GANTZ『焔』 作:マジカル☆さくやちゃんスター
巨人との戦いから一月が経った。
かろうじて勝利は出来たものの、世界の傷跡は深く帰ってこない者も多い。
今は全力で世界中が復興に励んでいるが、完全に元に戻るまで一体何年かかるのかは分からなかった。
あれから玄野達黒服のメンバーは地球を救った英雄として連日持て囃され、玄野は今まで疎遠だった両親と少しだけ関係がよくなった。
また、今まで玄野を馬鹿にしていた同級生や教師も掌を返し、今では玄野はどこに行ってもヒーローだ。
今日もまた、屋上に呼び出されて別のクラスの女子から告白を受けている。
「あの……玄野クン……私、玄野クンの事、好きです!」
「いや、あの……」
見た目は結構かわいい子だ。
割と好みだし、以前ならば一発でOKした事だろう。
しかし玄野は申し訳なさそうに少女の告白を断った。
「悪いけど俺……聖のモノだから……。
もう、付き合ッてる人……いるンだ……結婚の約束もしてる……」
告白を断られて泣きながら走り去る少女に申し訳なさを感じながら、玄野は屋上を後にした。
学校を出ると、校門前には桜丘聖が車で迎えに来てくれており、自然と頬が緩んだ。
しかし後ろの座席によく見知った顔がいるのを見て不機嫌になる。
「アキラ……何でお前がいンだよ……」
「や、そこで会ッて、ついでに送ッてくれるッて……」
「お前……一応言ッておくけど、聖に手ェ出したらタダじゃおかねーからなッ!」
助手席に乗り込み、シートベルトをつける。
それと同時に聖が車を出し、まだあちこちが壊れている道路を走った。
「手は出さないよ……」
「どーだかッ! 親父から聞いたけど付き合ッてた彼女とも別れたンだろ?
何でだ? 美人だッたじゃねーか、勿体ねー」
「それは……」
アキラは、年上の美人の彼女と付き合っていた。
だがあの戦いの後に別れてしまい、今はフリーだ。
誰から告白されてもOKせずに、何故か一人身を貫いている。
その理由は、吸血鬼という怪物になってしまったからというのもあるだろうが……玄野には何となく分かった。
「暁美……か?」
「……うん」
「惚れて……たのか? あいつに」
「……わかンない……けど、多分そうだと思う……。
あンな女……今まで見た事もなかッた……」
惚れていたのか、それともただその存在に圧倒されていただけなのか。
それはアキラにももう分からない。
アキラがほむらと一緒にいた期間はあまりに短く、この想いが恋愛感情なのかただの憧れだったのかも分からないうちにほむらはいなくなってしまった。
だから今、ただ思うのはもう一度会いたいという……ただそれだけの気持ちだ。
「暁美ちゃん……死ンじゃッたのかな……?」
「……ハッ!」
桜丘が気落ちした声で言うが、それを玄野は鼻で笑い飛ばした。
それから彼女が消えた空を見上げ、言う。
「あいつが死ぬわけねーだろ……。
……そうさ、死ぬわけがない……死ぬわけがない……ンだ……」
零れそうになる涙を堪え、ほむらの生存をただ信じる。
あの殺しても死にそうにない暁美ほむらが死ぬものか。
どんな絶望からでも、きっとあいつは戻って来る。
そう信じる事しか、今の玄野には出来なかった。
◇
東郷十三はあの戦いの後は英雄として持ち上げられ、1佐へと異例の昇格を果たしていた。
多くの部下を与えられた彼は今日も部下を率いて町の復興作業へ向かおうとしている。
整列した自衛官達の前に立ち、東郷は静かに語り始めた。
「これから我々は町の復興作業へ向かう。
停電……断水……雨漏り……住民の不安は我等が仕事を完遂するまで続くと思え。
そして今日と言う日があり、今も地球が残ッているのは大勢の英雄の死があればこそだ。
この星を守ッた偉大な者達の存在を……決して忘れるな」
部下達に、今日と言う平和の裏の犠牲を語る。
そうして出撃し、一日でも早くこの国が元の姿に戻れるように奮闘するのだ。
きっと元に戻して見せる、と東郷は心に強く誓う。
死んでいった仲間達の為に。
そして……いつの日か、あの少女が帰ってきても恥ずかしくないように。
復興作業に励んでいるのは自衛隊だけではない。
民間でもあちこちで人々が活動に勤しみ、その中でJJは鍛え抜いた身体で瓦礫の撤去に専念していた。
隣では最近知り合った風大左衛門が瓦礫を持ち上げている。
この風大左衛門という男、あの戦いの時は何とスーツなしの素手で巨人を倒していたらしい。本当に人間だろうか?
