桃がシャミ子の好感度あげすぎて恋愛感情とか呼び覚ましたあげく放置してるとたぶんこんな感じ。
解釈違いとかありそうですが、暇潰しに読んでいただけたらなと。
作者のいつもの発作なので17.9禁です。
※ブラスティングビニールさん、変形鋼鉄さん。
誤字報告ありがとうございます。
結局のところ。
こんなものは、遅いか早いかの違いでしか無かったのでしょう。
いつまでも続く平凡な日常。
変わることのない街並み。
関係性の変わることない友人。
──すべて嘘だ。
そんなものはありはしなくて、すべては甘い幻想でしかなくて。
まるで春の夜の夢のように、あるいは
生暖かな陽光と
夜眠れば朝が来て、昼に眠れど夜は来るように──当然のように終わりは訪れる。
ああ──どうか。
この夢が、覚めませんように──。
──────────────────────
その日の朝は、いつにもまして穏やかだった。
窓から射す朝日が顔へと当たるのを感じながら、重くなった目蓋を開いていく。ぼんやりとした視界が部屋と自分のまぶたの裏を映すのを私は──千代田桃はまるで他人事のように見ていた。
「…………?」
随分と穏やかな目覚めに、違和感があった。
けれど何がおかしいかと問われれば──特に何も思い付きやしない。
ただ──朝日はこんなに眩しくて暖かな物だっただろうか、という真偽不確かな事だけだ。
重い体を起こして、念のために周りを見渡す。
どこにも不自然はない。
いつも通りの私の部屋──正確には千代田の家ではなくばんだ荘の借家だ。実家から移した幾つかの見慣れた家具があって、存在するものと言えばあとはせいぜい私の隣にシャミ子が寝ているだけ──。
……あれ?
視線をすぐ横へと動かす。
そこにはシャミ子の姿があった。
一糸纏わぬ姿で横になり、愛用の円形の枕に頭を乗せた彼女の姿が、ぼやけた視界でもはっきりと見える。呼吸と共に上下する豊満な胸部を目で追い、次いで自らの姿を見直せば、同じように──何も着ていない。
つまりは昨夜は、二人で裸で同衾していたという確かな証明で。
……どうして──?
そう。
どうしてだ。
「昨日は……シャミ子が、すごい甘えてきて……」
そうだった。
いつになく素直で甘えん坊なシャミ子を気にしつつも、構って欲しいと願う彼女に答えて何度も何度も何度も体に触れたり唇を重ねたり──
何がおかしいか──何もおかしくはない。
そんなのは良くあることで、日常的なソレで。
だからこそ、そんな当たり前の事実に違和感を覚える自分に対して──
……私は、もしかしたら何か大切なことを──
「──ふわぁぁぁ……あぁ桃ぉ……おきてたんですかぁ……?」
その声で、思考が中断される。
すぐ隣で寝ていたシャミ子が、蕩けた声でゆっくりと体を起こした。咄嗟に私は気恥ずかしくなって腕で局部を隠そうとして──なぜそんなことをしたのか分からなくなった。もう数えきれないほど触れられた筈で、今さら隠すような場所でも無いのに。
「あれ……もも、どうしました?」
「いや、その……なんか、恥ずかしくなっちゃって」
中途半端に掲げられた腕では、何も隠すことなんて出来やしない。
シャミ子はそんな私を見ると、薄く笑って顔を近付け──キスをした。
「っ!?」
「ふふっ、寝惚けてるんじゃないですか? 仕方がないですね……ほら立って。一緒にお風呂入りましょう」
「えっ……あ、うん」
手を伸ばすシャミ子の手を握って立ち上がる。彼女はそのまま私の手を引いてお風呂場へと向かった。
カショカショと、箸で卵を混ぜる音が響く。
私の家の台所に立って朝食を作るシャミ子の姿を、私はソファに座りながら観察していた。壁に掛けていたピンクのエプロンを着た彼女は慣れた手付きでフライパンや調味料を出していて──先ほどまでの一糸纏わぬ姿を幻視して、顔が熱くなる。
……いつもの光景、だけど。
私は私達二人の事を回顧する。
私は千代田桃という魔法少女で、姉の千代田桜の行方を探すためにこの街に住む魔族を調査して彼女──シャドウミストレス優子こと吉田優子と出会い、紆余曲折あって協力することで、手掛かりを少しずつ手に入れてきた。
