STEEL BALL HERO   作:ボンシュ

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体育祭の巻 ③

 

 愛馬と共に走り出したジョニィだったが、走り始めてすぐ景色が大きくブレた。違う、ブレたのは景色じゃない。度肝を抜かせるなどと言っておきながら自分の肝が小さいなんてのはひどいジョークだ。冷静に状況を把握しなくては。

 

 自分の愛馬の身体が、大きくブレて走っていた。呼吸も荒くなっている。玉のような汗がでている。素人目にわかるほど限界の状態だ。

 

 

 ドカラッ ドカラッ ドカラッ

 

 

   ドカラッ ドカラッ

 

 

 それでも、行きたいとあそこまでやられて止めるほどジョニィは賢くなかった。ファンタジーなことだったが、心が通ったような気がした。だからいまジョニィができるのは愛馬の熱意を殺すことではなく、生かしてゴールまで走り抜けることだ。

 

 

(荒い地面だ…緑谷の大爆破のせいだ。だけどそのおかげで、この辺りの地雷も吹っ飛んでくれた。飯田の通ったルートと、その先の僕が自爆した場所。そこまでは地雷も少ないだろう。それでも、その先はどうする………他にも生徒はいる。もうすぐこのエリアを走り抜けられてしまうかもしれない)

 

 

 抉られたようになっている地面の上を走りながら、その先のルートを見た。残った生徒が恐る恐る地雷を踏まないように進んでいるのが見えた。

 ジョニィの瞳に黒い意思が灯った。

 

 

 シルシルシルシルシルシルシル

 

 

 右手の全ての爪を回転させたジョニィは、それら全てを前方の、やや下方向へ向けた。

 

 

「威力は必要なかった……僕の回転する爪が当たっただけで地雷は作動したんだ。先に言っとく、悪く思うなよ」

 

 

 

 バァァァアアアアアアアア

 

 

 一斉に爪弾が発射される。若干放射状に撃たれたそれは、地面に着弾するとそこにあった地雷を爆破させる。

 

 

ドガァァァーーン

 

 

「きゃあああああーーーーーーッ!!」

 

 

 それを見た他のクラスの生徒は、自分はああならないようにと足元へ視線を戻した。

 

「……ん?」

 

 だがそこに、ついさっきまで無かったものが生えていた。違う、刺さっているんだ。小さな何かが、地面に突き刺さっている。だが、それは地雷に近かったものの届いていない。危うく爆破するところだった。

 

 

「ふぅ………危なかっ」ビスッ「たぁぁああああ!!」

 

 

 

ドガァァァ!!!

 

 

 二発目の爪弾によって爆破したその場を、ジョニィはスローダンサーで駆け抜ける。煙に纏わり付かれながら、まっすぐ前方に何度も何度も『一斉射撃』を繰り返す。

 その度に前方で悲鳴が上がって生徒がどこかへ吹っ飛んでいく。その地雷の無くなった道を、スローダンサーはただまっすぐ走り続けた。

 

「第一種目で脱落なんてするもんか……必ずゴールしてやるぞッ!」

 

 

 

「これはなんてことだーー!! A組ジョニィ・ジョースタがものすごい勢いで上がっていくゥー! てかあの妨害いいのかよ!?」

 

「走者を直接狙ったものじゃないからな……効率的な道を行ってる。あまり褒めていいものかわからんが」

 

 

(緑谷は走者を足場にして、更に目の前の地雷を使って妨害していた。僕の行動に異議を唱えられるものなら唱えてみろってんだ!)

 

 

 ガグン!

 

 

「うおっ!!」

 

 

 またスローダンサーの身体が大きくブレた。正直、この作戦は賭けだった。離れた前方を爆破させるといっても、馬の脚ならすぐそこまで行ける。だから爆風と衝撃をモロに受ける時もあるかもしれない。

 

 

 この体力で受けたのなら、今度こそスローダンサーは動けなくなるだろう。

 

 

「アレだ……僕らが勝つにはアレを見つけるしかない。もう近くのはずなんだ!」

 

 

 

 その時、ジョニィの視界にキラリと光るものが見えた。

 

 

 

「アレが見えた! 飛び移るぞスローダンサァー!」

 

 手綱でスローダンサーの方向を変えた。

 

 

 ドカラッ!

