STEEL BALL HERO   作:ボンシュ

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 緑谷VS轟

 上鳴VS飯田

 ジョニィVS爆豪


体育祭の巻 ⑥

 

 第七試合。爆豪VS麗日の対決でジョニィが得られたものは無かった。厳密にいえば麗日の個性で瓦礫を上空に溜めて一気に降らすという技以外は、爆豪の奥の手などを垣間見ることは出来なかった。

 

 選手待機室でジョニィは車椅子の背にもたれかかって目を閉じる。まぶたの裏に微かに蘇るのは第七試合で見せた麗日の顔だった。

 彼女は何がなんでも勝つという「執念」を持っていた。それでも爆豪には勝てなかった。その理由を考えたとき、真っ先に思い浮かぶ理由は純粋な強さの違いだ。

 しかし、本当にそうなのだろうか。何か根本的なところで違う気がする。「個性」だとか「センス」だとかじゃない。もっと別の理由があるのでは。

 

 思考の渦の中にいたジョニィを引き戻したのは、第二回戦の開始を知らせるアナウンスだった。

 次はたしか緑谷と轟の対決だったか。釈然としないままだが、轟の攻略法を少しでも知っておきたかった。通路の中まで響く歓声を聞きながらジョニィは静かに車椅子の車輪を回した。

 

 

 第二回戦、緑谷VS轟の展開はまさに衝撃的であった。

 開幕一撃で仕留めようとした轟の氷を、真正面からいわゆるデコピンの風圧で吹き飛ばす。その繰り返しだったが、轟は氷を出しているだけなのに対して緑谷は一撃ごとに指を一本ずつ犠牲にしていた。

 限界の見えない氷に対して10回しか使えない手。無謀としか思えない策だ。

 

「スマァーーッシュ!」

 

 また一本犠牲にした。使用済みの指は内出血どころか内部はめちゃくちゃだろう。赤黒く変色した指と緑谷の表情が見るものに鮮烈な痛みを伝える。対して轟は未だに無傷なうえ、クールな立ち振る舞いを崩さない。実力差は歴然だった。

 

「ス……ッマァァァッシュ!!」

 

 それでも緑谷は諦めていなかった。変わらず迫る氷を指をまた一本犠牲にして崩す。

 

「いい加減に……倒れてくれッ!!」

 

 このままでは埒が明かないと判断した轟は先程までの何倍もの氷を形成する。デコピンではこの氷の津波を破壊できない。そう察した緑谷は唯一無事だった左手を握り込んだ。

 

「スマァアーーーッシューー!」

 

 さっきまでとは比べ物にならない衝撃波が、大氷山をいともたやすく吹き飛ばした。残っていた左腕を代償にした攻撃は氷の破壊で相殺され、轟の体を軽く後退させるほどしか出来なかった。

 

 

 

「うおっ! スゲー風だな……さむっ!」

 

 その風圧は、今し方たどり着いたジョニィの元まで届いた。通路の中まで届いていた冷気が、外に出ると一層増して身体を震わせる。

 

 まさか決着がついたのか? 目を凝らして会場の中心にある舞台を見た。緑谷と轟が立っていた。まだミッドナイトの審判は出ていない。間に合ったようだ。

 

「なんだありゃ、緑谷出久……ネジがぶっ飛んでるんじゃねーのか」

 

 とても無事とな思えない腕の破壊状況だった。右手は指が全て赤黒く変色している。左に至っては腕ごと赤黒くなっていた。脳内麻薬などもう機能してないだろう。

 轟の方も明確な負傷はなさそうだが、右半身に霜がおりている。それがどんな意味を持つのか、轟が攻撃したことでジョニィはすぐに理解することになった。

 

「轟の氷が、遅くなっている……そうか! どんな個性だろうと弱点がある。あいつの個性は使えば使うほど、身体を酷使していくものだ! だからいつもすぐ決着をつけようとしていた」

 

 これで突破口が見えた。そう思ったジョニィだったが、ふと轟の個性名を思い出した。

 

「半冷半燃……思い返してみれば、たしか第二種目だ。あいつは左側から炎を出していた……なんで使わないんだ……」

 

 使いこなせていないのか。それとも何か制限があるのか。どちらにしろ使えないのならチャンスだった。

 

「しかし……さっきから全然動かねぇな。何してんだあいつら」

 

