転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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12.同盟結成

 ジョナサンの質問に答えるべきか?

 少し悩んだけど、これは答えるべきだろう。元々、彼には話をするタイミングをうかがっていたところなんだ。人間では説明のつかないことを目の前でした以上は、下手にごまかさずにここで言うべきなんだと思う。

 

 まあその前に、彼は事情聴取でしばらく身動きが取れなくなったわけだけど。

 わたしは変身してたから、この場にはいないことになっている。だからお先に失礼して、去り際にルベルクラクまで来てもらえないかとお願いした。

 幸い彼は警戒しつつも頷いてくれたので、わたしは内心ちょっとうきうきしながら出迎える準備をすることにした。

 

「……アルフィー様、なぜあのようなことをなさったのですか?」

 

 同じく事情聴取を受けていたものの、色んな理由で一足先に解放された伯爵が問うてきた。

 その意図が読めなくて、わたしはおうむ返しに聞き返す。

 

「あのようなことって?」

「正体が露見するようなことをしてまで、なぜ彼を助けたのかということです。ええ、いずれ彼の存在が大きな意味を持つのでしょう。ですがそこまでする必要がありましたか?」

「なぜって……逆に聞くけど、なんで助けないなんて選択肢が出るの?」

「質問に質問を返さないでいただきたい」

 

 言われてやっと意図を理解したわたしは、考えるより早くもう一度聞き返していた。

 そしたらジョジョ特有のレスポンスが返ってきて、思わず笑いそうになった。そんなレスポンス普通ある? 前世じゃあ一度もお目にかかったことはなかったのにねぇ。やっぱりここはジョジョの世界なんだな。

 

 まあそれはともかく。

 

「目の前で死にそうな人がいて、それを自分なら助けられるなら普通助けることない? それ以上の理由なんてないよ」

 

 真顔でこちらを向いてる伯爵に、わたしは言う。

 

 言いながら、なんとなく思う。これもきっと、わたしを見極めるためにあえて聞いたんだろうな、って。

 

 もちろんジョナサンだったからこそ、あれだけ奮起したってのはある。けれど、あそこにいたのが別の誰かでもわたしは動いただろう。

 偽善でもなんでもいい。ただの自己満足だって言われようが構わない。救われたいから、という自己愛が根本にあることも否定しない。

 

 けれど、それでも。

 

 わたしはあの日、そう生きるって決めたのだ。柱の一族ではなく、人間として生きたいと心が叫んでいるから。

 

「……お考え、よくわかりました。出過ぎたことを申しました」

 

 それをどう思ったかはわからないけど、伯爵は恭しく頭を下げた。

 

「とんでもない。むしろこれからも、何か思うところがあったらどんどん言ってほしいな。わたしなんて間違ってばかりだもん」

「知の神ともあろうお方がそうご謙遜なさらずとも」

「本気だよ? そもそも神様なんて、わたしには荷が重いよ。人の上に立つ器でもないし……」

 

 この点に関しては、わたしより間近でわたしを見てる伯爵たちのほうが実感としてあるはずだ。じゃなかったら、あんな会話はしなかっただろうしね。

 

「……そうですな。申し訳ないですが、普段のアルフィー様を見ていると子供を見ている気分になるときがあります」

 

 そう思ってたら、そのものズバリとばかりに指摘された。思わず笑っちゃったよ。

 

「でしょ? だから伯爵、遠慮しなくていいからね。言いたいことがあったら、どんどん言ってほしい。今はわたしが養ってもらってるんだしさ」

「畏まりました、そのように」

 

 伯爵はそう言って、もう一度頭を下げた。そして頭を上げるなり、改めてとばかりに口を開く。

 

「では早速お聞きしたいのですが……アルフィー様は、ジョースター卿にどこまで話されるおつもりですか?」

「ほぼすべてかな……」

「そのお心を教えていただいても?」

 

 再び伯爵から真顔を向けられる。今度は探る視線を隠していない。

 カーズ様とかなら機嫌を悪くしそうだけど、わたしはむしろ嬉しい。やっぱりわたしは、神様になんて向いてないなって確信するよ。

 

「うーん……うん……もうこの際だしいっか。あのね。わたしはね。()()()()()()()()()()()()()()()()

「は!?」

 

 おっと、ものすごく驚かれたぞ。今までなんだかんだで取り乱すことのなかった伯爵がここまで驚くなんて、これはよっぽどのことなんだろう。

 

