「殺すですって……そんなことを僕らがさせると思ってるのかッ! ブラックホォォーール!!」
13号がもう一度ブラックホールで黒霧の動きを止めようとする。マンダムもたまらず踏ん張って吸引に耐えようとするが、相手は星をも飲み込む力だ。マンダムの足が地面から離れそうになる。
「させません!」
初見ならまだしも二度目のブラックホールを相手に、黒霧はすでに攻略法を見つけていた。
「その引力は凄まじい…防御する方法なんて思いつきませんでした。ですがこれならどうですか!」
黒霧の個性はワープではない。ワープゲートを任意の場所に出現させることができる個性だ。そのうちの入り口を13号のブラックホールの目の前にして、出口を13号の後ろにすればどうなるか。
「まっ……まさか…こんなことが」
「先生ーーー!!!」
「13号ーー!!」
生徒たちの悲鳴が響いた。13号の背中がバリバリに裂けて後ろのワープゲートに吸い込まれていった。即座にブラックホールを止めるが損傷は激しいものだった。
「私の方も、手を出させていただいても良かったのですよね?」
「是非もない。だが、彼だけはオレと「果し合い」をしてもらう」
「結構です。貴方の邪魔はしませんよ」
「おいッ!!」
黒霧とマンダムの二人に、ジャイロが待ったをかけた。
「さっきから聞いてるとよぉー。ジョニィに随分とご執着してるようだが、オレもいるってことを忘れてんじゃねぇのか? そんなに殺されたいならオレが望みを叶えてやるよ」
「やめろ、君はあくまで『対応者』だ。左の彼にはいざと言う時オレを殺しにかかる『漆黒の意志』がある。
君はオレが攻撃をしたらそれに『対応』しようとしている。さっきのボール、才能では優れたものがあるのかもしれないが……受け身の『対応者』はここでは必要なし」
「へぇ、そうかい………」
ゆっくりとジャイロは腰のガンベルトについた鉄球のホルスターの留め具を外す。
だがマンダムはジャイロを見てもいなかった。
カメラがピントを合わせるようにその目でジョニィだけ捉えていた。
だらりと下げた右手の爪弾を回転させる。回転する静かな音が耳の奥で反響している。相手もゆっくりと腰の拳銃に手をかざした。
誰も声ひとつ発せない緊迫した空気に変わった瞬間だった。
ドバァァァーーー!!
片手の指から一斉に撃った爪弾は、3発がはるか後ろへ消えていき、1発が右肩を掠めて、残り2発は右腕を貫通していった。
ガアン!ガアン!ガアン!
ほぼ同時に銃声が鳴った。マンダムが持つ自動拳銃が火を噴いた。弾丸は正確にジョニィの身体を撃ち抜いた。血を噴き出して地面に崩れ落ちた。
「…ばっ…ばかなっ!!…」
苦悶の言葉すら発さずに地面に横たわっていた。ジョニィの帽子の蹄鉄の形の飾りが壊れて、止め処なく血が流れ出ていた。瞬く間に赤い水たまりは広がっていく。銃弾は正確にジョニィの頭に命中していた。
ガアン! ガアン!
ダメ押しに撃った弾は両方ともジョニィの胴体に命中した。それでもジョニィの反応は無かった。また血溜まりが大きくなった。
「ジョニィィィィぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいーーーーーッ」
絶叫と共にジャイロ・ツェペリは腰のホルスターから鉄球を放った。もう躊躇していなかった。最大の破壊力を込めた回転で投げた。
ガアン!!
猛攻に、マンダムは顔色を変えることなく正確にジャイロの胴に1発撃ち込んだ。頭に迫ってきていた鉄球だが、左耳が犠牲になるもかわしてしまう。
銃弾を食らったジャイロは愛馬から崩れ落ちる。腹の熱さが痛みに変わっていく。
「ぐっ……」
「やはり……
銃口をジャイロに向けながら、マンダムは心底軽蔑するような目で見下ろす。
「汚らわしいぞッ!
