転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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19.あっちこっち

 そしてあっという間に時間は流れ、大体三十年くらい経った。だけどスーパーエイジャはいまだ見つからない。昔みたいに吸血鬼も動員してるんだけど、成果はかんばしくない。

 正確には、一瞬見つかるんだけどそのたびに逃げられてる、かな。吸血鬼に至っては、ローマの勢力圏内だとかなりの早さで駆逐されちゃうからあんまり……って感じ。しかもその勢力圏が年々広がってるものだから笑うしかない。さすがローマ。すべての道を繋げただけのことはある。

 

 それはともかく。

 最初にスーパーエイジャの情報が出たのは、ワムウが調べていたヒスパニア。そこで彼は、ローマ人が赤く美しい宝石を売ったという情報を手に入れた。

 ところがこれを知ったときにはもう遅く、その宝石を買った人はおりしもローマとポエニ戦争を戦っていたカルタゴ軍の略奪で奪われてしまってて。

 この時代の第二次ポエニ戦争では、両国はヒスパニア、つまりイベリア半島でも覇権を争っていた。そこで作戦行動中のカルタゴ軍に襲われたわけだね。

 

 で、ならばとカルタゴに乗り込んだわけだけど、カルタゴもこの時期斜陽になりつつあるとはいえ、ローマと競り合った国だ。その勢力圏はローマに匹敵する広さを誇り、しかも地中海を挟んで分かれてる。

 仕方なしに二手に分かれて調べることになったんだけど……その矢先にスーパーエイジャらしき情報がエジプトから挙がる。これでさらに手を分けなきゃいけなくなって、わたしはショシャナを連れてエジプトに飛ぶ羽目になった。

 

 久しぶりのアレクサンドリア大図書館でちょっとサボったりもしたけど、それなりにまともに活動してましたとも。

 

 ところがそうこうしてるうちに、マケドニアのほうでスーパーエイジャらしき宝石を自慢げに吹聴している貴族の話が聞こえてくるようになって。

 それに前後する形で、カルタゴが敗北してローマへ払われた損害賠償金の一部に赤石があったという情報も出てきた。

 

 情報が錯綜しまくってて何が何だか、な中でマケドニアに飛ばされたわたしは、そこで運悪くローマとマケドニアの戦争に、更にはそこにシリアとエジプトも絡む一連のゴタゴタに巻き込まれて数年も足止めを食らった。第二次ポエニ戦争も終わって間もないってのに、ローマもよくやるなって思う。

 

 いや、わたしだけなら難なく脱出できたんだろうけど、このときのわたし、ショシャナ以外にもたくさんの人を抱えて大所帯になっててさ……。

 

 うん……あちこちで手当たり次第にいろんな人を助けてたら、そりゃあ中にはわたしが引き取らざるを得ない人も出てきますよ。

 それでもまさか、一つの組織になるくらいの人数が集まるとは思わなかったよ。最盛期には百人くらい連れ歩いてた気がする。

 

 もちろんカーズ様には職務怠慢でこってり絞られて、それを見たショシャナがしばらくキレっぱなしだったのが今世で最高に心臓に悪い時期だった。なだめるの大変だったんだからねマジで。

 

 で。このときやっぱりたくさんの人を連れて行動するわけにはいかないってことで、この団体を商団として独立させることになった。 目指したのは、地中海を囲む地域を網羅する大商会だ。

 そして主に扱うのは宝石などの高級品や、嗜好品に設定した。これはわたしがこれからも引き取ることになるだろう人々の受け皿にすると同時に、その情報網でスーパーエイジャをいち早く見つけいち早く届けてもらおうってわけだね。

 

 名前は「ルブルム商会」。斜めに交差する二本の矢をトレードマークにして、その後ろに赤い弓が背負われてる紋章を使ってる。

 名前のルブルムは、ラテン語で赤という意味。日本語に意訳したら赤井商会みたいな感じになるかなぁ。ひねりも何もないと思われるかもしれないけど、最初はわたし以外の満場一致でわたしの名前を使おうとしてたから、慌てて却下した経緯があったりする。

 ルブルムは、わたしのスタンド【コンフィデンス】が赤いから、そこから取ったらしい。それもどうなんだろうね。まあアルフィー商会にされるよりは格段にマシだったから、オーケーしちゃったけど。

 

 そんな命名をやらかしてくれた代表はショシャナだ。彼女案外経営がうまいみたいで、妙齢の女性に成長した今はまさにやり手の女社長って感じになっている。

 

 と、ここまでが大体この約三十年間のダイジェストになるわけだけど……。

 

「アルフィー様、ようやくローマに店舗を出せることになりました。これでひとまず、地中海の主要都市には足がかりができたことになりますね」

「おおー、遂にだね。この短期間で随分と成長したものだねぇ」

「そこはアルフィー様のお力あってのことですよ」

「いやぁ、わたしなんて初期投資費用を出したくらいでしょ。そりゃ、たまに【スターシップ】で重いもの運んだりもしたけど、それだってたまにだし」

「その初期投資費用がまさに一番大きいのですよ。あれがなければこうは行きませんでした」

「そういうものかな? まあ確かに、コンビニとか街とか文明とかのシミュレーションゲームでも、初期費用が多いとヌルゲーになるか」

 

 アレクサンドリアに構えた本店の店舗で、そんなことを話すわたしたち。

 ただ、ショシャナが仕立てのいい椅子に座っているのに対して、わたしが彼女の膝の上に座っている点が複雑な心境にさせる。

 

