STEEL BALL HERO   作:ボンシュ

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 騎馬戦 完結


体育祭の巻 ④

 

 騎馬戦が始まった直後、ほぼ全ての騎馬が一斉に緑谷(1000万ポイント)のいるチームに殺到する。

 

 それは最初から緑谷もわかり切っていたことだった。

 

発目(はつめ)さん!」

 

「了解です。いきますよ皆さんっ!」

 

 緑谷が組んだのは、サポート科に属する少女の発目(はつめ)(めい)だった。発目が手元のスイッチを押すと同時に、同じくチームになった麗日が個性で皆の重量を軽くする。

 

「よっしゃとったァァー!」

 

 B組の鉄哲(てつてつ)が手を伸ばすも、空振りに終わった。

 

 見上げた鉄哲チームは目を見開いた。

 

「な、なんだありゃあ! と、飛んでやがる!」

 

 騎馬の足に取り付けられた靴と、発目の背負うバッグにはジェットエンジンが搭載されていた。ジェット噴射であっという間に上空へ逃げる緑谷チームを、他の騎馬たちは指を加えて見ることしかできなかった。

 

 

  バガガガガガガガガガ!!

 

 

「逃げてんじゃねえクソデクウ!!」

 

「かっちゃん!?」

 

 例外がいた。

 

 爆豪が両手を爆破させながら迫ってきたのだ。これは緑谷も予想外だった。まさか騎馬を離れて追ってくるとは。

 

 ジェットで飛んでるとはいえ、空中では小回りの効く向こうが有利だ。滞空する緑谷の頭に巻かれたハハチマキに、爆豪がロックオンした。

 

常闇(とこやみ)君!」

 

 騎馬の1人の名を呼んだ。待ってましたと、常闇(とこやみ)踏陰(ふみかげ)の鳥の目が光った。

 

「迎撃しろ、ダークシャドウッ!」

 

「近付イテンジャネェェェ!! オラオラオラオラオラア!」

 

 

 

 

 常闇の身体から、影が形を成した存在が現れた。彼の個性の『黒影(ダークシャドウ)』だ。

 

 身動きの取れない本体に代わり、爆豪を押し戻すようにラッシュを叩き込んだ。

 

 だが、流石は入試首席といったところか。持ち前の反射神経と戦闘センスで、ラッシュを最低限までかわした上で不利と判断した爆豪は、緑谷たちから離れる。

 

「爆豪ー! 無茶しすぎだバカ!」

 

 爆豪の背にテープがくっつき巻き戻していく。瀬呂(せろ)範太(はんた)の個性『テープ』だ。

 

 ギリギリで自分のチームの元へ戻った爆豪の行動は、テクニカルとして処理される。

 

「危なかった………まさか上空まで追ってくるとは」

 

「デク君! 次はどうするの!?」

 

「このまま上空にいたいけど…発目さん、滞空時間は?」

 

「私のベイビーでも、この人数ではずっとは無理です! おそらくもうすぐって、きましたよぉ!」

 

 発目が言うのが先か、ジェット噴射が弱まって4人がだんだんと地面に迫っていく。その着地の瞬間を狙って、他のチームが殺到する。

 

 バカラッ バカラッ バカラッ バカラッ

 

 

 その中には、ジョニィ&口田チームもいた。

 

「口田君、頼んだぞ!」

 

「だっ、大地を駆ける者よ! 前の騎馬に向かって落ち着いて走るのです!」

 

 ヴァルキリーの操作を口田に任せ、ジョニィは右手を左手で支えるように持ち、緑谷たちに向けて人差し指を向けた。

 

「正しく………正しく回転をッ」

 

 爪が回転を始める。一度撃った感覚を覚えているからか、先ほどよりも早く正しい回転に安定させられた。

 

「くそっ……ここでジョースター君が!」

 

 馬の速度に緑谷が焦る。このままでは爪弾の射程距離に入ってしまう。一刻も早くこの場からジェット噴射で逃げなくては。

 

 爪弾の射程距離までまだある。まだ逃げられる!