 

 

 馬の身体が大きく沈んだ。足を曲げて身をかがめたスローダンサーは、大きく跳ね飛んだ。

 

 瞬間、地面に撃てるだけの爪弾をばら撒いて大爆発を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突如として巻き起こった地雷の集中爆破! 煙があがって何も見えねぇぞーー!!」

 

 

 地雷の爆破によって何も見えなくなったコース上を写している巨大ディスプレイを見て、轟は静かに落胆していた。

 

 自分を一度はくだした男……そしてヴィラン襲撃事件の時は、主犯格ヴィランから『漆黒の意思』なるものを唯一持っていると言われた男。オレには意思とかよくわからないが、一度負けた相手だ。

 

 この大会で戦って勝ちたいと思っていた。

 

 しかし、そううまくはいかなかった。足が動かないというハンデを馬で補おうとしても、綻びが出てくる。そしてその結果がこれだった。

 

 

 ディスプレイから目を外して控え室に戻り始めたその瞬間。

 

 

 

 

「いや……見えた! 見えたぞーー! 煙の中をA組ジョニィ・ジョースターがものすごいスピードで駆け抜けているッ!

 

 

「………!!」

 

 

「しかし地雷原の中を、どうやって進んでいるのか! もう爆破は起こっていない! 地雷だらけの道で! まさか地雷の隙間を走ってんのか!? ジョニィ・ジョースター!」 

 

 

(まさか……まさかあの野郎!)

 

 

 

「違うだろ……あいつの足元を見てみろ」

 

 

「足元?…………なんか光って…あっ!」

 

 

「そうだ、氷の」「氷の道だあああああ! ジョニィ・ジョースター、同じくA組轟が残した氷の道を進んでいたァァー! 早く走れるようにと滑りにくくしてたお陰かスイスイ進んでいくぞォ! 『氷のカーペット』だあああ!」

 

 

「オレの作った道を利用しやがった……」

 

 

「そして難なく第三関門突破だぁー! そのままぐんぐん登っていくッ! 他の走者を追い抜いていくぞォォ!!」

 

 疲労しているとしても、根本が全く違っていた。人の足と馬の足とでは速度に差があった。

 あっという間に追い抜いていくスローダンサーに、他の生徒も手が出せない。先頭集団は更に速度を増して、着々とゴールしていく。

 

 そしていま………

 

 

「ゴォォォーーール!! A組ジョニィ・ジョースター! ギリギリで第二種目への切符を掴んだァ!」

 

 ゴールラインを超えて少しした瞬間、それまでの勢いや圧力が嘘のようになくなった。荒い息遣いと、異常なまでに上がった体温を感じていたジョニィは、最悪の事態を想定した。

 

 スローダンサーの前足が曲がる。その仕草の意味を知っているジョニィは、転がるようにその足の上へと身体を降した。

 

「ッッ!!!」

 

 ジョニィはスローダンサーの側に黙って降りた。あれほど望んでいた歓声を浴びせられているというのに、その声が酷くどうでもよくなっていた。自分が降りたのを確認したかのように、スローダンサーは身体を傾けて地面に倒れた。

 

「まさか……そんなッ!!」

 

 横たわった愛馬の身体にしがみつく。その身体は熱くなっていた。やはり酷使しすぎたのだ。更にさっきジョニィを乗せた脚は折れていた。早急に治療しなくては助からなくなる。

 

 馬の体重は約400キロから500キロ。つまりたった一本の足で100キロ近い体重を支えているのだ。その一本でも折れたのなら、残り3本で支え続けるのは無理だ。安楽死しかない。

 しかし、今は個性という力がある。更にこの会場にはリカバリーガールがいる。早く見せて治療してもらわなくては。

 

 

「……この身体をどうやって動かすというんだ………500キロ近くある。僕には………できない……………」

 

 全部僕のせいだ。勝つために手段を選ばないなんて思わなければ、いや、別の手段を思いついていれば良かった。

 

 第二関門を終えたとき、なんとなくわかっていた筈だ。スローダンサーの前足の骨にヒビが入っているのではと。あのとき無理やりにでもリカバリーガールの元へ連れて行っていれば……。

 

 少しだけ「希望」で喜ばせておいて、そして最後にぼくから全てを奪い去って行く………!