 ショシャナはわたしを膝の上に乗せて、後ろから抱きしめながらもわたしの髪を手ですいているのだ。

 当初わたしのほうが大きかったのに、今や完全に逆転してる。どころか、頭二つ分くらいは身長差がある。外からの印象も、もうお母さんと娘くらいだろうなぁ。

 十年前ならぎりぎり姉妹でいけたかもけど、さすがにこの時代の三十代後半は、二十一世紀のそれより老けて見える。ローマじゃ女って理由で波紋を教えてもらえなかったし、これも仕方ないんだろうけどね。

 

 まあでも、うん。お姉ちゃんはショシャナが大きく立派に育ってくれて、嬉しいよ……()()()()()()()()()()()()……。どこがとは言わないけどさ……。

 

 でも、ねぇ。

 ちらりと目を向ければセリフに反して顔はとろけていて、かなり危ない。これが今新進気鋭の商会を率いる女頭首とは誰も思うまい。

 

「……あのさショシャナ、確かに今日はもう人に会わないだろうけどさぁ」

「嫌です。今日はもう仕事終わったんですからアルフィー様を堪能するんです」

 

 そう早口に言いながら、わたしのうなじに顔を埋めてすーはーすーはーくんかくんかする様は完全に向こう岸の人だ。どうして……なんでこんなことに……。

 

「だってアルフィー様を愛しているんですもの。アルフィー様さえいれば私何もいりませんわ」

「……人目のないところでだけにしてよね」

 

 そう、彼女ときたら当初の懸念通りそっちの人になっていた。依存がそのまま恋慕に変換されたみたいで、思春期以降わたしに愛をささやいてくるんだよね……。

 根っからそっちの人だったのか、育ちが理由でそっちに気質が寄ったのかはわからないけど、どちらにしてもこの時代ではあんまり一般的じゃあないから時と場所は選んでほしい。

 

 時と場所を選べばいいのかと言えばもちろんよくはないんだけど、それでもわたしも好きと言われて悪い気分じゃあない。わたしを選んでしまった見る目のなさはともかく、その短い一生をわたしと使いたいと願ってくれるなら、わたしはそれに寄り添うよ。

 

 ただ残念ながら、わたしが彼女に感情を高ぶらせることは今のところない。それが種族が違うからなのか、根っからのノンケだからなのか、はたまた石仮面の影響なのかはわからない。

 おかげでこうもわたしに身も心も捧げようとする彼女の気持ちに応えられないのは、申し訳なくも思うよ。家族的な愛はあるんだけどねぇ。

 

 というか、愛を注ぐ相手にするならわたしなんかよりいい人なんて世界中にいくらでもいるだろうに。せっかくエジプトの王族に見初められたのに断っちゃうし、なんだかなぁ。

 

 まあ、それで諦めるどころかさらに熱を上げて、アレクサンドリアの一等地に土地まで用意したあの王子様はすこぶるキてるなとも思うけど。

 ただ、それをそっくりそのまま商店に使うショシャナの神経はだいぶ図太い。不敬罪で死刑が普通にあり得るこの時代に、よくもまあそんな大胆に行動できるものだ。わたしにはとてもできない。

 

 いやうん、つまり彼女の中ではこの世のものはわたしか、わたし関係か、それ以外かの三種類しかないんだろうね。わたしはとっても複雑だ。

 

「……まあでも、これでスーパーエイジャの情報も手に入りやすくなるかな」

「……アルフィー様にやれと言われれば、これからも私やりますけど。でも本当に赤石探し続けるんですか? まったく、アルフィー様に一万年以上こんな苦労を強いるなんて、あんな男早く死ねばいいのに」

「く、くれぐれも言葉は選んでね……」

「善処します」

 

 ショシャナはやたらカーズ様への風当たりが強い。わたしをお説教したことがよっぽど頭に来たんだろうけど、だとしてもあのラスボス相手によくそこまで言えるよなぁ……。

 本当、あの誰にでも怯えてた子がここまで図太くなるなんてね……あの頃が懐かしい……。

 

 ちなみになんだけど、彼女にわたしの本当の目的は言ってない。もちろん他の人間にもまったくだ。

 だけどそれとは別のところで、カーズ様と敵対する覚悟を勝手にいつの間にか固めてた彼女にわたしは苦笑するしかない。これが黄金の精神ってやつか……いや違うか。

 

「いやホント、マジでやめてね。フリでもなんでもなく。ショシャナが殺されるなんて嫌だからね」

「わかってます、しないですよ。アルフィー様に迷惑がかかることなんて私しませんから」

「じゃなくってさ。ショシャナが殺されるなんて普通に怖いからやめてって話なんだけど」

 

 どうせ寿命に大差があるんだから、せめて逝くときは寿命であってほしいんだよ。

 素直にそう思えるくらいには、わたしだってこの子には情があるんだ。毎日ストレートに愛をぶつけられてたらまあ、そりゃあね。

 

「アルフィー様が私を心配してくださってる……!?」

「そこ泣くところじゃないでしょ!?」

 

 ダメだこいつ……早くなんとかしないと……。

 これでこの子大丈夫かなぁ……。情報網の構築もある程度できたことだし、わたしこのあとしばらくアメリカ大陸に帰省する予定なんだけどな……。

 




当たり前と言えば当たり前だし、仕方ないと言えば仕方ないんだけど、ショシャナが一瞬で三十代になったことを一番嘆いてるのは作者です。
ずっと幼女のままでいてほしかった・・・(血涙

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