STEEL BALL HERO   作:ボンシュ

27 / 33
決着、そして

 

 

 ギァアアアアアアアア

 

 

 爪弾がドリルのように回っていた。これまで撃ってきたものとは比較にならない力が伝わってきた。黄金の回転は爪弾を更なる高みに到達させた。

 

 音の不可視の攻撃や友の負傷で追いつめられた心に火が灯った。それは心臓を動かし、血管を伝って体の隅々まで行き届いた。いま回転しているのは爪弾だけじゃない。自分の体に黄金の回転が宿っている。

 

 更に向こうへ(プルス・ウルトラ)……ジョニィの肉体と精神は、限界の先へ進んだ。これまで妖精のようだった小さな(ヴィジョン)は、その成長を体現して、姿を変えていた。

 

「この回転はッ!」

 

 ジョニィは迫りくる文字の波へ向けて、爪弾を撃ち込んだ。

 

 ドゴォオオオ

 

 

 発射した爪弾は圧倒的なパワーで、水の中に穴を開けた。その穴が渦巻きのように、周りの音を巻き込んでいく様子をジョニィは驚愕して見ていた。

 

「水に「穴」が開いてあの「音」が吸い込まれているのか!! 何が起こっている…………!? この「爪」に何が起こっている!?」

 

 凡人の理解など到底及ばない(パワー)だ。

 

「何だ…!? 「爪」は一発しか撃てなくなっている!! 人差し指から次のが出ない……でもとなりの中指の爪は回り始めた……」

 

 次の爪弾を撃とうとしたジョニィの人差し指には、爪が無かった。タスクACT1は爪の回復が異常に早かった為にマシンガンのような連射が出来ていた。しかしタスクACT2になったことで爪に黄金の回転が宿り、その代わりに連射が出来なくなっていた。

 

 

ドゴォーーーーー

 

 

 中指の爪を回転させたジョニィは、つい先ほどまでサンドマンがいた位置の、少し下の地面を撃った。これまでの爪弾ならば弾痕をつけて終わりだが、黄金の回転を得て成長した爪弾は、地面どころかその周辺も巻き込んでえぐり飛ばした。畑の一部を吹っ飛ばしたことで、隠れていたサンドマンが姿を現した。残り9発だ。

 

 

 

 

 えぐれた地面を見たジョニィの脳裏に、雄英の授業での一幕がよぎった。

 

 この社会において、ヒーローがヴィランを倒す際には殺してはならないという縛りがある。しかしヴィランは躊躇なく人を殺す。その「ためらいの差」につけ込まれてヴィランを取り逃したり、時には始末される。

 

 

 甘すぎる。授業中にジョニィが抱いた感想は奇しくも、その後に遭遇するリンゴォ・ロードアゲイン(ヴィラン名マンダム)と同じであった。相手がはるか格下なら、殺すまでもなくたやすく捕まえられるだろう。だが対等な力を持つ相手や格上だったらそんな余裕はなくなる。

 

 

「ジョニィ…………ジョースター…………」

 

 

 姿を現したサンドマンが、明確な殺意を持って静かに自分の名を呼んだ。

 

 

「………サンドマン…………」

 

 

 この相手は「倒す」なんて甘い世界に生きてはいない。人を殺すことになんの躊躇いも持たないうえに、実力ははるか格上だ。だったら、自分もその世界に踏み入れなくてはならない。

 

 

 「倒す」のではなく「殺す」。

 

 

 「捕まえる」のではなく「確実に始末する」。

 

 

 ためらいを捨て去った互いの眼が黒く燃え上がった。

 

 

ドゴオオーーーーーーッ

 

 短い睨み合いの果て、先に撃ったのはジョニィだった。殺意を乗せた爪弾がサンドマンの心臓をえぐり飛ばそうと迫った。それを冷静に見たサンドマンは持ったナイフをその場で振った。

 

 

 ヒュン  ヒュン

 

 

 空を切る軽い音が鳴り、サンドマンの個性が音を固めて具現化した。現れた「ヒュンヒュン」という漫画の擬音のような塊は、爪弾を衝撃ごと隣の木へと逸らした。

 

