人間戦記   作:イスカリオテのバカ

8 / 8
 半年以上も放置してしまい申し訳御座いませんでした。やっとの思いで書籍版一巻の半分を切りました。

 今更ながらシュリャホーワって名前本当はロシア人のはずなのにドイツ人として書いてました。完全に姉の勘違いです。ごめんなさい。
 こじつけに等しい上に今後使う予定もない設定なので適当に流しておいて下さい。多分ロシアあたりから親子でアサイラムでもしたんでしょう。私の作ったキャラじゃないので詳しくは分かりません。


 
 忘れてると思いますので前回のあらすじを箇条書きで記させて頂きます。

・ヘルシング、デグレチャフ両少尉による九五式試運転及び実用性確認実験終了

・魔導師中隊編入によりシュリャホーワ伍長が正式に本編に登場

・デグレチャフ少尉がシュワルコフ中尉の指示の下小隊長に任命。それに伴いヘルシング少尉はその補佐としてシュリャホーワ伍長と共に作戦に赴く

 
 以上、ザックリ言うとこんな感じになります。


【Stay Grand】

 酷な話である。

 この並びきった上下関係によりアーニャは大変不本意ながらも、しかし事実怪我らしい怪我もなく生還している。望ましいシチュエーションではない凱旋を幾度か繰り返していくうちに、組織というものが砲兵運用に対し如何に絡みついているか身を持って理解した。

 我々魔導師とは航空機とのスケールの差によるメリットが大変著しく、大型ともなれば航空機を大砲で狙うよりも面攻撃である機銃掃射の方がよっぽど効果的だ。馬鹿正直に正面突破など狙えば無抵抗主義よろしく殺されるのがオチである。この話を考慮してみれば魔導師とは航空機より遅いとはいえ的の大きさ的にも大砲で狙い撃ちするには到底無理難題なのだ。

 

 戦争が中盤まで迫り火力陣地の拡大による先進的攻撃作戦によるゾーン射撃でも陥れば話は変わる。だが、そうでもない限り自陣での軍事行動ならば申し分ない速さを有していると教わった。

 

 デグレチャフ少尉やシュワルコフ中尉の有り難いお言葉を借りれば定点防御に懐疑的だと教えられ、アーニャの直接の上司であるヘルシング少尉には『信ずるものなど個人により差異はある。しかし、我々魔導師が信ずるに値するものなど到底差異が出るものではない』と申していた。

 ようするにだ、一見まともそうな御二方の言葉と生粋の狂人であるヘルシング少尉は、見方は違えど見ているものは砲撃である事に変わりはない。懐疑的視点を未だ捨てられずいるがそれこそが魔導師にとっての命綱だと考えている。伝達される飽和攻撃命令に脳死した思考で淡々と行うのは正に愚の骨頂と言えよう。

 

「素晴らしい。見たまえ軍曹、あれこそが我々を勝利に導く黒い希望だ」

 

 そう言ってヘルシング少尉は空を指差し、飛び交う砲弾に目を輝かせる。一つ提言するならば砲兵の練度具合に多大な差異が生じている事だろう。無論、帝国陸軍の圧倒的精密度を惜しみなく誇れるからこその発言だ。

 古参の兵ほど心酔するものは共通する。というのも観測手として任務に就かない限りにおいて、我々第二〇五強襲魔導師は現状における地上部隊に対する圧倒的とも言えるアドバンテージを有している。それは一概に砲兵による依存が高い。

 帝国軍魔導師隊は敵兵梯団におおよそ舐めてかかる事はしない。いやむしろ、この戦場において敵が阿呆である事を期待することの方がよほど阿呆であると言えようか。

 

 

 

 良い目つきをする様になった。

 ティアナ・ヘルシング少尉は後続するバディの顔を見て得にもなくそう考えた。部下の成長とは喜ばしい物であると同時に、それは使い捨ての駒にするには些か「もったいない」と感じるようになるのと同じだ。

 ふと過る過去の記憶に入り交じる生前の戦場風景。それすら、この大空を跨ぐ魔導師になってからというもの色褪せる事こそないが何処か物足りさを覚える。

 