もしも彼があの部屋に来ていればきっと、凄まじい活躍をしただろうとJJは思っている。
「オゥ、カゼ! グレイト!」
「ふッ……JJもな」
二人して瓦礫を次々と運び、片付けていく。
その姿に他の人々はただ茫然とするばかりだ。
どちらも人間とは思えない。
風の隣では彼の息子らしいタケシという名の少年が風の真似をしてせっせと瓦礫をどけている。
その作業の中、風は言う。
「俺と引き分けた奴はお前が初めてや……。
きッと、世界で一番強いのは俺達のうちのどッちかやろう」
風とJJが知り合った切っ掛けは、巨人を倒した英雄のうちの一人であるJJに風が喧嘩を仕掛けてきた事が原因であった。
誰よりも強さを求める風はJJに挑み、そして驚くべき強さでJJと互角に渡り合った。
JJもあの戦いを潜り抜けた事で強さを増していたから渡り合えたが、以前までのJJならば太刀打ち出来なかっただろう。
それほどに風大左衛門は人間離れして強かった。
だから風は、世界で一番強いのは自分かJJのどちらかだろう、と思っている。
だがJJは首を振ってそれを否定し、大空を見た。
「いや……もッと強い娘は他にいる……俺なンかよりもずッと……。
本当に……強い娘だッた……暁美ほむら……」
そう言い、遠い目をするJJに倣うように風もまた空を見上げた。
この先に自分達よりも強い奴がいるのだろうか。
そう思い、そしてJJの態度からもう二度とその少女と会えないだろうと察して目を閉じた。
「…………。
というか……お前……普通に日本語喋れるンか……」
◇
「ねェ加藤君……アタシら、そろそろ結婚しよーか?」
同棲生活を始めて一月が経ったある日、唐突に山咲杏が爆弾発言を落とした。
加藤はこれに飲んでいたコーヒーを吹き、向かい側にいた弟の歩にかけてしまう。
「うッわ! キッタネ! 何すンだよ兄ちゃん!」
「ごほッ、ごほッ……す、すまん歩!」
気道に入ったのか咳き込み、落ち着いたところで加藤は雑巾でテーブルを拭いた。
それから杏を見るが……顔を赤らめており、どうやら冗談ではなさそうだ。
「そりゃ……いずれはそうしたいと思ッてる……俺も君の事が好きだ。
けど……俺はまだ高校生だぞ……」
「ええやん、そんなの」
「いや、よくはないだろ……法律とか色々あるし……」
日本では男性が結婚を許されるのは18歳からだ。
しかし現在加藤は17歳であり、まだ結婚出来る年齢に達していない。
その事を説明すると杏は残念そうにし、そして更なる爆弾を落とした。
「そッか……じゃあしばらくは独身の二児のママになるンやね」
加藤コーヒーリバース再び。
落ち着いてコーヒーを飲み始めた加藤はまたしても吹き出し、向かい側にいた歩に直撃してしまった。
「うッわ! キッタネ! いい加減にしろよ兄ちゃん!」
「ごほッ、ごほッ……す、すまん歩!」
またしても咳き込み、それから律儀にテーブルを拭く。
それから杏を見るが……先程より顔を赤らめており、冗談ではなさそうだ。
「マ、マジか……?」
「うん……マジ」
「ひ、避妊……してたよな……?」
「してても出来る時は出来るもンや。ゴムもやッすいヤツやッたし」
二人はしばらく見つめ合い、顔を赤くする。
それを見て歩は気を利かせて部屋を出て行った。
その直後に加藤は杏を抱きしめる。
「18だッ! 俺が18になッたら結婚しよう! 絶対幸せにするッ!」
「うん、楽しみにしてる」
まさか子供が出来るとは思っていなかった。
だが今までずっと弟の歩と二人だけの家族で生きてきた加藤にとって、家族が増えるのは何よりも嬉しい事だ。
杏はしばらく加藤の胸に顔をうずめていたが、やがて思い出したように言った。
「そうだ……名前、どうしよッか?」
「名前か……それなら、一つ案があるンだ」
そう言い、加藤は窓の外の空を見上げた。
杏もそれで察したのか、優しく笑う。
「それでいいと思うよ」
「まだ何も言ッてない」
「分かるよ。あの子の名前やろ?」
「……ああ」
加藤は杏の肩を抱き、そして言う。
男の子なら『ほむら』、女の子だったら『あけみ』と名付けよう――と。
◇
見滝原市の一角はその日、美しいまでの夕日に照らされていた。
あれから一月が経ち、ライスは今もそこに座っていた。
ほむらが用意した地下室は、今はまどか達が使っている。
鹿目家はあの戦いで残念ながら壊れてしまったので、今はほむらが用意してくれた地下室で暮らしていた。
この地下室にほむらが備蓄していた食料や水は彼女達の助けになり、物資が届きにくい時もまどか達は体調を崩す事はなかった。
そしてその地下室の前で、ライスは今もまどか達を守っている。
ほむらの頼みを今も忘れずに果たし続けていた。
「ライス、そろそろ寒くなるから中に戻ろう?」
「キュウン……」
まどかがライスの頭を撫でながら言う。
あれからまどかは、元気というものを失っていた。
健気に前を向いて生きようとしているのだが、二度目の喪失はショックが大きかったのだろう。