 でもそりゃそうだろうな、とも思う。だってカーディフの地下礼拝堂にあったものは、わたし以外の柱の男たちも神として崇拝されていたことを物語っている。

 おまけにあの絵や彫刻は、常にカーズ様が一番上として扱われていた。わたしはワムウよりかは上に据えられていたけど、カーズ様からしたら明確に格下だった。

 そんなものを崇めている人に対して言うこととしては、甚だ不適当だろうなって思うよ。

 

 でも、わたしは知っている。知ってしまっているんだよね。

 

「な、なぜ、そんな、ことを……!? 今ご自分が何を口にしたのか、ご理解しておられるのか!?」

「もちろんだよ。むしろわたしは、なんでカーズ様たちが崇められてるのかがわからない。だってカーズ様にとって人間って、餌か家畜だよ? それもサンタナと違って、理不尽に殺しにくる人なのに」

「……それは」

「二千年前とか、ローマに攻め込むときに囮用に街一つ吹っ飛ばそうとしたくらいだもん。将来邪魔になりそうなら子供でも容赦ないし……それに……」

 

 わたしはそこで一度言葉を切る。

 どうしようか、とも思ったけど……これを言ったからには、もっと踏み込んでもいいだろう。そう思って、続きを口にする。

 

「……それに、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……いきなり何を仰るかと思えば。そのようなことは……」

「隠さなくてもいいよ、あの日の会話は聞こえてたから」

「……失礼を承知で申し上げますが、聞き間違いでは?」

「だよね、そう来るよね。まあ、それでもいいよ。ともかくカーズ様たちに人間と共存する気はないんだよ。目的のためには手段を選ばず、どんなに残忍なことだって平気でするもの。でもね、それがわたしには耐えられないんだ」

「……と、いうと?」

 

 あ、伯爵、今明らかにほっとしたね。ものすごく巧妙に抑えられてたけど、聞こえたよ。

 まあ、それを指摘して話を蒸し返すつもりもないからいいんだけど。

 

「……わたしさ、人を殺すの嫌なんだよね。カーズ様といると、それをやらなきゃいけない。今までだって、かなりの人を殺してきた。わたし、それが耐えられないんだ」

 

 今でも覚えてる。殺さないでって嘆願する人たちの必死な顔や、声を。それが聞き届けられないと知ったときの絶望した顔や、声を。

 

 この身体の記憶力はすごい。もはや一万年以上前の前世の記憶すら、色あせることなく覚えていられるほどには優秀だ。

 でもそれは、忘れられないってことでもある。普段は考えないようにしてるし、実際忘れるに近い状態まで持っていくことはできるよ。

 けれど完全には忘れてはいなくて、何かあると思い出すんだ。そのたびに胸が苦しくなる。

 

 したくてしたわけじゃあないけど、それでも実際にやったのはわたしで……。そう思うと、心と身体が痛むんだ。

 ブッダに諭されて、生き方を決めてからは落ち着いてるけど。それでも忘れたわけじゃあない。

 

「……だからわたし、決めたんだ。いつかカーズ様を倒すって。人間と一緒に生きていくためには、それしかないって」

 

 そう締めくくって、伯爵を正面から見据える。……と言っても、身長差がすごいからわたしは見上げる形になってるけど。

 けれどその顔は、驚きながらもどこか納得したような顔だった。

 

 彼はそうしてしばらく考え込んでたみたいだけど……やがて、普段わたしには絶対見せないニヤリとした黒い笑みを浮かべて、口を開いた。

 

「……なるほど。アルフィー様、あなたは知の神ではなく、プロメテウスやグリゴリの類だったわけですな?」

「うーん、盗人とか堕天とかの扱いはなんだかちょっと。どっちかって言うと、邪神側から主神側に寝返った悪魔、くらいのポジションだと思うよ?」

 

 その言いように即答して、わたしも薄く笑う。

 

 それが何やらツボだったのか、伯爵は声を上げて笑い出した。そのまましばらく笑って、笑って……笑い終わってから、彼はわたしの前に膝をついた。

 今までの、ひざまずくようなやり方じゃあない。どちらかというと、対等の相手にするような、そんな形で。

 

「失礼。確かに、我々はもはやあなた方に対する信仰を大部分失っている。あなたに対してはそうでないものもそれなりにいるが、少なくともわたしはあなたのことも崇めてはいない。ゆえにこそ、神話から脱却したいと願うのだ。あなたは神として祀られながら、それを許容すると仰るか? あまつさえ、手すら貸すと?」

