浦島太郎の翻案小説です。

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亀の紙切れ

亀の紙切れ

 

 

 善い行いをすればいつかは報われる。俺は親からそう教えられて育ってきた。だから俺は、人の嫌がることは進んでやってきたし、困っている人は積極的に助けてきた。自分は二の次三の次で、他人を助けていればいつかは自分に返ってくる。俺はそれだけを信じて生きてきた。しかし現実は違った。別にそのあとにその助けた人に裏切られた。とか、恩をあだで消されたとかそういうわけではない。何も帰ってこないのだ。別に「ありがとう」その五文字だけを待っている悟りでも開いてそうな人とは俺は違う。何か見返りをくれ、ただそれだけを望んで生きている。こんなことがあった。東大紛争が勃発しているころだった。俺が医大生だったころ、インターンシップである病院に働きに行っていたことがある。その時に近くで大きな事故があった。一台の車が幼稚園の集団に突っ込んだのだ。たくさんの子供たちが病院に運ばれてきて、俺たちインターン生も手伝わされた。今では考えられないようなことだ。そんな中俺は一人の子供を目にした。両手両足を大きく損傷している子供だった。俺はその子に泣きよっている親子を目にして助けずにはいられなかった。そしてその親曰くお金だったらいくらでも払うと言ってきた。俺はその子を助けた。その親はとても喜んでいた。しかしその後お金が渡されることはなかった。その親曰く、無免許医なうえにインターン生に支払うお金などないとのことだ。それはないだろう。その後その一件が大学側にばれて私は退学処分となった。子供を助けた事実はどこへ行った?事実だけが抹消され無免許医の禁忌を犯したという結果だけが見られている。俺は医学の道をあきらめた。もう誰も助けない。そう思った。

 二十年の月日が流れた。一時期はTV局に入社してテレビディレクターとして一つのやりがいを見つけていた。まったく医学とは関係のない世界だが、自分の作ったものを全国に発信するというこの快感は忘れられなかった。俺は当時若手ながら、多くの人から期待されていた。しかしあるミスが原因でTV局をクビになった。俺が仕切っていた番組が低俗な要素を連発してしまい打ち切りになったのだ。上司曰くテレビの放送倫理に反してるだとか、そんな理由で。視聴者からの評価はとてもいいのに。そんなルールに縛られるのか、テレビは。俺はその後フリーターとして働き、今に至る。最低限度の生活はできるが、生活に色がない。なぜこうも俺の人生はうまくいかないのだろうか。学歴がないわけでもない。無能でもないのに。どうして・・・。俺は死を考えた。そして海に向かった。そして海に沈もうと思った、その時だった。

 「久しぶり」どこからか老いぼれた爺さんのような声がした。何だ。こんな人が死のうとしてるときに声をかけてくる奴は。「誰だ?」と振り返る。そこにはカメが一匹いるだけだった。ああもうだめだ。ついに幻聴まで聞こえてくるようになったかと思っていると、「覚えていませんか?私ですよ私、浦谷さん。ほら、あなたに助けられた亀です」と亀。そういえば覚えがある。俺が医大生のころ、河原を歩いていた時に一匹の傷ついた亀を助けたことがあったな。「あの時の亀か。しかしあれは二十年も前の話だろ?そんな長生きできるのか?」

「はい、亀は万年ってほどは生きませんが、60年近くは生きることができるんですよ。ま

あ私はもう50後半なので晩年ですけどね。」と亀はゆっくりとした口調で言った。

「うまいこと言いやがって、するとあれか?お前は俺に恩返しに来たってのか?笑わしてくれるな。そんな浦島太郎みてえな話があるわけねえだろ。いいよいいよ俺はもう死ぬんだ。ま、最後に話し相手ができてうれしかったよ。」俺は再び海に沈もうとする。「おや、それは困りましたねえ。あなたに今死なれると困るんですよ。」と亀は困り果てた表情で言った。「困るって何がだよ。」というと「私は死をつかさどる神、死神様のお供として雇われてて、死者を導くのが私たち亀の仕事なんですけれど、あなたにはまだ生き生きノビノビポイントが残っているんですよ」

「生き生きのびのびポイント?なんだそのネーミングセンスのかけらもないものは。」

「あなたたち人間は生まれてくると同じくらいの生き生きのびのびポイントを持って生まれてくるんです。多くを失う人、これは挫折したりして生活がうまくいかなくなったりする人に多い。自殺者ってえのはこのポイントがゼロになったりした人のことだな。そういうやつを我々のご主人、死神様は好き好んでいるのです。生き生きのびのびポイントであふれかえっている、例えばテニスの熱い男とかが事故とかで死なれるともう死神ワールドは生気に満ち溢れてたまったものじゃないんですよね。」と亀は砂の上に落ちていた枝をいじりながら言った。「へえ、なんか死神の世界もいろいろ大変なんだなあ。ってじゃあ俺は死んでもいいんじゃないか?もう生活に苦しんで生きる気力もない男だぞ。」私はなぜか自慢げに言った。

