制御できていないスタンドが危険なものだということは、原作でも十分描写されている。
第3部ではまさにホリィさんがそれで死にかけたし、仗助もこのタイミングでスタンドが暴走状態になって危篤に陥っている。6部でもDIOの息子たちを襲ったスタンドの悪影響は心に来るものがあった。
さらにはあの承太郎でさえ、本体の危機にはならなかったものの、最初は【スタープラチナ】を制御できず四人を病院送りにするほどの大暴れをしていた。その際に与えた怪我は骨折だけにとどまらず、男としての急所すら潰して……というものだから、制御下にないスタンドがいかに危険かは深く考えるまでもないだろう。本体としても周囲としても、危険しかない。
じゃあイワン君はというと……話を聞いた範囲での推測ではあるけど、どうやら周囲の人間の負の感情を増幅させることで暴力沙汰を起こさせたり、道具に不具合を起こして事故死させたりと、そういう作用を及ぼしているようだ。
もちろん彼はとめようと毎回必死になっているらしいけど、残念ながら今のところその甲斐はなさそうだ。本人が問題を認識してるのにどうにもならないという状況は、承太郎の場合と似ているかも。
じゃあどうすればいいか、だけど……その、一万年以上生きてきてこの結論もなんだかなとは思うんだけど、正直……荒療治しかないですね。
いやだって、しょうがないじゃあないか! スタンドってのは本体がその精神力で動かすものなんだもの! 必要なのは善悪に関係ない強い意志以外にないんだもの!
そして精神力なんて、簡単にどうこうなるものじゃあないでしょ。精神的な成長は現実にあるものだけど、だからって簡単に出来たら世の中もっとうまく回ってる。
その精神的な成長を強制的に促せるとしたら、それこそ生命の危機が訪れているようなときくらいのものだ。他にもやりようはあるだろうけど、やろうとすると準備にものすごく時間や手間がかかる。だから原作でジョセフとアヴドゥルが承太郎にやったのは、奇しくも最適解なのだ。
「ちなみに、身体から完全に離れるタイプならわたし封印できるんだけど……」
一通りの説明を終えて、最後にそう言いながらイワン君を見たところ……彼のスタンドは、身体からにゅるりと出ては来るけど繋がったまま。どうやら荒療治するしかなさそうだ。
「……ダメそうなので、荒療治しようと思うんだけど大丈夫?」
「……ちなみに何をするんですか」
「殺気全開で攻撃します」
「え!?」
顔芸並みの表情がわたしを凝視した。
そりゃそうだ。平和に(米花町で平和もクソもないとは思うけど)生きていた少年にそんなこと言って、普通にリアクションされるほうが驚く。十三歳くらいのとき、ハイジャックに巻き込まれたのに平然としていたジョセフがおかしいんだよなぁ。
「大丈夫、殺しはしないよ。ちゃんと寸止めするから」
「ほ……本当に大丈夫なんでしょうね!? 妹が幸せになるまでぼくは死ねないんですよ!」
「大丈夫大丈夫、こう見えて実績はあるんだから」
えへんと胸を張る。
そう、わたしには実績がある。そもそもわたしは一万年以上の人生の中で、こうした暴走スタンドを多く見てきた。それが原因で死に至った人もたくさん見ている。
そのすべてを救えたわけじゃあないけれど、この荒療治を受けると決断した人はすべて暴走を止めることに成功しているのだ。
……まあ、「殺す気で攻撃するよ」と言われて「わかりましたお願いします」と返せる人は、そもそもスタンドを制御するだけの器ってだけなんだろうなとは思うけどね。
さて、イワン君はどうかな……と思いながら彼を観察する。
彼はしばらく葛藤していた。青白い顔で何度も深呼吸をしながら、小さくうろうろしたり、顎に手を当てて何やらぶつぶつとつぶやきまくったり。
だけどやはり、現状を放っておくのはよくないと思っているんだろう。最終的には決意を込めた顔で、わたしに正面から向き直ってきた。
「……よろしくお願いします。ぼくは、何より妹のために
「グッド! それじゃあ行くよ」
一度びしりと彼を指さしたのち、わたしは自らのスタンドをこの手に取る。
ルビーのような、赤い輝きを放つ弓。一万年以上に渡って共に過ごしてきた、わたしの半身【コンフィデンス】。
弦を引き絞れば、瞬時に矢が現れてその鏃がイワン少年を見据える。
「……! ゆ、弓矢……」
「そう、あなたが言う悪霊をわたしも持ってるんだよ。わたしのは、弓と矢を形成して放つもので勝手に動いたりは絶対にないんだけど。わたしの意志で自在に動かせるものって意味では一緒だよ。……さっき言った通り寸止めはするけど、気をつけてね。当たったらシャレにならないから」
言い終わると同時に、わたしは自分にできる全力の殺気を解放した。
まあ本当にできてるかどうかは、ぶっちゃけわかんなかったりするんだけどね。だってわたし、基本誰も殺したくない人だし……そもそも元一般人に殺気がどうのこうのなんて簡単にできるはずがないでしょ?
