転生したら柱の女だった件   作:ひさなぽぴー

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変態を書くのが楽しすぎて調子に乗ってたらいつの間にか9000文字に達してしまった・・・。


30.ホーリー&ブライトとザ・パヴァート 下

 レナータちゃんの悲鳴が聞こえた瞬間、わたしとサチさんは同時に立ち上がった。何かあってもいいように、二人とも耳に意識を集中させてたからね!

 

 ただそれでもほとんど音は聞き取れなかったから、二人して心配してたんだ。距離にしてはやけに小さく聞こえるのは、何かしらの防音設備があると見ていい。

 でも無菌室にそんな設備、必要? いらないよね? ますます怪しい!

 

 だけどそんなわたしたちを、看護師さん……えーと、蒔田さん? が止めに入った。

 

「お二人とも心配なのはわかりますけどぉ、落ち着いてくださいな~。ただの注射ですよぉ~。痛いものは痛いのでぇ、やっぱりどうしても子供さんには嫌われちゃうんですけどぉ~」

 

 ただどうにもその顔は、全力の愛想笑いにしか見えないんだよねぇ……もしかして、二人はグルなのか……?

 

「本当にあの子に何かあったとしたらどうするんですかッッ!」

 

 レナータちゃんを心配するあまり、ヒステリックに叫ぶサチさんは……まあその、一般人が吸血鬼化したとき特有の感情の暴走だろうなとは思うんだけど、今回に関してはサチさんのが正しいとわたしも思うよ。

 

 ともあれ、これだけ前のめりに言い寄るサチさんを落ち着かせるのは至難の業だ。力がどうこうってより、勢いとかそっちがね。ぶっちゃけて言うとめんどい。

 

 なので、彼女が蒔田さんを引き付けている間にわたしは先に行かせてもらおう。

 

 そう思った瞬間、無菌室のほうから大きな衝撃音と、連動して破壊音が聞こえてきた。三人で同時に音のしたほうへ顔を向ける。

 

「ナートチカッ!」

 

 サチさんが、いの一番に飛び出していく。もはや周りは見えていない様子で、吸血鬼としての身体能力を隠していない。

 

「あッしま、ちょ、ちょっとォ! 待ちなさいよアンタ!」

 

 それを、蒔田さんが大慌てで追いかける。

 彼女の様子にやはり不審なものを感じつつ、わたしも続く。まあ、わたしも人間じゃあないので、すぐに追い越したけど。

 

 と、今度は破壊音が聞こえてきた。あれはサチさんの仕業かな?

 

 なんて思いながら、現場に踏み込んだんだけど。

 

「……なにこれ」

 

 そこには、破壊されて解放された扉が。部屋の中ではサチさんが悲壮な、だけど安心した様子でレナータちゃんに泣きついている。

 当のレナータちゃんのほうがよっぽど落ち着いてるまである。まあ安心した様子で母親の身体に頬ずりしてるのを見ると、怖い目に遭ったのは間違いないんだろうけど。

 

 ここまではいい。ここまでは。

 

 問題は、彼女たちから少し離れた離れた部屋の隅。壁の真下で倒れる小田原医師だ。すぐ横の壁には、恐らく彼が激突したであろう人型に近い凹みとヒビ。

 彼は完全に気絶していたんだけど……なぜか下半身を露出させて、仰向けの状態だった。

 

 医師と患者、二人きりの無菌室。片方は男で、片方は幼女。そして男のほうはアレを出していて、幼女のほうは泣いている……。

 

「あ、うん……もしかしなくてもこれ、事案だね?」

 

 誰にともなく聞いておいてなんだけど、間違いないよね。

 

 そうかぁ……そういうことかぁ……わかっちゃったぞ。

 

 さてはあのスタンド、このために使われてたな!? 女の子に取り憑かせて熱を上げて、自分の医院に誘導する。そして治療と称してえっちなことするマッチポンプと見た。

 

 ……えっ、いや、バカなの? そりゃまあ、スタンドでの殺しを生業にしてた【タワー・オブ・グレイ】とかよりはマシだろうけど……それでも性犯罪は心に深い傷をつける重罪だぞ。それをよりにもよって医者がやる? いい加減にしろ!

