ブツブツ……
口元を手で隠して、少し離れた僕に聞こえないくらいの声でジャイロは電話をしている。
ジョニィは手首に巻かれた高級腕時計を見た。洗練されたデザインの長針が1分を刻むごとに、焦りもどんどん増していく。
「任せろと言ったが……日没までもう時間がないぞ!」
ここまでジョニィが焦っているのはいまから少し前、シュガー・マウンテンの個性で手足を取り戻した時に遡る。
この島に来るまでは両手と個性を失ったショックで絶望の淵にいた。
病院で
『どこかでしくじってしまうのでは』……『本当はそんなものないのでは』
だから両手が元に戻ったとき、個性も戻ってると確認したとき、僕は喜ばずにはいられなかった。ほんとうに心の底からよかったと思ったんだ。
「いいですか?」
だが、試練はそこからだった。
シュガーは、彼女は自分の個性に存在するという『ルール』を語ってくれた。
ひとつ、泉で手に入れたものは全てその日の日没までに使い切らなくてはいけない。
ひとつ、おごったり金を捨てる行為は『ルール違反』となる。
もしルールを破ったり日没までに使いきれなかったら、体が樹木のようになって連れ去られてしまう。
「日没までに使い切る……札束だけでいくらあると思ってるんだ。更にダイヤモンドとその原石まで……それを半日もしないうちに使い切るだと?」
なるほど、保護されるわけだ。もし外で生活していたら故意でなかろうとも、多数の犠牲者が出ていたに違いない。
個性なんて枠組みを逸脱している。いや、自動車の一件を思い出すと彼女も制御できてない。つまり常に暴走状態にあるようなものか。
「あのさ……これって別の日に『
「だめです」
「そこをなんとかさァ…… ホラ! 時計見ろよ。日没まであと2〜3時間しかないんだぜ」
「だめです」
淡々とNOを提示し続けるシュガーに、説得は無意味と諦めかけたジョニィだがある妙案を閃いた。
「そうだ、これは君の能力なんだろ? 暴走してても
ジョニィは腕に巻いた高級時計を取ってみせた。
「この時計と交換で、『時間を買う』ってのはどうだ?」
奢ったり、捨てたりする行為じゃない。制限時間との交換だ。これならいけるだろうと、ニヤリと笑った。
シュガーの手が上がってきて腕時計へ伸びていく。
スカッ
しかしその手は腕時計を取らず、窓の外を指さした。そこには一本の枯れ木が立っていた。いいやこの場合、このシュガー・マウンテンという女の場合は普通の枯れ木なんて事はありえない。
「以前、今の貴方と全く同じように時間を買おうとした者のなれのはてです。時間は買えないもの。その無理を通そうとすれば、貴方にも相応のリスクが伴うでしょう」
「……ごもっとも」
反論の余地がなかった。
そのあと何かアイデアが浮かぶこともなく僕はジャイロと地上に戻ったんだ。
ジャイロが電話で話してる間も僕は考えた。
馬のバカ高い蹄鉄でも買うか? 現代科学の
クソッ! 大金持ちの友達なんて、そんなのコミックの世界だけだ!現実を見るんだジョニィ・ジョースター、まだ何か方法があるはずなんだ!