 

 

 

グラッ

 

「ハッ! それ以上動くんじゃないッ! もうお前は………あ!!」

 

 愛馬が起き上がろうとしてるのではと思ったジョニィだったが、眼前には砂糖(さとう)力動(りきどう)が顔を真っ赤にして馬の身体を持ち上げようとしていた。

 

「お前はッ! 砂糖(さとう)力動(りきどう)! 離せっ! これ以上僕の相棒に何をするつもりだ!!」

 

 爪弾を向けるジョニィに、しかし砂糖は一切力を緩めることなく答えた。

 

「何って人助けだよ! いや、『馬』助けかァ!? わかったらそこどいてろ! 重くてしょうがねぇ!」

 

「おまえ………」

 

「そこを退いてろジョースター」

 

「わ! 何をすんだ! 障子か!?」

 

「オレも加勢するぞ砂糖」

「おう助かるぜ! じゃあお前はそっち持て!」

 

 その光景を離れて見ていた切島が奮い立った。

 

「熱いじゃねえかおい!! オレも手伝うぞッ!」

 

 「お、おれも!!」

           「わたしも!」

 

    「僕もッ!!」

 

 

 切島を筆頭に、次から次へ他の生徒がスローダンサーの元へ駆けつけて行く。外へ外へと押しやられたジョニィは、その光景を見てただ呆然としていた。

 

 

「これはなんてことだァァ!! 倒れた馬を救うため、走り終えた生徒が続々と集まって行くぞォォォ!! 泣かせるじゃねえかオイ!」

 

「言ってる場合か。救護チームなにボサッとしてる!急げ!」

 

 

「大地を駆ける者よ! 暴れずに力を抜くのですッ! 落ち着いて息を整えるのですッ!」

 

 口田(こうだ)が個性で必死にスローダンサーへ話しかけている。

 スローダンサーの身体が見えなくなるほど人が集まっても、身体が持ち上がる気配は全くなかった。

 

「おまえらもっと気合入れろォ! リカバリーガールんとこへ運ぶぞ!」

 

 切島の掛け声に合わせて持ち上げようとするが、ダメだった。全く持ち上がらずにいるところへ、ようやく救護チームが駆けつける。搬送用ロボットを連れてきた人たちが生徒たちの間を抜けてもっと離れるよう指示を出す。

 

「君たちよくやった、ここから任せなさい! おい担架急げ!」

 

「ジョニィ・ジョースター君だね。車椅子を持ってきた。これに乗せるよ」

 

 搬送用ロボットの持つ担架に乗せられるスローダンサーを、車椅子に乗せられるジョニィはやはり心配そうに見ていた。そして、その心配は当たることになる。

 

 

 バギィ!

 

 担架が折れて、スローダンサーの身体が地面に投げ出される。救護スタッフは慌てた。

 

「お、折れた!? 担架が折れたぞおい!」

「でもどうするんだよ! 早くしないと馬がッ!」

 

 慌ただしく動く救護スタッフたちを見て、解散しそうになっていた生徒たちがやはり自分たちがと動こうとする。

 

HA()ーッ! HAHAHAHAHAHAHA(ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ)!!」

 

 

 混乱する場の空気をぶち壊すように、笑い声が聞こえて来る。その声を聞いた途端、会場にいた全員が湧き立つ。誰もが知る声だ。その人がいるだけで大丈夫と安心できる声だ。

 

 

「もう大丈夫! なぜって?」

 

 

 

「私が来たッ!!」

 

 

 グランドにどこからともなく飛んできたオールマイトが降り立ち、いつもの笑顔と共にお決まりの台詞を言う。

 

 会場が爆発するかのような大歓声が起こった。劇的な障害物競争のあとにオールマイトという特大の衝撃を見せられて、観客のボルテージが一気に上がった。

 

 観客席に手を振りながら、オールマイトは車椅子のジョニィに近寄る。

 これまでは馬に乗っていたからか実感が湧かなかったが、本当にデカい。凄すぎて画風が違う。首が痛くなるほど見上げなくてはならなかった巨大な影は、一気に屈んで目の高さほどになる。

 