 

 と、そういう倫理的な話はともかく、まずは小田原医師を縛ろう。本体とスタンドは連動するし、しっかりと。まあ群体型とかだとあんまり意味ないかもだけど、しないよりはね。

 まあ頭には来てるから、縛るっていうより手首と足首を後ろ手に直に連結させたけどね!

 忘れがちだけど、わたしたちの一族って生き物の肉体に直に入り込めるから、その応用ね。原作だとワムウがナチス相手にやってたやつだ。

 

「レナータちゃん、大丈夫?」

「あ、はい……でもごめんなさいアルフィーさま、わたし……」

「いいのいいの。犯罪なんてのはするほうが悪いんだからね」

 

 レナータちゃんは何やら悔やんでるみたいだけど、落ち込んでるわけじゃあなさそうだ。表情はそこまで暗くない。なんていうか、次はもっとちゃんとやるぞ、みたいな決意をした雰囲気だ。

 うーん、いい子だなぁ。なんていい子なんだろう。親のサチさんはちょっとアレなところもあるけど、まっすぐに育ってくれてるみたいでわたしは嬉しい。

 

 だけどそんな風にのんきしてられたのはここまでだった。

 

 わたしの背後で、何かがうごめいた。

 何か、とは言ったものの、その正体ははっきりとわかる。

 

 生き物の気配じゃあない。これは、()()()()()

 

()()()()()!」

「ッ、アルフィーさま危ないっ!」

 

 わたしが迫りくる殺意に反応して身体を翻すのと、そうしていなかったらわたしを貫いていただろう一条の光線がほとばしったのは、同時だった。

 

「うっそおおォォォォン!?」

 

 ざし、と音を立てて着地したわたしが見たもの。

 

 それは、右手を切り落とされて悲鳴を張り上げる蒔田さん……と。

 その前に立つ人型の(ヴィジョン)

 

「……敵は小田原医師じゃあなかったのか」

「うぐ……ッ、く、くそッ! その子! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 滴る血を押さえながらも押さえきれず、うずくまった蒔田さんが眼を血走らせて叫ぶ。よっぽど痛むようで、呼吸がものすごく荒い。今の発言も、ところどころかすれていた。こういうケガをしたことがないんだろう。……いや、普通しないか、こういうの。

 

 ともかくそんな蒔田……に、サチさんがレナータちゃんをかばうようにして立った。

 だけど当のレナータちゃんが、逆にサチさんより前に出てしまう。まだ敵が健在で、身体に受けた熱の攻撃も解けていないはずなのに。

 

「ナートチカ……?」

「ダメ……お母さん、わたしのために無茶しないで! あの人スタンド使いだよ!」

「けれどナートチカ!」

「知ってるでしょ、スタンドはスタンド使いにしか見えないの! だから、わたしがお母さんを守るの!」

 

 まるで駄々っ子のように言うレナータちゃん。

 けれどそれは表面上のもの。彼女の目は、燃えていた。

 

 マジか。

 わたしは素直にそう思った。

 

 そりゃあ彼女は見た目通りの年齢じゃあないけどさ。でも精神年齢は見た目相応のはずなんだけど。

 なのにあなたは、ここに来て戦おうなんて言うの。スタンド使いが蒔田のほうだとするなら、まだ身体の不調だって回復していないはずなのに。

 

 わたしがその境地に至ったのは、さて何歳のことだったやら……。魂の格が違うと言われてるような気がして、なんだか顔が引きつるのがとめられないよ。

 

「ダメよナートチカ! あなたはまだ子供なんだから、そんな危険なことしなくっても! そういうことは大人に任せておけばいいのよッ!」

「ヤだ! だって、わたしさっき失敗しちゃったんだもん! だから戦うの! 戦って、オメイヘンジョウするの!」

 

