「くさいな……」
ジャイロが呟いた。火にかけたヤカンの様子を見ていたジョニィは鼻をスンスンと鳴らして、自分の服の臭いを嗅いだ。
「たしかにここは暑いな……終わったら村で風呂を貸してもらうか」
「誰がお前がくさいって言ったよ……たしかにちょっとにおうが。オレが言ったのはこの依頼のことだ」
「依頼のことか…………あれ、いま臭うって言ったか?」
「あの街は潤っていた、高級そうな家具を買えるほどな。だったら、なんでわざわざ詐欺まがいのことをする……それも雄英に対してよ」
「おい、無視すんなよ。いま臭いって言ったよな」
問い詰めてもジャイロは明後日の方向を向いて知らぬ存ぜぬを貫き通して、話を進める。
「猟奇殺人犯がいるって言えば、雄英はもっと沢山のヒーローを派遣する筈だ。なのにどうして、その事実を隠そうとするんだ……」
「知らないね……ケチなだけなんじゃないのか?」
ジョニィは素っ気なく返した。だが、ジャイロが持ち出したものを見た瞬間、それに釘付けにならずにはいられなかった。
「じゃあ、これはどう説明するんだ?」
「うぉおおッ!! 何してんだよ、危ねぇだろうが!」
地面に降りている故に逃げ出せないジョニィは、ジャイロが取り出したクレイモア地雷を見て驚愕した。
「さっき仕掛けられてた地雷だ。どうやってやつはこんなものを手に入れたんだ? そもそも、どこで手に入れたのか……」
全く恐れることなくジャイロはペタペタと地雷を触っていた。信管を抜けば大丈夫だが、いつ暴発するかとジョニィは気が気でなかった。
携帯から雄英に連絡してくる、そう言ってジャイロは馬の荷にある携帯を取りに行った。
さっきから、らしくない行動を繰り返している。サンドマンを捕まえれば大金が手に入る、たったそれだけだというのにどうしたんだろうか。
「あづっ!!」
いきなり、手のひらに熱を感じた。それは瞬く間に皮膚を焼き、ジョニィは反射的にヤカンから手を離した。手にはヤカンの取手の跡がくっきりとついていた。
変だ。さっきまでタオル越しに持っていたはずが、いつの間にかヤカンを直接持っていた。タオルはどこだと探すと、すぐ近くに落ちていた。
「なんだこれ………」
拾ったのはタオルの切れっ端だった。タオルは切り刻まれたようにバラバラになって落ちていた。どこかに引っ掛けただろうか。だが、ちょっと目を離していた間にこんな風になるだろうか。
「おいジョニィ………馬に乗れ、何人か走ってきている」
畑の中から向かってくる足音が聞こえた。サンドマンだろうか。足音が複数なのは、仲間がいるということだろうか。
ザクッ ザクッ
「ジャイロ……小屋の中から音がする…!? ドアの背後でしている、誰かいるぞ!!」
「中はさっき調べたじゃねーか、絶対に誰もいねぇ」
音は止んでいた。でも、しっかりとこの耳で聞いた。たしかにドアの向こう側で音がしたんだ。
薪割りの為に突き刺さっていた斧を取って、それでドアを殴りつけた。バラバラと崩れる木片の向こう側には、さっき調べた時と変わらない様子が広がっていた。人の気配なんて微塵もなかった。
「いいや、たしかに音がした。なんの音だったんだ」
人がいないなら、何か音が出た原因がある筈だ。物が落ちてたり、何か変化が起こっているのは間違いない。
足を引きずって小屋の中を覗き込んだジョニィの後ろで、ジャイロは畑の方角を見ていた。足音の正体が依然としてわからない。すでに半径20メートル以内を索敵していたが、そのセンサーには誰もいなかった。
ダメだ。上から目視するしかない。近くにあったはしごに手をかけようとして、止まった。ジョニィがものすごい剣幕で止めたからだ。
「そのハシゴへ登るんじゃあないッ! 触るなッ! 斧が………この斧…………そのハシゴに触るんじゃない」
振り返ったジャイロは、その焦りようの意味を理解した。ジョニィが先ほどドアをぶち破った時に使った斧が、その鉄の部分が、ズタズタに切り裂かれていた。
ザクゥッ!