ほむらに渡したリボンは今も戻らず、髪はほどけたままだ。
それでもまどかは、ライスと同じく待ち続けていた。
だって約束したのだ。
今度はちゃんと帰ってくると、そうほむらは言ってくれた。
だから最初の一週間は希望を持って待ち続けた。
次の一週間も、きっと何か理由があると思って待った。
その次の一週間は不安と共に過ごし、そして次の一週間で……早くも挫けそうになっている自分に気が付いた。
ほむらは帰って来る……いや、そう信じたい。
だがまどかも本当は分かっているのだ。
あの時空で輝いたあの紫の光が何を意味しているのか。
壊れた宇宙船が何故地球に落ちず、今日も自分達が生きているのか。
世間では奇跡だの何だのといい、偉そうな学者達は適当な仮説を並べ立てている。
だがあれはほむらが起こした奇跡だと分かっていた。
だがあれだけの力を放出して無事で済むとは考えにくい。
そんな事はまどかにだって分かっていた。
それでも……それでも、もう一度彼女に会いたかった……。
「!」
ライスが突然顔を上げ、走り出した。
今まで誰が声をかけてもずっとそこにいたライスの突然の行動に面食らい、慌てて後を追う。
人と犬では速度が違い、どんどん引き離されてしまう。
ライスが曲がった角を曲がり…………そこで、まどかの足は止まった。
「やあ! 僕だよ!」
――キュゥべえだった。
しかしその直後にタイツに包まれた脚がキュゥべえを蹴り飛ばし、まどかの視界の外に追い出す。
キュゥべえを蹴ったその人物はライスに飛び掛かられていて、満更でもなさそうだ。
「ちょっと! ライス、やめてったら!」
少女の制止を聞かずにライスは少女に前足を乗せ、顔を舐めまわしている。
そのたびに少女の黒髪が揺れ、その白い手はライスを優しく撫でていた。
それから彼女はまどかに気付き、顔をあげる。
「あ……あぁ……あ……!」
まどかの顔が喜びに染まり、涙が溢れた。
地面に水滴が落ち、視界が歪む。
それでも彼女の顔をしっかり見ようと袖で拭い、だが涙が止まらない。
そんなまどかの前で彼女はまどかから借りていたリボンを解き、まどかの髪に結ぶ。
そして、優しく微笑んだ。
「ごめんなさい。帰りが遅れてしまったわ。
あの後、咄嗟に時間を止めて崩壊する宇宙船から飛行ユニットで脱出したんだけどね……降りた場所が森の中のよく分からない部族の村で、なかなか帰れなくて……魔力もほとんど使い果たしてしまっていた上に飛行ユニットは墜落の衝撃で壊れてしまったから、結局歩いて近くの空港まで行って、何とか戻ってこられたわ」
まどかを安心させるようにその髪を撫で、少女は「それでも」と続ける。
「遅くなってしまったけど……今度こそ貴女との約束、ちゃんと果たしたわよ」
「うん……うん!」
まどかは涙を拭いながら、何度も彼女の顔を見る。
間違いない、何度見ても彼女だ。
今度はちゃんと、帰ってきてくれた。
そこに、先程蹴り飛ばされたキュゥべえがヨロヨロと戻ってきて言葉を発する。
「全く予想外の奇跡だったね……。
君の元々の因果量では、命と引き換えにでもしない限り宇宙船と地球の衝突を避ける事なんて出来ないはずだった。
けど、君は巨人を倒して人類を救った……そして、その事実は菊地誠一によって世界に発信され、君は救世主として認識された。
その為、君の因果量が増大して魔力が急激に上がったんだ。
だから余力をもって、宇宙船を破壊しつつ自らも生き残る事が出来た。大した悪運だよ」
キュゥべえが何か、彼女が生き残れた理由を話しているが、まどかの耳には入っていなかった。
理由なんてどうでもいい。
ただ、彼女が帰ってきてくれた……その事実があるならば、奇跡でも必然でも何でもいい。
だからまどかは少女の薄い胸に抱き着き、少女――暁美ほむらはまどかを抱きしめた。
「――おかえりなさい……ほむらちゃん」
「――ただいま……まどか」
ただいマドカァー!
というわけで、これにてGANTZ『焔』は完結となります。
今ままでお付き合い頂きありがとうございました。
とにかくほむらに無双ゲーをさせたいだけのSSだったのですが、たまにはこういうのもありかなと思います。
GANTZのSSなのにレイカも筋肉ライダーもチェリーも師匠もおっちゃんも活躍しないどころか登場すらしないという本当にGANTZのSSか分からない誰得レギュラー陣になってしまいましたが、まあこういう予想外の方向にコースアウトしてしまうのも二次創作の醍醐味です。
まあ、まともなレギュラー陣で書いてるSSは他にあるので……(震え声)
しかしまさか犬が最後まで生存した挙句にラストシーンにまで出張るとは……多分、このSSで一番出世したのはほむらでも玄野でもなく、犬だと思います。
つまりこれはまどほむエンドに見せかけた犬エンド……オマエノシワザダタノカ……。
それでは、また何か書いたらその時にお会いしましょう。
ガンツSSもっと増えろ……増えろ……。
【オマケ】
・その後の西丈一郎
|Ф(|゚|Д|゚|)Ф| 無事逮捕された模様。