転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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14.三歩進んで二歩下がる

 突然だけど、イタリアのローマや日本の奈良みたいな歴史のある街は、迂闊に開発ができない。なぜなら、ちょっと地面を掘ると何かしら遺跡が出てきて、そのたびに作業の中止を余儀なくされるからだ。

 

 何が言いたいかというと、遺跡というのは大体地下にあるってこと。これはつまり、放棄された施設や設備というのは、月日と共に降り積もる砂や土の積み重ねによって次第に埋まっていくからなんだけど……それが今回探している隠し宝物庫にもばっちり当てはまったらしい。

 

 つまり場所の特定はできたのはいいけれど、肝心の宝物庫は完全に地面の下に埋もれてしまっていたわけだ。これには参ったよね。

 仕方ないから掘り起こすことになるわけだけど、紀元前ならともかく二十世紀に勝手にその辺の土地を掘り起こすわけにはいかない。しかるべきところに申請して、許可を得る必要がある。

 

 まあこの時代のエジプトは一応独立国家ではあるけど、ほとんどイギリスの支配下にある。なので申し訳ないけど、元宗主国の権限を振るわせてこの辺りを買い上げることになった。そのうえで発掘作業を始めることになってしまった。すごく手間!

 

 でもね、元歴史学を修めていた身としてはね、こうして発掘作業ができるのは素直に嬉しかったりする。発掘作業をする羽目になった傭兵の皆さんにはちょっと申し訳ないなとは思うけどね。

 

 前世でわたしがやってたのは歴史学の中でも主に民俗学(文化や風俗、習慣について)で考古学ではないんだけれど、そこはジョナサンが書いた論文や学術書を引用する形でなんとかした。

 それでも慣れないことをやってることには変わりがなくて、最初はあんまり進まなかった。わたしは種族スペックのごり押しですぐに慣れたんだけど、やっぱり傭兵たちがどうしても、ね。いきなりやったこともなければ興味もないことをやらされてるわけだし、仕方ないとは思うけども。

 

「……ヒトラー首相に大統領の職能が付与される、か。歴史にいわく、総統閣下の誕生ってわけだ」

 

 そんなある日。発掘作業の休憩中に、ためこんでいた新聞を一つ一つ読みながら、わたしはひとりごちていた。

 

 そう、然る八月十六日、遂にナチスドイツにアドルフ・ヒトラー総統が誕生した。表側の歴史は、やはりおおむね前世通りに進んでいるみたいだ。

 

 逆にわたしのほうは、あんまり順調じゃあない。二か月近くかかっても目的の入り口まで到達できてないんだよね。これがあとに響かなければいいんだけど。

 

「今まさに歴史が動いてるなぁ……この辺りの記事はスクラップにしておこう。総統閣下シリーズがはかどるぞ。……それはいいんだけど……うーん、ドイツとサンタナ王国が技術に関わる協約を締結、か……」

 

 別の新聞を手に取って、うなる。

 

 サンタナ王国の王様はサンタナを殺す手段を探しているみたいだけど、ここでドイツと手を結んだか……。

 ドイツはドイツで既にローマでカーズ様たちを発見しているわけで、歴史の裏舞台で利害が一致している両国が接近するのは時間の問題ではあったろう。それにしたって、ヒトラーの権力が確立すると同時に締結とは、いくらなんでも早すぎる。これは前々から水面下で話が進められてたやつだろうな。

 

 うーん、サンタナ大丈夫かなぁ。機関銃程度じゃわたしたちは殺せないけど、何せあのシュトロハイムを作るのがナチスドイツだ。紫外線照射装置だって、小型化はSPW財団だけど大元はナチスドイツが作ったものだし、心配だ。

 やっぱりサンタナが起きるところには、わたしが行ってあげたいな。そうでなくても久しぶりに会いたいもの。

 

「アルフィー様! 入り口が見えました!」

「んんっ!? ホント!?」

 

 新聞を前に腕を組んで唸ってたら、慌ただしくテントに跳び込んできた傭兵の言葉に椅子から転がり落ちそうになる。

 これはのんきに休憩してる場合じゃあないぞ!