 

 

「そういうのはさせない。(タスク)ッ!」

 

 

 ガシャァアアアアア

 

 

 

「そっ、そんな! ジェットパックが!」

 

 

 空に逃げるよりも早く、射程距離と破壊力を増したジョニィの爪弾が緑谷の背中の機械を破壊した。

 

「もらうぞッ! 1000万ポイント!」

 

 この隙を逃すまいと、ヴァルキリーが更に速度を上げた。

 

 

「させぬ! ダークシャドウ!」

 

 

 動けなくなった代わりに常闇のダークシャドウがヴァルキリーの前に立ち塞がる。突然現れた巨大な影に驚いて、ヴァルキリーの足が止まる。

 

「くそっ………面倒な個性だ」

 

 足止めを食らったジョニィたちは、走って逃げる緑谷チームの背中を見る。そこに目掛けて今度は轟のチームが迫っていた。

 

 不幸中の幸いか、ポイントの少ない自分たちが狙われることは今のところないだろう。後ろの口田にジョニィは問いかけた。

 

 

「口田君……いまどんな感じだ?」

 

「ま、まだぜんぜん……けど………もう見つけたよ」

 

 ジョニィはモニターの制限時間を見る。

 

「ダメ元で行ってみるか……緑谷たちを追いかけるぞ口田君! しっかり掴まってるんだ!」

 

 手綱を握って、追いかけられる緑谷チームの元へと走り出した。

 

 

 バリバリバリバリバリバリバリバリッッッ

 

 

 同じく緑谷を追っていた轟チームから、眩い光と空気を焼くような音が発生する。ジョニィも口田も、そしてヴァルキリーも目を閉じて足も止めてしまった。

 

「くそっ! 次から次へと………今のは上鳴の放電か!?」

 

 目を擦りながら、ジョニィは右手の爪弾を全て回転させてがむしゃらに撃とうとする。

 

「いや…崩し目的での騎馬に対する攻撃は禁止されているんだったな………」

 

 狙いが定かじゃない状態で撃った爪弾が、他の騎馬に当たってレッドカード。なんてことは避けたい。

 

 爪弾を撃つのをためらったその一瞬が命取りだった。

 

 緑谷チームを追いかける轟チームから、恐ろしいスピードで氷が地面を覆っていく。

 

「不味いッ! 避けろヴァルキリー!!」

 

 馬に指示を出すが、今乗っているのは彼の愛馬ではない。スムーズに操れないところを口田の個性でカバーしたと思っていた。

 

 行動に移るまでのタイムラグで、ジョニィと口田とヴァルキリーは足元を凍らされてしまった。

 

 だが、それだけで終わらなかった。

 

「なんだ!? 氷が……どんどん登ってくる!」

 

 足元を凍りつかせた氷は、そのままゆっくりとヴァルキリーの足伝いに登っていく。

 

 このまま戦闘不能にさせる気か!!

 

「やられてたまるかよッ!」

 

 咄嗟に爪弾で氷を破壊した。全身が氷漬けになることは避けられたが、馬の足がほとんど凍ってしまっている。

 

 破壊しきったとしても、時間はほとんど残されていないだろう。

 

「やってくれるじゃねぇか轟焦凍………僕のことを片手間で済ませて、本命に直行ってわけか」

 

 

ドバババババババアン!!

 

 連続で射出した爪弾が氷を幾分か破壊して、破片が宙を舞う。

 

「今は待っていてやる…どちらにしろ勝負を決めるのはラスト十数秒って決めていたんだ」

 

 振り向くと口田が寒さに身を震わせていた。

 

「口田君……そろそろ時間がヤバい! 今の数は?」

 

「そろそろ…………もう充分だと思う!」

 

 無口なりに力強く返した口田の言葉に、ジョニィはよしと拳を握って更に爪弾で氷を破壊する。

 

 

 

 残り時間が残りわずかとなった時。

 

 爆豪チームは『コピー』の個性を巧みに使うB組の物間(ものま)チームから点数をもぎ取っていた。

 

 轟チームは、飯田の隠し技である『レシプロバースト』によって急加速。緑谷から1000万ポイントを奪い取った。

 

 

 その激闘の外側で、峰田、蛙井、障子の三人チームは少しでもハチマキを奪おうと攻勢に出ていた。

 

 

「チキショォォ! もう失うもんは何もねえ! 障子ッ! 全攻勢モードだ!」

 

「わかっている!」

 

 つい先ほどまでは体格差を利用して2人が障子の背中に乗り、複製腕で盾のようにして籠もっていたのを、今度は逆に複製腕を表に出して突撃しようとしていた。

 

 

 ピチャッ

 

 

「ピチャ?」

 

 音のした方。自身の頭へ目を向けた峰田は、水滴かと手で拭う。そして、拭った手に白い何かが付着しているのを目にした。

 

「ばっちいわ、峰田ちゃん」

 

