転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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10.伝説との邂逅

 アッ、これダメなやつだ。直感でそう思った。

 だって、どこからどう見ても波紋使いじゃあないですかやだー!! 下手しなくともうっかり握手とかしただけでめちゃくちゃ痛いやつですよこれは!

 

「……ここに住んでたものの友人なんですが、そういうあなたは?」

 

 それでも、下手なことはできない。わたしはできるだけ堂々と聞き返したけど……どうかなぁ、できてる自信ないなぁ。

 

「そうであったか……それは、災難であったのう」

 

 さてどう来るかなって思ってたら、意外にもおじいさんは小さくため息をつきながらそう答えた。

 意味するところはなんとなくわかる。だけど本当に心からそう言ったのかは、まだわからない。

 だってまだ波紋がスパークしてる。彼はまだ、警戒を緩めていないのだ。

 

「お嬢さんに言って信じてもらえるかはわからんが……ここに住んでいた男はな、妖怪だったのだ」

「…………?」

 

 とりあえず、語るに任せて首を傾げてみせる。

 妖怪……なるほど妖怪ね。言い得て妙な表現だ。

 

「少しずつだが確実に被害が広がっておってな。ここいらじゃあもうこの一年で五十人近くが行方不明になっておる」

「それは……かなり異常事態ですね」

「うむ……ゆえに、な。わしが赴くことになったのだ」

 

 な……にやってんのあのバカーーっ!!

 あれだけ目立つことは慎めって口酸っぱくして言ったのに、カーズ様だって散々釘刺してたのに!!

 これだから吸血鬼ってやつは! やっぱり急に大きすぎる力を手にしたら人間ダメになるね!!

 

「……残念です。この辺りには久しぶりに来たので、顔を見ようと思ったんですけど」

「災難であったのう。いや、お嬢さんに怪我がなくてよかった、そう思っておくべきやもしれんのう」

「そう、ですね……」

 

 本当に災難だよぉ!!

 

 ……まあ、嘆いていても仕方ない。カーズ様に報告しないと。そんでもってこのあとのことを考えないと。

 

「時にお嬢さんや」

「はい、なんでしょうか?」

「今日の宿はどうするつもりなのだ? もしここに泊まる予定だったのなら、残念ながら遠慮してもらわねばならん。他に仲間がおらんか調べねばならんし、そやつが来るやもしれんからのう」

「あー……確かにそう、ですね……」

 

 いや、帰ります。もうおうち帰りますんで……宿とかいいんで……本当に……。

 

 っていうかここにいた吸血鬼、下手な証拠とか残してないだろうな……それだけは困るぞ……。

 

「ふむ。であれば、今日のところはわしの家に来るとよい。年寄りに年頃のお嬢さんをうまく持て成せる自信はないが、設備だけは整っておるゆえ」

 

 出たよ良い人! そこまでみんな親切にしてくれなくてもいいのよ? もうちょっと他人に関心薄くていいんだよ!?

 

「……いえ、せっかくのお言葉ですがあまりお世話になるわけには。ひとまず自分で宿を探してみますよ」

「欲のないお嬢さんだのう。ならばわしがあまり引き留めるのも失礼というもの。これ以上は言うまい」

「すいません、親切にしていただいたのに」

「よいよい。歳を取るとどうも世話を焼きたくなって困る。……だからのう、これもそのじじいの世話焼きと思ってくれて良いのだがな」

「? これは?」

 

 わあ、竹簡(ちくかん)だ! 巻物状にはなってない、一本だけだから札って言ったほうが正しそうだけど。

 

 それはそれとして、甲骨文字が書かれてますね。呂子牙(りょ・しが)……?

 ……え? それって。まさか、え? 嘘でしょ?

 

 信じられない気持ちを全開に、目の前のおじいさんの顔を凝視する。

 すると彼は、いたずらに成功した子供みたいににっこりと笑みを浮かべた。

 

「許可証みたいなもんだのう。それを持ってわしの家まで来てくれれば、家人が部屋を用意してくれるというな」

「わお……それはまた。なんていうか、本当にありがとうございます」

 

 脈が早くなるのを感じながらぺこりと頭を下げれば、おじいさんは好々爺の見本みたいな笑い声を上げる。

 波紋の輝きは、いつの間にか消えていた。

 

「では、わたしはこれで」

「うむ、ここいらは治安もちとよろしくないからのう、気をつけてな。……おおそうだ、お嬢さん」

「はい?」

 

 呼び止められて振り向けば、おじいさんはぱちりとウインクをしながらこう付け加えた。

 

「名乗っておらなんだのう。わしの名は(しょう)という。もし宿が見つからんくてわしの家に来るのであれば、その名で場所を訪ねてくれればよいからのう」

「ッ!? ……わ、わかりました。本当に何から何までありがとうございます」

 

 なんとかそう口にして、わたしはそこを後にしたけども。

 

 うん。

 なんていうか、うん。

 

 この時代の!