持ち上げようと動かすと、何にも触れてないのに斧が更に切断された。斧をハシゴにぶつけると、斧が更に細かく切断されて砕け散った。
「こ…この小屋に触れるな……何にも…今の斧でドアを壊したんだ。タオルでポットの取っ手も握った。何かわからないが敵だ!触れると破壊される! 何にも触れるなジャイロ、何かに触れさせようとしているみたいだッ!」
もし一瞬遅れていたら、切り刻まれていたのは自分の方だった。ハシゴに伸ばしていた手を引っ込めて、ジャイロは大きく後退した。足を引きずってジョニィも小屋から離れようとするが、それより早く畑の方に人影が見えた。
あれが誰であろうと、間違いなく敵だ。出てきた瞬間を撃ち抜いてやろうと、爪を回転させた。
ザクッ ザクッ ザクッ
またあの音がした。
今度はなんだ、と小屋の中を見ると向こう側の畑が見えた。壁が無くなって吹き抜けになっていた。それだけじゃない、見上げたところの壁がひとりでに壊れて落ちていく。
「なんだこれは……ジャイロ! この小屋はヤバい! 板が……小屋の屋根も無くなっていっている! 壊れてこっちに崩れてきているぞ!」
さっきまでたしかにあった小屋は見る影もなくバラバラになっていた。その一部が、下にいたジョニィの手に触れると足先が切り刻まれて靴の一部と共に吹っ飛んだ。
「ジャイロ! この小屋は危険だッ! この敵は僕らを罠で取り囲む気だァー!」
この時を見計らったかのように、畑にいた人影が飛び出した。
馬に乗ったそいつはまっすぐこちらへ突っ込んできた。
「こいつがッ! 『サンドマン』!!」
その後ろを見たこともない生き物が何体も追従している。図鑑とかで見たことのある恐竜に似ているが全然違う。二足歩行の謎生物から、人間の足音が聞こえていた。
「ジャイロ! 馬たちもこの小屋から離さないとマズイ クソッ!! 同時にやることが多すぎるッ! ぼくが歩けない事を攻撃に利用しやがってるッ!! 行けッ!!」
ヴァルキリーとスローダンサーの目の前を通るように、爪弾を撃ちまくった。二頭とも驚いて逃げ出したが、状況は最悪のままだ。
「警告は一度だけだ! そこで止まれ!!」
鉄球を構えてジャイロが言うが、男は全く速度を落とさない。即座に投げられた鉄球は、男の喉を直撃した。しかし鉄球はまるで風船のように破裂してバラバラになってしまった。
「助……けて、くれ。ぅああ…何がぁあ〜〜〜〜〜? いったいオレは何なんだあああ、あああああ!?」
それを見たジョニィは、爪弾を男の顔に目掛けて撃ちまくった。命中したかと思われた爪弾はその全てが、皮膚に当たった瞬間にボロボロに崩れ落ちた。
「助けてくれェェェェェーーーーッ」
男の頭から血が吹き出した。よく見るとその男は体を馬に縛り付けられていた。
「この男はサンドマンじゃあない! こいつも「道具」だッ! オレたちを追い詰めるための道具として使われたただの一般人だ!!」
「鉄球が芯ごと破壊されたッ! 触れたものはどんなものだろうと全て破壊される! 敵は追い詰めるつもりではなく、すでに僕らは囲まれてしまっていた!! 逃げられないようにッ……すでにハメられてしまっているッ!!」
狙いを男から、崩れ落ちてくる木の板に変えた。弾切れを起こさないことを利用して撃ちまくるが、そのどれもが破壊されていく。せいぜい落下を少し遅らせる程度が限界だった。
「オラァッ!!」
ジャイロの投げた鉄球は木の板のひとつに命中した。だがそれも破壊される。
「だめだッ!! 『鉄球』まで2発とも破壊されたッ!! 崩れるッ!!」
崩れ落ちる板の下で、ジョニィは視界の片隅に見た。畑の中に人影が見えた。
「ジョニィッ! 地面に穴を掘れッ!! 「板」に体が触れる前に爪弾で穴を掘って中に逃れるんだッ!」
がむしゃらに地面に向けて爪弾を撃ちまくった。だが、えぐれた穴は浅かった。
ぼくの「爪弾」なんていとも簡単に、消されてしまう。
まるで音が飛んで行くように…何なんだ!? この敵は!?
あそこに誰かいる。あれは…知っている気がする!
さらに何か来るのか…サンドマンか? まさかこれはそいつの能力か!?
「浅いよ……ジャイロ、もうだめだ…間に合わないらしい。今素早く深く掘るだけのパワーはぼくの「タスク」にはない…逃げろ。男の後ろに人影がいた。多分サンドマンだ、走ってこの場所から離れろ」
「手をのばせジョニィッ! ひっぱってってやるッ!! オレの手につかまるんだッ!」
落ちてくる木の板は、当たるだけでぼくの足のようになってしまう。それなのにジャイロは、手をのばしてくれた。だが、そのほんの少しの希望さえ絶つように、ひとつの板が、届きそうだった僕とジャイロの手の間に落ちた。
「逃げろジャイロ、もうだめだ……早くここから離れろ」
降り注ぐ木片の中で、ジョニィは目を閉じた。その姿を覆い尽くすほどの木の板が落ちて、追撃するように馬と、それに縛りつけられた男が突っ込んでいった。切り刻む音を大量に鳴らして、男と馬は跡形もなく消え去った。
その惨状を前にして、ジャイロは迫りくる謎の生き物の方を向いた。
「サンドマン……切り刻んだり音を立てたり、果てにはあんな生物まで…個性が全く掴めないやつだッ!」
踵を返して、ジャイロは逃げていたヴァルキリーに飛び乗った。
「ズラかるぜッ! ジョニィーーッ とっとと馬につかまれェーーーーッ」
いまだ切断音がする残骸に向けて叫んだ。だが、決してそれは、仲間を喪ったことを受け止めてないということではなかった。
ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル
木片の下で、バラバラになった鉄球がそれぞれ回転していた。それは地面を掘り、上へ土を巻き上げていた。その回転で掘った穴の中に、ジョニィが埋まっていた。土でガードされていた。
「おめーらしくねーなジョニィ、
土から体を出したジョニィに、ジャイロが馬に乗って寄って来た。しかし、それを追いかけるように謎の生物も迫ってくる。
どうしても……どうしてもこの窮地を越えたい!
更に向こうへ……でも、ぼくの「爪弾」なんかで…………行けるのか?
僕の「爪弾」ではぜんぜん勝てる気がしない
次回予告
「とり囲まれる………」
「……森へ逃す勇気はあるか?」
「ああ……神様……………」
「これがジョニィの進んでる『道』」
「おめーの今までやってたことは入門編にすぎねえ!!」
次回 STEEL BALL HERO
『敬意を払え』