 

「案内お願い!」

「ハッ、こちらです!」

 

 そのまま発掘現場に案内される。

 それなりに広くスペースを取った上で、真下に掘り下げられた穴の奥に下りていく。そこからさらに奥に進めば……。

 

「おお……すごい、これはいかにも遺跡な感じだ……!」

 

 わたしの前に現れたのは、巨大な石造りの壁と扉だ。まるでインカ帝国の石積みのように、ぴったりと閉じられた扉が高い技術力を感じさせるね。石の種類には詳しくないから、見ただけで何でできてるかはわからないけど!

 

 というか、完全に発掘されてるじゃあないか。頭のほうが見えてきたとか、そういうんじゃなくて。そこまで気を使ってくれなくてもよかったのに。

 

 ……ん? でもこの扉、取っ手の類がどこにもないな。それらしいものがついていた形跡っぽい穴はあるけど、球形のようなものをはめ込めるような感じのくぼみだ。しかも大きくない。これじゃあ手どころか指だってあんまりひっかからないよ。

 

「どうしましょう?」

「うーん、とりあえずわたしがやってみるよ」

 

 ぐにょり、と手の形を変えて、取っ手(?)の跡に滑り込ませる。我ながら人間離れしてるなと思うけど、こういうときは素直に便利だ。周りはルベルクラクの人しかいないから、こういうことしても問題にならないのは気が楽だよ。

 では動かしてみよう。

 

「んぐぐぐぐぐ……!」

 

 どう動かしてもびくともしない! そんな気はしてたけど!

 

 ていうか、この形状だと引き戸だったらどうにもならないぞ。引っ張れないもの。

 

「……うーん、わたしは一族でも非力なほうだけど、それでもただの石の扉なら開けられるはずだけど。鍵でもかかってるのかな?」

「かもしれませんね」

「でも鍵穴とかそういうの、見当たらないですよね……?」

 

 言われるまま改めて壁を上から下までじっくり眺めてみる。くぼみ的な穴なら上と下にもあるけど、鍵穴ではないだろうし。それらしいものは何にもない。

 

「……うーん」

「爆薬の用意ならありますが」

「それはダメ! 遺跡はできる限り保全したいもの!」

 

 なんて物騒なことを言うのやら。

 どんなものであっても、当時の様子は可能な限り残しておかないとだよ! シュリーマンじゃあるまいし、発掘のために破壊するとかそんなの許されることじゃあないんだよ!

 

 ……とはいえ、それは最後の手段として選択肢に残っている。恐らくここにスーパーエイジャがあると知れば、カーズ様ならまず間違いなくなんの遠慮もなく破壊して中に入るだろうからね。そんなことをされるくらいなら、最小限の破壊で留めるためにわたしが自分の手でやるしかない。

 

 でもそれはしたくない。

 かといって、この大きさだと【スターシップ】には収納できないだろうな。サイズ的にアウトか、重量的にアウトかまではわからないけど。あるいはどっちもか。

 

 え、如意転変? いや、あれは液体や気体には変身できないから、カミソリ一枚も入りそうにないこの扉には入り込めないね。

 だからまずは正攻法を調べるしかないだろう。

 

 

「【ネヴァーフェード】」

 

 ということで、出番だ第四の矢!

 わたしは【コンフィデンス】を構えて、雫の紋様が刻まれた矢をつがえる。それを扉に向けて発射して……記憶を取り出した矢を自分の頭に刺す!

 

「むむむ……」

 

 するとすぐに記憶が流れ込んでくる。それを参考にすれば開け方だって……。

 

「……えっ、めんどくさい……」

 

 えっ、めんどくさい。思わず口でも内心でも言っちゃうくらいにはめんどくさいぞ!