 おっと。妙な感慨を覚えてる場合じゃあないや。このままだと敵前でスキをさらしまくることになる。

 

「サチさん! 気持ちはわかるけど、レナータちゃんにやらせてみよう!」

「!? アルフィー様ッ!」

「子供を大事にしすぎるあまり、子供の意志を封じ込めるのは絶対にやっちゃあいけないことだよ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! 子供はいつか大人になって、大人は子供より先に死ぬのが自然の摂理なんだから!」

「――ッッ!!」

 

 上位者であり、仕える主であるわたしの言葉に、それでも納得できないのかサチさんが砕ける勢いで歯をかみしめている。

 だけど意思が壊れるところまでは行ってないみたいだ。踏みとどまっている。踏みとどまれている。彼女のタガは――まだ外れ切っていない!

 

「レナータちゃん、わたしが許すよ。何かあってもわたしがフォローする。だから思いっきりやっちゃいなさい!」

「うん! ……じゃなくって、はい!」

 

 わたしの言葉を受けて、レナータちゃんは両手を握ってふんすと返事する。

 

「ふ、ふふ、ふふふふふふ! アタシと同じ力を持ってるなんて……ああ! これはきっと運命だわ! お釈迦様、この出会いに感謝します! さあレナータちゃん、アタシと愛し合いましょぉ!」

 

 右手を失いながらも、いまだ像が一切ブレないスタンドと共に蒔田が立ち上がったのは、ほぼ同時だった。あちらもやる気は十分らしい。

 

 ……やる気、っていうか、なんかこう、ヤる気って感じするけど……え? まさかとは思うけど、この人ロリコンのレズビアン? この医院、地獄か!?

 

 というか、こんな出会いをあのブッダが導いたわけないだろふざけないで! ブッダに謝れ!

 

 だけどレナータちゃんは負けていなかった。気持ち悪い変態の言動にひるみはしたけど、ぐっとこらえて相手を正面から見すえて、自らの半身の名を告げる。

 

「【ホーリー&ブライト】!」

 

 直後、レナータちゃんの後ろにメカニカルな猫が浮かび上がった。

 

 その(ヴィジョン)は。

 

 確たる存在感を持って、レナータちゃんの声に応えた。

 

MЯAAAAAУ(ミャアアアアーウ)!!』

「えぇぇーいっ!」

 

 先にしかけたのはレナータちゃんだ。彼女は本体である自身とスタンド、双方が戦いに向いている。だからこそ、先手必勝で突っ込むのはそこまで悪い選択肢じゃあないだろう。

 

 ()()()()()

 

 確かに、蒔田はレナータちゃんの動きに対応できていない。蒔田のスタンドも、【ホーリー&ブライト】についていけていない。あれはわたしですら目で追うのがやっとの速さで動けるから無理もない。

 

 にもかかわらず、蒔田が動揺した様子はない。そして敗北を受け入れた様子でもない。あれは間違いなく、ダメージ覚悟でカウンターを狙っている……か、もしくは最初から問題ないと判断しているかだけど。

 

「う……っ、ぐ、」

 

 ……どうやら後者のようだ。攻撃をしかけたレナータちゃんとスタンドの動きが、途中で明らかに鈍くなったのだ。

 それでも攻撃をやめず、蒔田に退かせたのは見事な覚悟と褒めてあげなきゃあいけないだろう。蒔田は退いていなかったら、恐らく今ので足の骨を砕かれていただろうから。

 

「さっきもそうだけど、アナタすごいのね? とっくに体温は四十度以上行ってるはずなのに、なんで動けるかしら! 素敵だわ、元気なのね! きっとあっちのほうも元気なんでしょうねぇ、うふ、うふ、うふふふふふ! アナタに愛してもらうのが楽しみよ! 壊れるくらい愛してくれそうで!」

「四十度!?」

 

 ヒートアップする変態をよそに、サチさんが彼女だけ住んでる世界が違うんじゃあないかってくらいシリアスに悲鳴を上げた。

 