 音にぶつかった爪弾は三つの欠片になって、木の幹に穴を残して消え去った。

 

 

 はじかれた……「黄金の回転」を……

 

 

 更に、ジョニィを追い詰めるのはサンドマンだけではない。岸に整列したモンスターもまだ生きている。それらが流す文字は最初に撃った爪弾の渦巻きに巻き込まれているが、増えれば限界が来るだろう。

 

 

「黄金長方形」の回転は確かにあるのかもしれない…その威力はぼくの「爪弾」で間違いなく「数倍」にも増している実感がある……

 

 

 

 だが意味なんて何もないッ!

 

 

 サンドマンとはレベルが違うッ!!

 

 

 ヤツの「個性」にはぼくの「回転」なんて何の通用もしない!!

 

 

 

 

 少しだけ希望で喜ばせておいて、そして最後にぼくから全てを奪い去っていく………!

 

 

 ついに「宿命」が追いついてきた。兄さんの「借りを返せ」……と今、追いつかれたんだ

 

 

 

 

「だめだ、すまないジャイロ…………ぼくには何もできなかった………」

 

 

 意識を失った友に、最期の言葉として懺悔の声をかけた。しかし、ジョニィの意思とは別に、最初に川に撃った爪弾の穴がズルリと動いた。渦の中心にあった穴が、水面を動いて岸へ進んでいく。音を流していたモンスターの足元へ進んだ穴は、足から丸い体へと昇り、止まった。

 

 

 ドッバァアアアムッ

 

 

「……………え……」

 

 モンスターが弾け、大量の血が飛び散った。同時に川へ溶け込んでいた音の一部が霧散していく。サンドマンもジョニィも、なにが起こったかわからなかった。だが、異常な出来事は立て続けに重なる。

 

 

「なにッ!?」

 

 

 畑ごと地面をえぐり飛ばした時に出来た爪弾による穴が、今度はサンドマンの長い脚を登って行った。訳がわからない状況に、サンドマンは判断が遅れた。登っていった爪弾の穴は、左足の大腿部で止まった。

 

ブシュゥウウウウ

 

 穴から血が噴き出ると同時に、撃たれたかのような痛みが走った。そしてようやくサンドマンは、これがジョニィによる攻撃だと理解した。

 

「こ………これはッ……!!」

 

 まさかと、先ほど爪弾を逸らして当てた木を見た。弾痕はすでに無くなっていた。穴は生き物のように木の表面を滑り降りて、地面を進んでいた。

 

「はっ!」

 

 それはサンドマンの足からまた登ろうとする。しかし、その場で跳び上がったサンドマンは間一髪で木の枝にしがみついた。穴はサンドマンの体の下で滞留していた。まるで逃した獲物が落ちてくるのを待ち構えているようだ。

 

「ジョニィ・ジョースターの撃った……弾丸の「穴」が……」

 

 獲物を逃した穴は、留まることをやめてサンドマンがぶら下がっている木へ登って行く。しかしサンドマンは、あくまでそれを目で追って、手に届く寸前で枝から手を離した。

 

 

バグォオオオン

 

 

 穴が枝の半ばで止まり、そこから先をへし折った。

 

「移動した! サンドマンを追っているッ!! 穴が自動的に………!!」

 

 そこからは早かった。岸へ並ぶモンスターに向けて、黄金の回転を加えた爪弾を撃った。生物的な本能でそれが驚異と理解したモンスターは、小さな足で飛び上がり爪弾をかわした。

 

 だが、地面に当たった爪弾は穴を残し、その穴が自動的に動き出す。飛び上がって落ちてきたモンスターの足元へ移動した穴は、その近くにいたもう一匹のモンスターも巻き込んで殺す。また音が消え去った。

 

「「穴」が攻撃をする……自動的に標的の方向へ移動して……回転は「生きている」んだ。「穴」になっても「穴」の中で生きている……」

 

 

ドバ ドバ ドバ ドバ

 

 

