「ハイ、じゃあ次の方ぁ〜〜」
気怠げな受付の男の声に立ち上がり、カウンターへ向かっていく。まるでカウボーイのような奇妙な格好をした男だった。
「えっと本日はどんなご用件でしょうか?」
「郵便が届いてるか確認できる? 絶対に届いてる筈なんだけど……」
「ではこちらに、お名前とご住所の記載をお願い致します」
スッ、と差し出された用紙を見る。名前と住所を書く欄がある。むっ、と顔をしかめた。
「出来たらすぐ受け取りたい。1秒でも早い方がいい。おたくの為にも、俺のためにも……だからオネガイ」
ニョホ、と笑顔を向ける。だが受付は一貫して、手元の書類を見ながらペンの刺してある方を指差して言う。
「ペンはそちらにございまァァ〜〜す」
「………」
そんなやりとりをしていた時だった。
「全員動くなァァあああ!!!」
大声で叫んだのはさっきまで隣にいた客だった。瞬く間に郵便局内は響めく。中の一人が警察に電話しようとすると。
「そこのやつ! ちょっとでも動いてみろォ〜、俺のカミソリのような鋭い指がこいつの首を掻き切るぞッ!」
「ヒィ! わ、わかった! やめろ!落ち着け、落ち着け!」
受付の女を引きずり出して首を手で掴んでいる男の指は、ギラリと光っていた。五本の指が全部鋭い刃になっていたのだ。
押し当てられて、女の首から細く血が滴る。
「なぁ、そこのあんた」
「えっ…?」
「さっき言ってた郵便物なんだけどよォ。今からすぐとってきてくれねェかな、って無理か」
犯人は鞄をカウンター内に放って叫んだ。
「そのカバンの中にありったけの金を詰め込め! 急げッ 早くしねぇとよォォォ、こいつの首が吹っ飛ぶぞッ!」
「わ、わかった!! 言う通りにする! だから命だけは取らないでやってくれー!」
「いいぜ、聞き分けの良いやつだ。お前らもボサッとしてんじゃねぇ! 窓をブラインドで全部塞げ! 男どもは妙な動きするんじゃねぇぞ、床に座ってじっとしてろ!」
「おまえ……自分がなにやってるかわかってんのか?」
「あっ?」
「おまえのやってる行為は、やっちゃいけねぇことなんだぜ? それをわかって、やってんのか?」
「なんだぁ! てめえもさっさと床に転がってろカウボーイ野郎がよ!」
郵便局の異変は、外にいた一般人によってすぐさま警察へ通報された。警察が来るより早く、野次馬が我先にと郵便局の前にひきめきあう。
その中に、ジョニィ・ジョースターの姿もあった。
「なんだ? いったいなんの騒ぎだ?」
「くそっ! かなり人が多いな!」
「通せッ‼︎ ヒーローはまだかッ! 早く呼べッ!」
押し流されそうなその勢いの中、ヒーローという単語を聞き逃さなかったジョニィは人混みの中へ車椅子を進めた。
「おまえら!なんだよ!どけッ! 見えねぇぞオレの前に来るな! どけッ! くそっ見えねぇぞ!この野郎!」
局内の様子は、外から丸見えだった。
人質を解放しようとしないヴィランに対して、男はゆっくりと上げていた手を下ろす。その手には先程まで持ってなかった球があった。
「イエェ〜〜〜〜イ、てめぇ
「やってみろ、ただしちょっとでも力を込めた瞬間。それが『合図』になる……」
「オイオイオイオイオイオイオイなんの合図だって? おまえまさかその球で攻撃する気か? そんなのがなんの」
瞬間、野次馬のカメラのフラッシュが照らした。
「うげっ!」
ヴィランが首を掻き切るより早く、男は球をヴィランの腕に命中させた。
ギャルギャルギャルギャルギャル
「あっ!」
「うあああ うごおおおおおおおおお」
回転は止まるどころか更に増して肩へ登っていく。
ギャルギャルギャル
そしてひときわ大きく肩へ沈んだ後、その球は意思があるように男の手へ戻っていった。
グルグルグルグル
だが、球が無くなったというのに止まらない回転。螺旋状に腕が絞られるように曲がっていき、男の指の刃は手の逆側に向けられていた。
「きゃあああーーーーー!!」
「お、ごおおおおお!」
すぐに人質は逃げ出し、ヴィランは捻じ曲がった肩を抑えて唸っていた。
「もう諦めな、そして警察病院で診てもらうんだ。ちょっとの入院で済むだろうぜ」
「ち、ちくしょぉぉぉおおおおおお!」
ヴィランは鬼のような形相で男へ飛びかかった!
だが!
グルン
「えっ」
肘が回転して、鋭い刃はヴィランの喉元へ吸い込まれるように沈んでいった。
ザクン
ヴィランが倒れ、男は何事も無かったかのように郵便局から外へ出てきた。
「見たか! 何をしたんだ?」
「手に持ってる鉄球みたいなのを銃を持ったヴィランの腕にブチ込んだんだ」
違う。野次馬の中でジョニィだけが冷静にそう思っていた。いま起こったことは全く不自然なことは無かった。ヒーローがヴィランを倒す、よくある光景だ。
更にそのヒーローが自分のよく知る人物であるなら、尚更だった。
「どけっ! てめーらどけって言ってるんだッ!オレを前へ行かせろ‼︎」
それでも野次馬がボケっとしてる間に、ジョニィは男の元へと向かっていった。
「おいあんた! もう一回見せてくれよっ!」
腰のホルスターへ収まった球へ手を伸ばす。すると、男は振り向いて声を荒げた。
「おい触るな! まだ回転している!」
ズギュゥゥゥゥ
まるで球からエネルギーが伝わったように、車椅子からだらんとぶら下がっていた足が地面を踏ん張って、本当に一瞬だが立ち上がった。
この『物語』は
ぼくが歩き出す物語だ
肉体が………
………という意味ではなく
青春から夢へという意味で……
僕の名前は
『ジョニィ・ジョースター』
最初から最後まで
本当に謎が多い男『ジャイロ・ツェペリ』と出会ったことで………