達も呼べばいいだろうに」

「今更水臭いわよ」

「ゲイツ君、ツクヨミ君……!」

数奇な運命に導かれて出会った仲間、明光院(みょうこういん)ゲイツとツクヨミも来ていた。

「それがしも、ここに参上仕りましてござる!」

牛三(ぎゅうぞう)! お前まだこの時代に残っていたのか!」

快活で陽気な少年が、ゲイツの陰から顔を出した。戦国時代で出会い、ゲイツに惚れ込んで現代までついてきた、かの織田信長(おだのぶなが)配下の忍者・牛三である。

「ゲイツ殿のいる所、この牛三がお供するでござるよ!」

「まず信長の伝記を書いてからにしろ!」

 

「しかし、どうしてここが?」

ウォズの疑問はただ一つ。ソウゴ達には秘密にしていた祭典の計画を、なぜ知っていたのかということだ。

「金ピカのロボット……カッシーンが急にクジゴジ堂に来てさ。最初は身構えたけど、ここまで案内してくれて。あ、おじさんも来てるよ!」

ソウゴは空を指差した。空飛ぶカッシーンに抱えられて、壮年の男がこちらに向かってくる。常磐ソウゴの保護者、常磐順一郎(じゅんいちろう)であった。順一郎はカッシーンに両脇を抱えられたまま、笑顔でウォズ達に手を振った。

 

『30秒前。29、28、27……』

太鼓を叩くカッシーンによるカウントダウンが始まった。時刻は20時59分。ソウゴ達は祭壇を見上げる位置に移動し、祭りの開始を待っていた。ウォズは祭典を取り仕切るために、玉座の前に立っている。

料理をするための特設テントで、順一郎が肉や野菜を焼いていた。今日の夕食はバーベキューであるらしい。食材の管理はカッシーンが行っていた。

「無口で無愛想だけど、火加減は間違えない! このままおじさんの仕事も手伝ってくれると嬉しいんだけどね」

『15、14、13……』

カウントダウンが進む中、ソウゴ達は各々が雑談に花を咲かせていた。

 

「ウォズが言っていたんだが、お前の『おじさん』とやら、料理がとても上手いらしいな」

「うん。おじさんは時計屋なんだけど、料理も得意なんだよ!」

「今は向こうでバーベキューの準備をしているな。後で食べても?」

「もちろん!」

 

『10、9、8、7、6、5、4』

 

「戦国時代から来たという話だが、この時代に置いといて良いのか?」

「なあに、来るべき時が来れば戻るでござる。それより今は、ゲイツ殿の伝記を書くでござるよ!」

「牛三も牛三で、信長のコトは言えないわね……」

「とはいえ、コイツがあの有名な『魔王信長』像を作った。事実は小説よりも奇なり、だな」

 

『3、2、1……0』

「さあ、始まるよ!」

ソウゴが叫んだ途端、風を切る音が鳴り渡り、次いで盛大な爆発音が辺り一面に響いた。

ウォズが並べていた筒の正体は、打ち上げ花火だったのだ。花火が描く光の軌跡は、平成ライダー達の歴史を刻んだ紋章を象っている。

 

「祝え! 平成から令和へ、新たな時代の幕が開きし瞬間である!」

 

ウォズが声高らかに祝辞を述べると、ジュークボックスから大音量で音楽が流れ始めた。愉快で楽しげなダンス・ミュージックが、その場の皆の鼓膜を打った。

「なんだこの曲!?」

「いいんじゃない、ゲイツ。俺は楽しんじゃうよ〜!」

ゲイツが首を傾げていると、既にソウゴは曲に合わせてステップを踏み始めていた。拙い足取りに転びそうになると、ツクヨミが後ろから支える。

「ここは、拙者の織田流舞踊を見せる時! 敦盛で慣らした足捌き、ご覧に入れますぞゲイツ殿ーッ!」

牛三も忍者ならではの身体能力で華麗に舞ってみせる。飛んで、跳ねて、空中で一回転。どこで覚えてきたのか、決めポーズの滑稽さにゲイツは思わず吹き出してしまう。

「珍しいね。そんな表情をするなんて」

「うぉお!? ……ウォズか、いつの間に戻った? というか花火は大丈夫なのか」

「安心したまえ。最後の一発を除けば、あとは独りでに打ち上がる」

花火は夜空にいくつもの紋章を輝かせる。それらは、瞬間瞬間を生き抜いてきた平成ライダーという存在の軌跡であった。

 

クォーツァー達はソウゴと共に踊っていた。その姿を見たゲイツ達も、混ざって一緒に踊り出す。誰もが笑顔で踊る奇跡は、ソウゴが目指した世界の縮図だった。

曲が終わると、誰彼構わずハイタッチが交わされる。戦いを終えて、同じ歌を聴いた。交わらざる点と点が、この時だけは繋がりあって線になっていた。

笑い合う仲間達をよそに、ウォズがソウゴに赤いスイッチがついたリモコンを渡した。

「我が魔王、最後の花火はこのスイッチで起動する。この祭典最高の瞬間を、我々に見せてくれ」

「……ああ。任せて!」

ソウゴが勢いよくスイッチを押し込んだ。一際大きな光を灯し、最後の花火が打ち上がると……今まで打ち上がったどれよりも大きな音と光が、8月最後の夜を染め上げる。

平成ライダーが刻んできた20の足跡が、夜空を明るく照らし上げる。誰もが息を呑む瞬間に、ウォズは満足げに笑う。

 

きっと自分は、この時のために生きてきたのかもしれない。ウォズは心の底からそう思ったが、すぐにその考えを撤回した。

最高の瞬間、それはいつ訪れるか分からない。更にこれを上回る未来も、ひょっとしたらあるのかもしれない。そういう未来を創ることができるからこそ、己は常磐ソウゴという男に忠誠を誓ったのだ、と考えを新たにした。

 

気づけば既に別の音楽が流れ出していた。ゲイツはツクヨミやクォーツァー、牛三と一緒に、順一郎の用意したバーベキュー料理に舌鼓を打っている。

「ウォズ、俺達も行こう! 早くしないと、おじさんの料理無くなっちゃうかも!」

「おっと、それは困るな。ではすぐにでも行くとしよう」

涼しげな夜風が吹き抜ける。それは新たに始まる令和という歴史の産声か。風にマフラーをたなびかせ、ウォズはソウゴと共に走り出した。

 

「素晴らしい焼き加減です。流石と言うべきか……」

「なあウォズ、花火はこれで全部か?」

「そのはずだが。物足りなかったかな、ゲイツ君」

「いや、そうじゃない。もう一発上がってないか?」

「……えっ?」

 

◆◆◆◆◆◆

 

8月31日、午後9時。

一人の青年が、河川敷から夜空を見上げていた。

 

「今日もイマイチかぁ〜……いやいや、明日こそは、次こそは俺のお笑いでお客さんから大・爆・笑! 取ってやるん——-どぉわああ!?」

 

轟音に腰を抜かして、青年が盛大に転ぶ。地面との衝突の痛みに喘ぎつつ、何事か思い付いて跳ね返るように立ち上がる。

 

「花火か……花火たまやと、花ひらく! ハイ! アルトじゃ〜〜〜ないとっ!」

 

大仰なポーズも、渾身のギャグも、見届ける者はいなかった。

しかも、青年は空に煌めいた一瞬の光を見てはいなかった。

彼の運命を照らし出す、一つの黄色い昇星を。

 

令和の01番星が、花火となって青年を見守っていた。



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