 わたしは驚かないけどなぁ。むしろやっぱりなって感じだ。本体とスタンドが目の前にいるこの状況で、攻撃の対象に攻撃――この場合は温度を上げる能力をさらに上積みすることは、想像できるもの。

 たぶん、緑色の赤ちゃんみたいに距離に応じて自動で影響度が変わるんだろうけど、それはともかく。

 

 レナータちゃんがするべきは、まず遠巻きにレーザーで面制圧することだった。確かに触れることが能力発動の鍵になっているスタンドは多いけど、そうじゃあないスタンドだって多いんだ。見た感じ近距離パワー型だし、近づいたのは迂闊だったね。

 この辺りは、経験不足が響いた感じかな。そもそもの話、近距離パワー型でもないレナータちゃんが、スタンドと一緒に前に出る必要はなかったわけだし。

 

 とはいえ、それを責めるつもりはない。次に活かしてくれればいい。大丈夫、わたしが死なせないし……何より、

 

「こ、これくらい、へいき、です……っ!」

 

 レナータちゃんはまだ挫けていない。【ホーリー&ブライト】も、調子は悪そうだけど(ヴィジョン)自体はまったく揺らいでいない。

 

 まあその姿を見るサチさんの顔は、この世の終わりみたいな感じしてるんだけどね……。自分の子供なんだから、もう少し信じてあげよう?

 

「あはぁん! こんなかわいい幼女に切ってもらっちゃった! この傷は治さずにとっておきましょう!」

 

 レナータちゃんが荒い呼吸をつきながらも、手を振るう。いつの間にか爪が鋭利に伸びていて、生半可な刃物よりはよっぽど切れるだろうそれが、蒔田を襲う。

 

 ……襲う? 襲ってるのかなこれ。攻撃を加えてるはずなのに、逆に見えるの何かのバグでしょ。

 いやもうなんていうか、ホンットにひどいね!? ロリコンでレズビアンで、それに加えてドMなのかこの人!? とんだ三重苦があったもんだよ!

 

 どっちにしても、まだまだ油断は禁物だぞレナータちゃん。顔が引きつってるのは、相手が強いからとかじゃあないのは明白だけど。

 

「あっ、それはちょっともらいたくない愛ね!」

 

 急所に放たれた攻撃を、蒔田がスタンドでしのごうとした。致命傷だけは回避するのか。小賢しい人だな。そこはどんな攻撃でも受ければいいのに。

 

 しかしそれは【ホーリー&ブライト】が許さなかった。尻尾を振るってスタンドの腕を打ちすえ、足利二つ引が描かれたスタンドの手を大きくそらす。

 さらにスタンドの注意が【ホーリー&ブライト】に移るや否や、【ホーリー&ブライト】が強烈な光を放った。

 

「きゃ!?」

 

 音はほとんどない。だけどそれは、スタングレネードと呼ぶにふさわしい光量で……スタンド越しにそれを食らった蒔田は本能的に目をつむった。つむってしまった。

 

 このスキを、レナータちゃんが見逃すはずがない。彼女は力を振り絞ると、蒔田の鳩尾目がけて強力なパンチを叩き込ん……

 

「えっ!?」

 

 だはずが、スタンドのよどみない動きでそれを受け止めた。

 人型のそれは、やっぱり近距離パワー型なんだろう。レナータちゃんの一撃を、しっかりと押しとどめている。

 

「うふふふふ、残念でした! アタシはね、()()()()()()()熱でものを認識できるのよ!」

 

 ! なるほど、つまりサーモグラフィみたいに周囲を把握できるのか。熱を操る能力なら、そういう補助的な能力を併せ持っていても不思議じゃあない。変態のくせに無駄に多芸だな!?

