STEEL BALL HERO   作:ボンシュ

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 タイトルで察した方もいるでしょうが、早々の登場です。

 SBRでも、単行本7巻で登場という早さでしたので大丈夫だろうと。


追記 2023/02/05 擬音のフォントなど、一部を編集しました。


男の世界

 

 轟&障子チームとジョースター&葉隠チームの戦闘訓練終了後、モニタールームに戻ってきたのは障子と葉隠だけだった。轟はジョニィに撃たれた傷を治す為、ジョニィはガラスを突破する時についた傷を治す為に保健室にいた。

 

「それでは、今回のMVPを発表させてもらおう! 誰かわかるかな〜?」

 

 オールマイトが生徒たちを試すように聞くと、八百万(やおよろず)の手が挙がる。ここまでの戦闘訓練でもそうだったように、八百万はオールマイトが言おうとしていたことを含めて自身の見解を話していった。

 

 MVPはジョニィだった。だが、その当事者はというと保健室でリカバリーガールの治療を受けていた。

 

「まったく……あんたら無茶しすぎだよ」

 

 治療を終えたリカバリーガールが愚痴を零した。その目の先には、ベッドで点滴を受ける三人の生徒。緑谷出久、轟焦凍、ジョニィ・ジョースター。

 

 緑谷は意識を失っているが、轟は点滴を打たれながら天井を見ていた。

 

「治癒っていっても、体力を使うんだから限度があるんだよ。なのに入学してから一週間もしないうちにこれかい? 若いからってなんでも出来るわけじゃないんだから、自分の体は大切にしな」

 

 リカバリーガールの説教が続く。轟は話半分に聞き流しながら、別のことを考えていた。ジョニィのことだ。圧倒的なハンデがあるというのに、そのジョニィに敗北した自分にあの男を超えることは出来るのだろうか。

 やはり「左の力」を使わないと……。

 

「………クソっ」

 

 余計なことを考えてしまったと、右へ視線を逸らした。

 

 ビシッ   ビシッ

 

 

   ビシッ

 

 

「……なにしてんだジョースター」

 

「別に」

 

 ビシッ  ビシッ  ビシッ

 

 

「気になる。なにしてんだそれ」

 

 ビシッ

 

 

 ビー玉を弾いていた手を止めて、ジョニィは面倒そうに轟の方を見た。

 

「お前に言う必要ないだろ。ぼくの勝手だ、気になるなら氷で耳栓でもしてなよ」

 

「そうか……」

 

 パキッ  パキッ

 

 本当に耳を氷で塞いだ轟は、そのまま目を閉じてしまった。まさか本当にやるとは思わなかったジョニィは、口を開けて唖然とする。

 

「天然かよ……まっ、静かになっていいけどな」

 

 ジョニィは手の中のビー玉に意識を戻す。手の中のビー玉は窓からの夕日を反射するだけで、回転する気配は全くない。

 

「イメージはあるんだよなぁ〜〜………こう、舞う感じなんだけどなあ」

 

 ビシッ  ビシッ  ビシッ

 

 ビシッ

 

 グルグルグルグルグルグル

 

「おっ!!」

 

 グルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグル

 

 

 ビー玉が回転してジョニィの手を登っていく。

 

「おおおおおおおおおおっ、まっ、回っ……………轟ッ!」

 

 

 轟に呼びかけるが、当人は耳栓をして目を閉じていた。しかし耳栓といえど、完全に音が遮断されるわけじゃない。隣の鬱陶しさに轟が耳栓を溶かして目を開けた。

 

 シュンッ

 

「あっ! なんで、今っ! 回ってたんだぞ轟、なんで見てなかったんだよ!」

 

「……なんでお前をずっと見てないといけないんだ? そんなことよりホレ」

 

「ええ? あっ……」

 

 

 ジョニィの目の前には、リカバリーガールが立っていた。顔を真っ赤にして怒り心頭だ。

 

 

「保健室で騒ぐんじゃないよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャハハハハハハハッ!!! ヒィーー! ヒヒヒヒヒ」

 

「笑い事じゃねーって!! そのあと大変だったんだからな!」

 

 

 話を聞いていたジャイロ・ツェペリは堪えきれず吹き出した。ソファから転げ落ちそうな勢いで笑うもんだから、ジョニィは心中穏やかじゃない。

 

 膨れっ面でソファに腰掛けるジョニィと、とうとう床に転げ落ちて笑うジャイロ。膝の高さより少し低い机の上には、食べかけ料理が並んでいる。いま2人は食事中だった。

 

「笑いすぎだジャイロ!! 早く食わねーとあんたのも食っちまうぞ!」

 

「いやーーヒヒ、悪りぃ悪りぃ……………ところで、なんでこの話になったんだっけか」

 

「あっ、そうだ! 忘れるところだった。『回転』の話だよ、ビー玉を回転させることが出来たんだ。それもあんたの鉄球みたいにだぜ」

 