 

 扉の一番上に目を向ける。そこには、さっきも眺めた穴が開いている。穴と言っても遺跡の中に繋がる穴じゃあなくて、扉にもあるくぼみだ。

 続いて扉の左右を見る。今しがた取っ手の跡だと思って手を入れた、くぼみがある。

 さらに扉の下部分。上のほうにあるくぼみのちょうど真下にも、同じようなくぼみがある。

 

 どれも同じようなものだけど、地味に少しずつ形が違う。つまり一つ一つが違うものをはめ込むもので……。

 

「……アルフィー様?」

「あのね。あそこと、ここと、それとここにくぼみがあるでしょ?」

「ありますね」

「この合計四つのくぼみに、正しい鍵をはめ込むと開く準備が整うみたい」

「はあ……?」

 

 うーん、なんていうか随分とRPGみたいな扉だな……。ルージュフィシューは何を思ってこの仕掛けを作ったんだろう……。

 

 おまけにあれだ。ここにきて、振り出しに戻った感じするぞ!

 

「……で、このくぼみにはめ込む鍵とやらは……?」

「……どこにあるんだろうねぇ?」

 

 ってことだよ!

 スーパーエイジャを手に入れるために発掘した遺跡に入るために必要な鍵を探すために他の遺跡に入るために必要な鍵を探すために……とかってエンドレスしないだろうね!?

 

「……とりあえず、描くか。紙とペンくれる?」

「はい、どうぞ」

「ありがとう。よぉし」

 

 自分に取り込んだ記憶を基に、そのイラストを描くとしよう。大昔からやっててよかったスケッチ。

 

 しゅしゅしゅしゅしゅ……っ!

 

「……こうして絵にすると、改めてRPGっぽいな……」

 

 やがて仕上がった四枚のイラスト。それは、四つの丸い赤石だ。色はつけてないから、ぱっと見は赤くないけど。

 

 ただし、それぞれに違う形の紋様が刻まれている。それで指定の位置を判断しているんだろう。よくよく見ると、くぼみの中にはその形の出っ張りがある。そこに紋様を当てる形ではめ込むようだ。

 

「……で? これが今、どこにあるって……?」

 

 思わずつぶやいたけど。

 これ、振り出しどころかマイナスになったのでは……? 探すべきものが四つに増えてるんですけど!

 

「……とりあえず、くぼみを型取りして模型作ってみるかなぁ。完全にダメ元だけど……」

 

 ちら、と扉の上にあるくぼみに目を向ける。そこには、太陽のような模様が浮き出ている。

 

【ネヴァーフェード】で見た記憶通りなら、この仕掛けはただはめ込むだけじゃ動かない。すべてはめ込んだ上に、さらに太陽の光を取り入れて赤石にそれを増幅させることでようやく扉が開く仕掛けになっているんだ。だからただの模型じゃあ動かない。

 でも、試してみても損はないだろう。もしかしたら、っていうこともあるだろうしね。

 

 

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 闇に包まれた空間に、一つの灯火がある。それが作り出す光はあまりにも頼りなく、今にも消えてしまいそうにも見えるほどだ。

 しかしここにいる二人にとっては、その程度の明かりでも問題はないようだった。いずれも明るさなど気にした風もなく、話をしている。

 

 と。

 

 そこに、きしむ音を響かせて空間に光が差し込んできた。扉が開かれたのだ。そこから月のさやかな光が差し込んできている。

 二つの視線がそちらに集中する。それを平然を受け止めながら、新たに二人が入ってくる。

 

「……遅かったわね」

 

 扉が閉まる音と共に、先にいた二人のうち大人の女――東洋系の顔だ――が口を開いた。

 それに対して、後に入ってきた二人のうち前に立っていたほうの男が答える。

 

「すまんな。何分エジプトは遠くてな……しかし収穫はあったぞ」

 