「もちろん。そのときはぜひ、わたしを神様じゃなくて普通の人と同じように接してほしいな」

「即答と来たか。本気なのだね。本気で神であることを捨てると。よろしい。ならば……我らルベルクラクの忠誠は、今しばらくあなたに預けておきましょう」

「えぇ……そこは対等には接してくれるところじゃないの? こう……『手を組もう』とか、そんな感じでさ」

「そのつもりだったのですがねぇ。今日のあなたの戦い……短い間ではありましたが、あれを見せられてしまうといやはやどうもね。まだ我々はあなた方には勝てそうにないと思ってしまったもので」

 

 ひざまずく形に移行しつつも、あまりにもあけすけとした言い方に、わたしはまた笑ってしまう。

 

 何それ、現金。でもまあ、人間ってそういう生き物だよね。それがたまらなく愛しく思えてしまった。この人、わたしの性格把握してるなぁ。

 

 ()()()()()()()

 

「ふふ……それならわたし、みんなが忠誠を捧げるのに相応しい人間になれるようにがんばるよ」

「ええ、そうしてください。今のままでは、カーズ様……いえ、カーズを倒すくらいまでしか続きそうにありませんからな。ぜひとも精進していただかねば」

「うん、がんばる。……じゃあ伯爵、改めて、これからもよろしくね?」

「こちらこそ」

 

 かくしてわたしは、伯爵と握手を交わした。

 今ここに、ルブルム商会の頃からあった神と人の関係は打ち切られ、新たな関係が始まる。

 

 ……そうであると嬉しい。

 

「さてうまくまとまったところで、アルフィー様。ジョースター卿の件ですが……」

「ああうん。わたしたちが太陽に弱いのは知ってるよね? 波紋がそれと同じ性質ってことも」

「もちろんです。なるほど、彼をカーズにぶつけると?」

「うん。正確には彼ら、かな。波紋戦士はこの時代にも残ってるからね。ジョナサンはそのリーダー格、ってところかな」

「結構です。それならば我々から言うことはなさそうですね」

 

 顎に手を当てて頷く伯爵。

 

 と、そこにノックの音が響いた。

 

「旦那様、ジョースター卿がいらっしゃいました」

「おお、ちょうどよかった。すぐにお通ししなさい。くれぐれも失礼のないようにな」

「かしこまりました」

 

 どうやら、ジョナサンが来たようだ。

 

 さて、ここからがまた一つの正念場かな。とりあえず、わかりやすくわたしは元の姿に戻っておくだけでなく、角もしっかり出しておこう。これなら明らかに人間とは違うってわかるだろうし。

 

「ルベルクラク卿、失礼します」

 

 そして使用人に案内されて、ジョナサンが室内に入ってきた。

 彼は軽く目礼をしたあと、こちらへ、と椅子を勧める伯爵に従いながら……わたしを見て、一瞬動きを止めた。

 

「ジョースター卿、よくお越しくださいました。わざわざ我が家まで御足労いただき、恐悦至極」

「いえ、とんでもない。僕としても、一度ご挨拶には伺わねばと思っていたところです」

 

 とまあ、そんな迂遠なやりとりはともかく。伯爵も早めに切り上げて、どうぞとわたしに話を振ってきた。

 

 ジョナサンからの視線を受け止めながら、わたしは胸を張る。

 

「改めて、自己紹介させてください。わたしの名前はアルフィー。あなた方が柱の男と呼ぶ一族の一人であり、あなた方がローマで監視している三人の仲間です」

 

 そしてそう言った瞬間。ジョナサンの視線が鋭くなった。

 

「けれど安心してください。わたしはあなた方と敵対するつもりはありません」

「……どういうことだい?」

「単刀直入に言えば、わたしは彼らの裏切り者、ということですね」

 

 裏切り者、という言葉にジョナサンの眉が動いた。彼にとってはあまり喜ばしくない言葉かもしれない。

 

 けれどそこは見なかったことにして、わたしは説明する。内容は、おおむね伯爵に語ったのと同じようなものだ。カーズ様のやっていることに耐えられなくて、人と同じように暮らしたいから、というね。だから詳しくは割愛。

 その間、ジョナサンは何も口を挟まなかった。ときおり様子をうかがっていたけど、そのたびに続きを促されたから最後のほうはとまることなく話し続けることになった。

 