 感傷に耽っている合間に状況は留まる事を知らず、事態は動きを見せた。

 真隣を進行するデグレチャフとシュワルコフ中尉殿の猛々しい賛美の声が上がる。それに呼応するように、砲撃の苛烈さは勢いを増していく。徹底的な面攻撃は素晴らしい。あの馬鹿ゾーリンが縦一列になってお行儀よく進軍し、野鳥の傭兵たちにボロクソにされたのを思い出す。思わず気分が高揚するが気化けにて鎮める。

 

「砲兵よ!砲撃よ!汝らの産声を戦場に響かせたまえ!!」

 

「素晴らしい!これぞ我らが勝利への道標!戦場における絶対の証!!」

 

 強面の古参兵の皆様方に続いて改めて思う。都合の宜しいファンタジーのみ現実に投影したこの世界。どこを探そうと吸血鬼のような空想の産物は魔法に取り残され、過去の遺産となったこの世界様。それでも火力だけは裏切ることをしなかった。

 個の兵力など、私の頭の中でしか機能しない。あるのは数の暴力。無論、最低限の質を揃えない限りは幾ら軍事国家である帝国といえど何処か笊になる可能性がある為、練度自体は他国の比にならない。

 そういった功績があるからこそ、砲兵の信頼は絶対とまでは行かずともこの激しい戦場においても確立した信頼を得る。なるほど正に神の如き存在だ。虫酸が走る。

 

「いやはや、何とも言い難いがこれはまた……」

 

「どうした?怖じけづきでもしたか?」

 

「まさか、むしろ武者震いが過ぎる」

 

 デグレチャフの小馬鹿にした問答に答えてやる筋合いはないが、部下達のメンタルケアも兼ねて答えてやる。歴戦の古兵でさえ前線配置となれば恐怖に身が竦む。そんな中で新兵ばかりの中隊後続部隊員たちでは逃げ出さないだけ利口だろう。眠たくなるような授業内容ばかりの軍属幼年学校出身の者たちの多くは、その場から動けない者も出るほどだ。

 だからこそ砲兵の存在は心の拠り所として大いに貢献している。突撃発起線に到達した第二〇五強襲魔導師中隊にとって幸いにも、先の一斉放射の面制圧射撃により大多数の敵梯団を崩壊にまで追い込んだ。杞憂に終わったから事ではあるが、本来ならば敵砲兵隊による対抗射撃もあり得るが先の大打撃によりこちらまで手が回ることはないらしい。

 

「一二〇mm砲の素晴らしさは胸が躍る。敵残存兵の残党処理に落ち着くとは」

 

「小官としましては何処か物足りなさは感じますが戦果としては上々でしょう」

 

「些か気圧される新兵も居りますが存外にこれなら直ぐに制圧できますな」

 

 概ねティアナとターニャの意見は合致する。シュワルコフ中尉の簡潔かつ明確に纏められた目標は、このまま順調に進めば最低限の犠牲を出さずに済む。

 潤滑に事を運ぶ事ができれば今回の任務は極めて簡素なものになる。ティアナにとって面白味はなくとも中隊全体で捉えれば運に恵まれていると言えよう。本日は新兵の初舞台、そういった意味も込めて戦争日和として素晴らしいと言えよう。

 

「ははは!これはまた勇敢な魔導師だ。これではどちらが年上か分からんな」

 

 気持ちの良い笑顔で褒め称えるシュワルコフ中尉に釣られる形で他の兵も笑う。嫌味の一つも込められていないその笑顔は、全くもって戦場には似合わないだろう。

 

「頃合いだな。中隊、突撃発起用意。撃ち漏らしは残さず潰せ」

 

 汗ばむ手を握りしめ覚悟を決める。いくら好きとはいえ仮にも命のやり取りの現場において、脳天気に過ごせる肝は備わっていない。軍学校の授業で歴戦の兵がラインは御免と語っていたのを思い出す。なるほどこの空気のひりつき具合は慣れることはないだろう。

 

「時間ですな、私とデグレチャフで先に行きましょうか?」

 

「勇ましいなヘルシング少尉。だが、存外デグレチャフも乗り気ならしい」

 

