人間戦記   作:イスカリオテのバカ

7 / 8
どうも、姉です。今年最後の投稿は私が飾ります。
 
弟のチェンソーマン盗み見したら心が折れたので暫くバックレます。
 
 あと作中に出てくるたんぽぽコーヒーの説明は間違ってます。理由は愚弟に後書きで書かせますので読んどいてください。


人間戦記 〜 シェアードワールド 【PAST】

 我が偉大なる祖母、アニーシャ・ヘルムート・シュリャホーワは語ってくれた。如何に戦争が愚かで人々に()()を運ぶのかを。

 

「あれはあの時代に生きたからこそ分かる事、アンタに理解出来るとは思えない」

 

 そう言いながらも彼女は私を暖炉の焚かれたリビングの椅子に招いてくれた。玄関からのそのそと歩くその背中は、普段の皺くちゃな老人のそれではなく実際に戦争を体験した兵の()()にまみれた勇ましい背中だった。

 

「お前の母にも聞かれたけど、これは本来なら思い出すのも憚られる話さ。()()()()()()()()()もしたし()()()()()()()()()もした……全く、誰の受け売りなんだか」

 

 そう自分を卑下しながら語る祖母の顔は僅かに笑みを讃えていた。

 外は雪が降っておりこの暖炉の炎は例年の冬よりも暖かく感じた。そんな私を察したのか、祖母は揺らめく炎を寂し気に見つめると口を開いた。

 

「私は帝国軍の特殊部隊員だった。苦しかった、だってその分期待も大きければそれに応える為の()()も相応に辛いからね」

 

 曰く、帝国軍魔導師隊の一員だった頃に度々あった非常呼集の度に五分で身支度を済ませなければならない事だったらしい。

 夏だったら汗で蒸れるだけだから良い方らしく、冬になると呼集に遅れてはならないので靴下を履かずにブーツを履いたあかつきには足先をギロチンで切断された様な激痛が走るらしい。祖母の友人は砲撃でも近接戦闘でもなく、そんな()()()()()()()()()理由で両足の指を切断する結果となったそうだ。

 

「………そう言えばアンタ位の頃だったね。あの人に会ったのは」

 

 含みのある言い方に私は好奇心を刺激され聞いてみる事にした。祖母は待ってましたと言わんばかりに笑いながら語ったその内容に、私は開いた口が塞がらなかった。だってそれは今の御時世では決して考えられない事なのだから。

 けれどそれはその時代であれば()()()と片付けられてしまう些細な事だったらしい。

 

「私達の上官は私よりもうんと小さかった。それこそお人形遊びしている方が似合う年頃のよ」

 

 厳格な祖母も若かりし頃は私の様な女の子だったのは想像できた。それでも私なんかよりうんと幼い子供が戦場で、それも最前線で命を張っていたという事実に私は唖然とした。祖母自身初めに目にした時は冗談だと捉えたらしいがその後戦場を共にして行く内にそんな事毛程も思わなくなったと語ってくれた。

 

「そこに積まれた本、丁度75kgくらいかしら。それを持ち上げられる?」

 

 祖母が指差した先には山の様に積まれた本が紐で結ばれ部屋の済に置かれていた。

 私は近寄って紐で巻かれた本の山を軽く持ってみて上がらないと感じ、祖母の顔を見ながら首を横に振り否定の意を示した。

 

「男は死ぬとそれと同じ重さになるの。それを最初の頃は律儀に残酷に運んだものよ」

 

 ゾッとした。だってそれは風船が破れて括っていた紐とゴムだけになった事と一緒なのだから。肉体というゴムと紐は命という名の空気のおかげで重さが緩和されている。けれど一度空気が無くなれば残るのは肉体だけ。

 ましてや祖母は女性。いくら魔導師であろうと超人的な肉体を持っている訳ではない、死体を一度に沢山運べる訳がないのだ。

 

「皆口々に戦争は終わったって言っているけれど私達の心は終わってないわ。と言うよりも終われないと言った方が正しいかしら」

 

 祖母の瞳は泣いていた。決して祖母自身が泣いているのではなく、彼女の瞳の奥に見える心が涙しているのを感じた。

 

「今だからこそ語れるけれど私は祖国の事なんてこれっぽっちも誇りに思って無かったわ。それどころか資本主義に近い考え方ね。そういう意味では銀翼に近かったかしら」

 

 祖母はやられたらやり返すの精神で生きて来た。それはひっくり返せば恩を受けたのならば同じく恩を返す事こそが礼儀と思って生きてきた事と等しい。

 私の一族は祖母の教えの影響か、他と比べ若干利己的な所が強い。それは偏に社会から爪弾きにされ易いとも言えるがこうして平和に暮らせているのだから良いと言えよう。

 

 ふと祖母が立ち上がると何も言わずにキッチンへ姿を消した。不審に思いつつも私は暖炉を眺めながら待っていると、祖母が2つのカップを持って帰って来た。渡されたカップの中には半分程に注がれた珈琲が入っており、良い香りが鼻腔を燻った。

 

「お前の母は珈琲が未だに飲めないらしいね。そういう点ではお前の方が大人かね」

 