そして彼女と私は最初はいがみ合う仲だったが、幾つもの障害を二人と愉快な仲間達で突破することで打ち克ち──一月前に私がシャミ子に告白することによって見事恋人同士となった。
……うん。
私の目的もその手がかりも、彼女の行為とその結果も、二人で為し得たあらゆることを私は記憶している。彼女の誕生日に百輪のバラの花束を持って告白した、今にして思えば恥ずかしい記憶も、それを真っ赤な顔でこくりと頷いて了承した彼女の姿も、全て覚えている。
ならこの違和感は一体──。
「はい、出来ましたよ桃。今日はふわとろエッグとカリカリベーコンですよ!」
台所からの声に顔を向ければ、そこには得意気な顔のシャミ子がこたつ机に皿を並べていた。喫茶店『あすら』で培った料理スキルのせいか、古い木造アパートには似つかわしくない小洒落た朝御飯の匂いに、思わず喉を鳴らす。
机を挟んで二人で座り、手を合わせていただきますをすると、きつね色に焼き色のついたトーストと共にそれらを堪能する。
……おいしい。
黙々と朝食を頬張る私を、シャミ子は楽しそうに見ていた。その視線に気づくと途端に気恥ずかしくなって、誤魔化すように「……今日も美味しい」と感想を呟くと、華やぐような笑顔でシャミ子は嬉しそうに頷いた。
「そういえばシャミ子。お家の方……清子さんの方は手伝ったりしなくていいの?」
「はい……折角、こ、恋人になったんだから、二人一緒の時間を増やした方が良いって……」
「そ、そっか」
赤くなった顔でそう呟くシャミ子を見て、私も少しだけ恥ずかしくなる。上品そうに笑う清子さんの顔が脳裏に浮かんだ。
私の姉──千代田桜が何故シャミ子のお父さん、並びに清子さんの旦那さんを段ボールに封印したのかは分からないけれど、どんな理由があろうとも普通は自分の夫を封印した姉を──そして私と懇意にして下さるのは一重に彼女の優しさと愛故にだろう。
二人の時間──旦那さんに一途なあの人には、それがどれだけ大切か誰よりも知っているのだから。
……そうなると、シャミ子と結婚したら清子さんは義母になるのでは?
そんなことを考えながら朝食を食べ終えて手を合わせる。お皿の片付けを手伝って時計を見ると、そろそろ登校しないといけない時間に近付いていた。
「……今日って、学校あるよね」
「? そりゃあまあ、勿論。もうすぐ冬休みですが、それでもまだ一月くらいありますよ? ……まだ寝惚けてるんですか?」
「いや……今日は天気良くて暖かいから、猫と戯れながら日向でゴロ寝したいなって思っただけ」
「そんなこと言って、桃は休み時間とかずっとボケッとしてるじゃないですか。ほーらー学校行きますよーソファで寝る準備しないで下さい~!」
既に瞼を半分閉じてソファに寝そべる私の肩を、シャミ子はユサユサした。色々と違和感のような物はあるが、この春のような陽気には勝てない。季節外れのポカポカなお日様は抗いがたい魔性の揺りかごだ。
渋々ながら制服に袖を通して用意をする。その間シャミ娘はメタ子に餌をあげていた。ちょっぴりお高いセレブなカリカリを黙って食べている姿は少し珍しい。もう彼は猫缶でないと満足しないのか、いつもの『時は来た』は今日は無しのようだ。
「ほら、行きましょう桃。ミカンさんも待ってますよ」
「今行くよ……じゃあ、行ってくるねメタ子」
そうメタ子に呟くと、外に出て扉を閉めた。
“なーん”という見送りの声が、ヤケに寂しそうに思えた。
ばんだ荘でミカンと、高校へ続く道で杏里さんと合流し、他愛もない会話をしながら登校する。グループチャットで何時間と話しているのに、こうして集まっても話のネタが良く尽きないな、と若干呆れながら会話に参加していると、何時の間にか校門を抜けて下駄箱へとたどり着いていた。
今日の一時間目は何だったか思案にふけりながらシャミ子達と教室に向かい──あれ、と一つ疑問に思う事があった。
「……ねぇ、シャミ子。私達って
「? 何を言ってるんですか? ずっと一緒のクラスで授業受けてたじゃないですか。あ、さてはキサマ教科書を忘れたなぁ? このうっかりさんめ~」
ニヤニヤと
……そう、だったっけ?