でもさすがに、そこそこの至近距離で矢で頭に狙いをつけられてる状況は、普通の人なら殺気だって感じるでしょう。たぶん。
イワン君も先ほど以上に青白い顔で、ごくりとのどを鳴らして一歩後ずさってるし、ちゃんと殺気は出せてるはずだよね。うん。
「それじゃあ……行くよ。【コンフィデンス】!」
弦を引き絞っていた手を離した。瞬間、蓄えられていたエネルギーは一気に解放され、それを乗せた矢がものすごいスピードで走り出す。
イワン君に当てるつもりはないので、軌道は少しずらして当たらないようにしたけれど。
それでも、柱の一族が放った矢だ。かなりの音と衝撃を伴ったそれは、イワン君に尻餅をつかせ、さらに着弾した木の幹を粉々にした。
ずしん、と幹を途中からなくした木が音を立てて倒れ込む。
「ひ……」
「ね、シャレにならないでしょ?」
わたしの問いかけに、イワン君は無言で何度も頷くばかりだ。
心苦しいものがあるんだけど、荒療治をするときはわりといつもこんな感じだし、スタンドを制御できるようにならないと色んな意味で周りに被害が出るから、ここはがんばってほしいところだ。
「もう一発、行くよ」
「わ……ちょ、ちょ、ちょっと待っ……」
「ごめんね、待たない! 【コンフィデンス】!」
「わーッ!?」
二発目の矢が、イワン君に襲い掛かる。
けれど……それが彼を射貫くことはなかった。
「……! 出た!」
彼の身体から現れた四本の白い触手が、わたしの矢をすんでのところで止めたのだ。
「こ、れ、は……。悪霊が……ぼくを、守った……?」
「そうだよ。
うじゅる、と動いた触手が総出でわたしの矢を折りにかかってきた。矢がきしむと同時に、わたしの身体もきしみ始める。
それを無視して、わたしは再度矢を放つ。が、それもまた新たに現れた四本の触手によってとめられる。
「イワン君。君が悪霊だと思ってたものは、君の生命力が作り出す力のある
二発の矢をとめられてなお、わたしはとまらない。
ごう、と音を鳴らして彼に襲い掛かった三本目の矢は、さらに彼の身体から現れた二本の触手に受け止め……られそうになるも、勢いは完全にはとまらず彼の身体を射貫かんと直進する。
そして、彼の身体に穴が開く。そう思った瞬間だった。
「あ……ア、おおああァァーーッ!!」
イワン君の身体が膨張した。同時にその全身が白に覆われていく。人間のフォルムはそのままに、けれど人間とは似つかぬ姿へと変じていく。
黒い脚部は変わらず人間のようだけれど……身体から生えた合計十本の触手は、どう見ても人間ではない。さらに顔も、人間とは異なるものへ……イカと思しき風貌となっていく。
けれど、その全身にイカのようなてらてらとした光沢などは見受けられない。どこまでも白く、抜けるような色彩は何物にも染まり得るのに染まるようには思えない。その白は、一切の光を宿さない漆黒の眼窩と相まって、確かに死神のようでもあった。
そして彼に飛来した三本目の矢は彼の身体を傷つけることなく、甲高い音を響かせて地に落ちた。
それを見たわたしは、今度は三本の矢を同時に発射する。複雑な軌道を描いて、それぞれまったく別の方向からイワン君へと殺到する。
けれど彼は、その黒い眼窩からしかとすべての矢を認識した。
直後のことだ。
マントのようにも見える身体の一部を翻したイワン君が一瞬でわたしの眼前へと移動し、触手とは別に存在する拳で反撃をしてきたのだ!