 

「でもって……うふふ、これで一旦終わりにしましょ? アタシの愛を受け取ってちょうだい! それで、一緒にキモチイイことしましょぉねぇッ!」

 

 レナータちゃんの拳を受け止めていたスタンドの手。そこにあった足利二つ引がぎゅるんと回転し始めた。

 恐らく、能力をさらに強くしたんだろう。これで終わり、 なんて言うってことは、生き物が耐えられる温度を遥かに超える温度まで上げられるのかもしれない。

 

「アルフィー、さま、まって、ください……!」

 

 一気にそこまでいくとなると、危険だ。そう思って助けに入ろうとしたんだけど、当のレナータちゃんにとめられてしまった。

 

「レナータちゃん?」

「は……ん、ふっ……♡ わたひ、まだ、できますから……! やれます、から……っ!」

「何を言うのよナートチカ!?」

 

 マジか。

 

 改めてそう思った。この子、こんなに根性のある子だったとは……。

 

 いやでも、確かにわたしがスタンドでの戦いを教えたときも、だいぶ食らいついてきたっけか。元々負けず嫌いなのかな。いや、負けず嫌いだからこそスタンドに目覚めるのかもしれない。

 

「……わかったよ」

「アルフィー様!?」

 

 正気ですか、と隣から問われたけど、正気だ。やると決めたらやる覚悟のある人間の決意に、第三者が水を指すものじゃあない。

 

 とはいえ、このままだと危ないのは間違いないだろう。だから、

 

「【センド・マイハート】」

 

 わたしはレナータちゃんに、ハートの矢を撃ち込んだ。わたしの生命力を与える矢。柱の一族と同等の回復力、耐久力を与える矢。

 

 これがレナータちゃんの覚悟に抵触しない、ギリギリの範囲だろう。

 

「一分だよ。それ以上はドクターストップだからね」

「なぁにそれ、かわいそう……矢なんて撃ち込まれて……でも大丈夫よぉ! アタシの力で気持ち良さに変わるからねぇ!」

「はい……【ホーリー&ブライト】!」

 

 わたしからエネルギーを受け取ったレナータちゃんが、相棒を呼ぶ。すると猫の姿のスタンドが、本体を苦しめる敵の言葉を無視してレーザーを放った。

 

 まあ攻撃を見越してか、蒔田のスタンドは一足早く離れたけど……これでいい。今のはダメージよりも、距離を取ることのほうが重要だからね。

 レナータちゃんも追わない。接近は悪手だと悟ったんだろう。レーザーによる制圧に切り替えた。

 

 ただ、やっぱり限界は近いんだろう。ぶるぶる震えていて、荒い呼吸が耳につく。おかげでレーザーと言ってもかなり威力が低くなっていて、あれじゃあとても決め手にはならないだろう。

 

 蒔田のほうもそれに気づいたようだ。ついでに、さっきの目潰しからも回復してきたらしい。嫌らしい色を浮かべた目を、レナータちゃんに向けていた。

 

「うふふ、がんばるわね……いいわね、その諦めてない目、ぞくぞくしちゃう! すき!! でも……そろそろ諦めて、キモチイイことだけ考えましょうよぉ、ねぇ!!」

 

 そして普通にスタンドを前に出して、突っ込んできた。ほとんど守る様子を見せない上に、傷を負えば追うほど恍惚としていく辺り、やっぱこの人ドMでしょ。わたしは何を見せられてるんだ。

 

 対するレナータちゃんは退かない。逃げない。捕まる前に終わりにするとでも言っているかのように、レーザーを収束させて威力を上げた。

 それは確かに蒔田の身体をとらえたけど……敵もさるもの。太ももに大きな穴が空いたのに、最初と違って悲鳴すら上げない。

 

 そして――遂に、レナータちゃんの頭にスタンドの手が触れた。

 

「終わったね」

「ナートチカァァッ!!」

「……!?」

 

 反応は三者三様。

 しかし、納得しているのはわたしだけだった。サチさんは娘の死を幻視したのか絶叫をあげたし、蒔田は……。

 

 ――触れたはずなのに触れた感覚がなくて、うろたえている。慌てて温度感知を行ったみたいだけど、もう遅い。その能力はいい能力だけど、常時展開するものじゃあなかったのが命取りだったね。

 

「ぷが!?」

 

