@月☆日
また灯里が振られた。
新学期始まってまだ一ヶ月も経ってないんだけど。これで何人目だ。
今日の相手はサッカー部の男子らしい。朝すれ違った時に挨拶してくれたから「脈アリ」だと思ったとのこと。
いや早い早い。前世の思春男子のような惚れやすさが見事に逆になっているのか。この世界の男相手にその速度は大事故だ。
こっちの男は基本お淑やかだ。警戒心も強い。そんな相手にハイエナみたいな目で迫ったらそりゃ逃げる。
灯里、自分で気づいてないけど狙った男見る時ちょっと怖い。
泣きながら「だって今回はいけると思ったのに……」と供述しているが聞き飽きた。
月一で失恋相談に付き合わされる私の身にもなってほしい。
……いや、まあ。
別に嫌ではないんだけど。
そう言ったら灯里が抱きついてきた。
距離がすごく近い。
頭撫でてたら甘い匂いするし、制服越しに体温わかるしで元男として普通に心臓に悪い。
いまさらだが同性の距離感ってこんなものなのか?
&月〒日
また振られた。
今度はクラスの男子で、「消しゴム拾ってくれたから脈アリだと思った」とのこと。
なんで???
その理屈だとティッシュ配りの男全員に惚れることになるだろ。
ちゃんと会話を重ねて、関係作って、相手を知ってからじゃないと駄目だと説教したら、鼻水ぐちゃぐちゃにして泣き始めた。
女子を泣かせるのは精神的にくる。
今日は遅くなったからそのまま泊めた。
親が「久しぶりに一緒にお風呂入れば?」とか言い出して本当に焦った。
全力で断ったのに、なぜか当たり前のように灯里が入ってきた。
同性だからノーカンみたいな顔をするな。
こっちは全然ノーカンじゃない。
しかも「狭い〜」とか言いながらくっついてくるし。
目を閉じて耐えるので精一杯だった。
やっぱり距離感バグってない?
€月=日
今日は灯里と恋愛ゲームをした。前世のギャルゲーの男女逆版みたいな内容だった。
「これで恋愛スキルを磨く」と本人は言っていたけど、正直こういうゲームは都合が良すぎる。
落ち込んでる男を慰めるだけで好感度が上がるし、偶然ぶつかっただけでイベント始まるし、選択肢三回くらい成功したら告白される。
現実の男はそんな簡単じゃない。
そんなことを言いたくなったが真剣にやっているのを見て居た堪れなくなり黙っておいた。
ゲームしながら恋バナになって、「気になる男とかいないの?」と聞かれた。
前世を引きずった感覚としてはどうしても男を恋愛対象に見れない。
だから正直、男子と話してても緊張しない。楽ではある。
でも灯里相手だと変に意識する。顔には出ていないはずだが。
顔近いだけで困るし、笑われるとドキッとするし、たまに触られるだけで普通に駄目。
もちろんそんなこと言えるわけもなく、「恋愛とか興味ない」とだけ返した。
そしたら「枯れてる〜」と笑われた。
誰のせいだと。
△月◇日
最近また男子に話しかけられることが増えた。
今日はクラスの男子に購買へ付き合ってほしいと言われた。男同士でコンビニ行くくらいのノリかと思ったので普通について行ったら、帰り際に「また一緒に行こう」と妙に照れながら言われた。
いや、購買行っただけなんだけど。
この世界の男、本当にちょろ……いや純情だな? 男に照れられても嬉しくないが。
この世界は男女の距離が遠い。灯里みたいなヤツばかりだと男子は女子への恐怖感があるのか。女子で下心のないっていうのが男からすれば珍しくて落ち着くのか?
放課後そんなエピソードを灯里に話したら
「……なんであんたそんなモテるの?」
と真顔で聞かれた。
モテてはないだろう。
私からすると、灯里のほうが顔もいいし明るいし積極的だし、絶対モテそうなんだけど。
そう言ったら、「その積極的なのがダメなんじゃない?」と返された。
自覚あったんだ。
◇月△日
最近、灯里の失恋ペースが少し落ち着いている。良いことのはずなのに、なぜか周囲からは「やっとか……」みたいな空気を感じる。
本人いわく、「ちょっと男を見る目を養ってる期間」らしい。
本当か?
