STEEL BALL HERO   作:ボンシュ

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タスク ACT2

 「()()()()()」という言葉は、「表に現れているのは物事の一部にすぎない」という意味を持っている。海の上に出ている氷山はごく一部にすぎず、その海面下には想像できないほどの大きさの氷の塊が存在している。

 

 モンスターたちが流して来た音の下には、予想を大きく上回る数の様々な「音」があった。当たったら何が起こるかわからないが、十中八九…自分たちが殺される事だけが理解できた。

 その光景はまさに「氷山の一角」だった。

 

 水からいきおいよく顔を出したジョニィが、ジャイロの首につかみかかった。

 

「ジャイロ『バックル』をすぐによこせーーーーーッ」

 

 叫ぶジョニィの口元に、拳が入った。鼻と口から血が吹き出る。

 

「だめだッ! 「()()()()」と「4度」言うまでやれないッ! 絶対に! それがツェペリ家の「掟」だッ! 「掟」を破ったらオレたちは敗北するッ! おまえに全ては説明したッ! LESSON(レッスン)4(フォー)だッ! 『敬意を払え』ッ!」

 

「なんだとおおおおおおーーーーッ!」

 

 

 ジャイロは一向に教えようとしない。だが、もう水面の音は2人のすぐ目の前まで来ていた。

 

 ()()()()()()

 

 思い出せ……ジャイロが泥に描いた黄金長方形を………黄金の回転の軌跡をッ!

 

 

 ドン ドンドンドンドンドン

 

 

 撃ち放った爪弾は、畑の一部をえぐるように吹っ飛ばしていった。多少の(パワー)が上がったがこんなものではないと、理解できた。黄金長方形の無限のパワーとやらならば、もっと凄まじいもののはずだと。

 

「だめだッ! こんな「(パワー)」じゃないッ! ぼくにできるわけがないッ! 間に合わないッ! 来るぞーーーーー!」

 

 「音」はもう目の前だった。

 

 

 その時、ジャイロが水の中に潜った。両手の間に、黄金長方形の形を作ったジャイロはその長方形の中で「回転」を起こした。

 

 シュウウウゥゥゥゥ   グルゥン

 

 

 信じられない光景だった。ジャイロが落ち着いていた理由がようやく理解できた。

 

 ジャイロの手の中に(きゅう)が出来上がった。その回転が起こした波紋が、迫りくる文字を全て弾き飛ばしてしまった。

 

「水を「(きゅう)」にして回転させられるのは一瞬だ。一瞬だけなら防御出来るぜ……………だが…………こいつの個性は音の固まり……くそ……()()()()()()()…………こいつは何て「敵」だ………なぜ、そう……なぜあの岸にああやって一列に並んでいるのか…? その意味が分かったぜ」

 

 

 ジャイロの様子がおかしい。さっきまでの余裕が消えていた。それほど消耗するのか? さっきの技は。

 

 

「「音」は聞こえる音が全てではない…つまり…今みたいに見えたものが全てではない…その交差点は増幅する。水中に見えなかった「音」がある…防ぎ切れない」

 

 ジャイロは朦朧としながら言っていた。防ぎ切れなかったというなら、なぜ自分に攻撃が来てないのか。

 

 水面が赤くなっていた。それは血だった。ジャイロの体から夥しい量の血が出て、川の一部を染めていた。その血の川の中に何かが浮かび上がってくる。

 

「ジャイロ………ああああああっ……あああっ………ああっ…………」

 

「気をつけろ…向こう岸もだ…岸に………今のが…反射して戻ってくるぞ…そしてあと一回だ……早く言え。言っていいぞ、バックルをやる………『できない』と言え!」

 

「うっうっうあっうおおおぁああああ〜〜〜〜〜あああっ」

 

 ジャイロの体は、血と手足を失って軽くなっていた。それなのに、今にも水の中へ消えてしまいそうな体を抱き寄せて、ジョニィは声にならない叫びを上げ続けた。

 

「頼む!! もうおまえを捕まえようなんて思わないッ!! だから医者をッ! 誰でもいい! 呼んできてくれェェェ!!」

 

 ヒーローだとかヴィランだとかは、ジョニィの頭からふっ飛んでいた。ただジャイロを助けて欲しい。自分たちを見逃して欲しい。その一心で叫んだ。

 

「はっ!……………」

 

 

 畑が揺れて止まっていた蝶が羽ばたく。その中から、ゆっくりと男が出てきた。

 