「君の相棒は、私が責任を持ってリカバリーガールの元へ運ぶ。だから安心したまえ」

 

 その大きな手が肩に置かれた。ズシリとくる重さは頼り甲斐のあるまさにヒーロー(英雄)の手だった。

 

「あっ……お、お願いします。オールマイト」

 

 驚きと興奮が入り混じった中で絞り出した言葉は、酷く情けないものだった。だがオールマイトはそれに力強くうなづいてくれた。

 オールマイトが倒れる馬に近寄ると、囲んでいた生徒たちや救護班が黙って道を開けた。馬にそっと近寄ったオールマイトは、その倒れる姿を見て何かを思ったのだろう。一瞬止まったもののその逞しい腕で馬を抱き上げたオールマイトは、そのまま少し早歩きでリカバリーガールの元へと向かっていった。

 

 

 オールマイトの衝撃は凄まじく、居なくなってもまだその興奮は冷めない。次の競技への期待と生徒たちの闘争心が高まる中で、アナウンスがかかる。

 

「え〜、本来でしたら次の競技に移るのですが、今し方オールマイトが荒らしたグラウンドの整備などで、少々お時間をいただきます。生徒諸君は、控え室で待機」

 

 

 

「「ええぇぇぇぇぇぇええええええええ!!??」」

 

 

 

 

 

 

 

 体育祭の為に作られたリカバリーガールの治療施設。そこには第一競技で負傷した生徒たちが幾人か立ち寄っていた。

 そこへ車椅子に乗ったジョニィがやってきた。

 

「リカバリーガール! スローダンサーの容体はどうなんだ!?」

 

 扉を開け放った先には第一競技でジョニィに吹っ飛ばされた生徒がいた。受診中だった生徒は驚くもののすぐジョニィと気づくと睨みつける。だが、ジョニィの視界には全く入っていなかった。

 

「焦りなさんな。「順番だ」呼ぶまで大人しく待ってなさい」

 

 しかしリカバリーガールは、小さな身体に似合わぬ迫力を出す。思わずジョニィの動きも止まり、受診していた生徒も止まった。

 

「いまはこの子を治療中だ。わかったね?」

 

「あ、ああ………」

 

 迫力負けしたジョニィが静かに診察室から出て戸を閉める。

 

(なんつー迫力を出すばあさんだ………)

 

 

 結局他の患者はおらず、さっき診察していた生徒が治療を終えて出てきた。リカバリーガールの圧力を前にしたせいか、もうジョニィに対する恨みだとかはなくなっていた。

 

 生徒が出たところで、リカバリーガールは戸を開けてジョニィを呼ぶ。入ってすぐ、ジョニィはスローダンサーの容態を聞いた。

 

「あの子のことなら、心配はいらないよ。ただ体力を使い果たしていたからねぇ、体力を使うあたしの『治癒』の治療は出来ないんだ。今は特製のベッドでおやすみ中さ」

 

 見るかい。そう促されて、僕はうなづいた。

 

 案内されたのは部屋の奥だった。

 

 ベッドを繋げてできたようなものの上で愛馬は眠っていた。熱くなった身体を冷やす為にか、水枕のようなものの上に乗せられていた。

 

 馬の肌は弱い。骨折して地面に横になり続けるだけで肌が腐っていくほどに。

 

「これなら………」

 

 愛馬の寝るベッドに触れると、触ったことのない感触が返ってきた。これなら大丈夫そうだ。

 

「ありがとうございます。リカバリーガール、なんとお礼を言ったらいいか」

 

「礼はいいさね。でもね、もうこんな無理をさせるんじゃないよ」

 

 その言葉は、重く僕の中へと落ちていった。

 

「それと体育祭中はこの子は出られないからね。絶対安静だ」

 

「わかっています……どうも、ありがとうございました」

 

 

 悶々とした気持ちのまま、僕はA組の控え室に戻った。

 

「おおジョースター! お前の馬はどうだった?」

 

 入って早々に砂糖が駆け寄ってきた。

 

「………………大丈夫そうだ」

 

 そう言うと、他のクラスメイトの幾人かがほっとしていた。

 

「そうかぁ〜〜〜、そいつは良かった」

 

「なんかヤバそうだったからなぁ。でも、安心した」

 