そうだった、筈だ。
思い返してみれば、私達は全員同じクラスな筈だ。シャミ子と初めて学校で会った時も、杏里さんと出会ったのも『1年D組』の教室だった。お昼もみんなで机を寄せ合って食べてるし、一緒に授業を受けた記憶もある。
けれど、違和感がどうしても拭い去れない。
シャミ子達と連れ添って教室に入っても、隣の席にシャミ子が座って、一時間目の授業の教科書を得意げに見せてくるシャミ子を見ても、毎日のように繰り返されている担任の先生の出欠確認を見ても──心のどこかでささやく声がする。
「もしかして……具合悪かったりしますか? 怖い顔してますよ?」
視界に影が落ちる。ふと顔をあげると、目の前にシャミ子の顔があった。
彼女は私の頬を両手で支えるように持つと、自らの額を私の額へと合わせた。骨のぶつかる音が小さく聞こえると同時に、彼女の体温を肌で感じた。
んっ、という悩まし気な吐息が顔に当たって──瞬間、恥ずかしさで顔が紅潮した。
「な──なに、をっ」
「……熱はなさそうですね。でもやっぱり顔色も赤くなってますし、今日は早退した方が……」
「っ──だ、大丈夫だから……! まだ、ちょっと寝ぼけてるだけ」
顔色が変わった理由をそう誤魔化しながら、何とか彼女の顔を直視しないように視線を逸らす。私の顔を掴む彼女の両手を引き離そうと手を伸ばし──なにを恥ずかしがる理由があるのだろうか、という問いが手を止めて虚空を掴むようにもたついた。
少し顔を近づければ、唇が触れ合う距離で。
そして私は──彼女の唇を何度も味わった筈で。
「ほ、ほら。もう授業始まるよ? 教科書見せてくれるんだよね」
「もう……仕方のない宿敵ですね。放課後の買い物の買い出しで
チャイムが鳴ると共に先生が入ってきて、手を離した彼女と共に授業の準備をしながら浮ついた心を切り替える。目を閉じて頭を振って──先程まで目の前にあった、目じりを下げてこちらを窺う彼女の可愛らしい顔と熱い吐息が時折ちらつく度に、
……何を学校で興奮してるんだ私は──!