 そういうと、笑っていたジャイロは料理を口に運びながら訝しげにこちらを見た。疑われていると察したジョニィは、ポケットからビー玉を取り出して見せた。

 

「これだよ。やってやるからな、見てろよジャイロ」

 

  ビシッ  ビシッ

 

「あ、あれ?」

 

 

ビシッ  ビシッ  ビシッ

 

 

「くそっ、一度出来たんだ。待ってろよ、すぐに回転させるからな!」

 

ビシッ  ビシッ  ビシッ  ビシッ

 

「くそぉぉ〜〜〜」

 

 

 ビー玉に集中するジョニィを、ジャイロはじっと見ていた。

 しかし、視線を感じながら早く見せようと焦るが焦れば焦るほど手元は狂っていく。

 

「ああ〜〜〜〜〜〜」

 

 ジャイロの間の抜けた声がした。大口を開けて肉を口に運んでいた。

 

 パクッ

 

「……………えっ」

 

 

 まさかと自分の皿を見ると、そこにあった肉はきれいになくなっていた。今頃それはジャイロの口の中だ。

 

「お前さんがあんまり熱中してるもんだから。冷めるといけねーし、ニョホ」

 

「てめえなにやってんだジャイロォオオ! 回転させてる時に、見てたのはそういうことかよチクショー」

 

 爪楊枝で歯の隙間についた料理をとる姿がムカついて見えた、きっとわざとだ。ご丁寧に自分の肉はとっくに食べ終わっていやがった。

 最後の一切れを食べられたジョニィは、回転できない苛つきも加わって落ち込みムードだった。

 

 ジャイロはジョニィの隣に腰掛ける。

 

「まあまあそう落ち込むなって。回転の技術はツェペリ一族の秘伝なんだ。そう簡単にホイホイ出来るようになられちゃ、こっちが困る」

 

「わかってるよ。だけど絶対に回転の技術をものにしてやるからな」

 

「ニョホホ、その意気だぜジョニィ!」

 

 肩を組んでこれから頑張ろうと意気込む2人であった。

 

 この翌日、ジョニィがクラスメイトとジャンクフード店に行った時にジャイロのクレジットカードを使って全員分を奢るとは、この時のジャイロは夢にも思わなかった。

 

(食べ物の恨みは怖いんだぜ、ジャイロ・ツェペリ)

 

 肩を組みながら、ジョニィは明日の仕返しのことを考えて笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 翌朝。ジョニィは愛馬と共に登校していたのだが、雄英高校の校門付近に大量の人だかりができていた。遠目にそれを見たジョニィは、マスコミだろうと当たりを付けた。

 

「マスコミねぇ……でもあれぐらいなら行けそうだな、驚かしてやろうぜ、スローダンサー」

 

 ブルル!!

 

 返事ととれる鼻息を聞いて、ジョニィは手綱を持つ手に力を入れた。手綱から乗り手の意図を汲んだ老馬は、指示されるままにトップスピードでまっすぐ走った。

 

 ドカラッ  ドカラッ  ドカラッ  ドカラッ

 

「あっ! 君!オールマイトの授業を………あれ?」

 

「うわあああああ迫ってくるぞ! 止まれっ! 止まれーー!!」

 

 まっすぐ走っていたので、その延長線上にいたマスコミは大慌てだった。機材と自分を守ろうと身を屈んだところを見つけたジョニィは、ニヤリと笑ってそこへ方向を修正する。

 

「跳ぶぞ、スローダンサー!!」

 

 ドガッ

 

 地面を蹴って、馬の巨体が座り込んだTVスタッフの真上を通過した。その勢いのまま、ジョニィは校門をくぐって見事登校してみせた。

 

「♪〜〜」

 

 ちょっとゴキゲンな気分で厩舎に馬を止めたジョニィは、車椅子に乗り換えてA組の教室へと向かった。

 

 後にこの行動を注意されるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつかのどこか。木製の小さな一軒家に彼らはいた。

 

 小汚い椅子に腰掛けてテーブルに足を放り出している男は、身体中に手の模型を付けた不気味な男だ。その後ろには執事のような服装と出で立ちの男が立っていたが、その身体は黒い『もや』でできていた。

 

「おい、『黒霧(くろぎり)』……もう帰ってもいいか?」

 

 指の隙間から覗く瞳は暗く濁っていた。黒霧と呼ばれた執事風の男は、身をかがめて耳元で囁く。

 

「もう少々の我慢です。()()()が会っておけとおっしゃっていた人物です。決して損はないかと」

 

 宥める様子は手慣れていた。いつも振り回されているのが窺えた。

 

「先生が会っとけって言うから、どんな相手かと思ってたら。ハァ……なんで、こんなボロ屋に」

 

 周囲を見回して呟く。その家はお世辞にも綺麗とは言えなかった。どこも埃っぽい空気、傷んだ家具、ヒビの入った食器の数々。

 当の住人も、このボロ椅子に案内してからは飲み物を淹れてくると言って奥から戻ってきてない。

 

 

「お待たせして、申し訳ございません…………………」

 

 