「オールマイト凄かったよなあーーー! 馬を軽々とヒョイだぜ!」

 

「驚愕であった………」

 

「馬って何キロあるんやろ?100キロとかかな」

 

「たしか……500とかじゃないっけ」

 

「500キロォォ!? はぁ〜〜〜、やっぱとんでもねぇなオールマイト」

 

 

 A組の面々が盛り上がり出す。これから対決が待ってると言うのによくもまあ呑気してられるな。

 

 ここに居ても意味がない、と車椅子を動かして立ち去ろうとした。

 

「まっ…………待って!」

 

 引き止める声に手を止めて振り向くと、口田が必死そうにしていた。そういえばこの男が他のクラスメイトと話してるところを見たことがない。

 

 そんな男が自分を止めたことに、ジョニィは興味を示した。

 

「……なに?」

 

「あの………君の、馬のことなんだけど…………」

 

 スローダンサーのことと聞いて、そういえばと思い出した。うろたえるスローダンサーに、必死に声をかけて大人しくしてくれていた。礼でも言おうかと口を開いたジョニィだったが。

 

「ありがとうって!!!」

 

「………えっ?」

 

「あ、いや……。僕の個性は動物の言ってることがある程度わかるんだけど………君の馬が、その、君に言ってたんだ。ありがとうって………それだけ……伝えとかなきゃと思って」

 

「ありがとうって……どういう意味だ? なあジョースター、おまえわかいっでえ!?」

 

「バカかよ上鳴…んなこと野暮ってもんでしょ」

 

「バカとはなんだよ!」

 

 

 上鳴と耳郎の喧騒をあとに、僕は部屋から静かに出ていった。来るまでの悶々とした気分は幾分か晴れて、笑みが溢れた。

 

 これから次の競技が始まるが、もう少しこの気分を味わってもいいだろう。

 

 

「…………な〜〜〜に感傷に浸ってんだよ」

 

「うわあっ! ってなんだ、ジャイロか」

 

「オイオイ…せっかく応援しに来てやったんだ。もう少し喜んだっていいんだぜ? そ・れ・と・も、いまは1人になりたい気分なのか?」

 

「…………何しにきたんだよ」

 

 驚いて振り向いたらジャイロがいた。いつものカウボーイ風の衣装を来たジャイロだ。

 

 部屋を出てからの一部始終を見られていたらしい。茶化すジャイロに返す言葉が思いつかず、僕は話を逸らそうとした。

 

「だから言ってんだろ? 応援だよ。お前さんの馬は今日は出られねえんだろ。だから俺の馬にちょっとだけ乗せてやる」

 

「いいのか?」

 

「今回だけだ。まあ……Lesson3を突破したお前さんへの一度きりのサービスってことだ」

 

 後ろにいたジャイロが前にやってきて、手を前に出した。

 

「…………助かるよ」

 

 手と手がぶつかり音が響いた。ハイタッチだ。

 

「いってぇぇぇ………手加減しろよ」

 

 しかし思い切りやりすぎたせいで、手のひらに予想外の痺れと痛みがやってきた。ジョニィは手を振りながら文句を垂れるが、それはジャイロも同じだった。痛そうに手を握ったり開いたりしていた。

 

「そりゃこっちのセリフだっての…やっぱ貸すのやめようかな」

 

「なんだよそれェ!? 先に手を差し出してきたのはそっちじゃねえか!」

 

「うるせえ! それ以上文句言うなら、ホントに貸してやんねーからなッ!」

 

 ジャイロのその言葉に、ジョニィは言いかけていた言葉をしぶしぶ飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オールマイトが荒らしたグラウンドの整備が終わった。熱狂していた観客席も落ち着きを取り戻している。しかし、これからまた盛り上がることだろう。第二競技が始まるのだから。

 

 ヴァルキリーに乗らせてもらった僕を含めて、すでに競技場の真ん中へ集まった生徒の数は42名。あれだけいた生徒の中から、第一競技の上位42名のみが出場できる。

 

 壇上にミッドナイトが上がった。

 

 鞭を振るい、選手の視線を自分とそのバックにあるモニターへ注目させる。

 

 

「それでは、選手が集まったところで次の第二競技を発表するわよ! 第二種目はこれ!!」

 

 

 騎馬戦だ。

 