 さっきまで盛り上がっていた観客も突然の戦闘中断にどよめいていた。よく見ようと前の列に行こうとした途端に舞台が燃え上がった。

 

 驚いて転がり落ちそうになるのを誰かが止めてくれた。だが礼を言ってる場合じゃない。

 

「使えないんじゃなかったのか!!」

 

 騙されたわけではない。それでも叫ばずにはいられなかった。これで奴の弱点は無くなってしまった。

 

 直後、とてつもない熱を含んだ衝撃波が会場を揺らした。

 

「この衝撃はッ!!」

 

 車椅子など簡単に吹き飛ばされる衝撃に目を瞑った。風が痛いほど叩きつけられる感覚がするが浮遊感は無かった。

 風が止み、目を開けられるようになった。

 

「まったく……ヒーローの卵ってのはどいつもこいつもあんななのか? オレは相手したくないな」

 

 小声だが聞き慣れた声だとわかった。振り向くと男が立っていた。縦に棒状の穴が放射状に空いた帽子とゴーグル。その下から覗く気怠げな眼がこちらを見た。ジャイロだ。

 

「どうしてここに?」

 

「どうしてって……ここは客席だぜ。お前がここに来たんじゃねえか」

 

 ジャイロが指差す方を見ると、少し離れたところにA組のクラスメイトが座っていた。なんてこった。出るところを間違えていたのか。

 

「緑谷出久君 場外! 勝者! 轟焦凍君ッ!」

 

 

「えっ!」

 

 

 歓声が上がる。凄まじい対決を魅せてくれた両者に対して惜しみない拍手が送られる。

 急いで舞台へ視線を戻したが、轟はすでに舞台を降りていた。緑谷は地面に大の字に伸びていた。

 

「ちょっと……待て! おい! いまどうなってた? 最後どうなってたんだよ!」

 

 ジャイロに聞いても本人も歓声を上げているせいで全く届いていない。しかも車椅子を掴まれてるから掴みかかることもできない。

 

「おいジャイロ! おしえろォォーーー!!」

 

 必死の叫びは会場の拍手と大歓声という海の中に溶けて消えた。

 

 

 

 

 

 第二回戦は飯田VS上鳴だ。芦戸を無差別放電で倒した舞台の全てが射程圏内の上鳴に対して、飯田の個性は『エンジン』だ。結果は見えていた。

 

 エンジンがあろうと放電の速さには勝てない。そのはずだ。しかし舞台上の上鳴の表情は決して侮っているものではない。ここへ来て慎重になったのか、あるいは上鳴が知っている飯田の何かを警戒してるのか。

 

 そうだ、飯田と上鳴は騎馬戦で同じ班だったではないか。上鳴が飯田の奥の手を知っていても不思議じゃない。

 

「では第2回戦! スタートッ!!」

 

 勝負は一瞬だった。今度は見逃すまいと目を凝らしていたが、眩い光で目を閉じてしまった。次に目を開いた時には、決着がついていた。

 

「上鳴君、場外! 勝者! 飯田天哉君!」

 

 舞台がしんと静まり返っていた。どよめきも起こらなかった。皆が言葉を失っていた。ジョニィは何が起こったのかと同じく困惑していた。

 

「ウェ、ウェ〜〜〜??」

 

 場外に倒れた上鳴は一度に大量の放電を行った反動でアホになっているが、飯田は違った。舞台上で未だに立てずにいる飯田は、刹那に等しい時間の、濃密な戦闘を思い返して冷や汗をどっとかいた。

 

 上鳴が警戒して、そして飯田が使用したのは騎馬戦でも使用した奥の手だった。名前はレシプロバースト。エンジンの回転数を急速に上げて一気に最高速度に達することができる技だ。

 

 それを飯田は試合開始と同時に発動した。上鳴の全方位放電に勝つには、それより早く突き飛ばすしかないと悟ったのだ。

 

 上鳴もそれを理解して警戒していた。その結果、攻撃が届くのが早かったのは上鳴の方だった。命中した電撃は飯田の意識を飛ばしかけていた。しかし飯田の超加速はすでに始まっていた。

 

 一度勢いがついたものは急停止できない。

 

 歯を食い縛り意識を飛ばされることだけは耐えた飯田はまっすぐに飛んでいき、真正面にいた上鳴に命中。飯田のスピードがそのまま衝撃になり上鳴は吹き飛ばされてしまった。

 