「いやいや、あなたにはまだ残ってるんですよ。そんな奴が死んでもらってもこっちは困るんですよ。」亀は慌てていった。

「死んだらだめってじゃあ俺は何をやりがいにしていけばいいんだよ。生きてても何もやりがいがねえんだよ。」

「なるほどやりがいがあればいいんだな。」

「あたりまえだよ。やりがいがあるなら何も死ななくたっていいんだよ。」

「なるほど、まあつまりこの世界に飽きたということだね。ならいいこと教えてやろう。お前にこの亀が描かれた紙をやろう。これを夜寝るときに「飽きた」という文字を書いて枕元に敷いて寝な。するとあら不思議、今いる世界とは別の異世界に飛ばされるのです。ただその紙を異世界では決して使ってはいけませんよ。これだけは守ってください。まあやるかやらないかは別として、頑張って生きてくださいね」と言って亀は海の中へ去っていった。俺は我に返ったような気がして、自殺をするのは明日にしようと思った。そして家に帰りだまされたと思いつつもその亀からもらった紙に「飽きた」の文字を書いてその日は眠りについた(どうせ何も起こるわけねーだろ、ま、明日死ぬんだし別にいいか)

 朝起きた。いつもと変わらない部屋。なんだ、やっぱり何も変わっていないじゃないか。私はベッドから起き上がろうとした。しかし思うように体が動かせない。体が重い。何か背負っているみたいだ。そして自分の体を見ようとしたが下半身はおろか腕さえも見ることができない。これはおかしいと思いベッドから起き上がり鏡を見に行こうとした。しかしだめだ。思うように動かせない。ふとテレビのほうを向いて自分の姿が見えたとき、その原因がわかった。俺は亀になったのだ。しかも小さい部類ではない大きいタイプのである。俺は困って外に出ようとした。いや外のほうが危ないだろうが。扉を開けて外に出た。おや?と俺はふと違和感に気づいた。ドアノブが異常なほどに低い位置につけられていたのだ。そういえばベッドも人間用にしては異常に低い高さだった。まるで亀用のベッドであるといわんばかりに。そして外の世界を見て再び違和感を襲った。いや違和感というよりこれが現実なのか?亀が車に乗って走っている。そして亀が人間のように井戸端会議をしている。そして二足歩行で歩いている。なんだこの世界はと考えていると、「やあ、浦谷さんきましたね。」と聞き覚えのある声がした。振り返ると亀がいた。いや俺も亀なんだが。「この世界は何なんだ」俺が聞くと亀は「ここは、我々亀の住む世界、亀サンシティです。」亀は二足で立ち、全く腰に手が届いていないがエッヘンとした態度で言った。なるほどネーミングセンスがくそほどにないのはこういうことか。さてどうする。こんなまったりとした世界に来てしまったが、ほかに行く当てもないし、ここでセカンドライフを送るのも悪くないな。と思いながら、俺はまず職を探しに行った。テレビがあるということはテレビ局もあるのかと思い、亀がくれたタートルワーゲンの車に乗って就職支援センターに向かった。この世界は職業が「AI」という機械に決められる世界のようだ。適性試験を受けさせられAIの面接を受ける。その後、あなたはこの職についてくださいというメカニズムのようだ。何ともIT化の進んだ未来だ。現実世界もいつかはこうなるのだろうか。俺は現実世界での経歴からかテレビ局で働けと言われた。予想通りといえば予想通りだが、機械に言われるとうれしい気持ちはしなかった。

 働き始めて一か月ほどが経った。仲間とも打ち解け、親交を深めていっていたが、過ごしていくうちに気が付いたことがあった。まあ亀の世界にも異性の顔のいい亀不細工な亀の区別はあるんだなと。「あの子は不細工芸亀だよな。」同僚が言った。わかるか。何が違うのかわからない。「あの子かわいいよな。」だからわからないと言ってるだろ。俺の見る目がないのだろうか。と思っていたが、一匹の亀は違った。まあ外見はほかの亀と何ら変わらないんだが。まあなんというか、昔子供の時に近所にお姉さんがいたのだがその時にいろいろとお世話してもらっていて、そんな感じの亀が俺の仕事を手伝ってくれていた。俺はその亀に恋をした。しかしその女性にはすでに旦那がいることが分かった。短い恋であった。だが、俺がやりたい仕事をやって生きているのだ。現実世界に帰ったところでどうせ、社会に干されるだけだ。この世界にいたほうがましである。