「とっ、ととととととと鳥の糞ンーー!? なんでよりによってオイラの頭なんだよ! こんな広い会場でッ! 何でッ! オイラだけッ!」

 

「日頃の行いじゃないのか?」

 

 障子の言葉が突き刺さった。思い当たる節が多すぎて何も言えなくなって、先ほどまでのやる気も失せてしまった。

 

「ケロッ……でもたしかに、不思議よね。なんで…………ッ!?」

 

「ん? どうした蛙吹?」

 

 突然背中で蹲った蛙吹の異常に気付いて声をかける。震えているのが背中越しに伝わってきた。

 

「ケロッ……ちょっと…無理………ごめんなさい」

 

「何があったんだ!?」

 

 障子は複製腕の一つを目にして周囲の様子を見ようとした。

 

「なっ………なんだあれは…………」

 

 見上げた瞬間に目に入ったのは、雲ひとつない青空ではなかった。

 

 黒い塊が空を蠢いている。

 

「あれは鳥……いやっ、カラスか!!」

 

 

カァー カァー  カァー

 

 

   カァー  カァー    カァー

カァー カァー カァー カァー

 

 

 空を覆いつくさんほどの数のカラスがいた。それだけじゃない。会場の中の骨組みなどにも、カラスが止まってじっとこちらを見ていた。

 

 

 

 

 

 

「そろそろ………気付き始めたやつも何人かいるな」

 

 

ドバァ!

 

 

 最後の氷を破壊して身動きの取れるようになったヴァルキリーが、首を振って、足をうずうずと動かす。

 

「口田君……君のお陰だ。君には本当に助けられてばかりだ……」

 

 そんなことはないと、口田は手と首を思い切り振る。

 

「いいや、君のお陰だ。そしてもう少し力を貸してくれ! 合図を出したら頼む。そしてヴァルキリー……この短い時間の中でお前の意思をうまく汲み取る時間は無かったが……今ならわかるぜ」

 

 

 遠くにある巨大な氷の壁。そこへヴァルキリーを向けさせた。

 

 

「思い切り走りたいよな! 止まるなんてことは考えるな。ただまっすぐ走るんだッ! 行くぞ!!」

 

 前足を大きく上げてヴァルキリーはいななき、着地と共に爆発するように走り出した。

 

 

「いまだ口田君!!」

 

 ジョニィの合図に、口田は思い切り息を吸って腹に力を入れた。本来は無口な彼だが、ジョニィの何がなんでも勝つと言う意思に触発されて、いつも以上の声を出すことができた。

 

「黒き翼で空を羽ばたく者よ!! 我らの敵が身に付けるバンダナを奪い取ってくるのですッ!!」

 

 本人も驚くほどの声を聞いたカラスたちは待ってましたと一斉に飛び立ち、飛んでいたカラスたちは会場の上空から急降下してきた。

 

「なんだありゃあ!! 会場に黒いもんが突撃してきたァ! マジでなんだありゃあ!」

 

「カラスだな。おそらく試合開始と同時にどっかにいたカラスに口田が個性で指示を出して集めたんだろう」

 

 

 その通りだ。相澤のアナウンス通り、試合が始まった瞬間に口田には近くにいたカラスに仲間を集めて待機するよう指示を出してもらっていた。

 

 ここは街のど真ん中だ。カラスなんて腐るほどいる。15分なんて時間があれば、遠いところからでも来ることができるだろう。

 

 

「だとしてもとんでもない数だッ………本当に恐ろしい個性だよ口田君……」

 

 突然のカラスの急襲に、会場内は混乱状態になっていた。

 

「カッ、カラス!? とにかく防御しきってくれ常闇君!!」

 

「その点なら安心しろ緑谷! これだけの数……日の光もある程度遮られて…」

 

 

カァー カァー  カァー

 

 

   カァー  カァー    カァー

カァー カァー カァー カァー

 

「ダークシャドウの防御は今まで以上だ!」

 

「クソ鳥ガ、ワイテキテンジャネー!」

 

「すごいよ常闇君!」

 

「カラス避けのベイビーも製作してみたいですねこれは!!」

 

 

 防御が成功している緑谷チーム。

 

 

 

 直前まで対決していた轟チームはというと。

 

「あ、危なかった………」

 

 自分たちを覆い隠すように氷のドームを形成。動けなくなったかわりに、カラスも手出しができなくなった。

 

 

 一方爆豪チームは。

 

 

カァー カァー  カァー

 

ドガァアアアン!

 

 

   カァー  カァー    カァー

 

ドッグォォオオオン!