結局、私の奇行は一日中続いた。授業の度に冷静になり、休み時間が来れば彼女と顔を合わせて思い出す──そんなことがずっと続いて、気付けば学校での一日は終わっていた。
授業の内容も、ノートを書いていたのかも記憶に残らず放課後が来て──最後には商店街へ恋人繋ぎで私を引っ張るシャミ子と、顔を真っ赤にして口を閉ざした私がいて。
──朝に感じた違和感は彼女の体温と甘い香りに塗りつぶされたのだった。
シャミ子家との夕食は恙無く終わった。
お隣のミカンも含めた宴会さながらの鍋パーティーは肉も野菜もマシマシで、最後はチーズとご飯を投入したリゾットに変身。お腹も心も満たされた私たちはその流れで解散し──シャミ子もまた、私の部屋へと戻ってきた。
「とっても盛り上がりましたね……お腹も、もう一杯で……」
「うん……ちょっと、暑いくらい」
隣に座るお腹の膨れたほっこり魔族に視線を向けながら、私は今日一番の満ち足りた気分になっていた。仄かに火照った体に、左手で団扇を作って風を送る。服の襟元を何度も開閉していると、汗の滲んだ服と体に空気が入って、心地の良い清涼感が体全体に広がっていく。
──至福だった。
お腹は満たされ、気分は上々。
柔らかなソファに腰を落ち着かせて体を休め、程よい風が体を吹き抜け──そして隣には愛する人。
──幸せだ。
今までで一番、そしてきっと世界中の誰よりも。
まるで春の日向で微睡むように暖かで、赤子の揺りかごで寝かしつけられるように優しい。
「……しあわせ、だなぁ」
気づけば、そう声が漏れていた。
ソファの背もたれに体を預けて目を細めてそう言うと、隣から椅子の生地が引っ張られる感覚──そしてそれと共に、置いていた私の右手の上に誰かが手を置いた。
「どうしました桃、何か良いことでもありましたか?」
「うん……そうだね。ふふっ……今日は、何だか気分が良いよ。まるで夢みたい」
「──夢なんかじゃないですよ。みんな桃と私が望んだ現実じゃないですか」
耳元で囁く声は、子守唄のように柔らかく。
けれどオペラのように、脳内を反響する。
「そう、だね……でも、何だか今日は一日中、ふわふわしていた気がするんだ」
だから、きっと語ってしまったのだろう。
「朝からずっと、変な違和感があったんだ。隣で寝てたシャミ子を見て、まるで現実じゃないみたいで……本当にシャミ子と私って恋人同士だったんだっけ……って思っちゃうくらいで……」
文字通り、
「学校も何だか変な感じでさ。私たちって本当は別々のクラスだった気がしたんだ……変だよね? いつも隣にシャミ子がいたのに──まあ、全部気のせいだったけど」
そうだ。
全ては気のせいで、勘違い。
私とシャミ子は恋人同士で、周りの人はみんなそれを知ってた。
クラスも一緒で、それに対して疑問に思ってたのは私だけ。
なら──きっとそれは私の勘違い。
優しい現実が、何よりも正しいのだ。
「へー……そうだったんですね。
「……………………?」
だから、私はその言葉に一度首を傾げた。
単純にシャミ子の言っていることの内容が理解できなかった。
凄く優しい声なのに、言っていることが超然的で。
何かを反省するみたいに感心する声で、けれどどこか達観していた。
「シャミ子……?」
シャミ子の方に顔を向けると、そこには笑顔のシャミ子が顔一杯に広がっていた。口の端を吊り上げ、目尻を惚けたように下げて頬を赤く染めた──蕩けた女の顔。
私はその顔に目を奪われ……次いで腰を引いた。手でソファを押して後ずさるように、シャミ子から逃げるように距離を取る。
──嫌な汗が、私の背中から
「シャ、シャミ子?」
「何で逃げるんですか──夜はこれからですよ?」
何故か、と問われれば理由は分からない。
けれど──何か、違う。
違う、違う、絶対に違う、違和感がある。
ソファに両手を突き、こちらへとにじり寄る彼女の姿は紛れもなく本物だ。紫がかった赤髪も、側頭部から生えた角も、服を押し出す双丘も、犬歯が覗く柔らかそうな唇も──何もかもが本物で。
けれど。
シャミ子はあんなに
「待ってシャミ子、何か、何かがおか──」
内心慌てながらそう声をあげ、念のため魔法少女の姿へと変身しようとして──そしてそこで初めて気付いた。
……変身できない、というかメタ子とのリンクが──!?