 さらに一年の月日が流れた。「飽きた。」俺は去年まで考えもしなかったことを考えていた。この世界はすべてが「AI」という機械に管理されている。脚本もその例外ではなかった。書くのは我々ディレクター若しくは脚本家である。しかしAIが良しといわないとその作品を作ってはいけないのである。つまり脚本家の意思は全く作品に表れていないのである。まるで、小学校の図工の時間に書いた絵を先生に書き直しといわれるように。これでこの世界の住人は満足しているのか?同僚も別に困っている様子はない。これがこの世界の平常の様だ。「飽きた」もう嫌だ。これなら現実世界でもがいて苦しむほうがまだましだ。そうだ、俺は他人からの恩恵をもらうために人を助けてきた。そして面白い番組を作ってきた。しかし、それで必ず報われるわけでもない。報われないならまた報われるまでやれば良かったんだ。あの時すぐにあきらめていなければ・・・戻ろう現実に。

 俺は飽きたと書いた紙きれを再び枕に挟んで寝た。話せばわかる。そう安直に考えながら。

 

 

俺は目を覚ました。俺は人間の姿に戻っていた。しかしあたりは真っ暗だ。いや、正確には無数のろうそくが周りにあった。そして目の前に一匹の亀が・・・。「おい、どうしてやるなと言った事をやった?」亀は落ち着いた声で言った。しかし明らかに雰囲気が違う。「俺は、元の世界に帰りたいんだ。そしてもう一度やり直したい。」

「そんなわがままが通じると思っているのか。」亀。続けて、「お前は、死神の世界の掟を破ったんだ。もうお前の生き生きのびのびポイントはこちらで強制的にゼロにする。掟を破ったお前の罪は重い。地獄行きは免れないだろう。」

「待ってくれ!俺はもう一度やり直したいんだ!だから俺に・・・チャンスを!」

「チャンスか、本来はダメなんだがな、特別にチャンスをやろう。お前には俺を助けてくれた恩がある。ここにあるろうそくは、何かわかるか?」

「わからない」

「これはな、現実世界に住むやつらの生き生きのびのびポイントの量を表しているんだ。この、今にも燃え尽きそうなやつがお前のだな。これが燃え尽きるまであと少しだが、これが燃え尽きるまでに眠ることが出来れば特別に許してやろう。お前を現実世界に帰してやる。」

なんて簡単なんだ。寝れば戻ることなら意地でも眠ってやる。

「わかった、眠ればいいんだな?簡単だ。お前も優しいんだな。」

俺は眠りにつこうとした。しかし眠れない。ろうそくの光で明るすぎて眠れないとかそういうわけではない。いつ消えるのかと、謎のプレッシャーに襲われて眠ることができない。

「おい、どうした。早く寝ないと消えちまうぞ?ほうら消えるよぉ、消えるよぉ。」追い打ちをかけるように亀が言う。「うるせえ、眠りたくても眠れねえだよ!寝てやる、羊が一匹、羊が二匹、亀が三・・・あれ亀になってる⁉」震えが止まらない。

「ほうら消えるよぉ、消えるよぉ。」

「寝てやる!うおおおおおおおお!」

「ほうら消え・・・」

 

 

俺はまた目を覚ました。太陽が昼間の位置に昇っていた。どうやら助かったのか?ここはどこだ、海岸のようだが、何かおかしい。海岸の近くの道路を走る車がやけに真新しい。そして周りの風景が明らかに違う。歩道を歩く女子高生が何か薄いものをもってそれに話しかけている。電話なのか?俺は近くを歩いていた老人に話しかけた。「すいません、この辺に浦谷太郎の家はありませんか?」

おかしなことを聞いてしまった。しかし老人は、どこか悲しい表情をして答えた。

「浦谷太郎・・・ですか・・・。懐かしい名前を出してきますね。あなたが急におかしなことを聞いてきたので私もおかしなことを言いますが、私がテレビ局で働いていたころの同期に同じ名前の人がいたんですよ。その人の考える番組はどれも面白かった。しかしある日、局を去ったのです。上司から聞くまで知りませんでした。なんでも上が若手の分際で売れすぎだと。聞いて飽きれましたよ。いまも働いていれば、この腐ったテレビ業界を救ってくれたろうに、今どこで何をしているのやら・・・」

 なんてことだ。こいつは俺の同僚なのか?いやそれ以前にここは何年だ?

「失礼ですがここは昭和何年ですか?」

「またおかしなことを聞きますな。老人だからとバカにしておられるのですか?今は元号は二つまたいで令和の時代ですぞ。西暦は確か・・・」と老人は、女子高生が持っているのと同じ薄いものを取り出した。そして2019年であると教えてくれた。令和?俺は未来の時代に飛ばされたのか?俺は、何とも言えない失望と悲しみに襲われた。俺は単純に上からの圧力で消されたのか?どうすればいいんだ。俺は泣き崩れた。ただ、俺は誓ったんだ。どんなことがあろうと報われるまでやると。恩返しがなかろうとあろうと、この新しい時代を生きていくと思うのであった。

俺は老人の持つ薄いものは何かと聞くのであった。

 

 

 

 

 


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