次回はLesson4と言ったな。
あれはウソだ。
Lesson1『妙な期待をするな』ですよ
トウモロコシ畑だ。どこまで続くのかと考えさせられるそれの中に、地元の住民が作った通り道がある。さんさんと輝く太陽が容赦なく肌を焼き、時折吹く風が葉擦れの音と共に涼しさを運んできた。
その道を進むこと1時間と少し。小さな田舎町が見えてきた。
人口は100人にも満たないかもしれない。集落といった方がいい。まるで西部開拓時代に放り込まれたようだ。強い風が吹けば砂埃が立つ。そんなところだった。
「スゲッ! おいジャイロ見ろって! あれ映画とかで見る扉だぜ。本物かよ……初めて見たなぁぁ」
「あまりキョロキョロするなよ……田舎モンって思われるじゃねーか(ここより田舎があるのか知らねーが)。遊びにきたんじゃねーんだ、気を引き締めとけ」
大通りと思われる通りは閑散としていて誰も居なかった。ゴーストタウンのような寂しさがあった。では自分たちを呼んだのは誰なのか。幽霊が招いたとでも言うのか。西部劇の次はホラー、支離滅裂なストーリーだ。映画なら駄作にも程がある。
そんな感想を頭の中で綴っていたジョニィはどこからか自分を見る視線を感じた。まさか本当に幽霊なのか。
考えを振り払うように勢いよく振り返ったジョニィは家の窓にいる人影を見た。覗いていた人影はジョニィに見られたことでカーテンを閉め切ってすぐに隠れた。
一度気づくとよくわかった。他の家も僅かな隙間からこちらを伺っている人がいた。人であることに少し安心するが、今度は別の疑問が浮かんだ。なんでここの住民は外に出ていないのだろうか。
様々な憶測が頭の中で飛び交うも答えは出ないまま、二人は町の奥にある一軒の家の前に来た。
「依頼を受けてきたジャイロ・ツェペリだッ!! 詳しく話を聞きたい!!」
ジャイロの大声が響いた。その声に驚いていくつも纏わりついていた視線が蜘蛛の子を散らすように霧散した。
ジャイロも少し爽快な顔をしたところを見ると、同じようにいくつもの視線にうんざりしてたんだろう。
「可愛い女の子に見つめられるならまだしもよぉ〜〜………こんな不気味な視線は気持ちがワリィよな」
「たしかにな……なんなんだこの町は…」
現代離れした風景と明らかに異質な住民たち。ここは異界だ。歴史の一部を切り出して、現代の枠の中に無理矢理ねじ込んだ結果生み出された異世界だ。その中に僕たちは迷い込んだようなものだ。ジャイロの事務所が途端に居心地の良い場所に思えた。
ギィィィ………
なんてこった。ゆっくりと扉を開けて出てきたのはドワーフだった。逞しい腕と首もと。鍛えられた身体だとタンクトップがはちきれんばかりに主張していた。鼻の下と顎の髭は綺麗に手入れされている。
ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル
「おいコラ! てめえなに回転させてんだ」
拳を振り下ろされた頭はじんじんと痛んだ。なんでだ。明らかに怪しいやつだろう。
「すみませんね、こいつまだ職場体験中で……まだなんもわかってないど素人なんですわ」
「いやいや、別に気にしてませんよ。間違いは若いうちにやったほうがいい」
「そう言ってもらえてなによりですよ」
庇ってもらった事実を差し置いて、ジャイロと男の半笑いの顔がむかついた。また爪を回転させると面倒なのは目に見えていたので、この場はこらえた。
馬を置いて、荷物から銀色のアタッシュケースほどの塊を放った。地面に触れたそれは大きく広がって、骨組みが展開される。車輪が出来上がり、シートが広がって車椅子が出来上がった。体育祭後にサポート科に作ってもらった持ち運びできる車椅子だ。
中に入ると、出迎えたのは豪華な内装。ここが避暑地にある別荘と言われても納得できる豪華さだ。
フローリングに敷かれた絨毯。壁は手入れされた美しい丸太が積み重ねられたようになり、家具も小洒落たものがずらりと並んでいた。
「あの……外の様子は…これは一体……」
「あぁ〜〜、やっぱり! 気になりますよねぇ……ヘッヘッフッヘ」
彫りの深いシワをさらに寄せて笑い、じいさんは自慢げに語り出した。
「実はここの景観を是非とも映画の撮影で使いたいって声が多くてですね……それで協力した「お礼」でこうなんですわ」
「は……はあ………」
つまり外装は西部劇のままで、内装だけはその協力で得た金でウハウハ状態ってことだ。ついさっきまで異界だのと思っていた自分が恥ずかしい。
小躍りしながら高級そうな絵画の前でこれはいくらしただのと村長は自慢し始めた。
「それで、そんな潤ってる村長がなんの依頼なんだ? 電話じゃ詳細は教えてもらえなかったが………ある男の捕縛ってことは盗っ人か?」
