「まず最初に言っておくジョニィ、おまえはこれから「
いつもなら何故と聞き返すところを、ジョニィは黙って聞いていた。聞き逃すまいと、自分が熱いと叫ぶのも我慢してじっと耳をそば立てていた。
「結論から言うと「鉄球」の秘密とは「無限」への追求だ…それがオレの一族ツェペリ家の目指したもの…「無限」という概念をオレの先祖は「鉄球」という技術に応用しようとしたんだ。「医術」と「処刑」のために」
そう言うと、小枝を拾って泥の上に何かを書き出した。シンプルな長方形だった。
「『黄金長方形』という形がある。それはおよそ9対16の比になっている「長方形」の事を指し…正確には1 : 1.618の黄金率の事をいう。
この長方形は古代からこの世で最も美しい形の基本の『比率』とされている。エジプト・ギザの『ピラミッド』『ネフェルティティ胸像』ギリシアの『パルテノン神殿』『ミロのビーナス』ダ・ヴィンチの『モナリザ』………この世の建築・美術の傑作群には計算なのか?あるいは偶然なのか?この黄金長方形の比率が形の中に隠されている。
ツェペリ家の先祖たちは名芸術家たちの感性の結果だと考えている。それは完璧の比率………これらの芸術家たちはその「長方形」を本能で知っている……だから「美の遺産」となって万人の記憶に刻み込まれるのだ……」
延々に語り続けられる話についていけなくなってきたジョニィが、話を途切れさせた。
「ジャイロ………待ってくれ。君がこんな時にいったい何を!! 何を言い始めたのか? ぼくにはさっぱり理解できないが………」
「オレの「手のひら」も黄金長方形の比率になるようにオヤジから訓練された」
ぼくの疑問に答えることなく、坦々と話しは続けられた。
読者の方々には、ぜひとも紙とペン、そして定規を用意してほしい。横から16cm縦9cmの長方形を描いていただきたい。
「「黄金長方形」には次の特徴がある……正方形をひとつこの中に作ってみる………残った右のこの「小さい長方形」もまた…およそ9対16の黄金長方形となる。これにまた正方形を作ってみる。この残りもまた黄金長方形……さらにまた作る、さらにまた…さらにまた……そしてこの中心点を連続で結んでいくと」
無限に続く「うず巻き」が描かれる
これが『黄金の回転』だ
「ま…………まさかッ!!」
「おまえは「爪弾」をこの通りに回していない…だから限界を感じている…『黄金長方形の軌跡』で回転せよ! そこには『無限に続く力』があるはずだ……我らツェペリ一族はそれを追求してきた」
「
「…………今 言ったか? 「
ジャイロは余裕を感じさせる声で言った。こちらにはそんな余裕は無かった。初めて知ったばかりの黄金長方形の回転、それを今ここで習得しなくてはならない。悪い冗談だと笑い飛ばしてやりたかった。
思えば、ジャイロの投げる鉄球の回転は普通のものとは違った。あれこそが黄金長方形の回転によるパワーだったに違いない。
「か…いや、仮にその黄金長方形の回転の
首筋に違和感を感じた。小さかったそれはぐつぐつと大きくなっていき、静脈の一部が燃えているのがわかった。血管の耐久値を超えた沸騰した血液が、皮膚を突き破って外に出ると同時に耐えがたい痛みが走った。
それでもジャイロは落ち着いていた。その余裕はどこから来るんだと言ってやりたかったが、首の痛みでそれどころではなかった。
「ジョニィ…あと3回だけ「できない」……と言っていいぜ。おまえが3回目に言った時、これをおまえにやる……オレの「ベルトのバックル」だ。これも「黄金長方形」の比率で正確にデザインされている」
ベルトを外したジャイロはそれを泥の上に置き、バックルの上で回すような動作をした。
「このバックルの形の軌跡上で正確に回転させれば、おまえの「爪弾」もまた! 無限の回転となる!」
話が、一気に現実味を帯びた。ジャイロのベルトのバックルの上で回転させればいいだけの話だったのだ。