わたしはそれを、ギリギリのところで受け止める。受け止めて……わたしの力でギリギリ拮抗するくらいの力が込められていることを察して、内心密かに驚いた。
「……どう、イワン君? スタンドを制御できた感想は」
「……は! そ、そういえば……こ、これは」
彼はここで、我に返ったようにわたしからゆっくり離れた。
自身に起きた変化をまだはっきり理解していないようで、周りを見渡してみたり、自分の身体をなめるように眺めてみたり、それらに対して考察をつぶやき続けたりとで、忙しい。
そんな彼を眺めながら、わたしは彼のスタンドについて同じように考えていた。
イワン君のスタンドは、どうやらショシャナと同じタイプのようだ。すなわち、本体と同化するタイプのスタンド。恐らくだけど、この異形とも言える姿は普通の人間にも認識できてしまうだろう。
けれどショシャナと異なり、攻撃力などは本体に依存しないところもありそうだ。
ショシャナの【ラ・ラガッツァ・コル・フチーレ】は防御力以外はあくまで本体に依存するスタンドで、吸血鬼になる前のショシャナは普通の女性と同程度の攻撃しか繰り出せなかったんだけど……イワン君のパンチは、だいぶパワーがあった。少なくとも人間よりは間違いなく上だから、破壊力は最低でもB。
ここに十本もの触手が別に存在しているわけだから、かなり相手取るにはしんどいスタンドだろう。あれにもB相当の破壊力があった場合、迂闊に近づけないぞ。
おまけに威力を減衰させられていたとはいえ、わたしの矢が弾かれたということは、【ラ・ラガッツァ・コル・フチーレ】に近い防御力もありそうだ。
さらに言えば、能力は恐らく瞬間移動だろう。射程範囲がどれだけあるのか、自分だけなのか、デメリットがあるのか、などなど気になるところはあるけれど……どう考えても敵に回したくないスタンド、という評価にしかなりそうにない。
「こ、これは……? ぼく、ぼくが、化け物に!?」
「大丈夫、落ち着いて。ゆっくりと意識を平常に戻していくんだ。そうすれば元の姿に戻れるはずだよ」
ショシャナがそんなようなことを言ってた気がする。
あ、そうそう、もう怖いことはないよってことを示すためにも、わたしもスタンドをしまっておこう。
「……お、おお……も、戻れた……」
するとイワン君の姿が、まるで溶けるようにして元の姿へ戻った。
彼は再び自分の身体を眺めていたけど、その表情はかなりほっとしたように見える。気持ちはわかる気がする。
でもすぐにもう一度変身して、解除して、変身して……を繰り返し始めた辺り、どうも彼は気になったことは調べつくしたいタイプらしい。学者とか、そっち系の気質なのかな。ちょっと親近感わくよ。
「……はしゃいでるところ悪いんだけど、その能力について補足していい?」
「は!? あ、は、はい! すいません、つい!」
「わたしも初めて発現したときはかなり興奮したし、気持ちはわかるよ。ま、それはともかく……」
先ほどまでと打って変わって、血色のいい顔でこちらを向いたイワン君に苦笑しつつも、わたしは本体同化型のスタンドについて説明する。それからスタンドの基本的な法則なども、併せて説明しておく。
生粋のスタンド使いであるがゆえに、一般人と軋轢を抱えてしまう可能性はある。この世界で生きてきて、そういう人を見た経験もある。原作からして、花京院もそういう境遇だった。
イワン君がそんな風にならないように……特に彼は妹を溺愛してるみたいだし、
「こんなところかな。大丈夫かな?」