 誂う様に笑ってみせた祖母は珈琲を飲みながら続きを語ってくれた。

 

「知賢を広めるついでにお前に教えとくよ。戦争で飲める珈琲は軍に所属してる限り美味しいのは飲めないと思いなさい」

 

 どういう事なのだろうと思い首を傾げていると祖母はおもむろに袖から何かを取り出した。黄色の花弁を備えたそれをよく見るとたんぽぽだと分かった。

 どういう事だと思っていると祖母は何を思ってか私のまだ珈琲の入ったままのカップにそれを投げ入れた。出来立て熱々の珈琲のせいで中々取り出せずやっとの思いで取り出した頃にはたんぽぽは珈琲のせいで黒くなっていた。

 どう言うつもりだと睨みつければ祖母はニヤニヤしながらこう言った。

 

「たんぽぽコーヒーの出来上がりさ。私達の一本的な飲み物は水と安いワインとそれ、酷い時は泥水も啜ったものだよ」

 

 絶句した。どこまで絶望を煮詰めればそんな生活水準にまで下がるのだと。飲料水でこの程度なら食事などお粗末過ぎるのではないか。いやきっと、栄養なんて考えられていない腹の足しになるだけの乾燥食品ばかりなのだろう。

 今日の晩ごはんは誠心誠意心を込めて感謝しなければ私の気が収まらない。そう思えるほど凄惨な事情が祖母の話から伺えた。

 

「一番悲劇と思った事を教えてあげようか。こればっかりは一線を画してたね………今でこそ停戦協定を結んだ諸国、そこで民を虐殺紛いの事をしたものだよ」

 

 祖母は自らの皺寄った掌を悲し気に見つめながら当時の悲劇を語った。罪の無い民子をその指で引き金を引いて殺したと、隊長命令だったとは言え密かに噎び泣く程に苦しかった処刑は、おおよそ人のやる事ではなかったらしい。

 

「■■連合国の子供の死体を街頭に吊るしたりもした。当時の協定違反すれすれだった行為も、嘗ての上官のコネで揉み消された」

 

 きっと祖母の目からは己の手が血塗れに映っているのだろう。小刻みに震える手がそれを容易に物語っているのだから。

 

「雪も強くなってきた……今日は家に泊まって行きな。お前の母には私が電話しとくから」

 

 猛吹雪とまでは行かないが、女が一人で出るには危険な程度に強くなってきた雪による申し立てに、私は申し訳なく感じた。そんな私に祖母は気にするなと言い玄関に設置された電話へと向かって行った。

 また一人でリビングに残された私はカップのたんぽぽコーヒーをじっと眺めながら祖母の話を振り返った。

 

 戦争とはかくも人の尊厳を壊す物なのだと。それと同時に疑問に思った、祖母が最初に利益を運ぶと言った真意を。

 正直ここまでの話を聞いた限りでは何処にも利益らしい利益は見受けられなかった。ひょっとするとあれは祖母なりの嫌味だったのかも知れない。

 

「話が長くなって済まないね。さて、どこまで話したか……」

 

 再び椅子に座り暖炉を眺める時間がやって来た。ここで私はさっき抱いた疑問を祖母に聞いてみた。

 

「ああそれか、ぶっちゃけた話あれは当時だからこそ身に付いた利益と言えるね」

 

 何度目となるか、現代と戦時下における考え方の違いは。きっとこれから話す内容も現代では考えられない非常識に塗れた事かも知れない。

 

「私が初めて人を撃った話をしてあげよう。あれは本当に忘れたい思い出さ」

 

 私は心の何処かでライフル銃の危険を軽視していた。勿論人を殺す為の道具だということは理解していたが、それでもこの平和な時代に生まれた身からすればどうにも想像出来ない代物だった。

 だから祖母の実体験を聞いて認識を改める事となった。人を殺すとは何か、引き金を引いたその先の末路がどうなるのかを。

 恐ろしかった。だって祖母の語る当時の利益とは簡単に言えば()()()()()()を瞬時に得れたかどうかなのだから。あの時代、他者を考慮していては自分が殺されると知っていた軍人である先人達だからこそ見出した達観した覚悟。人を殺す事を当たり前と捉えていた常識に私は心底震えた。

 

「さて、もうそろそろ夕餉の支度をするとしようかね」

 

 今日の夕飯はスープでした。




 イスカリオテです。一年間お疲れ様でした。作者これから日本電子専門学校の受験を狙ってるので投稿来年になると遅れるかもしれません。

 

 

 姉から頼まれたのでたんぽぽコーヒーの説明を致します。本来であればたんぽぽの根を焙煎して抽出するという要するに珈琲豆を使わない代物なのです。
 ですから途中でシュリャホーワ軍曹がやった様に珈琲にダイレクトにたんぽぽを入れる様な品はたんぽぽコーヒーじゃないです。あれは最早イジメの類です。飲めなくないと思います(実際過去に作者が試して無害でした)

何処から始めます?

  • ライン戦線から(十中八九遅くなります)
  • ヴィーシャ登場(シュリャホーワも登場)
  • お好きにどうぞ(これが私的に一番楽)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。