“なーん”。
その声に顔を向けると、そこにはメタ子がいた。
こちらを向いて座りこみ、後ろ足で毛繕いする姿は──まるで本当に普通の猫のようで。
そういえば私は──今日メタ子が喋っているのを、一度でも聞いただろうか?
「──っ!!」
「逃がしませんよ、桃」
咄嗟にソファから逃げ出そうとして、肩を捕まれた。シャミ子とは思えないほど強引で強い力に、思わず反撃するように足を構えて──躊躇した。
──その一瞬で、全ては決していたのだろう。
「待って、シャミ──!?」
どうにか説得しようと声を荒らげ──けれどその口を塞がれる……彼女の唇で。
突然の柔らかな感触に動揺した私の口内を、シャミ子の舌が
粘度の高い唾液がくちゅくちゅと水音を鳴らして、頭蓋を通して頭に響く。それだけで沸騰するように頭が熱くなり、正常な判断が出来なくなっていく。
せめてもの抵抗として動いた両手は、彼女が制すように肩に掴んでいた両手を強くしただけで力が抜ける。まるで病床でもがく子供のように力を失った私の両手が、懸命に彼女を遠ざけるように動いても……出来たのは彼女の胸の形を少し変えることくらい。
──甘ったるい彼女の唾液を、喉が音を鳴らして飲んだ音がする。
「やっ──だめ、しゃみ、こぉ……んっ!」
構えていた足は既に閉じていた。シャミ子がわざとらしくキスの音を鳴らす度、瀕死の虫の足のように痙攣した両膝を、震えながらもじもじと膝頭を合わせようと捩らせる。反撃することも忘れて、子供のように膝を曲げた私の股ぐらにシャミ子は強引に膝を捩じ込んで押し付けた。
彼女の膝が触れた太股が火に触れたように熱くなって──どうにか彼女を止めようとしてあげた声は上擦っていた。喉奥から漏れ出した彼女の名前と嬌声は、まるで自慰に耽っているかのように熱を帯びていた。
まるで体が私のものじゃないみたいだった。
体の全権利がシャミ子に握られているかのような被征服感。彼女の一挙手一投足が私を苛め、その度に体が嬉しそうに熱を帯びる。そんなことを、まるで他人事のように考えている自分がいる。
「──ぷはぁ」
数十秒、けれど私のとっては数時間のように思えたキスは、シャミ子が口を離して終わった。軽く瞼を閉じた彼女は、私を見下ろすと……薄く笑う。
きっと今の私は、だらしのない顔をしているのだろう。赤くなった顔は、酸欠からなのか、それとも長時間のキスのせいか。彼女の唾液で汚れた唇は、空気を求めてパクパクしていてロクに言葉も出せないし、沸騰した頭は思考が纏まらない。せめて彼女を睨んでやろうとしても、弛緩した目尻はとろんと下がって、潤んだ目を彼女に向けるだけ。
「な、んで……?」
やっとの思いで、消え入りそうな声をあげる。
「──何が、ですか?」
「だって……こんな、の。ぜったい、ちがう……」
「──ちがくなくないですよ」
耳元から、声がする。
誰よりも愛しい、女の声だ。
「桃は、私の恋人なんですよ? ──体に触れたり、キスしたり……全部普通のことですよ」
囁き声が耳を擽る。少しだけ体が竦んだけれどそれは一瞬のこと。気付けばあの子守唄のように優しい声が、頭のなかへと木霊する。
優しくて暖かくて──何より心地よい。
不思議な気分だった。
体は痙攣するほど気持ちがいいのに、頭の中は寝ているみたいに心地よい。
……あれ、なに考えてたんだっけ。
「……そう、かな……」
「そうですよ……ほら、今度は桃からしてください。昨日だってあんなに甘えてくれたじゃないですか」
……そう、だった。
熱に浮かされた頭が、昨日の記憶を呼び起こす。
昨日の夜もこうしてシャミ子が誘ってきて、そんなシャミ子が可愛くて、何度もキスをした。