 撃ち込んだ爪弾はモンスターの軽快な動きに全てかわされる。しかし、残った穴は逃げることを許さない。自動追尾した穴によって残りのモンスターも全て倒された。

 

 

「ジャイロッ!! 回転は「穴」になっても死なないぞッ!!」

 

 

 

 音が霧散して、川は本来の姿を取り戻した。残るは……サンドマンだけとなった。

 

 

 

「『LESSON(レッスン)4(フォー)』………敬意を払え」

 

 

 何も見えていなかった自分を塗り替えるように、ジャイロの言葉を繰り返した。今ならその言葉の意味が心で理解できた。

 

 川の流れはジョニィとジャイロの体をゆっくりと川岸へ流していった。短刀を持ったサンドマンが距離を保ちつつそれを、追いかける。罠も、モンスターもいない。純粋な一対一の戦いだった。

 

 ジョニィたちの体が泥に乗り上げて止まった。サンドマンも一瞬足を止めるが、今度は保っていた距離をゆっくりと縮めていく。

 

 罠が無くなったサンドマンに出来る攻撃は、近づいて直接音を叩き込むことだけだった。これまでの殺しの中には、川などの水場が使えない時もあった。罠を突破されたことも何度もある。そういう時は、自分で直接手を下していた。だから、今回も同じように始末する。

 

「サンドマン……………」

 

 一歩、一歩と進んだところでジョニィが呟いた。どんな意味が込められたのかは知る由もない。ただ、その間違いを正さずに死なれては気分が悪い。ちょっとした理由だったが、サンドマンは足を止めた。

 

「『サンドマン』? それは村人が勝手に聞き間違えて呼んだ名前……直訳は『()()()()マン』。我が部族の言葉で「音」をかなでる者と呼ばれている」

 

 サンドマン(砂の男)という名前ではない。ただ間違いを正しただけというのに、サウンドマンの心に何かが引っかかった。

 

 その小さな違和感を払拭するように、短刀を振り払って構えた。

 

「ジョニィ・ジョースター………どうやらわたしがその位置まで行き………直接短刀かこの拳で「音」をおまえの体にたたき込むしかなさそうだ」

 

 

 

 

 

 サウンドマン 個性 「音」

 

 「切った音」「破壊した音」「燃やす音」など、音を形にして相手に送り込むことができる。その音の形に触れると、その通りになって破壊される。

 水の中に流し込むのが一番効果的らしい。

 

 

 

 

「その音の固まりは、一撃でおまえの全身を9つの部位に切り裂くだろう」

 

 ゆっくりと迫ってくるサウンドマンを視界に捉えたまま、ジョニィは左手をチラリと見た。親指から中指の爪は無くなって、残っている爪は薬指と小指の爪だけだ。慎重に使いどきを見極めなくてはならない。

 

 

「ハッ!」

 

 

 ほんの一瞬、爪弾を確認した一瞬を見逃さず、地面を蹴って跳躍したサウンドマンが空から襲いかかってきた。考えている余裕はない。薬指の爪弾を発射した。

 

 

 

 ブンッ ブンッ

 

 

 音で逸らされた爪弾がまた切り刻まれて、地面に命中する。開いた穴がすぐに自動追尾を開始して、音の固まりの下へ移動した。不安定な固まりでは、サウンドマンの鍛え抜かれた体を支えることができなかった。形が崩れた音の固まりからサウンドマンが背中から落ちていく。そのすぐ下には穴がいまかと待ち構えていた。

 

 しかし、サウンドマンはその体に似合わない身軽さで崩れた固まりを集めてその上へ逃げ延びた。穴が獲物を逃したことを悔しがるように泥を巻き上げる。サウンドマンの体重が固まりを下へとずらすも、地面に落ちる直前で留まる。

 

 爪弾を標的にしっかりと向けたまま、ジョニィは撃とうとしなかった。ここで撃ったとしても、音に阻まれて同じ結果になることが見えていた。勝負は、穴の回転が止まったその時だ。

 

「はじかれた「穴」の追跡は……せいぜい数秒……長くて7〜8秒程度しか追跡がもたないようだな」

 