 次の瞬間。蒔田の頭に壊れた南京錠が猛烈なスピードでぶつかり、彼女はそのまま横へ派手に倒れ込んだ。

 受け身も取れずに床を転がった彼女は……ああ、どうやら気絶したようだ。スタンドも消えた。

 

「勝ったね、レナータちゃん」

「は、い……!」

 

 わたしは南京錠が飛んできたほうに顔を向ける。そこには、どこからともなく現れたように見えたレナータちゃんが、ものすごい荒い呼吸をしながらも立っていた。

 

 歯を食いしばって、目には涙をためて、全身びくびく震えていて、足元には雫が滴っている……のは……あー、これ……。

 

 蒔田のスタンド……やっぱりそういうスタンドなのか……。最初は単に、物質の温度を上げる能力だと思ってたけど……完全に薄い本じゃあないか……。

 ただ真面目な話、敵として戦うとなるとわりと厄介だよね……。その、そういう気分になると集中力散漫になるし、一度昇っちゃうとかなり体力使うし、余韻も続くし……デバフとして見るととんでもなくやりづらい。

 

 おまけにそういう感覚になるのなんて初めてだったろうに、よく耐えたなぁレナータちゃん……偉い。戻ったら目いっぱい褒めてあげないとね。

 

 でもこれ、何があったのか詳しいことは教えてないほうがいいんだろうなぁ……。

 

「え!? え、えぇ……!? ど、どういう……!?」

 

 一方、シリアスの世界に置いてけぼりなのがサチさんだ。彼女はレナータちゃんがどうして勝利したのかもまだわかっていないらしい。

 

 仕方ない、説明しておこうか。ついでに蒔田も縛ろう。こいつも手首足首を後ろ手に連結させちゃおう。

 

「……透明化と幻影だよね。周りには【ホーリー&ブライト】を使役しているレナータちゃんの姿を見せておいて、自分自身は透明になって場所を移した。そしてスキを見て適当なものを頭にぶん投げた、と」

「は、い……『その気になれば』、って、言って、たから……わたし、を、見えてるなら、引っかかって、くれる、って、思い、ました……♡」

「いい判断だったと思うよ。あれだけ追い詰められた状況で、それができたなら上出来だ。わたしよりもよっぽどすごいよ」

「で、でも、アルフィーさまには、わかっちゃい、ました、し……。わたし、音も気配も、頑張って、消した、つもりなんです、けど……♡」

「わたし、というかわたしたちの種族はこの距離なら全員の心音聞き分けられるからね……単に身体スペックの暴力だよ」

「あはぁ……さすがは神さまです……♡」

 

 わたしが目を逸らしながら答えれば、納得したのか満面の笑みと尊敬の眼差しを向けてくるレナータちゃん。

 

 ただ……うーん、状況が状況だけに仕方ないとはいえ、すごい色気だ。

 顔なんてすごいというか、素直にエロい。とてもに肉体年齢十歳には見えないぞ……目の毒だよこれ。わたしですら一瞬見惚れそうになったんだから、その筋の人に見せたら他のこと何にも考えられなくなるんじゃあないかなぁ。

 

 ……なんか心底複雑な気持ちになったけど、とりあえずそういうことを考えるのはやめておこう。うん。

 

「身体はまだ熱い?」

 

 レナータちゃんが首を振る。

 ということは、今は昂った身体が余韻に支配されてるだけで、敵スタンドの影響からは脱したのかな。それなら、【センド・マイハート】もまだ刺さってるし、彼女はサチさんに任せてしまっていいだろう。わたしは犯罪者二人の余罪を追及しようかな。

 

「ナートチカ、大丈夫だった!? 身体は悪くない!?」

「ひゃあん!? お、おかあさん、いま、ちょっと……ちょっとだけ、そっとしといてほしいの……なんかね、からだがね、びくんびくんするから……♡」

「は……!?」

 

 ……任せないほうがよかったかもしれない。最後の最後でやらかした。

 そうだよねぇ、それがどういうものか、サチさんは普通にわかるよね……。それでいて親バカときたもんだし……。

 

 うん……見える。見えるぞ。サチさんの周囲に、「ゴゴゴゴゴ」って擬音語が見える……!