最初は彼女から、けれどその後は全部私から唇を押し付けて、彼女の体に甘えるように何度も何度も何度も擦り付け──あれ、それって私だっけ。でもシャミ子が言ってるなら、多分そうだ。甘えたのは私で、シャミ子はたのしそうにわらってて──
「──で、も」
何か、おかしい。
変だ、きっとへん。
だってこんなに、こんな、熱くて、ふわふわしてて……絶対おかしい。シャミ子がわたしに、あんなにやさしいなんて。もっとしゃみこは、いじっぱりで、あったかくて──でもやわらかくてきもちいいし、あんなにキスもじょうずで、でもそれは、わたしとなんどもしたからだっけ? ──だめ、あたまがうごかないなにかんがえてたんだっけしゃみこやわらかいかわいいちがうわたしはそんなことのぞんでなんか「桃」
──シャミ子の声だけだった。
──それだけが、頭の中にあった。
「だいじょうぶですよ? ぜーんぶ、私のせいにして」
「…………しゃみ、この、せい?」
「全部私のせいにして、桃は逃げちゃえばいいんです。魔法少女のこととか、他の人のこととか──私のこと以外なら、全部捨てちゃえばいいんです」「桃が変なのは私のせいで」「私が変なのも私のせいにして」「桃が捨てたものは私が全部拾います」「魔法少女やめて」「学校もマチカドもいらない」「全部わたしのせいですよ?」「可愛そうな桃」「だいすき」「私のことだけ見てればいいんです」「私の声も」「私の体も」「私の唇も」「全部桃のもの」「桃のものも全部私のもの」「ほら触ってください」「好きにしていいんですよ」「やさしくふれてください」「怒ってらんぼうにしても良いですよ」「がまんしないで」「きもちよくして」「きもちよくなって」
「だって私のせいなんですから」
──それが、まともに聞けた彼女の最後の言葉。
それから先は、よく覚えていない。
組み伏せた彼女の唇を強引に奪って、涙目になった彼女の体を下腹部をまさぐって、何度も何度も何度も体を重ねて。言葉にならぬ言葉を喘ぐ度に征服感が頭の中を支配して、私の声を呼ぶ彼女のそれが、物欲しそうにしているように感じてキスをして。体を押し付け揺らす度に動く胸を掴んで、その頭を摘まんだりねぶって。うわ言のように彼女を責めるような言葉を叫んでは、彼女の体を乱暴に抱いて。彼女の股ぐらから流れる蜜を啜っては、喉の乾きを癒すみたいにナカへと舌を伸ばす。
──至福だった。
彼女の全てが愛おしい。震える指先を握りしめ、赤くなった肌を抱き、唇を乾かす暇はなく、苦しそうに喘ぐ声さえ可愛らしい。
──こんなの、ズルい。
全部シャミ子が悪い。
こんなに可愛いのが悪い物欲しそうに喘ぐのが悪い肌がスベスベなのが悪い唇が柔らかくて唾液が甘いのが悪い恥ずかしそうに顔を赤くするのが悪い耳も真っ赤になるのが悪い胸が大きく揺れるのが悪い髪の毛が綺麗で良い匂いするのが悪い指も細いし体も柔らかいし目を細めてこっちを見るのも全部シャミ子が悪い──!!
でも。
よく、覚えてないけど。
シャミ子がずっと笑ってたのは、なんでだろう?
その日の朝は、いつにも増して穏やかだった。
瞼を開けば見慣れた天井。不思議なくらいに冴えた頭が、カーテンから漏れた光を捉える。
「……さむい」
体を起こすと、冷たい空気が肌を刺した。当然のことだった。まだ秋が過ぎたばかりで、冬は始まったばかりの、人肌が恋しくなるような季節なのだから。
ふと、何の気なしに自分の体を見る。そこには見慣れた寝巻きに着替えた自分の姿があった。隣には丸くなったメタ子が寝ていて、冷たい風が入ったからか布団の奥の方へとモゾモゾと動いていった。
……シャミ子?