 それをサウンドマンも理解していた。ゆえに、ジョニィの心を揺さぶる。自分の優位性は覆らない。同時にその自信を再確認するように言葉を投げかけていく。

 

「穴が小さくなって消えかかって来てるぞ……しかもその「爪弾」、残りはあと1発しか発射できないようだな……合計全部で10発。もし何発も発射できるならすでに……もっと撃って来てるはずだからな」

 

 回転が止まって泥が弾けた。

 

「「穴」が消えたぞ。そして次が最後の一発……」

 

 短い睨み合いの果て、両者が同時に動いた。

 

 

 ズバァ

 

 

 ジョニィは残った爪弾を撃ち、サウンドマンは短刀を振って音の固まりを作った。早かったのは音だった。ズバァという固まりが出来上がってサウンドマンを守るように立ち塞がり、それごとジョニィへ飛びかかった。

 

 だが爪弾は盾に命中することなく、サウンドマンの後方へ消えていった。最後の一発をはずして撃った? なぜ?

 

 ビスウッ

 

 爪弾はサウンドマンの後ろにいた蝶の羽を撃ち抜いた。穴の開いた羽で飛ぶことのできない蝶は落下していき、サウンドマンの背中へ落ちた。羽の穴は背中へ移動して、蝶がまた羽ばたく。

 

「うおっ!!」

 

 穴は自動追尾を開始した。すでに獲物を捉えた穴は、確実に始末するというジョニィの意思が乗っているように心臓へと向かっていた。かわすことはできない。容易く心臓の位置までたどり着いた穴は、とどめを刺すために回転を止めた。

 

 サウンドマンは絶叫した。しかしそれは諦めによるものではなかった。これから味わうことになる痛みに対しての叫びだった。

 

 ボグオォオオ

 

 穴へ右手を当てた。回転が止まる寸前に右手へ穴を移動させることに成功した。手首から先が吹っ飛び、流れ出た血が川へ流されていく。

 

「やはり「数秒」…その爪弾の穴は数秒だけ自動的に追跡して……そして消える………危なかった…危なかったが、今のが最後の一発」

 

 ジョニィの爪には弾が残されていなかった。対して、サウンドマンはダメージを受けたものの、まだ攻撃することができる状態だ。勝った。このオレの勝ちだ。そう言おうとしたサウンドマンのセリフに被せて、ジョニィが否定した。

 

「いいや…サンドマン……そこでやめろ。その位置から後ろに下がれ……勝ったのはぼくたちだ。君じゃあない…」

 

 仕留めようとした動きを止めた。今更何を言っているのか、決着は明確だ。自分の勝利に変わりないと、爪弾を撃ち尽くしたジョニィの手を見た。

 

シルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシル

 

 

 まさか。サウンドマンは目を疑った。ジョニィの手元で小さな鉄球が回転していた。持っていたのはジャイロのベルトのバックルだった。まだ爪が残っている時に、バックルを削って鉄球を作っていたのだ。それを気づかれないように、川の中に隠していた。

 

「おまえのその残った方の手の指を、少しでも動かしたら発射する…この間合いだ、必ず致命傷になる」

 

 それは警告だった。もうこれ以上戦うのはやめろ。諦めて降参しろという最後の警告だ。

 

「下がるんだサンドマン! 短刀を捨てて、後ろに下がるんだ…」

 

 始末するという意思で戦って、それでも殺すことなく決着がついたのなら、それ以上戦う意味はない。生きるか死ぬかという状況では甘ったれた考えだ。それでも、それはヒーローを目指す者として必要な甘さだった。

 

「「試して」みる価値はある……わたしの音より………君の方が素早いと?」

 

 しかし、(ヴィラン)であるサウンドマンにはその甘さは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

ビシュアアアア

 

 

 

  ジョニィが鉄球を投げ、サウンドマンの短刀が迫った。

 

 

 

 ドゴオオオーーーー

 

 