ピッ
「どうしたんだよジョニィ、そんな眉間に皺寄せて」
「やっと終わったか! 誰にかけてたんだ、いやこの際どうでもいい。きっと金を使うツテなんだろ? 僕らは手足を戻してもらったが、まだ『再起不能』なんだ! 早くそいつのところまで行かないと……!」
ジョニィは車椅子で近寄って、焦るどころかうろたえる素振りもみせないジャイロにまくし立てた。
「もうほとんど使ったぜ」
「………は?」
「日没までに使い切るなんてチョロいぜ。マァ今回ばかりは運が良かったってところも少しあるかも」
「使った……
「土地を買ったんだよ。それもただの土地じゃあねえ……マっ 詳しくはゆっくりと話すぜ」
何が何だかわからず呆然とする僕を置いてけぼりに、ジャイロは車椅子を押しながらゆったりと歩き始めた。
最初に訪れたのは、〇〇銀行のI・アイランド支店だった。
『口座の開設から換金まで、なんでも承ります』
という売り文句が書かれた掲示板の前を通って中に入った僕らは、そのまま換金窓口へと直行した。
運良く客が手続きを終えたところだったので、ジャイロは入れ替わるように窓口に立ったのだが。
「あのォ〜〜すみませんが……お客様」
当然のように整理券をとってないジャイロに、店員が苦笑いして注意を促そうとする。
ゴロッ
「えっ?」
店員は思った。
人生で一位レベルのショックを受けた時、人間は本当に何も考えられなくなるもんなんだな。
「このダイヤモンドと原石……いくらの価値があるか鑑定してくれ」
ついでにこの腕時計も
「「ありがとうございましたァああー!」」
銀行員たち総出での見送りへ映画スターがするように手を振るジャイロと対照的に、鑑定金額のゼロの数に目眩を起こして、未だに目頭を抑えるジョニィ。
ガヤガヤ ガヤッ
「誰アレ……ヒーロー?」「有名人なのかな…」「頼んだらうちの広告塔に…」「やめとけ!やめとけ!」「有名なヒーローじゃないと広告にならないし」「でも結構イケメンじゃない?」「うわっ、歯に彫り物…」
ただでさえジャイロは西部劇のような服で目立っている。もし『I・エキスポ』が開催されている時だったら、今のように少しざわつく程度じゃすまなかったかもしれない。
「ニョホッオホホホ、ニョホホハホホホ〜とんでもない値段になったけどよ、わかっただろ? もう使い切ったも同然ってことがァー」
「わかった! もう充分わかったから耳元で言わないでくれ、もうほんとブッたまげてるんだよ。頭に銃弾食らった時以上にな」
「そりゃ言い過ぎじゃねーのォ? ニョホホ」
「君さ、僕がまだ学生ってことたまに忘れてない?」
「学生らしく目上の相手に敬意を持って接するなら俺もちゃんとしてやるけどな、『ジョースター君』」
偉そうに言うので、僕はいつもの声より低くしておかえししてやった。それこそオールマイトぐらい低くして。
「……オホン! えー、ツェペリ
「悪かった! 悪かったからやめてくれ! 鳥肌が立っちまったよ」
ヒィィイ!と身悶えながらジャイロが言った。
軽く咳払いして思い切り酷使した喉の調子を戻したジョニィは、そこでハッとした。
「……これで試練が無事に終わったとして、そのあと金銭感覚がおかしくなった君がとんでもない無駄遣いする……なんてオチじゃないよな」
「そりゃやるとしたらお前だろうが。まあ少なくとも今回の買い物は無駄じゃないな」
ジャイロがポケットからスマホを取り出して僕に渡した。移動する間に振り込みの手続きをしろってことだ。
ジャイロの言ってた土地とは、僕らが職場体験で訪れた街がある土地のことだった。あそこのドワーフ(みたいな)村長は言ってた。ここは映画の撮影に使うのにぴったりなところで、色んなところから撮影協力の依頼がくると。
つまりそれだけの『価値』がある土地なのだ。さっきの電話で村長とその交渉をしていた、ということらしい。
「ほら終わったよ。ほんとーに目眩がする金額だ」
「ありがとな。ウシッ これで残りはイチ、ジュウ、ヒャク……あと3千万くらいだな」
「便利だよなぁ土地の権利すらもスマホで買えるなんて……それで?