「若輩共に先輩風を吹かしたく思っておりますので」

 

 強者故の傲りか、張り詰められた緊張は解きほぐされた。いい契機とも呼べるやり取りだった。突撃前の過度な緊張はパフォーマンスに支障をきたす、それを解消することは仕事を熟す上で重大なマネジメント力だろう。

 シュワルコフ中尉率いる魔導中隊は地獄のライン戦線においても古参兵であっても、生死をかけた突撃前の緊張感は得とし難い。ましてや、言い方があれだが子守をしながら死地に突っ込もうとするのだ、緊張度は最高潮に達する。そんな時こそ人はこぞって冗談に逃げる。それは恥になどならず立派な精神安定を目論んだもの故だ。

 

「頃合いだな。全体突撃!我に続けぇ!!」

 

 シュワルコフ中尉の指揮の下、魔導師中隊は前線へ向け進軍する。土で汚れた顔を流れる真新しい黒い汗の滴が伝い風になびき斜めに頬を伝う。一斉に放たれた怒声は砲撃もかく言う声量だ。

 

 魔導師は天を翔けるとジャーナリスト達が新聞メディアにしたのを目にした事がある。なるほど確かに天を翔けるような気分に能うが、それは命の駆け引きを知らない一般的視点から物事を見た場合、あるいは安全圏から観戦していた場合の話である。魔導師が最も無防備になる瞬間、それは索敵哨戒の最中ではなく飛び立つ瞬間にある。

 言い換えれば歩兵にとっても脅威に至り得るという訳だ。持ち合わせの防殻と防御膜により身を固める魔導師は一発二発の弾丸程度ならまず落ちたりはしない。対戦車砲程でないにしろ一度に不特定多数の兵士を補触れる火力を上空から投射できるとなれば、これほどの脅威は無視するには土台無理な話なのだ。

 雨あられもかく言う銃撃を掻い潜れるか、それとも魔導による蹂躙の始まりか。互いに駆け引きとも呼べない刹那の瞬間、その一瞬の隙間を縫った方が勝ちを得るのだ。

 

「各級指揮官と無線手を優先しろ!」

 

「一匹逃せば5人は死ぬぞ!!」

 

 周知の事実である。

 ある程度の場数を踏んでいれば嫌でも知る事になるそれを思いながら、他の追随を許さない速度で駆け巡りターニャと共に爆裂術式を発動させ共和国の者共にスコールもかく言う物量をもって「丁重に撃墜」させていく。もちろん再起など思わせる事のない徹底ぶりを以てだ。

 

 銃弾の密度的から察するに抵抗勢力は制圧可能な程だろう。おおよそ逃げ遅れた兵達が最後の抵抗と言わんばかりに拡散・孤立し散発的に弾を撒いてるに過ぎない。

 普段であれば敵後続梯団の増援を危惧しつつの残党狩りとなるが今回に限っては我らが起動打撃群と砲兵により対処されている。正直物足りなさが心の内にあるが贅沢は言っていられない。

 

 できた余裕を利用し、後続するシュリャホーワ伍長の戦闘具合を観察する。最初彼女を見た時はどこかバチカンの小坊主に通ずる危うさを感じたが、いざ戦場に出してみれば小銃による被弾は見受けられるものの防殻は抜かれていない。機動性に関しても妥協点は超えておりまずまずと言えるだろう。そして何より()()()()()()から最善手を()()()()()()に移しているのは高評価に値する。一ヶ月前の木偶のようにただ突っ立ってるだけの役立たずだった頃と比べ見違える成長ぶりだ。人間としての最大の権利を使う場面でしっかりと使える部下は頼もしい限りだ。

 逆らう気すら起きない、つまり圧倒的武力差を前に崩壊し欠けている残敵の背を窓にした実践講習といったシュワルコフ中隊長の言葉は実に的を得た発言だった。やはり実践を超える訓練などないのだ。

 

「私に聞こえないと思って裏でぶつくさ文句を言ってた頃が懐かしい。今じゃ一人前とまでは行かずとも立派な兵の顔をしている」

 