ジャイロが問いかけた瞬間、ドワーフの村長はピタリと止まり、その場に蹲ってしまった。
異常だ。ただ聞いただけの反応じゃなかった。明らかに恐怖を味わった事のある人間の反応だ。
「おい! 大丈夫かアンタ!」
ジャイロが駆け寄った。
「ぁ……ああ、大丈夫でさあ………」
顔は青ざめて、あれだけ筋骨隆々だった身体が萎縮してるように見えた。
近くにある椅子を引き寄せて座らされた村長は、ジャイロの介抱でだんだんと落ち着きを取り戻していった。
「すまないね……そう、依頼のことだったね」
そうだ。捕縛する男とはいったい何者なんだ。
「名前はサンドマン………少し前からここら辺を根城にしだしたヴィランさ」
「なるほどな……そいつを俺たちに捕縛してほしいってことか」
「なあ、何か他に情報はないのか? サンドマンってくらいだから、個性は砂を操るとかか?」
堪らず聞いたジョニィの質問にびくりと肩を震わせるも、村長はぽつぽつと語り出した。
「いいや……わからない。サンドマンというのは、あいつがやってきて名乗ったからだ」
名乗っただって? ヴィランが一般人の元に訪れて何を言ったのだろうか。
「あいつは突然現れてこう言った。『ここは元々、我が一族の土地だ。早急に出て行かぬなら一人ずつ殺していくぞ』………最初は単なる脅しだと思った。だがそれから1週間後、畑の中で町の男のバラバラ死体が見つかったのですッ!!」
そうだ。さっきの怯えの理由はこれだ。彼はそれを見てしまったのだ。そしてその実行犯と出会ったのも彼だったのだ。
「すぐに、ヒーローに助けを呼びました。しかしやってきたヒーローも返り討ちにされ、反撃の手段は失われたと思ったのです」
「そこで、雄英に頼んだと…………オイオイオイオイ、そんなこと依頼内容に書いてなかったぜ? これってよォォ〜〜『詐欺』ってやつじゃないのか? ン? そうだろ村長さんよ」
ギクリと、今度は別の意味で村長の肩が跳ね上がった。その肩に手を回して、ジャイロが詰め寄る。
「イケナイ事だよなぁ〜〜……詐欺なんてよぉぉ………それもこんな
「おいジャイロ……鏡を見てこいよ。ヴィランが写ってるぜ」
この顔は、何か企んでいる顔だ。
「別にちょっとお話しするだけだよ。オトナのお話を、な………でだ村長さんよ……オレだってヒーローだ、お前さんの詐欺の件を報告しないわけにはいかねぇ……そしたらきっとこの家具もなにもかも売り払うことになって、ぼろ家に住むことになるだろうなぁ」
ジャイロの言葉が蛇のように村長の首をしめる。
「しかしだ……今回の依頼を達成した時はあんたの映画会社からの収益の50%をもらうぜ」
「ごッ!! ごごごごごごじゅうゥゥゥーーー!?」
今度は村長の身体が跳ね上がった。漫画みたいな驚きようだな。
「ふざけるな!! こっちが下手に出てればつけ上がりやがって! そんな報酬やれるかッ!!」
「あ、そう? じゃあしょうがねぇか……なあジョニィ〜、警察の電話番号って110番で合ってたよなァ?」
怒りまくる村長を置いてポケットから携帯を取り出したジャイロにうなずく。たしかにヒーローとしてどうかと思うが、ジャイロの収益が増えるということは僕の生活水準も高くなるってことだ。悪いが、犠牲になってもらうぜ。
「うわああああああなにしやがんだテメーーー!!!」
飛びかかってきた村長を、ジャイロは軽く動いてかわした。そしてどうやったのだろうか。飛び込んできただけの村長の体は急速な縦回転を始めて、そのまま向こう側の壁へ突っ込んでいった。
「ストライク、ニョホッ」
「キミ……ちょっとやりすぎじゃないか?」
ジャイロの手元の携帯は電気がついていなかった。
「何言ってんだジョニィ……これは正当な報酬だぜ。相手は猟奇殺人犯なんだ……それにこれは依頼だ。これくらいの報酬じゃなきゃ命は張れねぇって」
「うーん……一理あるな」
「だろ?」
そんな会話を繰り広げている間に、パラパラと木片を降らせながら村長が戻ってきた。その足取りは、ここへ来たばかりの時とは比べものにならないほど遅く重いものになっていた。
「チ……チクショォォオオオオオオオ!!! 50%だからな!! たとえ1%だろうと追加は無しだッ! わかったらさっさと捕まえにいきやがれこの厄病神どもがァァァーー!!!」
「ニョホ、交渉成立だっ!」
走り出したジャイロを追って表に出た。待っていたスローダンサーの背に折りたたんだ車椅子を乗せて、跨って走り出した。
「いくぜジョニィ! ゼータクな生活がオレたちを待ってるぜッ!」
「それでいいのか? 本当にそれでいいのかジャイロ・ツェペリーーー!!」
英雄などクソくらえ。私欲に塗れた職場体験が始まった。
すみません、次回こそLesson4です