嫌味ったらしく言ったジョニィだったが、ジャイロは全く気にしていなかった。
「おいおいジョニィーここがなんの島か……まさか、忘れたのか? ここには世界中の研究者の英知が集まっている。その『成果』は、
言い終えて、ジャイロは立ち止まった。
「セントラルタワー! やっぱ買うなら一番いいとこのやつだよな」
ちょっと待ってろとジョニィに言って意気揚々と警備員の元まで行ったジャイロ。そこで雄英の関係者とかリカバリーガールの紹介でちゃんとサインがあるとか説明しだした。
ただ待っててもヒマだったからセントラルタワーを見上げてみた。のけぞるくらい見上げてもてっぺんは見えない。たしかにこれだけでかい施設なら、3千万なんてはした金程度だろうな。
(でも……それならなんでわざわざ土地を買ったんだ? サポートアイテムとかを買うより面倒な事は多いだろうに…………)
「おーいジョニィ! 許可とれたから、リラックスしてセレブのショッピング…といきてーが時間がねぇからな。カタログでソッコー買うぞ」
「あぁ(気にしてもしょうがねぇか…)」
時間がないというジャイロの言葉で、一応急がなくてはいけない状況だと思い出した。
夕日の端が隠れ始めていた。
代表のデヴィット・シールドは最近徹夜つづきだったため仮眠(という名の気絶)をとってるらしい。代わりに2人を出迎えたのは、ぽっちゃりとした体型の温和な男だった。
「はじめまして! 私はデイブの助手のサミュエル・エイブラハムです。本来ならデイブ…デヴィットがご対応するべきところを、申し訳ありません」
腰が低くて丁寧すぎるくらいだが、温和な雰囲気のお陰で丁寧すぎて嫌になるなんてことはなかった。
「いえいえアポ無しで突然押しかけてきたのはこちらですからお構いなく…それで早速なんですが」
「ああ ハイ! どうぞこちらです…お茶やお菓子はいりますか? ジョニィ・ジョースター君…ですよね? クッションはどうです? 真ん中に穴が開いてるやつとないやつがありますが」
カタログをジャイロに渡すと僕の方に来て、片手にもう一つのカタログ、片手にクッションを出してきた。どこにしまってたのかは置いといて、本当に用意がいい人だ。
「すまねえが急いでるんだ。このカタログの中で3千万で買えるものは何だ? すぐ欲しいんだ」
「すぐ… それは少し厳しかと。値段が値段ですので、早くとも2日後の受け渡しと」「手数料はいくらだ?」「な……は?」
申し訳なさそうに語る
「俺たちにはマジで時間がねえんだ。だから面倒なやり取りだとかは無しでストレートに言わせてもらう」
周囲にはもう警備員はいないが、声を潜めたまま会話を続ける。
「あんた、カネがほしいんだろ」
「何を」「根拠はねえ…が、なんとなくわかんだよ。少しでも俺たちの
サムが言葉に詰まった、つまり図星ということだ。
「沈黙はYESととるぜ。じゃあさっきの注文を変えさせてもらう、『手数料込みで、3千万で今すぐ買えるものはなんだ?』」
シュガー・マウンテンは壁にかけられた時計を、じっと祈るように見ていた。
「そろそろ日没か……今回は2つ、どんな風に生えるか楽しみだ」
対照的に、扉のそばの壁に寄りかかりながら窓の外を見るホット・パンツに表情はなかった。
「いいえ……彼らはやってくれるわ」
「ッ!? 貴女がそんなこと言うなんて……初めてじゃない?」
内心は驚きつつ平静に言うホット・パンツ。
シュガーはどこか確信に近い声色で返した。
「私の個性……いいえ 『呪い』を解けるとしたら、彼らのような人だと思っているの」
「呪い、か……。いい?シュガー…前例がないんだ、百歩譲って使い切ったとしても その……」
「ええ、きっとそうなんでしょうね……わかってる…わかってるわ」
そう、わかっている。これは呪いなどではない。一人歩きしているとはいえ、個性と人は繋がっている。
それでも、そんな理屈とは別に、数々の人を見てきたからこそ、自分の中で確信していることもある。
『全てを敢えて差し出した者が、最後には真の「全て」を得る』
ゴウン ゴウン……
貨物用の無骨で巨大なエレベーターに乗って地下の倉庫区域に向かうジョニィとジャイロ。2人の間に流れる空気は、非常に緩和したものになっていた。
それもその筈。苦い顔をしたサムとの手続きは終了し、あとはモノを受け取るだけ。更に日没まで一時間ほどある。身体を元に戻すための試練という一時も気を抜けないものであっても、こうなるのは必然だった。
「なあジョニィ…「オペラ」ってよォーー見たことあっか?おたく」
ゆっくり変わっていく階数表示を見ながら、ぼんやりと呟いた。ジョニィも同じように表示を見ながら答える。