 最後の大隊(ラストバタリオン)には申し訳ないが化け物共は向上心というものが欠けている。言うなれば人を捨てる事は()()()を、自由を捨てる事を意味する。あの黒い死神が朝焼けを背に髑髏を担いだその時に確信したように力を得るために隠れた本心を捨てる事のなんと滑稽な事か。

 そういった意味では共和国の兵はある意味幸せ者だろう。少なからず疑問を持つ者はいるだろうが、何分司令部が敵対している我々から見ても時代錯誤な考えの持ち主なのだ。奇しくもシュリャホーワ伍長と対になる形で思慮を捨て去り突撃するだけの木偶が相手とあっては馬鹿にするなと言わざるを得ない。

 人的資源の浪費は結構。見てる分には大いにやってもらって構わないが余りの愚かさに今一度人的資源管理制度を見直してみてはと進言してやりたい。

 

 面白い事に世の中は如何に荒涼となろうと、その本質はどこまで行っても変わらない。手段と目的の反転がなされようと行き着く先は()()()()()()()()()()()()()()に絞られる。いくら崇高な理念で拗られた理念であろうと捻じり過ぎては千切れてしまい本質を見失ってしまう。

 今にして思えば自分は存外きっちり使い切った(全滅)させただけ利口だろう。そんな事を思いながら拡散型術式を用いて確実に複数名の若人を葬りながらティアナは嗤う。

 

「上手く行きすぎな気もするがな、この先に翳りがないと良いのだがね」

 

 

 

 懐疑的思慮の下今一度自身の置かれた状況を確認する。前方に敵影多数がおりそれをデグレチャフ、ヘルシングの両少尉が憮然と狡猾を織り交ぜた表情で破壊と殺戮の嵐をばら撒いていた。一撃を的確に命中させるデグレチャフ少尉と比べヘルシング少尉は広範囲に渡る散発的な攻撃が目立つ。常識的に考えて超至近距離まで接敵が可能な状況において無駄に魔力を消費するのはどうかと思われるが、その馬鹿げた魔力量がそれを現実的戦法として確立させる。

 改めて次元の差を思い知らされた。別段その事に対し嫉妬を覚えるわけではなくあくまでも呆れの念が強かった。

 

「中隊長より各位伝達。三百秒後に友軍による砲撃再開予定。離脱に入れ」

 

 そうして、呆けていると散り散りだった敵梯団の残党兵が後方へ離脱を開始した。途中まで生き残るために全力で頭をフル回転させていたが為に敵梯団を把握し切れていなかった。今回こそこれ以上の指示もなく撤退が命令された為良かったが下手すればこの一瞬の油断が死を招く結果に帰結するかも知れない。そうならなかった事に少なからず安堵を覚えると共に次こそは気を付けようという警句を刻んだ。

 ふと、少し離れた所を並走するセレブリャコーフ伍長の姿が目に入った。遠目からでも良くわかる安堵の念がありありと顔に浮かんでいた。恐らく自らの手を汚さずに済んだ事に対しての安心なのだろう。無論それを悪しき思想と捉えるつもりはないがこれから先そんな考え方で生きていけるのか不安であると、同期にして唯一同じ性別の彼女への細やかな配慮だった。

 

「集結を確認。損害なし。各員、装備以外に消耗もありません」

 

 一人二人死んでると思ったが存外に皆しぶといらしい。集結地点での点呼も終わり各自不測の事態に備えよとの達しに従い仮眠を取ろうと移動を開始する。

 実家にいた頃とは偉い違いだと呆れ半分疲労半分といった思いでベッドを目指し歩く。まだガッツが有り余っているのか、目をギラギラさせながら銃を弄るヘルシング少尉と反対に「寝る」とだけ言って早々に仮眠に入ったデグレチャフ少尉に習って休もうとした。

 されど神はそれをお許しにはなさらなかった。突然の呼集。ムクリと上体を起こし戦闘配置につくデグレチャフ少尉と共に地獄へ向かった。

 

「全員集まったな。さて、中隊諸君。よろしくない知らせだ」

 

 今度は何だ。口汚くも罵声を心の中で呟きながらシュワルコフ中尉の報告を淡々と聞く。上官がこのように敢えて冷静に続けるときは十中八九最悪な事の前触れであった。

 