「
ジャイロの目は覚悟に満ちていた。そして笑っていた。血を吐きながらも、してやったりと笑っていた。
「何を言っている……」
「わからないか? もうオレの攻撃は……完了してるんだぜ…………攻撃といえるかは、微妙だけどな」
「何を……」
言い切るより先にエンジン音がマンダムの言葉を途切れさせた。まさかと生徒がいた場所に振り向くと、一人欠けていた。誰かはすぐにわかった。
飯田天哉が走っていた。出口に向かって個性のエンジンで走り出していた。一心不乱に逃げ出している飯田の姿を見たマンダムは、驚くことはなくあくまで冷静だった。
「無駄なことだ……施設の扉を開けるまでに何秒かかる。黒霧も追いかけている。この時間をマンダムで……あれはッ」
扉が破壊されていた。人が通れるほどの穴が空いていた。顔を歪ませるマンダムの後ろで、ジャイロはやはり笑っている。
「よくやく気づいたかよ……もう遅いぜ。言ったはずだ……「すでに6秒経った」ってよ。見えてきたぜ…勝利の感覚が見えてきた!」
グィン
ドォォオオオーーーーン
「………戻ったッ‼︎」
飯田は時が戻ったことを認識した瞬間に走り出した。扉はすでに破壊されていた。扉が破壊されてから6秒以上経過した時点で、それは変わりようのない事実となっている。
そしてあのヴィランは言っていた。時をもう一度戻すまでに6秒以上の感覚をあけなくてはならないと。
6秒以内に施設の外へ行く事は、自分の個性なら可能だった。
「無駄ですよ!!」
後ろからあの黒霧というヴィランの声がした。上から覆いかぶさろうとしているのだろうか。確認する余裕はなかった。みんなを守るために、今はこの場から逃げ出さないといけない。
「ヌゥ! これは……」
飯田に追いつきそうだった黒霧は、その実体部分を麗日の個性で無重力にされて放り投げられたことで届くことはなかった。
声がどんどん遠ざかっていく。きっとみんなが足止めしてくれたんだ。もう自分を追ってくる者は居なかった。
それでもマンダムというヴィランの個性で時が戻されたら、この行動も無意味になる。今は何秒経過した? 戻されたら今度は絶対に逃さないように対策される。
違う!! 信じるんだ!!!
自分にいまできる事は走ること。後ろに気を取られるな。もしもを考えるな。前に進むことを考えろ。
すでに破壊された扉は目の前だった。そしてここを超えたとしても安心するな。時を戻されたらまた施設内かもしれない。
だから走れ。
とにかく走れ。
走ってこのことを伝えなくては!!
飯田は青空の下でただ走り続けた。仲間を助けるために。助けを呼ぶために。
飯田天哉が扉の先に出てもうすぐ6秒経つ。マンダムは悠然と右手の腕時計のつまみに手を伸ばしていた。
だが、そんなことは決してさせねぇ
オレの鉄球は確かにこの男にかわされて、そして扉を破壊した。だが、まだオレの攻撃は終わっちゃいねぇ
投げた鉄球の回転は止まってない。そして戻ってきた鉄球はすぐ近くの茂みにあった。完全にマンダムの死角だ。人体を破壊することは出来なくても、攻撃するくらいの回転はまだ残っていた。
グンッ!!
マンダムはつまみに伸ばしていた左手を引っ込めて、茂みから離れるように跳んだ。
ギャルギャルギャルギャルギャルギャル
「ぐッ……」
マンダムが鉄球と同じ方向へ跳んだことで、威力が少し殺された。今度こそ回転のパワーを失った鉄球は、地面に転がって止まる。
対してマンダムは左手でガードしたお陰で身体に直接のダメージはほとんどなかった。耳から出血はしているものの、腕はぎこちなく動かせそうだった。
「衝撃を逃したな………だが、今の攻撃はてめーを倒すためにやったんじゃない。もちろん時間を戻させない為でもない………
飯田がここのことを知らせてくれれば、オールマイトや他の教師も来るだろう。
立ち上がってマンダムの目をまっすぐ捉える。
「オレの個性は『スキャン』。能力は物体に搭載した「眼」で、物体が当たったものを透過して見ることができる。それでいまお前の体内を調べた」
オレにできることは、この厄介な男を始末することだ。
ゆっくりと近づいていく。
「鉄球のスキャンはいま、おまえさんの左鎖骨の位置に『古傷』があるのを見つけた。俺の次の投球は
こいつの個性は時を戻す。他にも脅威はまだ残っている。だがマンダム……ここから先はお前も俺も後には引けなくなる。いわば詰め将棋に追い込まれる。
「『左腕』はおろか『左脚』……左
『一手』ミスった方が負ける…オレやお前がどう決定しようともな! どうあがこうともだッ!
マンダムとの距離は目と鼻の先どころか、一歩分ほどしかなかった。
「この距離ならよォォォーー…もうお互い絶対にはずしっこねえぜ。てめえのちいせえ銃でも確実に撃ち抜けるだろう。どうする? もう後には引けなくなったな。お前やオレがどう決めようとな」
マンダムの瞳に写った自分の顔は、今まで見たこともない顔だった。鉄球に伸ばした手が震えた。マンダムも腰元の拳銃へ手を伸ばしていた。
砕けた入り口から風が吹き、草木が舞い上がった。
バッ!
バッ!