 制限時間は15分。通常の騎馬戦と同様に、数名からなる騎馬の上に騎手が乗ってハチマキを付ける。

 

 ハチマキの点数はチームメンバーのそれぞれの持ち点の合計になる。首から上にならいくつでも巻いて良し。

 制限時間終了後に残っている持ち点の上位4チームのみが、決勝戦に進むことができる。

 

 だが、ここからが通常の騎馬戦と大きく違うところだ。

 

 ハチマキをとられたとしても、制限時間内であれば失格にはならない。騎馬が崩れても失格になない。

 

 そしてハチマキのポイントはそれぞれ、第一種目の順位によって振り分けられる。

 

 第一位の緑谷に振り分けられたポイントは、100万ポイントだ。

 

 

「競技中は個性発動ありの残虐ファイト。でもあくまで騎馬戦………悪質な崩し目的での攻撃はレッドカード。一発退場とします」

 

 ダメか………。手っ取り早く足に撃ち込んだら楽だと思ったんだが。

 

「それじゃあ15分間、チーム勧誘の時間よ!」

 

 ミッドナイトの声に合わせて、モニターにカウントダウンが表示された。

 

 僕は騎馬戦と聞いた時から1人だけ組む相手を決めていた。その人物の元へ出来る限り急いで向かう。

 

 ヴァルキリーはスローダンサーほど老馬ではないが、その分脚の強さがある。だが、その力を十分に活かすためにはやはりジャイロが乗ってこそだ。

 

 なんとかヴァルキリーを誘導して、その人の元へやってきた。誰と組もうかとオロオロしている様子を見て、まだ誰とも組んでなかったことに安心した。

 

「僕と組んでくれないか……口田君。君の力が必要なんだ」

 

「……………!?」

 

 全く予想してなかった勧誘に驚いている。そうだろうな。少し前までなら僕も君と組むなんて選択肢は無かった。

 

 ジョニィがなぜ口田を選んだのか。それは彼の愛馬が倒れた時に口田が個性を使っているのを見たからだ。

 

 口田(こうだ)甲司(こうじ)。個性は生き物ボイス。直接声に出して指示することで、人以外の生き物を操ることができる。

 

 ジョニィが彼を選んだのは、彼の個性ならヴァルキリーを指示通りに動かして操ることが出来ると考えたからだ。

 

 しかしそれ以上に、彼を選んだのは彼が敵に回ると最悪の相性だったからでもある。

 

 

「あ、ありがとう……」

 

「ほら、僕は手伝ってやれないからこの馬に個性を使ってしゃがませるんだ」

 

「あ…うん。『大地を駆ける者よ、私を背に乗せる為にしゃがむのです』」

 

 その声を聞いたヴァルキリーが、素直に身を屈めて口田が乗りやすいようにした。慣れない手つきで後ろに乗ろうとする口田を見ながら、ジョニィは内心で恐怖を感じていた。

 

 

 もし彼が敵に回って、ヴァルキリーの動きを逆に利用されでもしたら終わっていた。この男の個性は僕にとって最悪の相性だが、敵にならなくて良かった………

 

 

「それで……他には?」

 

 他のメンバーは、という意味だろう。そんなのは決まっている。

 

「これだけだ」

 

「………………え」

 

 口田が硬直したのがわかった。そんなに意外だったのか?

 

「流石に二人乗りが限界だよ…いまさら降りるなんて言わないでくれよ。ちゃんと作戦があるんだ」

 

「作戦って……」

 

「それを今から伝える」

 

 

 

 時間はあっという間に過ぎ、騎馬戦の勧誘時間15分が終わった。

 

 その頃にはすでに作戦の全てを伝え終わっていた。

 

「いいかい? 時間との勝負だ。いきなりで勇気がいるかもしれないが、この作戦は君にかかっている。頼んだぞ!」

 

 口田は力強く頷いた。

 

「それじゃあ第二種目騎馬戦! 

 

 

 スタァーートォォォーーーーー!」

 

 

 





 スローダンサーがリタイアしました。

 SBRの本編では大会ルールで他の馬に乗ることができませんでしたが、これにはそんなルールはありません。

 騎馬戦は早々に終わらせて、はよ決勝戦を書きたいです
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