「急報だ。第四〇三強襲魔導中隊が浸透突破中の敵魔導三個中隊と不意遭遇戦に突入」

 

「このタイミングで追撃されるとは、笑い話にもなりませんな」

 

 心の底では知ったこっちゃないと思うが、帝国軍人として友軍が強襲されたと言う知らせは重く伸し掛かった。珍しくヘルシング少尉が仲間内を気に掛けるような発言から事の重大さがうかがい知れた。

 

「……では後続の梯団は?」

 

「砲兵隊が叩いているが、観測手が直掩魔導師からの追撃に遭遇。結果的にろくに観測が行き届いていない」

 

 死ぬほど疲れた体に対する仕打ちがこれでは神を呪いたくなる。クソッタレの神はどうやら道理を理解してないらしく不得手な戦場を引っ掻き回すのに忙しいらしい。本当に死ねばいいのに。

 

「四〇三と合流の命令が届いた。直ちに出発する」

 

 たいへん不本意ながらこれらの決定事項が覆るとはない。緊褌一番、緩んだ士気を昂らせよと自らの体に言い聞かせるが現実は気合だけで立ち上がれるほど回復していなかった。

 

「同時に着弾観測要員の救援だ。こちらも、敵中隊に追われるとのこと。ああ、そう言えば少尉たちは以前北方で経験していたな」

 

「はい、二度と御免です」

 

「あの時ほど死を身近に感じたのは初めての経験(今世では)でした」

 

 砲兵隊の目となる観測手を潰すことは、すなわち砲兵を使い物にならなくしてしまう。敵の着弾観測手を真っ先に狙う事こそが勝利への鍵となるとベテランは異口同音に語る。

  

 マズい、凄くマズい。後方にはイルゼがいる……

 

 一介の魔導師と比べその死傷率は比べ物にならない危険度を誇る観測手。エースオブエースに限りなく近いと思われる少尉らが着弾観測任務中に生死を彷徨う深手を負ったと言われてしまえばその不安は跳ね上がる。

 誰がとは言われていないが言いようのない不安が駆り立てる。もしかしたらイルゼかも知れないしそうじゃないかも知れない。それを自覚した瞬間、「イルゼが死ぬ」という想像が鮮明に映し出された。

 若干人間不信に陥っていたアーニャが唯一心を許せる人と判断した彼女が死ぬと思うだけで指が震える。ではどうするか。簡単だ、最善を尽くせば良いのだ。    

 無限に増殖する黒い感情を抑え込み、挫けそうになる体を無理やり立たせる。本人からすれば勇気を振り絞った上での行動だが他者から見ればその疲労困憊とした立ち姿は余りにも心許なかった。

 

「銀の翼を持つ二人に聞こう。貴官らならば救援は可能かね?」

 

「遅滞ならば兎も角……救援となると」

 

「援助を目的とするなら、我々二人だとしても保障しかねます」

 

「九五式の使用を視野に入れてもか?」

 

「二個中隊規模ならば良しとして……ツーマンセルとなると伍長らが限界でしょう」

 

 二人の少尉がそれぞれアーニャとセレブリャコーフに視線を向ける。一瞬余りの冷たい視線に怯みそうになる。そんなアーニャを差し置いてデグレチャフ少尉は、シュワルコフ中尉の問いに対し諦観交じりに答えた。

 

「有精卵から卵程度にはなりましたが、まだ雛にすらなっていません。殻を割るには早過ぎます」

 

 確かに個人としての観点ならば絶対的戦力を有するヘルシング少尉からすれば、それ以下の階級の者達は皆がたかが知れる練度だろう。

 仮に、少尉達だけで救援に向かったとして、待っているのは最低でも三個魔導中隊との空戦。ましてや後続の敵梯団の接敵も視野に入れなければならない。流石の銀翼であろうとペアを気に掛ける余裕はないに等しく、セレブリャコーフ伍長と互いにカバーし合ったとしてもアマチュア同然のアーニャ達では生存率などたかが知れている。

 それ以前の問題として、両伍長の精神的健康と肉体的疲労を加味した上で否定しているのだ。

 

「「意見具申許可願います!」」

 