 

 周の都にいる!!

 

 呂尚子牙さんとか!!!

 

 ()()()()()()()()()()()()()ふざけんなばーかばーか!!!!

 

 わたしは色んな意味でバクバク高鳴る胸を押さえながら、足早にならないよう努めて普段のペースで街並みを抜けていく。

 

 太公望! 古代中国において、商から周へ易姓革命がなされるに当たってその功績大として歴史に名を刻む、稀代の名軍師だ!

 まあ時代が時代だけにどこまで本当かはわからない点も多々あるし、なんなら彼の出自とか経歴はほとんど残ってないわけなんだけど。それでも周の中で一つの国の祖として名を残す以上、明確な功績があったのは間違いないだろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 わたしが憧れた人は漫画のキャラクターで、歴史上の太公望とは決して同じではないのはわかってる。それでも太公望という人物は、確かに偉業を成し遂げ歴史に名を刻む人物。そんな彼に惹かれないはずがなかった。

 どちらも知恵を絞って仲間を勝利に導く人。勝てない戦いをひっくり返す鮮やかな手腕。その姿はわたしにとって、まごうことなきヒーローだったのだ!

 

 そんな人と顔を合わす機会に恵まれた。これほど幸福なことかあろうか! いや、ない!

 いやもう、嬉しすぎて顔がとろけそう!

 

 ていうか、え? そんな人からサイン入りの竹簡とかもらっちゃっていいんですか!? マジで!?

 

 ひゃっほおう!! 太公望からもらった竹簡とか、世界遺産級ですよ!!

 もうこれは使わない! 絶対使わない! ずっと保管して、お守りにしよう!!

 

 えへへ、早速【スターシップ】で収納だー!

 

 ……でも喜んでばかりはいられないのも事実だ。まさか周の軍師が波紋使いだったなんて、歴史とはまた面白いことをしてくれる。

 でもよくよく思い返してみればジョジョのごく初期のころ、波紋という概念が初めて登場したそのときに、ツェペリさんは波紋のことを「東洋人は仙道と呼ぶ」って言っていた。

 

 そして太公望という人物は、後世(それでもジョジョ一部の舞台である十九世紀よりはかなり前の時代)に書かれた物語において、人間から長じて仙道に精通し周に力を貸した仙人に描かれる。これが偶然とは思えない。

 

 だとしたらもしかして、この辺りには波紋使いが結構な人数いるのかもしれない。神仙思想の元祖とも言える中国だから可能性はある。

 そしてそんな仙人を組織的に育む場所があるとしたら、カーズ様にとって非常に面倒なことになる。そうなると……どうなる?

 

 うん……たぶん、とっても血生臭いことになる可能性が……。

 

「……それは、嫌だなぁ」

 

 原作においては、カーズ様がこの時代どこで何をしていたかは一切明らかになっていない。だから何もしていなかった可能性もあるけど……自身に敵対する存在を許さないカーズ様だ、その手の組織は見つけ次第潰してたと考えたほうが自然だよね。実際、原作でも波紋の一族は滅ぼしたって言ってたし。

 

 とりあえずカーズ様には太公望はともかく、波紋の修行場みたいなのがあるかもしれないという懸念は言わないでおこう。これは確定。

 それでももし別のところからそういう話が挙がったら……どうしよう? わたしはそのとき、どうするんだろう。

 

 わからない。自分がどうするのか、わからない。いつもならどんなに嫌なことでもカーズ様にやれって言われれば従うのに。今回ばかりはやれる気がしない。

 憧れの人と明確に敵対するようなことなんて、できるわけがないじゃあないか。ましてや憧れの人を殺すことになったとしたら? 無理無理無理、そんなのできるわけない。

 

 どうかそんなことにはなりませんように。そう思いながらも、街を歩く足は止まらない。我ながらこんな自分が嫌になる。

 それでも、ここにずっといるわけにもいかない。気は重いけど、報告のために戻らないと。

 

 そう思ってたんだけど。

 

「やれやれ……どうしてこう嫌な予感は当たるかのう」

 

 彼は気だるそうな態度を隠すこともなく、けれど残念そうに肩をすくめて正面からわたしに向き合った。

 

 そう、街を出たわたしを待っていたのはさっき顔を合わせた太公望その人だった。

 いやいや、なんで国の要人がこんなところに一人でいるんですか先生!?