 ()()()()()()()()()()()、男は笑う。マントにつけられたフードを外して現れたのは、スラブ系の顔立ちだった。

 

「ということは?」

 

 女がさらに問う。

 

 男は彼女に、連れていたもう一人の男を示して見せた。

 これを受けて、示された男もフードを外しながら大きく頷いて見せた。こちらは、ゲルマン系の顔立ちである。

 

「はい、()()()()()()()()()()()()。ようやくお目覚めになられたようです」

 

 その答えに、女がおお、と感嘆する。今まで口を開いていなかったほうの先客……小柄な少女もまた、嬉しそうに顔をほころばせていた。

 

「ではやはり、最近になってルベルクラクの動きが活発化していたのは、そういうことなのね」

「だろうな。喜ばしいことだ。しかし、いつまでも彼女をルベルクラクに任せておくのも癪な話だ」

「けれど、ある意味では仕方がないわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のですものね」

「だが、今しばらくの辛抱だ。どのみちスーパーエイジャに至るために必要な鍵の所在は、我らにしかわからんのだ。焦ることはない」

「そうね……私たちはそれをゆっくりと回収していけばいいだけだわ」

「あまりゆっくりはしておれんぞ? アルフィー様が目覚められたということは、カーズ様たちの目覚めも近いということだからな」

「わかっているわ。スーパーエイジャの回収はそれまでに、よね」

 

 改めて、女と男は頷き合う。

 

「担当は今まで通りでいいな?」

「ええ。私たちにヨーロッパの土地勘はあまりないもの。こちらはあなた方に任せるわ」

「うむ。ではアジアのほうはお前たちに任せよう」

 

 そうして二人は握手を交わす。

 それから、胸元から取り出した逆十字を眼前にかざし合う。中心に、赤い宝玉があしらわれた逆十字。

 二人の近くに控えていた少女と、もう一人の男も同様に続く。

 

「「「「我らルージュフィシューに、神々の加護があらんことを」」」」

 

 四人の唱和が、その空間に響く。

 

 ひび割れた赤い宝玉が、現代に再び現れようとしていた――。

 

 

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「……やっぱり模型じゃあダメか」

 

 知ってた。そりゃそうだ。

 

 はあ……まったく厄介な仕掛けを施してくれたものだなぁ。

 これ、どうもはめ込む赤石が増幅して放射する光のパターンで鍵の認証してるみたいで、別の赤石に紋章を刻み込んでも作動しなさそうなんだよなぁ。

 

 というのも赤石は、ものによって光をどう増幅するか、どれくらい増幅するか、そしてどこから射出するか、どのように射出するかが微妙に違ってくるのだ。

 スーパーエイジャは曇りも不純物もないから確実に一条の光線を発射するけど……普通の赤石じゃあそうはいかない。その性質を逆に利用した仕掛けだ。よく考えられてるし、よく作り上げたものだ。千年以上前のものだっていうのに、素直に感心するよ。

 

 でも開ける側としては面倒極まりない。絶対に特定の鍵となる赤石を持ち込まないと開けられないとか、勘弁してほしいよ。

 

 仕方ない、一旦イギリスに戻って伯爵たちに相談するか……。

 




はい、というわけで今章の大まかな情報が出そろいました。
と同時に、カーズ陣営へのテコ入れもチラ見せ。このままだと明らかに波紋勢に偏りすぎてますのでね、ええ、敵役は増やさないとなという思惑ですね。
彼らの登場は三代目プロット君を代替わりさせるほどのものではないのですが、ぶっちゃけ彼らの去就はまだ二人分しか決めていません。
残りの二人次第では、三代目君がお亡くなりになる可能性も十分にあり得るのが怖い所ですね!

ところでそれはそれとして、遂に話のストックがなくなりました。
なのでこれからまた不定期更新になります、何卒ご容赦ください。

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