そんなことを考えながら昼休みにパンを食べていたら、隣にどさっと灯里が座った。
「はい、あーん」と突然コロッケパンを口元に突きつけられた。
押し返しても引っ込めないので、仕方なく一口食べた。
すると灯里は妙に満足そうに笑った。
最近こういうのが増えた。
髪を触ってくるとか、こうしてわざわざ教室に来て隣を確保しているとか。
前から距離感は近かったけど、なんというか……。
最近は「私の隣にいるのが当たり前」みたいな空気を出してくる。
放課後もそうだった。
今日は珍しく男子グループに話しかけられて、次の体育祭の話になった。
前世感覚だと、男同士の雑談みたいなものなので適当に付き合っていたら、途中で後ろから不機嫌そうな灯里に腕を引っ張られた。
男子たちも空気を察したのか、「あ、じゃあまた」とすぐ引いていった。
「最近さ、男子と話すこと増えたよね」
別に避けていたわけではない。クラスの男子とも普通に話すし、向こうから話しかけられることもある。
ただ、灯里はなぜか面白くなさそうだった。男子と話しているのが羨ましいのか? そう思ってたら、
「そのうち変な男に引っかかりそう」と言われた。
そのあと灯里は急に私の腕に抱きついてき
周囲の視線が痛かったので引き剥がさそうとしたが、灯里は全然離れなかった。
結局そのまま駅まで歩いた
□月☆日
彼氏が欲しい灯里を気遣って男子二人誘って遊びに行くことになった。
なんで私が男子を誘う係なんだとツッコミたいが誘ったら普通にOKされた。
はじめは目を輝かせていたけどもう一人女子を呼ぶことを話したら二人とも落ち込み緊張しだした。
いや遊ぶだけだろ。
そんな緊張するイベントか? とは思ったがこっちの男は本当に警戒心が強い。
たぶん灯里みたいに勢いで距離詰めるタイプが苦手なんだろうな。もう一人の方も純粋ないい子だから大丈夫だとごまかして…説得して何とか取りつけた。
灯里本人にグイグイいかないように言ったら、
「でもアピールしないとダメじゃん!」
と鼻息荒く反論された。
まあ気持ちはわかる。
わかるけど、たぶん圧が強い。
あと目。
狙った男を見る時だけ肉食獣みたいになるのやめたほうがいい。
納得いってない顔だった。
□月〒日
四人で遊びに行く週末になった。
当日の朝、待ち合わせ前に灯里の家へ行った。
「服決まんないから手伝って」と昨夜から何度も連絡が来ていたからだ。
部屋に入ると、ベッドの上には服が山積みになっていた。
「ねえ、これとこれどっちがいいと思う?」
灯里は真剣な顔でトップスを胸元に当てて見せきた。
「……こっち」
「やっぱ? でもなぁ」
そんなやり取りを何度も繰り返したあと、灯里は「ちょっと着てみる」と言って私の目の前で制服を脱ぎ始めた。
慌てて視線を逸らしたけど遅かった。
書いているときも白い肩とか細い腰を思い出してしまう。
「なに赤くなってんの?」
楽しそうに笑う灯里にからかわれて、余計に落ち着かなくなった。
遊園地は最初のほうは普通に楽しかった。
私が間に入って話を振ると、灯里も緊張しながらちゃんと会話していた。
「ジェットコースター平気?」とか、「その髪型似合ってるね」とか、ぎこちないながらも頑張って話しているのが分かって、少し安心した。
でも時間が経つにつれて、空気がおかしくなっていった。
男子二人とも、やたら私に話しかけて、灯里にはほとんど話を振らない。
私は何度も灯里を会話に入れようとしたけど、うまくいかなかった。
気づけば灯里は、少し後ろを歩いていた。
突然「帰る」と言って、灯里は笑顔も作らず行ってしまった。
呼び止めても振り返らず、男子二人もようやく空気を察した顔をした。
その日は二人に頭を下げた後そのまま灯里を追いかけて解散になった。
□月×日
昨日帰ってしまってから灯里と連絡がつかない。
メッセージは既読すらつかないし、電話も出ない。さすがに心配になって今日直接家に行った。
灯里のお母さんは少し困った顔で、 「昨日から部屋にこもっちゃってるのよ」 と言いながら中に入れてくれた。
入ると、灯里はベッドの上で膝を抱えていた。声をかけると、灯里はしばらく黙っていた。それからぽつりぽつりと、昨日のことを話し始めた。
誘ってもらったのに場を乱して申し訳ないと。
途中から全部が馬鹿らしくなったと。
頑張っても意味がない気がしたと。
誰にも優しい私に対して醜い劣等感を抱いていたこと。
聞いているだけで胸が痛かった。
灯里は笑おうとしていたけど、うまく笑えていなかった。
でもその言葉で、逆にずっと押し込めていたものが溢れてしまった。
気づけば、私は感情のままに言い返した。
本当は男を紹介したくなかったこと。
灯里が誰かの話をするたび苦しかったこと。
男じゃなくて、私を見てほしかったこと。
言い終わったあと、部屋がしんと静まり返った。
灯里は何も言わなかった。
その沈黙が怖くてたまらなくなって、私は謝って、そのまま部屋を飛び出した。
☆月+日
気まずい。
本当に気まずい。
あの日以来、灯里とまともに話せていない。
私は「男じゃなくて私を見てほしい」なんて言った。
完全に告白だ。
しかも相手は、男が好きな幼なじみ。迷惑に決まってる。
思い返すたびに頭を抱えたくなる。
なんであんな勢いで全部言ったのか。もう元の関係には戻れない気がする。
だから最近は、なるべく距離を置いている。
昼休みも別の子と食べるようにした。帰り道も時間をずらした。
灯里のことを考えないように、男子と話す時間も少し増えた。
男子相手だと変に意識しなくて済む。
楽だ。
安心する。
……いや、安心しようとしてるだけかもしれないけど。
☆月%日
この前の男子二人に、ちゃんと謝った。
急に解散みたいになってしまったし、普通に悪かったと思う。二人とも気まずそうにはしていたけど、「灯里さん大丈夫?」と心配していた。
前回は二人に悪いことをしたし、今度は三人で遊ばないかという話になった。
灯里抜き。
少し迷ったけど了承した。
あんなことを灯里に言って、自爆したようなものだ。何より困らせただろう。彼女に恋愛のアドバイスしていた資格はなかった。
だからもう、吹っ切れたい。
灯里のことを忘れるためにも、男と遊ぶくらいがちょうどいい。
気を使わなくていいし、変に期待もしなくて済む。男子も友達としか思っていないだろう。
/月?日
なぜ彼女に押し倒されてるのだろう?
____
「っ!? ちょっと灯里さん? これから遊びに出かけるんですが…」
「知ってるよ」
跨ったまま小さく笑う。
「あの時の男子だよね。馴れ馴れしくキミにボディータッチでもしてた」
「ねえ、ずっと何で避けるの。」
じっとりした暗い声。
「今まで振られることには慣れてたけど」
「キミがいなくなるのは駄目みたい」