 早かったのはジョニィだった。ジョニィの投げた鉄球が喉元を貫いた。ビクリ、とサウンドマンの体が震えて短刀が手からこぼれ落ちる。川へ十字架のように突き刺さった短刀を追うように、サウンドマンの体も沈んだ。

 

 

 ドサッ

 

「う…う……ジャイロ………」

 

 力尽きたジョニィの体が倒れた。最後の力を振り絞ってジャイロの体の近くに寄りかかる。張っていた気が緩んで、一気に疲労が重さになってのし掛かった。

 

 このまま目を閉じたら、出血多量で死んでしまうかもしれない。片腕と片足を失ったジャイロは特に重症だ。

 

 リカバリーガールなら治せるだろうか。腕と脚はまだ遠くへ流れていない。探してくっつければ治せるだろうか。

 

 しかし、ジョニィの瞼はどんどん落ちていく。

 

 すまなかったジャイロ………君を助けることはできなかった…だが、敵を倒すことが……できたのは……君のお陰だ……

 

 

「すまなかった……ジャイロ………」

ブワァアアアアアアアア

 

 

 

 目の前が黒く染まった。次いで、何者かの足音が聞こえてくる。地面や泥を踏んでいる音じゃない。固い床を歩いているような靴音が、次第に大きくなってきていた。その暗闇の感覚に、ジョニィは覚えがあった。

 

 そうだ……この暗闇は…USJ……で…まさかッ!!

 

 

「これはこれは……お久しぶりですね…」

 

 閉じかけていた目を開いた。紳士ぶった言葉遣いと声を聞いて、ジョニィの記憶が掘り起こされた。首を動かして見上げた先には、USJ襲撃の際にいた黒霧という(ヴィラン)がいた。

 

「そん……な…………お前は…!」

 

 黒霧の後ろにはもう一人いた。絶対にありえない、これは幻覚だと思いたかった。

 

「どうやら……()()()()()()()()()()…だが、お前が? 本当か?」

 

 サウンドマンが、五体満足の状態でそこにいた。動けないジョニィの顔を覗き込んで、フム、と顎に右手を添えて首を傾げていた。

 

 

スパァアアアン

 

「ぐぁあああ!!!」

 

 サウンドマンは持っていた短刀でジョニィの両手首から先を切断した。遅れて噴き出した血と痛みでジョニィは叫んだ。

 

「妙なことをするなよ……」

 

「サウンドマン…『ボールブレイカー』の方は瀕死です。手を下さずとも、じきにくたばるでしょう」

 

「じゃあ、残るはこいつだけか………」

 

 サウンドマンの短刀が首に添えられた。鉄の冷たさが首に触れた箇所から伝わってきた。

 

 まだ父を見返していない、母に勇姿を見せていない、兄さんに合わす顔が無い、ジャイロを助けたかった。様々な自責の念を抱いたジョニィは、気がついたら絶叫していた。目を閉じて、せめて殺される瞬間まで叫び続けてやろう。

 

 その時ジョニィの足が若干だが、体に引き寄せられるように動いた。

 

「なんだ……動けるんじゃあないか……それとも…今初めて…? 気付いてもいないのか?」

 

 だからどうした、と切り替えてサウンドマンは短刀を構え直した。叫び続けるという何の意味もないヤケクソの行為に目を細めて、サウンドマンの短刀が振るわれて血が噴水のように噴き出した。

 

 

ドッッゴォォオオオオオオオ

 

 

「サウンドマンッ!!」

 

 

 とてつもない打撃音と共に、サウンドマンの体が真横に吹っ飛んだ。川を越えて飛んでいったサウンドマンを黒霧が追いかける。とてつもない振動と音、そして切られたはずの喉の痛みがない。

 

 何事かと目を開けたジョニィの前にいたのは、オールマイトだった。背中に回された手は、体育祭で感じたままの大きな手だった。

 

「もう大丈夫! ()()()()()()()!!」

 

 テレビでも体育祭でも聞いた台詞だった。もう安心という気持ちになり気を失いたかった。だが、それでもジョニィは口を動かした。

 