「セレブリャコーフ伍長?それにシュリャホーワ伍長までどうした」

 

「我々も救援任務に志願します!」

 

 偶然にも重なった志願の声。彼女たちは思いに至った過程こそ異なれどその行き先は同じだった。訝しむシュワルコフ中尉の声の理由はもちろん、崇高な理由だからと言って上官の許可も得ずに発言するなど厳罰と下されて然るからだ。

 

「伍長!」

 

「私とて、帝国軍人です!」

 

「我々は帝国軍人としての矜持を以てこの任務に志願します!」

 

 無理難題は百も承知。直接的な関わりはまだなかったがデグレチャフ少尉の咎めるような短い叱責の声はそれだけでアーニャとセレブリャコーフ伍長を縮こまらせた。だがこの時ばかりは二人を止めるには至らなかった。

 

「中尉殿!どうかご検討を!!」

 

「………行かせてみては如何ですか、中尉殿」

 

「ヘルシング!?貴様何を言って…!」

 

 こちら側だと思っていたヘルシング少尉からの裏切りに、いつもは興味なさげに細められている目を見開いて驚愕する。信じがたい考えだと論ずるデグレチャフ少尉と、これも良い社会経験だと反論するヘルシング少尉の言い合いは不思議と年相応の少女同士の喧嘩にも見えなくもなかった。

 完全に否定されるとばかり思っていたが、案外部下に対する理解はあったらしい。

 

「ジョーンズの分隊をつけてやる。失敗は許されないぞ」

 

「シュワルコフ中尉殿まで……」

 

「みなまで言うな。中尉殿が認めているのだ、これ以上の駄々こねは過保護だぞ」

 

 これまた意外な増援を受け驚愕とした表情のデグレチャフ少尉。自身のペアと比べると些か感情の隆起が起こりにくい人かと思ったが、案外表情豊かな人なのだな。そんな不躾な思いを抱かせるほど百面相を浮かべるデグレチャフ少尉。

 人間味あふれる一面を目にしたことにより改めて自分の不甲斐なさを痛感する。倍以上に歳の離れた子供二人に私達は子守されていたと自覚すれば、自己嫌悪にも似た恥ずかしさを覚える。

 

「了解しました。最善を尽くすといたしましょう」

 

「危機あらば駆けつける。魔導師の本懐だな。武運を祈ろう」

 

「武運長久は兵の誉れ。必ずや成功してみせましょう」

 

 集結地点より発進し始める中隊全体を見送るとデグレチャフ少尉はセレブリャコーフ伍長に向けて惚れ惚れとするような笑みを見せた。それに釣られるように私の上官であり片銀翼章を持つ英雄が邪悪であり可憐な笑顔で振り向いた。

 

「さぁ伍長、君の活躍する舞台は()()()が用意した。貴官が何を思って志願したか皆目見当がつかないが楽しませてくれたまえよ」

 

 悪い笑顔を見せる上官。不敵に嗤うその姿を見て私は不思議な高揚感と緊張感が体を支配する感覚に陥った。だがそれに対して、嫌な気分かと問われればそうとも言えなかった。それが自分の考え、自分の魂からでた()()()()だと分かっているから。

 

「必ずご期待に沿ってみせます」

 

「よろしい。では楽しい幕開けと行こう。状況を開始したまえ」




 私、台詞のあとに半角文字で効果音とか加えるの嫌いなんですよね。例えるなら……

「うっ…!」ゾクゾク

 何なんでしょうねゾクゾクって?そう表現せずとも『無意識に溢れた苦悶を含んだ言葉。それと同時に背を駆ける悪寒は私の肌を粟立たせた』のように地の文で表現すればいいのに。
 もっと言うと台詞の後に更に台詞が付くのも嫌いですね。例えるなら……

「よーし!食べるぞ!!」イタダキマス カチャカチャ

 何なんでしょうねコレ?巫山戯てるんでしょうか。頂きます位なら地の文で幾らでも表現できるじゃないですか。『日本人特有とも言える所作。それは食らう生き物への感謝の言葉を告げる言葉であり、それを言って初めて箸を持ち食事へありつけるのだ』って書けばいいじゃないですか。

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