「そっ そんなのがあるのかッ!? 何言ってるんだッ!! 黄金長方形の「スケール」なんてのがッ! 最初からなぜその「バックル」を見せないッ! やってみるよッ! ジャイロ! 見せてくれッ!」
「だめだ、「できない」と3度目に言った時といったろう」
ジャイロは何を言ってるんだ。死にかけているというのに、なんで「バックル」を見せようとしないんだ。
近くから大きめの石を拾ったジャイロが、それをバックルの上に乗せて回転させ始めた。
「ごつごつした石くれだから回転がまったく不完全だ…だが、そしてジョニィ……この泥の中はもうだめだ…川の中に逃げるッ!」
ドパァアアン
ぼくらを包んでいた泥が勢いよく破裂した。衝撃で上に乗っていたモンスターが飛び立った。
「撃てッ! 撃てッ! ジョニィそいつを全部撃てッ! この間に川に逃れるぞッ!」
いきなりすぎる展開に頭がついていかなかった。でも、やるしかない。飛び上がってまた襲いかかってきたモンスターに目掛けて、大量の爪弾を浴びせた。今度は切り刻まれることはなく、当たった全てがモンスターの体を蜂の巣にした。
でも……さっきとまったく同じ威力だった。
「降り注ぐぞォォーーーーーッ」
ジャイロが叫んだ。撃ち落としたとしても、音は生きている。死骸が地面に触れて火の海になる前に、川の中へ転がり込んだ。
死骸が地面に落ちて、泥の上が火の海になった。いきおいよく燃えたために火傷を負ったが、無事に川の中へ逃れる事ができた。
熱と泥まみれになった体に、冷たい水が突き刺さった。
「できるわけがないッ! ジャイロッ! そんなのすぐにできるわけがないッ!! こんな状況で何なんだッ!! できるわけがないッ!! さあジャイロッ!! 3回以上言ったぞッ! さっさとそのスケールを見せてくれッ!」
もう限界だった。
「君は鉄球の訓練を子供の頃からされて来たんだろう!? それをたった今!ぼくがやってみろと言われてもいきなりできるわけがないッ!! さあまた言ったぞッ! 無限の回転があるならバックルを見せてくれなきゃ何も始まらないだろう!!」
「今のは一回にしか勘定しねえからな。あと2回だ、あと2回言った時やる」
「何だとォォ〜〜〜〜ッ それは何かの「試練」なのか? ゲームなんかしてる時じゃないんだぞ!! 受難がどうとか、
この敵は、何かを考えている。川に飛び込むこともきっと計算のうちだ。
「少しずつ少しずつ………この敵はぼくらを完璧な何かでとり囲もうとしているんだぞッ!」
「ジョニィ、落ち着け………あと2回だけ
「何ィィ〜〜〜〜〜ッ……………!?」
ジョニィたちがさっきまでいたところに、またモンスターがやってきた。小さく丸いボールのようなそいつらは、二本の足で移動して、川の手前に整列していた。
「何だ…!? 今度のヤツは……何をする気だ!? 規則正しく並び始めているぞッ、何やってるッ!?」
「ジョニィ、何かされるにしても…この間だぜ! この間に「本体」を探すんだ…敵は今このオレらをどこからか見ているッ! 急いで本体を見つけ出して、ここからそいつをやるしかねえッ!! おまえの『爪弾』をなんとしてもそいつにブチ込むんだッ!!」
慌てるジョニィと対照的に、ジャイロは落ち着いていた。
爪弾を回転させて畑の中へ向けるが、どこにも人影はない。それよりも、整列していたモンスターの様子がおかしかった。
「ジャイロ……モンスターどもをよく見ろ……さっきから何か様子がおかしいぞ…」
ヤツらの体から
何かが水面に出て来ているッ!
次回予告
「ぼくにできるわけがないッ!」
「おまえらの事を気の毒とは思うが、悪いとは思わない」
「永遠に回せないのでは…………?」
「ジャイロ…ぼくが…今! この目で見ているものでいいのか!?」
次回 STEEL BALL HERO
「タスクACT2」