 

カァー カァー カァー カァー

 

 

「カァーカァー喧しいんだよボケッ!! 道を開けやがれクソったれ鳥公どもォォ!!」

 

 激昂した爆豪の連続爆破にカラスたちもなかなかハチマキを取ることが出来ずにいた。

 

「いいぞ爆豪!! そのまま追い払い続けろッ!」

 

「てめえが指図してんじゃねえ! おい黒目! こいつら全部てめぇの酸で溶かせねぇのか!」

 

「だからあ、し、ど、み、な! そんなグロテスクなことできるわけないでしょ!!」

 

 

 

 

 氷のドームに守られている轟チームは、外からカラスたちが氷の壁を突いている音に囲まれていた。

 

「轟君。このドームは大丈夫なのか?」

 

「あぁ、少なくとも鳥の嘴や爪なんかで崩れるような柔な作りじゃねぇ……安心しろ」

 

「そ、そうか……」

 

 見ることができないから残り時間は不明。

 

 しかしカラスが襲ってくるより前に、すでに残り1分を切っていた筈だ。

 

(このままここで時間いっぱいまで待てば……)

 

 

 

 バキャアアアアアアア

 

 

「引き篭もらせるわけがないだろう……(タスク)だ!!」

 

 氷の壁が壊れて、ジョニィ・ジョースターがすぐそばまで接近する。

 

 

「またか、ジョニィ・ジョースター!」

 

 

 氷を出して防御……間に合わない!

 

 

 更にそこへ、カラスの大群に群がられながら、しかしダークシャドウで守りを固めた緑谷チームが突貫してくる。

 

「緑谷もかッ!」

 

 しかし次の瞬間、守りに徹していた緑谷チームが突然守りを解いた。

 

 唯一身につけていた70ポイントのバンダナはカラスに奪われた。

 

(しまった……! あいつが持っているのは70ポイントのハチマキだけだ。それが無くなればカラスは寄って来なくなる。つまり!)

 

 

「攻撃に集中できる! 常闇君!!」

 

「ダークシャドウッ!」

 

「ソノバンダナヨコセェェェェェェ!」

 

 

 正面から緑谷チームのダークシャドウ

 

 

「ウォォオォォォオオオオオ!!!」

 

 

 横からはジョニィ・ジョースター

 

 

 そして今にもカラスの爪がバンダナを掻っさらいそうだ。

 

 

 

「こんなところで……負けてたまるかッ!!

 

 

 

 ブォォォオオオオオオオオオ

 

 

 轟の左手からとてつもない量の火炎が放出される。

 

「なにっ!? クソッ、くらえ轟!!」

 

ドバン! ドバン! ドバン!

 

 

 

 それは迫っていたカラスを一掃させただけに留まらず、ヴァルキリーを驚かせて足を止めさせた。

 

 苦し紛れに撃った爪弾も、あらぬ方向へ飛んでいってしまう。

 

「まだ…だッ!」

 

 緑谷は諦めていなかった。

 

 その目に黄金のような輝きを宿し、右手を仰ぐようにして炎を消し去った。

 

(俺は………何を……!?)

 

 今し方自分のした行為に目を見開いて左手を凝視する。

 

 その隙を逃すわけにはいかないと、緑谷は手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「タイムぁぁぁあアップ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、会場を歓声が包んだ。

 

 最後の最後まで結果のわからない接戦だっただけに、その盛り上がりも凄まじかった。

 

 

 

 

 

 「それじゃあ上位4チーム発表して行こうかあ!! 1位、轟チーム! 2位、爆豪チーム! 3位、鉄哲……ってあれ!? いつ挽回したんだあ!? 3位、ジョースターチーム!」

 

 順位がモニターに表示されるのを見て、ジョニィは口田に向き直った。

 

「口田君……君には本当に借りができたな」

 

 それに対して口田はまたしても手と首をちぎれそうなほど振って否定する。

 

「まだ謙遜してるのか……いい加減に認めろよ。このポイントは君のカラスたちが取ってくれたものなんだぜ」

 

「………そ、そうかな…」

 

「その通りさ。だけど…決勝では容赦しないからな」

 

 それだけ言って、ジョニィは口田の元を離れた。

 

 

 

「それじゃあ1時間ほど昼休憩を挟んでから、決勝戦だ!! SEE YOU AGAIN!!」





 次回は待ちに待った決勝戦!!

 心操ファンの方はスイませェん………彼はカラスにやられる運命になりました

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