ふと、彼女の存在が気にかかった。
気にすることなど無い筈だ。シャミ子は隣の部屋──つまりは吉田家に住んでいるのだから。時計を見ればまだ早い時間で、まだ学校に行く時間には早すぎるほど。まだ起きているかすら定かではない。
けれど、私は迷わず布団から体を出した。寝巻きのまま、ふらふらと体だけがナニかを求めるように動いて、ふらつく足元にも気にかけずに玄関へと歩く。
……なんで、隣にいないの?
おかしい。
彼女は私の隣にいないのはおかしい。
だって彼女は私の恋人──いや、それはおかしい。確かに彼女のことは好きだけど、それは友達のようなもので。でもキスも同衾までしたのに、そんな扱いは酷だろう。そもそも私から告白……して、したっけ? 何かがおかしい気がするけど取り敢えずシャミ子が欲しい。
──扉を開ける。
外の冷たい風が部屋の中へと吹き込んだ。外気が肌を針で刺してるように冷たくて──けれど私はそんなことをどうでも良かった。
「おはようございます桃──早かったですね」
そこにはシャミ子がいた。
よそ行き用の服を着た彼女は、まるで私のことを待っているかのように玄関の前で立っていて。
「シャミ子……シャミ子──!」
私は堪らず彼女に抱きついた。
彼女の胸に頬を押し付け、背中に腕を回して必死に掴む私の姿は、まるですがり付くようだったろう。
彼女の体温を感じながらも、何度も何度も何度も彼女の名前を呼ぶ私を、シャミ子は優しく抱きしめた。
──至福だった。
探して止まない、欲して止まない彼女の体温だ。匂いだ。柔らかさだ。私の、私のシャミ子だ。
「もう、どうしたんですか? まだ寝ぼけてるんじゃないですか? ──仕方がありませんね。ほら、お部屋の中に入りましょう。暖房もつけて、お風呂に入って……今日は折角の休日なんですから」
──彼女の胸で息をしながら、ふらついた足取りで部屋の中に入ると、軋んだ扉の閉じる音がやけに大きく聞こえた。
もう、後には戻れない気がした。
副題
『シャミ子が桃をガチで取りに行くとたぶんこんな感じになる』
千代田桃
桃色魔法少女。強いけど絆されやすい。
今回の被害者であり、シャミ子がこんなのになった原因。思わせ振りな態度とか言動とかして恋愛感情を煽った後、誰でも良いので男と喋ってる姿を見られるとこのルートに分岐します。
夢の中で魔法少女バリアーを一度でも破られ、シャミ子と接触した時点で負けが確定。無意識下の刷り込みで違和感を感じながらも体が勝手に動き、シャミ子から離れないといけないのにシャミ子が側にいないと落ち着かなくなったりする。
吉田優子/シャドウミストレス優子
(頭の中)桃色魔族。実は内心メッチャガッツポーズしてる。
なんやかんやで恋愛感情を知った結果。誕生日に赤いバラを百輪くらい桃から貰ったりして意識しだし、しかし桃がシャミ子に光の一族のことを色々内緒にして悶々とさせ、挙げ句ジムの従業員とかとか筋トレの知り合いとか学校の先生とか、とにかく男の人と仲良さげにしてるとこんな感じになる。
夢の中でコーラあげただけでコーラのみたくなったりするので、本気出すとこんな感じにかなとか。ちなみに悪用方はアドバイザーの人が、ハイライトが消えたシャミ子に追求されて吐いた。最初は宥めたけど、あれでもこれって結果的に闇の一族的には色々と具合がよいのでは? とか悟ったので途中からノリノリだった。
???「シャミ子は余が育てた!」
ただの妄想IFです。