名付けの時間です
波乱の体育祭から休日を挟んで登校日になった。今日からまた普段通りの授業が行われる。そう思っていた。
「なあジョースター! おまえは休日どうだったよ」
「………そういう君はどうだったんだ? 切島」
「オレか? オレは大変だったな、他にも怪我大丈夫かって心配されたり……あ! 別に責めてる訳じゃないからな」
切島が急いで弁明した。
「別にいい……それより傷は大丈夫なのか?」
自分のせいで後遺症が残ったなんてことは、勘弁してほしかった。「いいや」と大丈夫であることを表すように腕を回す切島。
「よかった」
本心からの言葉だった。
「ところで、君は爆豪と仲が良かったよな?」
「おう。というよりオレがついてってるって感じだけどな」
少し照れ臭そうに切島は言った。
「あいつにそれとなく聞いてほしいんだ。どうやって僕の爪弾をかわしたのか」
第二回戦の最後に放った爪弾は完全に不意打ちの形だった。頭に命中したと思ったのに、爆豪は無事だったのだ。
「おまえが聞けばいいんじゃね?」
最もな言葉だった。しかし、それは相手が爆豪以外だったらの話だ。
「じゃあ聞いて教えてくれると思うか? あのクソをつけないと会話できない爆豪が」
「ひでぇ…けどそれもそうだな。機会があれば聞いとくよ」
「ああ、頼んだ」
去っていく切島の背中から、自分の肩にいるそいつに視線を移した。
「
会話中にこっそりと爪を回転させて出現させていたが、切島はこいつのことを全く見ていなかった。肩でふわふわと浮いているこいつは一体なんなんだ。生き物のようであって、つぎはぎの人形のようでもある。
「チュミ……」
あれからこの生き物(名前はタスクにした)は体育祭の時のように喋らなくなった。ジャイロに確認してもらうと、モヴェーレ・クルースとは英語ではなくラテン語で意味は『脚を動かせ』。
下半身付随の僕に対する嫌味なのか、それともこれは回転により僕の足が治ってきてる兆候なのか。
しかし、何もわからないままということでもなかった。これまでは意識しないと正しい回転にできなかった爪が、自然と回転できるようになっている。これだけでも大した進歩だ。
「全員席につけ……って、ついてるな」
相澤が入ってきた途端に、あれだけ騒がしかった教室が静まり返る。
「今日のヒーロー情報学、特別だぞ」
間髪入れずに相澤が言った特別という言葉に、自分を含めた何人かの生徒が苦々しく反応した。
小テストでもしようってことか?
「コードネーム……ヒーロー名を決めてもらう」
「胸膨らむやつきたああーーーーッ!!」
すぐに相澤が睨みをきかせて静かにさせた。
「こないだの体育祭を見ていたプロヒーローから、ドラフト指名がきている。本来なら経験と訓練を積んだ2、3年が受けるものだが、まだ一年生である君たちの指名はそのままこれからの成長への期待度を表している」
「指名の数がそのままハードルになるんですね!」
「その通りだ」
葉隠の言葉に肯定した相澤が、手元の装置を起動させると黒板にグラフが表示された。
「例年ならもっとバラけるんだが、特に注目を集めた二人に集中したな」
相澤の言う通り、轟と爆豪の横に表示された指名数は4桁。二人に次いで多い常闇は360票と圧倒的な差があった。
「たあー! 白黒ついた!」
「見るめないよねプロ!」
「一位轟二位爆豪って………」
「体育祭と順位逆転してんじゃん」
「表彰台で拘束されたやつとかビビって呼べないって」
「ビビってんじゃねーよプロが!」
「………流石ですわ轟さん」
「ほとんど親の話題ありきだろ」
「わぁあ〜〜! 指名来てる〜!」
「緑谷、無いなぁ〜……あんな無茶な戦い方すっから怖がられたんだ」
「お前も全然だな……あれだけ頑張ったのによ」
しょうがないとジョニィは納得していた。これが将来への期待というなら、下半身不随の生徒に期待するものは無い。
「これを踏まえて指名の有無に関係なく、いわゆる職場体験に行ってもらう。お前らはUSJの時に一足先にヴィランとの戦闘を経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってことだ」
それでヒーロー名か。
「まあそのヒーロー名は仮ではあるが、適当なもんは………」
ガラッ
「付けたら地獄を見ちゃうよ!」
教室の男子生徒が一気に反応を示した。
「学生時代に付けたヒーロー名がそのまま認知され、プロ名になる人多いからね!」
自慢の身体を見せびらかすように教室に入ってきたのはミッドナイトだった。男子生徒……特に峰田の視線が釘付けになっていると、後ろを見ずともわかった。
「ま、そういうことだ。その辺のセンスの査定をミッドナイトにお願いするってことだ。オレはそういうのできん。将来自分がどうなるのか、名をつけることでイメージが固まりそれに近づいていく。それが、名は体を表すってことだ」
自分のヒーロー名。考えたことのないものだった。前の席から配られてきたのは一本のペンと真っ白なボード。これの中に書いた名前が将来の自分が呼ばれる名前になる。
自分がなりたいヒーロー像とは何か。
子供の頃に憧れたのはオールマイトのような力強く立ち向かう者だった。でも今は違う。僕はまだスタートラインにすら立っていない。だというのに、ここではるか先の名前を決めるなんて出来るのだろうか。
「じゃあそろそろ、できた人から発表してね」
答えが出ないまま、発表形式という事実を更に加えられて一層のこと決めにくくなる。
「じゃあ行くよ」
最初に前に出てきたのは青山だった。自信満々に出てきた彼が高々と掲げたボードには、短文が書かれていた。