 そしてひとまず区切りをつけたところで、彼はようやく口を開く。

 

「……なるほど、話はわかったよ。そうか……つまり君は、身体は柱の一族かもしれないが、魂が人間なんだね」

「……ッ」

 

 思わず言葉に詰まった。まさかかつてブッダに言われたことを、もう一度聞くことになるとは思ってなかった。

 けどそれがなんだか嬉しくて、思わずわたしは表情を崩す。

 

 そしてジョナサンは、やっぱり紳士だ。わたしの変化を見て、慮るように声をかけてくる。

 

「ひょっとして、今の表現はまずかっただろうか?」

「いえ……むしろ逆です。わたしの在り方を人間って言ってくれたことが嬉しくて」

 

 だからそう返したら、彼は一瞬驚いた顔を見せたけど……すぐに優しく微笑んでくれた。

 

 そんな彼を見て、わたしは居住まいを正す。

 ジョナサンもまた、わたしの態度に表情を引き締めた。

 

「……ジョースター卿。そういうわけです。どうかわたしと一緒に、彼らと戦ってください」

「本当にいいのかい? 確かに僕たち人間と彼らは、悲しいことに生存競争をする定めにあるのかもしれないが……かといって、君にとっては長年共に過ごした仲間だろう? いや、よしんばそれを承知しているとしても……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ああ、やっぱりジョナサンは優しい人だ。カーズ様たちとの戦いを予期しているなら、使える戦力は手元に置きたいはずなのに。

 なのに彼は、わたしの心配をしてくれている。同じ時間を生きた仲間を殺すのに手を貸すことに対する罪悪感や、同族が自分だけになる孤独感をあり得るものと気づいていて……だからこそ、そこを指摘してくれる。これを優しいと言わずしてなんと言おう。

 

 彼の言っていることは正しい。そして、器の小さいわたしはそれを気にし続けるだろう。ならば、元の道に戻ることだって十分選択肢の一つになり得る。

 けれど結局、わたしはどちらを選んでも後悔するのだ。間違いない。わたしはそういうやつなのだ。

 

 それに……たぶん、わたしは一人にはならない。この世界のサンタナは……きっと、わたしと一緒にいてくれるはずだから。た、たぶん。

 

 だから。選ぶなら、わたしはもう、人を殺さなくてもいいほうを選びたい。

 

「覚悟の上です」

 

 だからわたしは、真正面からジョナサンに答える。

 

 わたしたちはそのまましばらく、黙って視線を合わせ続けた。まるで視線で言葉を交わすような感覚がした。

 

 そうしてどれくらい黙っていただろう。けれど、ジョナサンがそれを破った。

 

「……わかった。君の覚悟、確かに受け取ったよ。こちらこそ、ぜひとも君の力を貸してほしい」

 

 言いながら大きく一つ、頷いて。

 彼はわたしに、その大きな手を差し出してきた。

 その意味するところを理解して、わたしも手を差し出す。まるでサイズの違う二つの手が、しっかりと重なった。この手はしばらく洗わないでおこう。

 

 直後、そこにもう一つ手が伸びてきた。今までわたしたちの会話を黙って聞いていた、伯爵のものだ。

 思わず、といった具合にわたしとジョナサンの視線が彼に注がれる。

 

「その話、我々ルベルクラクも入れていただきたく。我々もまた、柱の一族を打倒せんと願うものでしてね」

「ルベルクラク卿。ではやはり、あなた方は」

「ええ。古の時代、彼ら柱の一族に仕えていたものの末裔ですよ。ですがそれは正しくない。我々は、アルフィー様に仕えていたのです。彼女以外の神々は、元々必要がありませんでした」

 

 彼はにやっと笑いながら言う。

 

「そのアルフィー様は、人としてありたいと願われた。ならば我々は、神話が終わりを迎えるそのときまで……あるいは迎えても。彼女をお支えする次第です」

「……わかりました。共に力を合わせてがんばりましょう!」

 

 最後は伯爵においしいところを持っていかれたような気もしたけど、ともかく話はまとまった。

 

 カーズ様たちが目覚めるまで、あと四年と少し。カーズ様……手向かいさせていただきます!

 




ジョナサンが なかまにくわわった!(例の効果音

自分で書いておいてなんだけど、この一文めちゃくちゃ頼もしいな・・・。

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