 しかし、もしも上鳴がその場から動いていたら結果は変わっていただろう。結局は個性発動の為に動けないが。

 

 あまりにもギャンブルの要素が強すぎだ。遅れて上がった歓声をその身に受けながら、飯田はそのもしもを想像して反省した。

 

 

 

 

 テレビの画面を切って待合室を出ると壁越しに聞こえていた歓声の音が増した。

 

 第三回戦の用意はすぐに整った。スタッフに促されるまま選手の入場口に着く。まっすぐ伸びた通路の中は暗く、出口はひどく眩しく感じた。対照的なそれが緊張感を煽った。

 

 見えないが、このずっと先にいる爆豪も同じ気持ちなんだろうか。浮かびそうになる悪いイメージを払拭するように頭を振った。自分で不安感を増してどうする!

 

バチィン!

 

 両手で頬を強く打った。破裂音と痛みが無理やり気を引き締めた。

 

「……よし!」

 

 準備はできた。あとは徹底的に爆豪勝己という1人の男を叩きのめすだけだ。ジョニィが覚悟を決めてから、時間を置かずにミッドナイトの号令が飛んだ。

 

「1-A、爆豪勝己君。同じく1-A、ジョニィ・ジョースター君。舞台上へ」

 

 暗い通路から明るい舞台へ出ると、眩しさに目を細めた。舞台に上がって、その中心まで車椅子を進めた。もう慣れたのか、観客はそれほど困惑していなかった。

 

「おい、爪野郎」

 

 向き合った爆豪が静かに言った。いつものキレているイメージとは違った。

 

「クソ赤髪にやったあの技、もしやらなかったらブッ殺すからな」

 

 爆豪の手が爆破する。なんとなく、全力でこいと言われてることが理解できた。それにジョニィは爪を回転させることで返事した。

 

「心配いらない。その悪人面が悔し涙で見えなくなるほど味わわせてやるよ」

 

「ンだとゴラァア!!」

 

 おお、キレた。ヒーロー志望とは思えないほどのいつもの悪人面になった。審判のミッドナイトも苦笑いしている。

 

「一応これ全国に流れてるから、あんまりショッキングすぎるのは勘弁してほしいわ……」

 

 ミッドナイトの心配をよそに闘志全開のジョニィと爆豪だった。

 

「それでは第二試合! スタート!!」

 

 開始の宣言がされた直後、爆豪が後ろ手に爆破を起こした反動で飛んできた。爪弾で応戦するが、爆豪の人間離れした反射神経が右へ左へとかわす。

 

 獰猛な笑みを浮かべて迫る姿に強さを再度確認させられる。出し惜しむことなく両手の爪を回転させる。

 

 シルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシル

 

 切島は硬化の個性を使っていた為に切り裂く程度で済んだ。空気を裂く音を出しながら回転する爪は、刃物とは比較にならない凶器だ。

 

「チッ……」

 

 構えるより早く、爆豪の戦闘センスは撤退を選んだ。爆破を目眩しに使って後ろに下がったところへ、ジョニィは両手の爪弾を一斉に射出した。

 

ドバァアン

 

 ショットガンのように打った爪弾が爆煙の中に消えてすぐ、一際大きな爆発が起こった。爪弾を吹っ飛ばした爆発は煙も吹き飛ばし、無傷の爆豪の笑みが見えた。

 

 歓声が上がる。どちらに対してなのか分からないこれは、きっとこの戦いに対しての歓声だろう。

 

「くらえッ!!」

 

 両手を向けられた爆豪はもう一度空中に飛び立った。マシンガンのように打ち続ける爪弾を、ジェット機以上の機動力でかわしていく。

 全く当たらないどころか、爆豪との距離は縮まってきていた。

 人間なのかこいつ!? 縦横無尽に飛び回り段々と近づいてくる姿は冷徹な殺戮マシーンを彷彿とさせた。

 

 撃ち続けながら手を合わせた。もちろん祈る為じゃない。左手からは爪弾を発射し続け、右手の爪弾は回転したまま留めておく。

 接近してきたところで切り落としてやる! 弾幕が薄くなったことで、目論見通り爆豪はすぐ近くまで迫ってきた。

 

「あと4メートル……3メートル………いまだ!!」

 

