ひとまず今後もGLタグはつけないで行こうと思います。
変身したショシャナが暴れるたびに、人々の悲鳴が上がる。
暴れる、と言っても本気で殺すつもりでやってるわけじゃなくて、少し転がしたり、クッションになるようなものに向けて投げたり撃ったり、あとは壁をぶん殴って破壊してるくらいなんだけど。何せ見た目が見た目だ。
何より一撃で粉砕される壁、という絵面が人々の恐怖を煽るんだろうね。わたしも前世時代にああいう存在と出くわしたら、正気でいられる自信がないもん。
あれで吸血鬼としての能力まで使ったら相当な騒ぎを起こせるだろうけど、それはやりすぎになる。小心者のわたしは死者はおろか怪我人だってできるだけ出したくないから、それはしないようにってショシャナには伝えてある。
まあ、元々そっちの力は使わないようにって言ってあるんだけど、今回はカーズ様も下手に騒ぎを大きくしないように言ってきてるしね。どっちにしてもナシってわけだ。
そんな様子を高所から観察しつつ、周りにもできるだけ目を向ける。ショシャナが暴れるのに合わせて、人々が向かう先を絞るように立ち回ってる半吸血鬼たちが見える。今のところ順調そうで何より。
……なんだけど、
「もう来た……初動が早いなぁ、さすがローマの街中ってことかな」
武装した兵士たちがすぐさまやってきて、ショシャナを取り囲んだ。
彼らは、ショシャナ相手に誰何はしなかった。暴徒を見て、すぐさま攻撃に移る辺り時代を感じる。
とはいえ、普通の人間が槍で突きかかったくらいでショシャナには傷一つつけられない。彼女は避けるそぶりも見せず、すべての攻撃を身体で受けた。
もちろん、それで【ラ・ラガッツァ・コル・フチーレ】の守りを抜けるはずがない。硬すぎたのか、全員が手を痺れさせたようなリアクションをして愕然としていた。
にやり、と。ショシャナの顔が歪んだように見えた。あのスタンドの顔の表情が変わることはないんだけど、なんだかそう見えたんだ。
次の瞬間、ショシャナが前進しながら腕を振るったことで、兵士たちが文字通り宙を舞った。
そこからしばらく、ショシャナの独擅場が続いたけど……。
「来た、波紋使いだ」
彼女の下に方々から急行する、屈強な男たちがわたしの視界に入り込んだ。ただの兵士とは明らかに一線を画する身体つきに加えて、耳に届く独特な呼吸音。波紋使いだ。
「ごめんね……しばらく通せないんだ」
わたしは【コンフィデンス】を出すと、彼らの進路を妨害する形で周辺のものを撃ち抜く。全力でやると普通に建物が倒壊しかねないから、手加減してね。
すると壁とかが崩れて、いくつかの道が使えなくなる。いきなりのことに波紋使いたちが驚くけど、それは一瞬。彼らは気を取り直してすぐに別の道を目指し始めた。
うーん、有能。すぐに意識を切り替えられるなんてすごい。それでいて、妨害を受けてる可能性を考慮して周囲を警戒してる。これはちょっと、工夫したほうがよさそうだ。
わたしは全身の色を、夜闇に紛れるように黒く変えた。これでそうそう見つからないだろう。ついでに、位置も少し変えよう。
「……あっちも順調……なのかな?」
そんなとき、風に乗ってあまりにも凄惨な悲鳴が聞こえてきた。方角的に、カーズ様が向かった先だ。
……うん、まあ、その。つまりそういうことなんだろうね。相変わらず容赦がないなぁ……。
「わっ?」
思わず視線が遠くなったわたしの横を、人間が吹き飛んでいった。ショシャナに飛ばされたらしい。勢いから言って、射出されたのかな。
見ればショシャナは、なんとかたどり着いた波紋使いたち相手にも優位に立ち回っていた。
それも当たり前だ。だってショシャナ、飛べるもん。
【ラ・ラガッツァ・コル・フチーレ】は、堕天使みたいな見た目のスタンドだけど。あの翼、飾りじゃあないんだよね。訓練を重ねた結果、彼女は今や普通に飛べる。
訓練した理由が、便利とか強いとかじゃあなくてわたしと一緒に飛びたい、な辺り相当アレだけど……それはそれとして、肉弾戦で飛べるってことがどれだけ有利かは言うまでもないわけで。
しかも彼女の能力は接触したものの射出なので……こう、そこら辺から拾った石でもあれば一方的に攻撃できるんだよね……はっきり言ってシンプルに強すぎる。
そして波紋は、基本的に接触しないと効果がないので……うん……なんていうか、無双ゲーみたい。あそこだけなんか世界が違う感じする。
「ふにゃあ」
「おや。こんなところにいたら危ないよ」
飛び交う人々を尻目に、これはわたしの出番はないかなぁと思いながらもたどり着いた屋根の上で、丸くなってくつろいでいる猫と出くわした。
こんなときにこんなところでのんびりしてるなんて、肝が据わってるなぁ……。
しかもこの猫、逃げる気配もなく近寄ってきた。随分と人懐っこい猫だなぁ。飼い猫なのかな?