 その見た目はまさしくインディアンだった。緑と黒の髪を編み込んで、肩には部族のものらしき刺青、腰回りと足元を覆っただけの格好は、まさしくインディアンそのものだった。

 

 

 間違いなく、この男こそ「サンドマン」だ

 

 

「あの土地は、我が部族のものだ。それも目的だが……それよりもおまえらを殺した方がてっとり早い………全員を皆殺しにするより確実に……いい条件だ………」

 

 

 どこまでも冷徹で、暗い声でそう言った。

 

 

「祖先からの土地を買う……我が部族がこの時代の変化に勝つには「金」がいるんだ……おまえらの事を気の毒とは思うが悪いとは思わない。お前らが決めた価値の基本……「金」という概念だからな」

 

 この男に、ぼくらを見逃すなんて選択肢はなかった。

 

 この男は殺し屋だ。ぼくらを殺すために雇われた殺し屋だった。

 

 この依頼は最初から、ぼくらを殺すために作られた「舞台」だった……その演劇に、まんまとぼくらは参加してしまったんだ。

 

 そしてクライマックスになった今、ヤツが現れて僕らに死刑宣告をした。取り囲まれていたんじゃない。自分たち自身の足で、処刑台へと進んでいたんだ。

 

 

うおああああああああああああああああああああああああああああああああ

 

 

 

 

 サンドマンはまた畑の中へ消えていった。だが今度は、もう近くにいる必要はない。どこかへ去るつもりだ。

 

 

 残されたジョニィとジャイロは、向こう岸に反射して迫ってくる音に対して、もう何もできない。

 

 爪弾も効かない。ジャイロも倒れた。

 

 当たり散らすように、ジョニィはジャイロに叫んだ。その手にはバックルがあった。しかし、もう遅い。

 

「うわあああーーー! 最初からこのバックルを使わせてくれればこんな事にはならなかったんだ!! いきなり回転の説明されたってすぐにできるわけがないッ!」

 

できるわけがない。ジャイロが言っていた4度目だ。

 

 『できるわけが』……うっ……ううっ『「できない」と4回言ったら…』

 

 

 『ツェペリ家の掟』…………

 

 

 ………待てよ

 

 

『すでに全部説明はした………』

 

『黄金長方形』で回せ……

 

ま………待て………待つんだ………いったいツェペリ家は何が言いたい?

 

 そういえば芸術家たちやジャイロの先祖が「黄金長方形」を見つけたというなら

 

 ()()()()()()()()()()

 

 「美しさの基本」とかをどこで? 彼らは誰から学んだ? 学者から聞いたり定規で計ったわけじゃあないはずだ……

 

 それはコピーってやつで……「本物」じゃあない……いったい最初に誰が発見した…? 本物があるはずだ! 「本物」に気づかなければ「黄金の回転」は…永遠に回せないのでは……………?

 

 

「黄金長方形の「本物」がッ! あるはずではッ! ジャイロが泥に描いた図形やこのバックルの形は『定規で計った』コピーだッ!」

 

 

 「本物」を探せ……

 

 自分の眼で…

 

 「本物」を見なければ回転しないッ!

 

 ツェペリ家の掟は!それが言いたいのでは……

 

 

「ジャイロ……ぼくが今! この目で見ているものでいいのか!? 今までにも! すでにさっきからも! 見ているもので!? 「本物」の長方形はこれでいいんだな?」

 

 

 あれほど躍起になっていた黄金長方形のスケールが、あふれるほどあった。

 

 ついさっき飛び立った蝶の羽

 

 地面に生えた草の葉の形

 

 美しく咲いた花の形

 

 そびえたつ木の形

 

 

 深い観察から……芸術家たちが学んだものとは……

 

 

 

「ジャイロはこれらを見て鉄球を回転させていたのかッ!」

 

 

 そのとき、畑のすみから小さな影が出てきた。

 

 白いネズミだった。その体もまた、黄金長方形の形となっていた。

 

 

「ダ………ダニーーーー!!」

 

 

 

 

ガンッ

 

 

 

「うおおおーーーー!? 何だ……この回転は………」

 

 




次回予告


「宿命が追いついてくる………」


「我が部族の言葉で「音」をかなでる者と呼ばれている」


「なんだ……動けるんじゃないか……」


「さぁ……『リベンジマッチ』だ!」


  次回 STEEL BALL HERO

   「決着、そして」
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