 射程距離まで近づいた。どこでもいいから当たれば勝ちだ。勢いよく右手を振ろうとした瞬間、爆豪と目があった。

 獰猛な獣のような目だった。それに威圧され思わず切断に使っていた爪を発射してしまった。

 

「なに!!」

 

 初めて爆豪が焦りを見せた。発射した爪弾を空中で無理な体制でかわそうとするが、至近距離だったことで全てをかわすことはできずに左上腕部に一発、腹部に二発が命中した。しかしそのまま倒れることなく、爆破で離脱する。

 

「やりやがったなクソ爪野郎ォォー!」

 

 撃たれた箇所を抑えて吠えた。この隙を逃すものか。人差し指を向けてタスクの発射体制になった。短時間で歪んだ回転が正しいものになる。これなら行ける。

 

「タスクッ!!」

 

 ドギュゥウウウウ!!

 

 威力も速度も増したタスクが発射された。かわそうと動いた爆豪だが、撃ち込まれた傷の痛みで一瞬動作が遅れた。決まった。そう思った。

 

 

 ドッグォォオオオン

 

 

「なん………だって!?」

 

 これまでと比にならない規模の大爆発が起こった。爆風が車椅子を揺らして、反射的に抑え込んだ。

 

「死ねえええええええええ!!!」

 

 聞き慣れた爆声と共に爆豪勝己が真正面から飛んできた。爪弾で迎撃しようとするが抑えていた手を上げるには間に合わない。

 テンションが最高潮に達した観客。

 止めるべきか迷うミッドナイト。

 手をこちらに向けてくる爆豪勝己。

 まるで死ぬ間際のように、全てがゆっくりに感じられた。

 

 

 

 

 

Movere(モヴェーレ) crus(クルース)

 ヒソヒソ

 

 

 全てがスローに見える中、視界の片隅で何かが動いた。なんだ? 何を言ってるんだ。

 

 

Movere(モヴェーレ) crus(クルース)

 ヒソヒソ

 

 

 それは小さな生き物のようで、しかし見たこともない姿をしていた。

 

 

Movere(モヴェーレ) crus(クルース)

 ヒソヒソ

 

 

 それは、僕の足に向かって囁いた。

 

 

 

ドバァッ

 

 

 

 靴を突き破って足の爪が発射された。全く予想外の場所から撃たれたそれはまっすぐ爆豪の顔面に飛んでいった。

 

「うげっ!!」

 

 爆豪がのけぞって吹っ飛び床に倒れた。だがそんなことはどうでもいい!!爪を………発射した……この(パワー)は……!! 動かない僕の足から!? こいつがぼくを危機から守ったって事なのか!?

 

「動かないぼくの足から爪が発射されたぁぁぁぁーーーーーーッ!!」

 

 叫ばずにはいられなかった。動いたのだ!! もう動かないが、爪を発射している時に足が動いたッ! こいつはなんなんだ!?

 

 肩に寄るようにしている()()()は、よく見ると透けている。実体じゃない……こいつは何者なんだ……敵なのか!?

 

 

バゴォオオッ

 

 

「ぐぇえっ!!」

 

ガシャァアアアンッ

 

 

 思い切り突き飛ばされ、車椅子ごと舞台の外に倒れた。痛みが加わり更に混乱する頭を抑えて見上げると、舞台の上から爆豪が見下ろしていた。

 

「ジョニィ・ジョースター君、場外! 勝者、爆豪勝己君!」

 

 歓声と拍手が上がる中で状況についていけないジョニィは、自分のいる場所と爆豪とを何度も見比べた。

 

「なっ………マ……待て!! なんで!………なんで無事なんだ!?」

 

「さァな………勝手に混乱してろ」

 

 混乱と敗北感が身体を重くしたジョニィを置いて、爆豪は静かに舞台を後にした。

 

 あと少しだった………

 

 あと少しだったというのに気を抜いてしまった………!

 

 敵を前に目を離してしまった………!!

 

 

「くそぉぉおおおおおーーーーーーーッ」

 

 

 

 

 こうして、ぼくの雄英体育祭は幕を下ろした。





 決着ゥゥゥーーーーーー!!!

 謎の生き物……いったい何クなんだ!?

 これはスタンドでありスタンドではありません。あくまで能力を行使する時にあられるビジョンであり、これに直接的な力は全くありません。

 なので、スタンド使いとは違います。

 1人だけスタンドを使って最強という展開にはなりません。
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