かわいいけど、かといって遊んであげるだけの暇はないわけで。あとから来といてなんだけど、ちょっとだけ横にズレてもらお、
「う゛ぁおッ!?」
どかそうと思って身体を持った瞬間、その手から全身にビリっと衝撃が走った!
「なっ、な、ななな、なぁ〜〜!?」
大慌てで猫から手を離して、さらに距離も取ってから触れた手を見る。その手はじゅくじゅくに溶けかけていて、白煙がうっすらと上がっていた。黒くした肌の色が元に戻ってるのは、ダメージ受けたからだとして……。
これ波紋傷だ!? 猫が波紋を使っただって!? そんなバカな!
混乱しつつも猫に目を向ければ、当の本人はのんきに「なんかあったの?」とでも言いたげに首を傾げていた。
耳を澄ましてみるけど、波紋の呼吸をしている気配はない……ということは、まさか。
「スタンド攻撃を受けている……!?」
い、一体どこから!?
周りを見渡してみるけど、それらしい姿は見えない。いや逃げ惑う人が多くて特定できない、のほうが正しいか。
待って待って、落ち着こう。まずは状況を整理だ。
猫が波紋を使った。これはたぶん間違いない。だけど猫自身にそんな自覚はなさげで……おまけにしている雰囲気もない。
どういうことだろう? 動物を操るとか、変身するとか、乗り移るとか……その辺りかと思うけど、だとしたら波紋の呼吸をしてる様子がないのはおかしいよね……?
で、でも仮にそういう搦め手系の能力だった場合は、遠距離操作型のことが多いはず。もしそうだとしたら……うん、すぐ近くとまではいかないまでも、劇的に離れた場所にいる可能性は低い。はず。たぶん。いたとしても、隠れてるはずだ。
そして事前の調査のおかげで、ローマにいるスタンド使いは似顔絵程度ではあるけど全員顔を覚えてる。誰がどんな能力かまではわからないけど、少なくともシチリアに出撃せず残留した人の顔はわかってるんだ。そこに気配を探る手順も加えれば……。
「にゃあん」
「ひぇっ」
ところが、そんなわたしをよそに猫が近づいてきた。どこまでもマイペースなのはいかにも猫っぽいんだけど、そのまま屈託のない表情でじゃれついてくるのは今はちょっとやめてほしい!
「わぁーっ、ごめんこっち来ないで! 今の君すごく危ないから!」
「ふにゃぁー」
「うひぃー!!」
制止しようにも触ったら波紋だし、殺すなんてできないし、仕方なくわたしは飛び降りてこの場から逃げた。
あーもう、我ながら情けないよぅ! カーズ様に知られたら、お腹抱えて大爆笑されるやつだこれ!
あるいは恥さらしとかってなじられるか! 猫から逃げる柱の一族とか、されても文句言えないけど仕方なくない!?
だってあの猫が宿してた波紋の量、おかしかったよ!? あの猫の身体、
太陽に耐性のあるわたしは同時に波紋にもそれなりの耐性があるんだけど、それをなでるくらいの一瞬のうちにあっさり貫通してくる猫とか、恐怖以外の何物でもないよ!
それにじゃれつかれるとか、死だよ! 死あるのみだよ!!
「うっぎゃあああ!?」
そうやって必死に自己弁護しながらも、ちょうどいい高所を見つけたからそこに着地したら……その瞬間、足から波紋が伝わってきた!
その衝撃はさっきの猫に勝るとも劣らないレベルで……猫と違ってすぐに身体を離せなかったこともあってか、わたしは下半身が一時的に麻痺してそのままそこから落下した。
落下しながらその足場をにらんだけど、全然普通の屋根だった。何の変哲も無い屋根。なんでそこから波紋が伝わってくるんだよぅ!?