「「音」に……「音」に触れたら……触れると…なんだろうと切り刻まれる……ジャイロの「手足」が…流された……回収…して……く………」

 

「ああ……わかった!! 必ず君たち二人とも助けてみせるッ!!」

 

 オールマイトの手の中で、すでにジョニィは気を失っていた。力が抜けた小さな体とジャイロの体を抱き上げて、川から離れた木のそばに横たえさせた。

 

 川向こうまで吹っ飛ばされたサウンドマンが起き上がった。地面と体の間に音の固まりだったものが挟まっていた。それが衝撃を和らげていた。

 

「大丈夫ですかサウンドマン!」

 

「大丈夫だ…だが、なんて破壊力だ。音の固まりが潰された」

 

 ゆっくりとだが立ち上がったサウンドマンを見て黒霧は戦慄した。攻撃されてから地面に叩きつけられるまでの間に、音の固まりでガードするという荒技をやってのけたことに対して。そして、音すらも捻り潰してしまうオールマイトのパワーに。

 

「この場は去りましょう。脳無もいない今、圧倒的に我々が不利です……」

 

「待て、金は……依頼はどうなるんだ」

 

「今はそれどころでは………ハッ!」

 

 

 押し潰されそうな敵意を感じて振り返った。オールマイトが川を挟んだ向こう側に立って見ていた。その顔は、いつかの如く笑みが消えていた。

 

 右手を振り上げ、川に向かって勢いよく薙ぎ払った。聖書に記されたモーセが海を割ったように、力技で川を割ったのだ。水しぶきと共にジャイロの手足が舞い上がる。

 

 

 ゴォッッ

 

 

 一瞬だった。目にも止まらない速さでそれを回収したオールマイトは、空いた左手を握りしめる。

 

「まだやるか?」

 

 このままでは不味いと思っていた黒霧は、オールマイトの言葉を聞いて瞬時に逃げを選択した。

サウンドマンもビリビリと伝わってくる敵意に、気がつかないうちに手が震えていた。

 

 黒霧のもやが広がり、2人を包み込む。

 

 完全にそのもやが消え去り退却したとわかると、オールマイトは2人を横たわらせた木まで戻った。

 

「SHIT! もっと早く着いていれば……」

 

 

 

 ジョニィ・ジョースターとジャイロ・ツェペリは幸運だった。

 

 ジャイロが雄英に電話した際、その電話に出たヒーローがオールマイトで更に活動時間がまだ残っていたこと。

 

「凹んでてもしょうがないよ! 最低限の止血まで治癒はできたけど、この子の手とボールブレイカーの手足は時間の問題だ!」

 

 そしてオールマイトがリカバリーガールを連れてきてくれたことだった。

 

 止血を完了させた2人とリカバリーガールを持ったオールマイトは、全速力でその場を走り去った。間に合ってくれと繰り返し思いながら、1秒でも早く着こうと更にスピードを上げた。

 

 

 

 

 ジョニィ・ジョースター

 

 両手首欠損の上、意識不明

 

 再起不能……?

 

 

 ジャイロ・ツェペリ

 

 右腕部と左脚部欠損の上、意識不明

 

 再起不能……?

 

 

 オールマイト

 

 このあと授業に遅刻したうえ、活動限界のため途中でエクトプラズムに引き継いでもらい、校長に注意されてしまう。

 

 

 リカバリーガール

 

 手足の欠損を治すため、ツテに連絡を入れる

 

 

 

 サンドマン(サウンドマン)

 

 トゥワイスによって作られた分身だった為に無傷だったが、オールマイトの一撃で左腕が軽い打撲

 

 1週間程度で再起可能

 

 

 

 ヴァルキリーとスローダンサー

 

 すっかり忘れ去られていた二頭。気がついたリカバリーガールによる連絡で、1日遅れて回収された。ゴメンネ

 

 

 

 




次回予告

「ヤバイ! 父上だッ!」

「あとで歯みがいたりして」

「そいつの名は、ホット・パンツ……」

「ある『条件』をのむことだ」


 次回 STEEL BALL HERO

   「右? 左? どっち?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。