「輝きヒーロー……I can not stop twinkling! 訳して、キラキラが止められないよ!」
「そこはIをとって、Can’tに省略した方がいいね」
「そこね、マドマーゼル」
英語なのか、それともフランス語なのか。わけのわからない発表を終えた青山は満足そうに席に戻り、代わりに芦戸が意気揚々と出てきた。
「ヒーロー名、エイリアンクイーン!!」
「2! 血が強酸性のアレを目指してるの!? やめときなって!」
ミッドナイトも慌てて訂正するように促す。ギャグだったんじゃないのかと思いきや、本気で残念そうに席に戻る芦戸を見て何も言えなくなった。
「ケロッ、じゃああたし」
まるで大喜利をしているような空気の中で、蛙井が勇敢にも手を挙げた。ギャグで来るのか、それとも本気のやつか。もしギャグをかますのなら、
「小学生の頃から考えていたの……梅雨入りヒーロー
「可愛い! 親しみやすくていいわぁー! みんなから愛されるお手本のようなネーミングね」
「フロッピー!フロッピー! フロッピー!」
「フロッピー! フロッピー! フロッピー!」
「フロッピー! フロッピー! フロッピー!」
その途端に湧き起こったフロッピーコールは、きっと彼女のネーミングセンスに対してというよりも、この大喜利のような空気を元に戻してくれたことへの喜びだろう。かくいう僕もそれに参加しているのだが。
「じゃあオレも! 剛健ヒーロー
「これはあれね! 漢気ヒーロー
「そっす! だいぶ古いけど、オレの目指すヒーロー像はクリムゾンそのものっす!」
「憧れの名を背負うってことは相応の重圧がついて回るわよ?」
「覚悟の上っす」
そこからはどんどんと決まっていった。
「ヒアヒーロー イヤホン=ジャック」
「いいね、次!」
「触手ヒーロー テンタコル」
「触手のテンタクルとタコのもじりね!」
「テーピンヒーロー セロファン」
「わかりやすい、大切!」
「武闘ヒーロー テイルマン!」
「名が体を表している!」
「甘味ヒーロー シュガーマン!」
「あまぁぁーーーーーい!」
「
「桃色! 桃肌!」
「スタンガンヒーロー チャージズマ!」
「痺れるゥ!」
「ステルスヒーロー インビジブルガール!」
「いいじゃん、いいね! さあ、どんどんいきましょう!」
「この名に恥じぬ行いを……万物ヒーロー クリエティ」
「クリエイティブ!」
「ショート」
「名前? いいの?」
「ああ……」
「漆黒ヒーロー ツクヨミ」
「夜の神様!」
「モギタテヒーロー
「ふ、ふれあいヒーロー……アニマ」
「爆殺王」
「そういうのはやめた方がいいわね」
「なんでだよ!」
「じゃあ私も……考えてありました。ウラビティ」
「洒落てるじゃない!」
順調に進んだ結果、残っているのは再考の爆豪、飯田、緑谷、そしてジョニィだけだった。
「天哉? 君も名前?」
「はい……」
飯田が終わった。残るは緑谷と爆豪だ。
「緑谷? いいのかそれで…一生呼ばれ続けるかもしれなんだぜ?」
「うん、この呼び名、いままで好きじゃなかった。でもある人に意味を変えられて、僕には結構な衝撃で……嬉しかったんだ。これが、僕のヒーロー名です!」
何か吹っ切れたような顔で緑谷が出したヒーロー名は『デク』だった。
轟の発表の時、実はジョニィも同じように自分の名前でいこうと考えていた。しかし、先を越されてしまった。他に、自分を表した名前はあっただろうかと考えを巡らせている間に残り三人となってしまった。
何か無かったか。昔呼ばれていた名前は……。
「………そうだ、あったじゃないか」
ペンを走らせる。もう迷いはなかった。逆にどうして思い出さなかったのかと不思議に思うほど、その名前がしっくりくる。
前に出て、教卓の上にボードを掲げた。
「ヒーロー名 ジョジョ」
「あだ名? ジョニィとジョースターの頭文字をとって?」
「いま思いつくのは、これだけでした。むかし、僕の尊敬してた人が呼んでくれたんです。だから、僕はこれでいきます」
カチリと歯車が噛み合ったように、ジョジョという名前は僕の中に入った。
「さて、ヒーロー名が決まったところで職場体験に話を戻す。期間は1週間、肝心の職場だが、指名のあったものは個別にリストを渡すからその中から自分で選択しろ。指名のなかったものは、あらかじめこちらから選んだ全国の受け入れ可の事務所40件、この中から選んでもらう」
話はそこで終わらず、相澤がこちらを見た。
「それと、ジョースターは強制的にボールブレイカーのとこだ」
「はあ!? なんでだよ!」
「お前だけならギリギリ大丈夫なところもあるだろう。だが馬の世話まであるとそこ以外ない。慣れたところだろうが、気を緩めず励めよ」
「いいなぁ〜、ジョースターはもはや自分の家か」
「でも、新しいことを学ぶって面だと出来ること少なくない?」
周りの声が突き刺さる。まさにその通りだ。僕はジャイロのところで学べないことを学びたいんだ。でも相澤の目は反論を許さないと語っていた。
結局、職場体験先はジャイロのところになりそうだ。
「でも大丈夫なんですか……? ジャイロのところに最近依頼が来たのを見てないんですが……」
「その点なら心配するな。うちからボールブレイカーにいくつか仕事を斡旋する」
「そ、そうですか……」
そして、僕の職場体験は始まった。
始まったのだが………
「あの根暗教師がぁぁあー!!」
僕らがたどり着いたのは、田舎なんて言葉が可愛く思えるような、西部劇のような町だった。
やっぱジョジョしかないと思いました。
タスクは技の名前ですし、本名は……
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