いやでも、なんとなくわかった気がする! そもそも波紋は非生物には宿らない。剣とかに波紋を流す技はあるけど、あれはあくまで伝わらせてるだけでとどめておけるわけじゃあないんだ。それはありえない。
ありえないのに今まさにそれが起きてるってことは? きっと普通じゃない力が働いてるんだ。そしてこの世界には、それがある。
スタンド。傍に立つもの、あるいは立ち向かうもの。そこから発現する能力は、この世の物理法則を無視する!
そして今わたしが受けてる攻撃は、たぶん攻撃であって攻撃じゃあない。これは一種の罠と見たね!
波紋を設置する。それも対象は生物、非生物を問わない。たぶん、相手はそんな能力の持ち主なんだ!
「ふぎぇっ」
考察ができたところで、地面に叩きつけられる。くそぉ、波紋の影響もあって治りが悪いせいで普通に痛い!
起き上がる頃には痺れも綺麗さっぱり消えてたけど、痛いものは痛い!
「いっづ!?」
そうしてもしかしてと思いながら、今しがた落ちてきた建物の壁に触ったら……案の定、波紋が流れてきた。
建物全体に波紋を設置ですか!? どんなスタンドパワーしてるの!?
くそう……まさかとは思うけど、行く先々に仕掛けてあったりしないだろうな!? 可能性高そう!
「となると……やっぱ空だね!」
というわけで、わたしは翼を生やして改めて空に浮かび上がる。そのまま最初に陣取ってた場所と同じくらいの高度まで上がって、状況を確認。
少し目を離してたけど……ああ、さすがにショシャナのほうは変わらずかな。無双している様子がよくわかる。
それでもできるだけ死人が出ないようにしてるのは、ちゃんと守ってくれてるようで何より。
となると、問題はわたしのほうだ。ショシャナの【ラ・ラガッツァ・コル・フチーレ】は無敵に近い防御力を持ってるけど、弱点はある。あれは身にまとってるわけじゃあなくて変身してるものだから、かつてわたしが同化できたのと同じように波紋が通るんだよ。
変身中は平常時よりは耐性がついてて、普通の柱の一族くらいの耐性はあるけどそれは吸血鬼よりマシって程度だ。
だから彼女が今わたしが受けたような波紋を受けちゃったら致命傷になりかねない。そうなる前にわたしがなんとかしないと……!
「まずは本体を見つけないと! 話はそれからだよね!」
というわけで飛びながらそれらしい姿を探していると……。
「……! あれだ!」
とあるインスラ(集合住宅)の上層階から、こちらをじっと眺めているやたら大柄なおじいさんがいた。顔の半分を覆うあの火傷の跡……間違いない、スタンド使いとして紹介された一人だ!
……またおじいさんか。太公望みたいな凄腕じゃなきゃいいんだけど、多分そうもいかないんだろうな。
彼はにやりと笑うと、とてもその見た目からは想像できない跳躍力で建物を屋根伝いに移動していく。来るなら来い、ってことだろうか。どこからどう見ても罠だよねぇ……。
でもこのままじっとしてるわけにもいかないか。虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。仕方ない、ショシャナのためにもがんばるぞ。
心の中で自分を鼓舞して、わたしは彼を追いかけ始める。もちろん、ただ追いかけるだけなわけはない。矢を射かけながらだ。
移動もずっと飛んでやってるから、仕掛けられてる罠を踏むことはないはず。空中に罠が仕掛けられてる可能性は排除できないけど……それをされてたら飛ぼうが走ろうが防ぎようがないし、そのときはダメージ覚悟で突っ込もうと思う。
「うーん……当たらないなぁ……?」
周りの家を破壊しすぎないように手加減してるとはいえ、それなりの威力で撃ってるんだけど。軌道も操作して追いかけてるのに。
なんだか不思議な挙動してるんだよね。ふわふわ空中を漂ったり、かと思えばすとんと落ちたり。なんなら近くを通った矢の勢いだけで吹き飛んだりしてる。波紋にあんな歩法(?)なんてあったっけ?
それともあれもスタンド能力なんだろうか? スタンドって一つ一能力で、複数持っててもなんらかの共通点があるものだけど……。もしかして、ただ波紋を設置するだけの能力じゃないのか……?