ドゴォォオオオオ
ほぼ同時だった。
ジャイロの投げた鉄球は予告通りマンダムの左鎖骨を砕いた。
マンダムの自動拳銃から放った弾丸はジャイロの喉元を貫いた。
ジャイロは血を吹いて倒れ伏した。
ビタァァアア
こ……こいつ‼︎ 「心臓」が…「左腕」がッ……
マンダムも心臓が止まって倒れる。
「ガフッうぶっ 「左腕」………うぐっ!!」
2秒たった
3秒……4秒……………5秒
「うおおぅううううッ」
マンダムは右手に持った自動拳銃を回転させて銃口を腕時計のつまみに向けた。
ガァアアアン
つまみが回った。
ドォォオーーーーン
ジャイロとマンダムが睨み合う。互いに手元の武器に手を伸ばしたまま立っていた。
「やはりよォォォ 戻したな………「6秒」!………で…どうする?「再び」か?
再びかァァーーーーッ!!」
「おもしろいぞボール・ブレイカー、いやジャイロ・ツェペリ。少しいい「眼光」になった‼︎ だが所詮まだおまえは「対応者」に過ぎない!」
「決めるのはおまえじゃあねぇーーーッ お互い後には引けねえッ!!」
また風が吹いた。
バシュゥゥウウウ
再びジャイロが鉄球を投げ、マンダムが銃を撃った。
だが、今度はマンダムは左鎖骨にくる鉄球を左手でガードした。鉄球は鎖骨に当たらずに左手を破壊して威力を失った。
銃弾はジャイロの胸元を貫き、ジャイロは地面に倒れる。立っているのはマンダム。さっきと同じ構図だったが、マンダムの心臓は動いていた。とどめを刺すためにジャイロの頭へ銃口を向けた。
「2発目だッ! これで勝利ッ!!」
だが、銃は撃たれなかった。
「ガブゥウッ!!」
マンダムが大量の血を吹いた。まさかと視線を移せば、左鎖骨をガードした左腕に深々と何かが突き刺さっていた。
木の枝……こ、これは……
左鎖骨に突き刺さった木の枝で、心臓が停止することはなかったものの左腕と左脚の動きが止まる。
倒れるマンダムとは逆に、壁伝いにジャイロはゆっくりと立ち上がった。
「「左腕」で……マンダム……その左腕で鎖骨を防御したな……オレを『次の2発目』でとどめを刺そうと……その防御の為の動きのせいで……「急所」には命中せずわずかにそれて肩に命中した! 決着は…次の『弾丸』の為に…」
「『木の枝』……空中に舞い上がっていた「木の小枝」を「最初の6秒」前の時に覚えていてそれを「鉄球」で打ち込んで来たのか……」
腕時計はすでに、6秒を超えていた。
「見事だ……ジャイロ・ツェペリ。「一手」オレはしくじったってわけか…」
「腕で防御しなければ正確に間違いなくオレの急所を貫いていたろう…あんたなら」
「それじゃあまた相討ちになってしまう。また「6秒」戻して繰り返して永遠に決着はつかないな。もっともその「6秒」は、すでに過ぎてしまったようだが」
マンダムはすでに瀕死だった。だが、その眼から光は失われていなかった。唯一動く右手が、取り落とした拳銃に伸びる。
「やめろよ。妙なことはやめろ……あんたに次の2発目はもうない。その銃を床に置くんだ。既にオレは納得した。もうあんたを仕とめる意味はない!」
「だから対応者だと言うのだ! 「光の道」を見ろ…………進むべき「輝ける道」を……」
マンダムの眼は、すでにジャイロを見下していた時のものではなかった。
「『社会的な価値観』がある。そして『男の価値』がある。昔は一致していたが、その2つは現代では必ずしも一致はしてない。男と社会はかなりズレた価値観になっている……だが「真の勝利への道」には『男の価値』が必要だ…おまえにもそれがもう見える筈だ」
拳銃を持った手をそっと身に寄せた。
「この先の人生を進んでそれを確認しろ……「光り輝く道」を…オレはそれを祈っているぞ。そして感謝する」
銃を構えた瞬間、ジャイロの鉄球が炸裂した。
銃弾は地面に命中した。
「ようこそ………『
マンダムが倒れ、ジャイロは至るところから出血しながら立っていた。
ゆっくりとマンダムの亡骸を見て、そしてジョニィのそばで屈んだ。
シルシルシルシルシルシルシル
鉄球をジョニィの体に当ててスキャンしたジャイロは、ほっと息をついた。
「やはり……あの距離と防弾性コスチュームに救われてたな……銃弾は頭蓋骨で止まってる……脈はまだあるようだな……ジョニィ、どうやらお互いな」
リンゴォ・ロードアゲイン
ヴィラン名『マンダム』
死亡
ジョニィ・ジョースター
頭蓋骨損傷など重症だが、治癒は可能
再起可能
ジャイロ・ツェペリ
同じく重症だが、再起可能
ほんとマンダム無敵すぎて、どうやって切り抜けるか考えるのが大変でした。