「オペラ? 音楽の? セリフを言えば済むのになぜかイキナリ歌い出して状況を説明するあの演劇のことか? ……実際にはないけど、なんでそんなことを?」
「素朴な疑問…セレブどもが使ってるちっこい双眼鏡みたいなあれ、オペラを見るから「オペラグラス」っていうんだよな? でもあれよォー舞台で歌ってるヤツらさあ体重120kgとか150kg超とかゆー巨体じゃん」
「ああ…だからいい声が出るんだろーね」
「なんでオペラグラス使ってそいつら見るわけ? いらないじゃん」
でかいんだから
想像したジョニィが破顔する。
「ハデーな舞台衣装のボタンアップにして、『はじけ飛びそーだなぁー』とか見るわけ?」
「確かに…いわれりゃあそーだね。でもてゆーか! みな同じ体型だからアップで見ないとキャラ見分けがつかないとかァー?」
「ニョホハホハハハッ! ジョニィ! オメーゆーじゃん!」
このセントラルタワーは、ほぼ無休で研究の日々だ。その規模に多少の差はあっても、実験などで起こる音は騒音なんて言葉が可愛く思えるほど。
ズ ズズ……
ズズズズ ゾァアアア
そのため、施設の要所要所は防音加工が施されている。
「ハハハハ …………そろそろだな」
「………遅かったな」
地下倉庫はもちろんのこと、搬送用エレベーターも防音仕様になっている。
「警備システムは止まってるな……」
「先行させた者がやってますが、長くなると怪しまれますので」
「わかってる。そっから先は耳にタコだ(だが選り好みはさせてもらう…少なくとも億はもらわないとな)」
チーン
「………早速か。不幸なやつもいたものだな」
「迅速に頼みますサウンドマン。時間はかけていられません」
黒霧はワープゲートを開いていつでも脱出できるよう準備し、サウンドマンは『ザクッザグッ』の音の塊をすでに作っていた。
ゴゴゴゴゴゴ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
重厚な扉が少しずつ開いていく。
真ん中の光の亀裂が少しずつ広がっていき、人影が見えた。
(ひとり……いや、2人か? 先にでかい方を仕留める!)
グォオオオオ
音の塊を、最大威力でぶつけるため振りかぶった!
ドグシャアアアアアアアアア
「ゥブッグバアアァアアアアー!!」
「サウンドマン!!!」
猛烈な勢いで投げられた鉄球が、振りかぶったサウンドマンの顔に命中して吹き飛ばす。巻き込まれた棚も崩れ、追い討ちをかけるようにサウンドマンの上へ降り注いだ。
ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル
「本当に
片手に鉄球を回転させながら、ジャイロがゆっくりとエレベーターを降りる。
不意をつかれ、更に再起不能となったはずの男の登場に、黒霧は『二手』遅れた。
「ボール・ブレイカーッ!? 不味い不味すぎる!」
ギャリィィイイイイイ
「動くな…撃つぞ」
いつ回り込んだのか。黒霧の後ろへついたジョニィが、爪弾をいつでも発射できるようにもやの中の本体へ超至近距離で向けていた。
「(こ、この小僧まで……)」
「バクゴーが言いそうな台詞だが『妙な動きをしたと僕が判断したら、即座に撃つからな』」
「おいジョニィ! そいつからは聞きてえ事が山ほどあるんだ、殺すんじゃねぇぞ」
「殺しはしないよ、たぶん。そう言う君の方が、先にやってるじゃないか」
ジョニィはピタリと照準を黒霧に合わせたまま、サウンドマンの吹っ飛ばされた方を顎でさす。
「全く、やれやれだぜ……この程度でくたばるタマかよ。なぁ?」
ジャイロの言葉に応えるように、瓦礫がかき分けられサウンドマンが立ち上がった。顔を鉄球で負傷してはいたが、瓦礫に押しつぶされたりなどの傷は皆無だった。
綺麗な切り口で小さく切り分けられた瓦礫を見て、ジャイロは舌打ちした。
「咄嗟に音でガードしやがったな」
「どうやったかは知らないが…元に戻ったようだな『ボール・ブレイカー』。いや、ジャイロ・ツェペリ…」
「ああ、鉄球の威力も元通りよ。もっともテメェが味わうのは初めてだろうがな」
ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル
ジャイロの持つ鉄球の回転が強くなる。
「たしかにそうだな……だが、オレとお前の実力差も
ゆらりと、サウンドマンがナイフを片手に構えた。
日没まで 残りわずか
これだけ悩んで、長いと思ったのにたったの7000文字!?
気持ち的には一万文字はいってると思ってました。
この回が一番展開に悩みました。次のお話は、比較的早く投稿できると思います。タブン
ジョジョ×ウマ娘の小説が増えてきて嬉しいです。(もっと増えろ)