わたしがその考えに至った、ちょうどそのときだ。おじいさんが足を止めて振り返った。
「……追いかけっこは終わりですか?」
「そうじゃな、これで終わりじゃ」
追いついたわたしの質問には、即答でそう返ってきた。あまりにも自信に満ち溢れた答えと、その体内からずぷりと出てきたリスに似た小動物に、わたしは警戒度を上げる。
周囲は古い神殿まで至っていた。その上に立って、わたしたちは向かい合っている。
古い上に小さくて、少し前に引っ越しがあった神殿じゃなかったっけここ。周囲を見渡しても、特に何か目立ったものがあるようには見えないけど……たぶん、この建物には波紋が仕掛けてあるはずだ。波紋以外にも、何かある可能性は高い。わたしは背中の翼をハチドリのものに変えて、空中にとどまった。
あとはあのリスみたいな……そう呼ぶしかない奇妙ないでたちの小動物は、間違いなくスタンドだろう。尻尾が注射器みたいになっている。それがおじいさんの手のひらにも文字通り
新しく出現したやつもデザインは同じだけど、注射器っぽくなってる尻尾の雰囲気が違う。体内から出てきたのはタンポポの綿毛みたいなものが入ってるけど、あとからパッと出てきたのはバチバチと火花か電気みたいなのが見える。
ここでスタンドを出してきた意図はわからない。だけど、何かをしようとしてるのは間違いないはず。
だからわたしは、【コンフィデンス】を引き絞る。今度こそ逃がさないぞ。
そして先手必勝、矢は一気に六本! 行っけぇー!
「なるほど速くて強い……狙いも正確じゃ。しかし、当たらねば意味はない」
わたしの攻撃を見るのと同時に、おじいさんの体内にあとから出てきたスタンドがずぷりと入り込んだ。
「ッ!?」
すると次の瞬間、おじいさんが二つほど離れた横のインスラの屋上にいた。
なんだ!? 今、一体何が起きたの!? 超スピード!? いやまさか、時間停止!?
大慌てで相手に目を向ける……と、その視線の先、ちょうどわたしたちの間でありながら神殿の屋根の淵のところに、いつの間にか先ほど見たリスっぽいスタンドがいた。その尻尾には、煌々と輝く白い光が入っていて……。
「そして波紋で傷を負うということは……太陽に弱いということ!」
「……!」
「滅せよ吸血鬼! 太陽の光に焼かれて灰になるがよいッ!」
「わあああぁぁぁーーっっ!?」
そのスタンドが、ずぷりと神殿に入り込んだ次の瞬間。その神殿が光り出した。まるで真昼の太陽のような、真っ白な光が湧き上がる。
光を回避するなんてもちろんできるはずもなくて、わたしはそれに呑み込まれたんだけど……痛い痛い痛い痛い! これ、これはただの光じゃあない! 日光だ! やっぱり波紋以外も設置できたんだ!
でもだからって、まさか日光まで設置できるとか思わないでしょ!? この光量、この神殿の近くまで来た時点で大ダメージ不可避じゃあないか!
とにかくここから離れるべく、わたしは大慌てで神殿から離れる。だけど既に翼を維持できなくなっていて、無様に地面に墜落した。
それでも光が収まることはなくて……ああ、これはもうダメだ。身体が石化し始めたのがわかる。食らった日光があまりにも強烈過ぎたんだ。
普段ならもうちょっと耐えられそうだけど、休眠期直前の今はこれ以上は無理だ。さほど時間をかけることなく、わたしは気絶するだろう。
「うう……! ほ、本当に……本当にどこまでも不甲斐ないなわたし……! 何やっても全然だ……!」
地面を這いつくばりながら、思わず自己嫌悪に囚われそうになる。
でもここですんなり終わってたまるもんか! せめて、せめて悪あがきぐらいはっ!
たどり着いたインスラの壁で身体を支えながら、【コンフィデンス】を空に向ける。つがえた矢に描かれた紋様は、雫。
そしてわたしは……トドメを刺すそぶりも見せずに屋根からわたしを見下ろしていたおじいさんを一瞥すると、今生まれたばかりの第四の矢を発射した。
と同時に、わたしの身体を石化が覆いつくして……ほどなくして、わたしの意識は闇の底へと落ちていった。
噛ませ犬役を与えられる主人公がいるらしい(すっとぼけ