「はい、問題ありません。ありがとうございます……これでぼくは、無関係な人を殺さなくても済むんだ……!」
ほっとした様子のイワン君は、目に涙を浮かべていた。
そうだよなぁ、行く先々で人が死ぬなんて経験、普通の人には荷が重いよね。わたしも死体や殺人シーンを見るのにはもう慣れてはいるけど、かといって完全に慣れることはないだろうし。
……何はともあれ米花町の死神は鎮静化し、本体であるイワン君の制御下にはっきりと入ったわけだ。
これで米花町の狂気の沙汰めいた事件数も、減っていくだろう……。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
翌日。
「なんでさ!!」
朝刊を広げたわたしは、そこに載っていた「米花町で殺人事件、同日中に
なんなの? ホント米花町ってなんなの!?
まさか他にも死神がいるの? それとも、事件を増やしている原因は他にあるの?
わけがわからないよ!!
「アルフィー様!」
「今度は何!?」
と、そこにサチさんがバタバタとやってきた。
「イギリスからアルフィー様へ連絡が届きました、こちらです」
「お、おお……ありがとね。どれどれ……」
普通にちゃんとした要件だった。事件かと思っちゃったよね。ごめんごめん。
えーっと……うん、伯爵からだ。って、なんだか随分と枚数の多い手紙だなぁ。なになに?
「……は?
そうして手紙に記されていた一連の事件の顛末を読んだわたしは、素っ頓狂な声を上げたのだった……。
スタンド:
破壊力:B スピード:C 射程距離:C 持続力:B 精密動作性:A 成長性:C
イカを思わせる白い肉体と触手、マントのような装飾を持った人型のスタンド。本体同化型であり、発動時はバケモノに変身したように見える。
純粋な身体能力の向上の他、触手を用いた中距離戦を可能とする。触手には極めて高い精密動作性があり、細かい作業全般を得意とする。
また固有の能力として、射程距離内でのテレポーテーション能力を持つ。射程距離はおよそ30メートルほどと長めで、認識(方法は問わない)できる場所に自在に転移可能。
この能力の対象は自身のみにとどまらず、触腕(他と違い長い2本の触手)の吸盤によって押印されたもので射程範囲内なら同様に自在に転移させることができる(サイズや重量には制限がある)。
ただしこの押印は一度テレポーテーションを発動させると消えるため、同じものをもう一度転移させるためには再び押印する必要がある。
完全に覚醒するまでは本体同化型ではなく、複数の人間を渡り歩きかなりの広範囲を独自行動する暴走スタンドだった。
憑りつかれた人間は負の感情、特に怒りや妬み、復讐心などを必要以上に増幅され犯罪に走ることになる。米花町で犯罪が多発していた原因
広範囲を独自行動するとはいえ本体はあくまでイワンであるため、近くに憑りつく人間がいない場合や本体が無意識にほしいと思ったものを取ってきたときなど、いくつかの状況では本体の周辺にいる。
このため本体は自分が悪霊に憑りつかれていて、それが周囲に多大な被害を及ぼしていることに気づいていたがどうすることもできず、死神というあだ名を甘んじて受け入れていた。
なお溺愛する妹がきっかけで悪の道に進む模様。
というか元ネタに忠実にスタンド能力を構築したら、チートくさくなったけどまあ元ネタは初代から現在に至るまで毎年のように地球が滅びそうになったりしてるし、これくらいはね・・・(目逸らし