STEEL BALL HERO   作:ボンシュ

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バンド組む?

 

 トウモロコシ畑の中には道ができていた。根元から倒れたトウモロコシの稲が、天然の絨毯を作っていた。その上でジャイロの鉄球が回転していた。

 

 回転が波紋となって地面を伝わり、その反響が生み出した景色が、ジャイロの瞳に映し出された。常に罠を警戒しながら、鉄球と同じ速度で馬を歩かせる。

 

 その後ろを、周囲を警戒しながら警戒しながら、ジョニィとスローダンサーも続いていた。

 

「おいジョニィ……こっちだ…。あったぜ」

 

 指差した先にくっきりとひとつだけ足跡が残っていた。

 

 村に初めてやってきた時、ここは元々自分たちの土地だ、とサンドマンは言っていた。

 

 自分のものには、人によって違うが印をつける。それは名前だったり家紋だったりするが、サンドマンにとっての印はこの足跡だ。

 

 不自然に、よく見えるように付けられた足跡は、オレはここだと主張していた。まるで熊が木に爪の跡を付けて縄張りを知らせるように、ここから先は自分のテリトリーだと言っている。

 

 ジャイロが馬から降りてその足跡に触れた。温度や潰れ具合から、その時期を推察していた。

 

 ジャイロ・ツェペリという男は、今まではただのぐうたらしてる怠け者というイメージが強かった。

 

 だが、目の前にいるのは別人だった。これがプロのヒーローの凄みなのかと思うと、一緒にいる自分の心まで強くなるような気がした。

 

「そんなに経ってないな、ほんの一時間前だ」

 

 1時間前はちょうど2人で村にいた、決して偶然ではないだろう。この足跡は、明確に自分たちに向けられた警告だ。

 

「どうするんだジャイロ。まさか、すぐ近くにいるんじゃ!」

 

「落ち着けジョニィ。すでに調べてたが近くにはいねえ」

 

 ジャイロが諭すように言った。それでも安心できないジョニィは、自分たちを取り囲む畑を見渡す。

 

「オレの個性は、回転と組み合わせることで物を透過してみたりできる、これは前に行ったよな。それにちょっとしたコツを加えてやれば、索敵範囲は一気に広がって半径二十メートルは探せるようになる」

 

 いつのまにか、ジャイロの手には回転する鉄球が戻ってきていた。それを、腰のホルスターに投げ込むように収める。

 

「もう一度言うぜ、落ち着けジョニィ。冷静さを失ったらやられんのはこっちだ」

 

 説教じみた言葉は、泳いでいた目をジャイロの顔に向けさせた。

 

 「すまない」

 

 ジョニィは、冷静ではなかったと反省した。いつもなら逆に食ってかかるジョニィが、嫌に大人しかった。だが、それを追求してる余裕はない。馬に飛び乗って先へ進んだ。

 

 ジャイロが手を上げて拳を握り込んだ。止まれの合図だ。

 

 今度はゆっくり進めと合図が出た。きっと何かある。その予感は的中した。

 

 トウモロコシ畑が途切れていた。円形の広場のど真ん中に、二階建ての掘立小屋が建てられていた。そばには薪割りの台とそこに突き刺さった斧も見える。その広場の地面には、先程の足跡がいくつもある。間違いようがない。ここがサンドマンの根城だ。

 

 行こうとする僕の肩を叩いた手は、すぐ目の前の地面をみろ、と指し示した。何もないと思っていたそこを目を凝らしてみると、ワイヤーが張っていた。そのワイヤーの片側は、地面に突き刺さった棒に繋がれていて、もう片方は長方形の小さな箱に繋がっていた。

 

「なっ………これって!」

 

 シィィィイーーー!

 

 ジャイロに口を塞がれた。しまった、つい叫びそうになった。ワイヤーの先には、映画でしか見たことのない『クレイモア地雷』が仕掛けられていた。ワイヤーに引っかかったら最後、箱から大量の鉄球が飛び出して、人間をただの挽肉にする兵器だ。

 

 シルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシル

 

 耳元で聴き慣れた回転音がした。ジャイロは鉄球を迷いなくワイヤーに向かって投げた。

 

 爆発する!!

 

 身構えたが、地雷は爆発しなかった。ただワイヤーが切れるプツンという音だけが鳴った。

 

 ドシュゥゥゥゥーーー!!

 

 次いで投げられた鉄球が、今度は小屋の壁に命中した。壁が壊される音はせず、鉄球は接着剤でもついてるようにピタリとくっついた。

 

 回転し続ける鉄球には眼が搭載されていた。ジャイロの個性の『スキャン』だ。

 

「よし、誰もいないな…………。いつまでそうしてる気だ? さっさと捜査するぞ」

 

 呆けたままのジョニィを見かねたジャイロが、頭を小突いた。

 

 せめて何か言ってから投げて欲しかった。その文句を、今は捜査中だと押し留めて後に続いた。

 

 小屋の中は殺風景だった。ほんの少しの調理器具と、それを使った跡くらいで、あとは割れた薪がいくつかあった。それ以外は、とくに人が住んでいるような痕跡は何もない。

 

「なぁジョニィ。今…歌思い付いた……考えたのよ。作詞作曲ジャイロ・ツェペリだぜ。聴きたいか? 歌ってやってもいいけどよ」

 

 罠に警戒しながらクリアリングしているジョニィを見ながら、ジャイロはほくそ笑んでいた。

 

「ずいぶん…君…暇そうじゃあないか………さっきはあれだけ警戒してたクセに」

 

「聴きたいのかよ? 聴きたくねーのか? どうなんだ? オレは二度と歌わねーからな」

 

 よっぽど聞かせたいんだろう。その勢いに負けて、ジョニィは首を縦に振った。

 

「そうか、いいだろう。タイトルは「チーズの歌」だ」

 

 歌手がやるように喉の調子を整えたジャイロは目を閉じた。片手を胸に添えて、もう片手を掲げた姿は嫌に『さま』になっていた。

 

「ピザ・モッツァレラ

 

      ピザ・モッツァレラ

 

 レラレラレラレラレラ

 

      レラレラレラレラレラ

 

 レラレラレラレラレラ

 

      ピザ・モッツァレラ」

 

「………………………」

 

「つぅーーーーー歌よ。どォよ? 歌詞の2番は「ゴルゴン・ゾーラ」でくり返しよ。ゾラゾラゾラ ゾラゾラゾラゾラ………」

 

「…………………」

 

 

「どよ? どうなのよ?」

 

 黙ったままのジョニィに、焦り出したジャイロがしつこく確認した。

 

「いいよジャイロ! 気に入った!」

 

「マジすかッ!?」

 

 評論家のように顎に手を当てて褒めたことに、一番驚いたのはジャイロだった。

 

「あっ……ヤバイ! スゴクいいッ! 激ヤバかもしれないッ! 耳にこびりつくんだよ! レラレラのとこが………傑作っていうのかな…クセになるよ! ヨーロッパなら大ヒット間違いないかも!」

 

マジすか!! マジそう思う?実はひそかにオレもそう思うのよ。だろォ〜〜〜〜〜!! 譜面にできる?」

 

 

 緩み切った空気の中で、馬から降りたジャイロは中にあったヤカンを持ち出した。焚火を起こして水を入れたヤカンを火にかけた。

 

「レラレラレラレラ」

 

「ゾラゾラゾラゾラ…………バンド組む?」

 

 






  ほんっとここ好き(語彙力)

  ノリノリのジャイロも、棒読みのジョニィも好き

  
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