 

「わ、私の、私のナートチカに……ッ、あの色情魔ども……ッッ」

「あー……サチさん。なんていうかその……うん。()()()()()()()()

「……はいッッ!!」

 

 ……この日、小田原医院から「WRYYYYY!!」という雄叫びが響き渡ったのを知るものは少ない。

 

 何はともあれ、レナータちゃん初の実戦は辛勝という形で幕が閉じたのだった。

 




スタンド:ホーリー&ブライト 本体:レナータ・ニキーティチナ・ルージュフィシュー
破壊力:D スピード:A 射程距離:C 持続力:C 精密動作性:B 成長性:B
全体的にメカニカルな姿をした猫型のスタンド。大きさはジャガーくらい。遠隔操作型。
光を操る能力を持つ。レーザーで攻撃したり、姿を消したり、幻影を見せたりと応用性が高いスタンド。
その性質上、明るいところであればあるほど能力が強まる。逆に暗いところでは能力が弱まる。

普段は母親サチの周りにいて、弱点である日光から守ってあげている。このためか、本体としては攻撃よりも守りのほうが得意。
アルフィーに会ってからは光という現象について色々と教えてもらっており、実は今回やったレーザーや透明化、幻影はアルフィーに会うまで使えなかった技。
現在はアルフィーの入れ知恵で光速を越える練習をしている他、それとはまた違うちょっとした隠し球を持っていたりする(作中で明らかになるとは言ってない)

どちらかと言うと一芸特化型であり、スタンド自体の戦闘力はスピード以外高くない。スタンドで直接殴るのと本体が殴るのとでは、本体のほうが威力が高いまである。
ちなみに自我があるような仕草を見せるし、なんならたまに自発的に鳴く。その鳴き声はロシア語である。

***

スタンド:ザ・パヴァート 本体:蒔田すずゑ
破壊力:B スピード:D 射程距離:D 持続力:B 精密動作性:D 成長性:C
女性的なフォルムをした人型のスタンド。頭はややウェーブがかかった耳隠しっぽいデザインになっている。近距離パワー型。
手の甲には足利二つ引の家紋がついている。この手で触れたものの温度を上昇させる能力を持つが、そこまでは上げられない。一応、ザ・パヴァートに近づけば近づくほど発動中の相手の温度は勝手に上がるが、それでも極端な温度にはならない。
しかしこれを逆手に取り、温度傾向の操作と位置の集中を行うことで様々なマイナス症状を与えることができる。
たとえば頭に集中すれば大雑把にだが記憶を飛ばせるし、性器に集中すれば性感を極端に増幅することができる。全力を出せば感度3000倍も行ける(自己申告

さらに第二の能力として、家紋の図柄のコインを生成し、これを昆虫など小型の生物に入れることで能力の対象範囲を理論上無限に広げられる。
この能力は自動操縦型の能力となり、能力を付与した生物がどこにいるか、能力が発動したかどうか、誰に発動したかを知ることはできない。しかも一度発動したらその生物は元に戻る。
しかし「幼女だけを狙え」といった簡単な命令は出せるため、それを利用して幼女だけを狙って小田原医院へ呼び寄せていた。

小田原要とは幼馴染で、かつ共犯の関係。蒔田が対象を呼び寄せ、小田原が先においしくいただく。蒔田はいただかれた幼女の心のケアと称して記憶をいじる傍ら、やっぱりおいしくいただく。まさに外道。
ちなみに本体、実は吉良家の分家筋。スタンドや能力の発動にその家紋が出てきたことは彼女にとって想定外だったが、別に本家筋に迷惑かかろうが知ったこっちゃないし、むしろ没落してくれれば割を食ってきた分家筋としてはざまぁって気分だったので、思う存分風評被害を広めていた。
最後はブチ切れたサチにより小田原ともども半殺しにされた挙句、スタンドはアルフィーの【スターシップ】へ封印されてしまい、再起不能(リタイア)

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