カチャカチャカチャカチャ

 

 震える手で、カップを死柄木の前に置いた。そして自身も向かい合うように椅子に座り、自分の分のティーカップを目の前に置いた。

 

 

「ようやくかよ…あと少しで帰るところだったぞ」

 

 

「まあまあ死柄木(しがらき)(とむら)。まずは紅茶でも飲んで落ち着きましょう」

 

 

 黒霧は宥めながら、机の上に置かれたティーカップを指さした。

 

 正直、死柄木は早く帰りたかった。この目の前の男からはなにも感じられない。自信の感じられない目つきと、常に震えている身体。どこを見ても、自分より優っていると思えるところがないのだ。

 

「チッ……」

 

 死柄木は舌打ちをしてティーカップの中に入ってる紅茶を勢いよく飲み干した。

 

う、うめぇ………って、こちとらわざわざ、こんなボロ家に茶を飲みに来たんじゃねえ! 先生が会っとけっていうから、わざわざ出向いてやったんだ」

 

「死柄木!」

 

 流石に言い過ぎな死柄木に黒霧は慌てて訂正を求めた。だが、家主は静かに紅茶を飲んでいる。怒っている様子は微塵も感じられなかった。

 

「本日はあのお方の(めい)でここまで来ました。貴方が、こちらの死柄木弔の成長に一役かっていただけると………」

 

「あのお方が……」

 

 男は口元に運んでいたカップを戻し、値踏みするように死柄木と黒霧を見た。

 

「お前たちの成長を俺が助けろと? それは違う……成長とは公正な戦いの末に自分自身で掴み取るものだ。『公正さは力』だ。それは掴み取るものであって、与えられるものではない……」

 

 ゆっくりと立ち上がり、男は続ける。

 

「目的はあくまで『修行』であり、人としてこの世の糧となる為……………そして人としてオレを認めてくれ、そしてオレを頼れと言ってくれたあのお方には『恩義』がある」

 

「それは、我々に協力していただけるということですか?」

 

「お前たちの目的に興味はない。だが協力しよう。そこに戦いがあるのなら、それはオレをまた人間的に高めてくれるだろうからだ」

 

 ガタァン!

 

 座っていた椅子を吹っ飛ばして、死柄木弔は目の前の男の首に掴みかかった。

 

「ダメだ、死柄木弔ッ!」

 

 黒霧が止めようとするが、遅かった。

 

「さっきから訳わかんねーこと言いやがって……興味がねーだのなんだのと、てめぇみたいな上から目線のやつがどうしても気にくわねぇんだ!」

 

「ガッ………アガッ」

 

 死柄木の触れた箇所が、崩壊を始めていた。皮膚を崩壊させて、その下部組織までもどんどん破壊させていく。

 

 意識も吹っ飛びそうな中、男は抵抗するでもなく、自分の右手首についた腕時計のつまみに手を伸ばした。

 

 

 

ドゴォオオオオオオオオ

 

 

 

「それは、我々に協力を………えっ!?

 

 黒霧は我が目を疑った。たしかに苛ついた死柄木がこの男を殺すところを見た。

 こんなことになって、あのお方になんて言ったらいいかと考えていたのを覚えている。

 

 だが、この状況はなんだ。

 

 確かに死柄木がこの男を殺した瞬間を見た。絶対に間違いない!

 しかし、首が崩壊した男は目の前で椅子に座っている。

 

 なんだ・・・? なんなのだこの違和感は・・・!?

 

 

「死柄木ッ!!」

 

「うるさいよ黒霧。()()()()()! てめぇ……何しやがった………」

 

 死柄木の中には苛立ちはもう無かった。それ以上に、目の前でコーヒーを飲む男の得体の知れなさに本能的に恐怖していた。

 

 理解が追い付かず静止してしまった二人を一瞥して、男は元からそうするつもりだったようにゆっくりと立ち上がって口を開いた。

 

「遅れましたが、自己紹介させていただきたく………名は、『リンゴォ・ロードアゲイン』。ヴィラン名は『マンダム』。そう認識していただきたい」

 

 ほんの「6秒」

 

「それ以上長くもなく短くもなく、キッカリ「6秒」()()「時」を戻す事が出来る。それが個性」

 

 その自己紹介によって、二人の中にあった違和感が消えた。しかし同時に、それ以上の戦慄を味わった。

 

「と………」

 

「なんだよそれ……チートじゃねえか。どこが公正(フェア)だよ」

 

 もはや「個性」などと呼称していいレベルではない。

 冷や汗を流す2人を前に、リンゴォ・ロードアゲインは深々と頭を下げた。

 

 

「どうか、よろしくお願い申し上げます」

 

 

 




 リンゴォ・ロードアゲインの能力。時を6秒だけ巻き戻せる。

 なぜこんな強個性をオールフォーワンは吸収しなかったのか。

 個性というのは、その人物の精神力なども関係してくる。たとえオールフォーワンが手に入れたとしても、時を戻すという能力を発現させることはできないだろう。
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