 

「あまり手荒な真似はしたくない。素直に捕まってはくれんかのう、お嬢さん?」

 

 ところが色んな疑問が頭の中で飛び交うわたしをよそに、太公望は確信に満ちた声でそう言った。

 ますます思考が真っ白になりそうになるのをこらえて、なんとか意識を集中させる。

 

 くっ、どういう方法かはわからないけど、どうやら彼にはバレてるらしい。さすがは歴史に名を残す名軍師か……。

 

「……わたしもできるならそうしたいんですけどね。そうもいかない事情があるんですよ」

「ふむ……人のお前さんが妖怪に関わっているところを見るに、何やら脅されて、とかかのう? であれば、わしの下におればその危険はなくなるが」

 

 あ、さすがにわたしが人外ってことは彼でもわかんないか。まあそうか、今の見た目はどこから見ても人と変わらないもんね。

 

「いえその、そうじゃないとは言わないですけど……普通の人がどうにかできるものでもないので……」

「妖怪を恐れる気持ちはわかるがのう。あれは決してどうにもできぬものでもないぞ? 事実、わしは退治できる」

「いや、あの人たちは吸血鬼とか目じゃないくらいヤバいんで……」

「ほう吸血鬼。あれはそう呼ぶのか。そしてその口ぶり、どうやらまだ裏に潜むものがありそうだのう。そしてお前さんは、()()()()()わしの知らんことをたーくさん知ってそうだな?」

「……アッ!? カマかけてたんですか!?」

 

 しまったぁ!! 完全に引っかかった!!

 

 え、じゃあさっきのあの自信満々な態度はなんだったの!? さも全部お見通しみたいな感じだったじゃん! おかげですっかり騙された!

 軍師って怖い!!

 

「そうでもあるが、根拠がなかったわけではないぞ? 宿を探すと言うておったのに、その手の施設があるところをまるで無視してふらふらした挙句、外に出ようとする輩なぞまっとうな手合いではなかろうダアホめ」

「ウッ!?」

 

 確かに!!

 

 まったくもってその通りですね!!

 

「く……っ、さすが天下の太公望と言ったところですか……!」

「いや、わしでなくとも気にかかると思うが……まあよいか」

「ていうか、あれだけ好々爺みたく振舞っておきながら尾行つけてたんですか!? だましてたんですか! ずるい!」

「ケケケ、褒め言葉だのう。詐欺に恫喝、誘導ハッタリ……エトセトラエトセトラ(他にも他にも)。いずれも策を練る際には必要になるものだぞ?」

「ですよね!! くそう、これだから軍師ってやつは! でも悔しい、そんなあなたが嫌いじゃない!!」

 

 あのニョホホと笑う主人公とわりと被って見えちゃう! 自分が憎い!!

 

「ふむ、お嬢さんのような美人さんにそう言われるのは悪い気はせんのう。どうであろう、ここは大人しく捕まってはくれんかのう。先の言葉は本音なのだ、手荒な真似はしたくない」

「……残念ですけど、それとこれとはまた別の問題でして。正直わたしもあなたとはもっとお話ししたいんですけど、色々あってそうもいきません。なので……押し通ります!」

「そうか……残念だ。ならば、少々痛い目を見てもらわねばならんが……あんまり泣いてくれるでないぞ、お嬢さん?」

 

 どうやら問答はここらで打ち切りらしい。太公望がゆるりと構えを取った。その両拳で、黄金の輝きがスパークする。やる気だ。

 

 いやー……。

 

 いったい! どこの誰が!

 転生した挙句憧れの人と戦う羽目になるなんて想像できますか!! なんとか逃げるだけで手打ちにしたい!!

 

 ああもう、今こそ切実に【バイツァ・ダスト】がほしいよ!!

 




易姓革命といえば周。
周と言えば太公望。
このロジックに素直に頷ける人はたぶん作者と同世代。
まあ一応、歴史の方に準拠して太公望の本名は望ではなく尚にしましたけど。

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