灰と焔の御伽噺   作:カヤヒコ

11 / 24
今回の話から、脇役ではありますがオリキャラが登場します。それに伴いタグも少し追加・変更しました。

創の軌跡も新情報が色々と出てきてますが、やはり気になるのはエマと映ってた白いフクロウでしょうか。母イソラの使い魔なのかな?




ぬるま湯の一時

 

 

 その部屋は、群青色に満たされていた。

 

 

 部屋の中央に立つローゼリアが、その小さな掌を掲げている。そこから溢れ出す青い光が、対面に座るリィンの心臓に吸い込まれていた。裸の上半身──心臓の位置に白墨で描かれた幾何学模様の魔法陣が、水面に映る月のように揺らめいている。

 

「……っ」

 

 雪を際限なく飲み込んでいくように、徐々に温度を失っていく胸の内。視界いっぱいの群青も相まって、海の底に沈んでいく溺死体のイメージがリィンの脳裏に否応なく浮かんでくる。

 

「気持ちは分かるが呼吸を乱すでない。あと少しで終わる──prope(閉じよ)

 

 ローゼリアの指先が魔法陣に触れると一瞬で霧散する。同時に群青の光も消え、現実的な景色が戻ってきた。

 

「ほい、終了じゃ。もう服を着てよいぞ」

「え、もうですか? これでちゃんと封印できたんですか?」

 

 渡された粉末を飲み、後は可能な限り落ち着いた呼吸を維持するだけ。時間にして三分程度しかなかった施術は逆にリィンを不安にさせた。

 

「期待に応えられぬのは済まぬが、その力の正体が判明せん以上すぐには有効な術式を用意出来んのでの。今回は心臓に宿るチカラが全身に及ばぬように壁で囲っただけで、後から足りない部分を追加していくしかないんじゃ」

 

 見た目に似合わない苦い顔をする魔女の長。裏の世界の頂点の一角を担う者として、スマートな解決が図れない現状には歯がゆい思いをしていた。

 

「ひとまず、コレで身体を動かしてくると良かろう。ヌシの身体に術式が馴染んでおるかも確認しておきたいしの」

 

 そう言ってローゼリアが差し出した物を見て、今度はリィンが表情を曇らせることになった。

 

 

 

 ──そんな訳で昼過ぎ、リィンは里の外れにある広場に足を運んでいた。中央のそれとは違い、見渡す限り何もない広いだけの空間。周囲は木々に囲まれていて、空から俯瞰して眺めれば森の中にぽっかりと空いた穴のように見える。

 

 広場の中央まで歩いていき、リィンは腰に下げていた物を手に取る。ユン老師に弟子入りして以来、一日たりとも握らない日はなかった自分の太刀だ。里を飛び出した時から捨てられずに持ち続け、最後には杖代わりに使ってた。てっきり倒れた場所に置いてきたものだと思っていたが、エマはしっかり回収してくれていたようだ。

 

「……未練、だよな」

 

 ストレッチで身体を解した後、瞑想で気持ちを落ち着けてから太刀を構える。八葉一刀流の基礎となる八つの型を繰り返す。初めは一つ一つ動きを確かめるように丁寧に。その後は一連の型を通しで。何度も何度も、ここ数日剣を振らなかった分を埋めるように。中天に昇る日輪は容赦なくリィンを照りつけ、噴き出す汗が飛び散った。

 

 無我夢中で剣を振り続けて際限なくギアを上げていくリィンだったが、やがて限界に突き当たる。酸欠に陥った身体は休息を求めて膝をついた。

 

(駄目だ……これじゃあただ剣に振られてるだけじゃないか)

 

 封印はきちんと機能しているようで、これまで身体を動かす度にざわついていた焔が暴れる感覚はない。恐怖に怯えることなく剣を振るえるというのに、何故か剣筋は大いに乱れていた。これならユミルを飛び出す前の方が何倍もマシだ。

 

(……いや。考えてみればもう……)

 

「ちょっとアンタ、何また倒れようとしてるのよ!?」

「わっ!」

 

 ぐるぐると思考の渦に陥りかけたリィンの頭に、生温かいモノが乗った。慣れない感触に思わず手をやって引きはがすと、美しい毛並みをした黒猫がプラプラと揺れている。

 

 

「…………セリーヌ、だったよな。何してるんだ?」

「アンタに吊るされてるんでしょーが!!」

 

 鼻先を思い切り引っかかれた。体幹ブレのないキレのあるフックである。その背後からエマも慌てて走り寄ってきた。

 

「ちょっと何してるのセリーヌ! リィンさん大丈夫ですか?」

 

 エマはリィンと向かい合って屈むとリィンの鼻に付いた傷に触れ、小さく呪文を唱える。指先が仄かな光を発し、セリーヌが付けた引っ搔き傷は初めからなかったかのように治癒された。

 

「これで良し。……リィンさん、どうして明後日の方向を向いてるんですか? まだどこか痛むんですか?」

 

「な、何でもない。えっと、二人はどうしてここに?」

 

 至近距離に少女の顔が迫りドキドキしたとは流石に言えず、リィンは話題を変える。答えたのはまだご立腹のセリーヌだった。

 

「またアンタの姿が見えなくなったからロゼに訊いて来たのよ。さっきからアタシ達が何回呼んでも全然反応しなかったせいで随分待たせてくれたわね」

「それはごめん。……もしかして、さっきまでずっと見てたり?」

「半時間くらいは。相当集中されていたみたいですね」

「うわ、それは……見苦しいものを見せたよな、ごめん」

「そんなことありませんよ!! 剣術のことはあまり良く知らないですけど、舞っているみたいに綺麗な動きで思わず見とれちゃったくらいです!」

「お世辞はいいよ。俺のなんか……」

「ほ、本当にそう思ってるんです!」

「分かった! 分かったからそんな力説しないでくれ!」

 

 耐え切れなくなったリィンが顔を赤くして叫ぶ。自分で至らないと思っているものを絶賛されるのは、時に貶されるより心に来るのだ。

 

 

 閑話休題。

 

 

「身体の具合はどうなんですか?」

 

 ひとまず休憩で木陰に腰を落ち着けていると、隣に座るエマが恐る恐る尋ねてくる。セリーヌは付き合う気もなくどこかへ行ってしまった。

 

「快調そのものだよ。ローゼリアさんや里の人達、エマとセリーヌのお陰さ」

 

 実際、焔の存在は感じ取れているが、それが広がる気配はない。ローゼリアが語った通り、火種の周囲を燃えない壁で包んでいるような感覚だ。最も恐れていた、異能の暴走で他者を傷付ける心配が無くなったのは素直に嬉しいことだ。嘘偽りない感謝をリィンは笑顔に乗せる。

 

「私はお祖母ちゃんに言われた通りに薬の準備をしただけで、大したことはしてないですよ。……姉さんなら、直接封印術の補助だって出来たでしょうし」

 

 スカートの上に置かれた手が握り拳になる。

 

 ローゼリアから聞いた失踪には触れないようにして尋ねてみた。

 

「そんなに凄い人だったんだ」

「はい。小さい頃から魔術の才能に恵まれてて、私なんかでは足下にも及ばないくらいに優れた魔女でした。お祖母ちゃんも里中の人も、歴代でも指折りの魔女になるって期待してました。ちょっと人を振り回すところはありましたけど、身内から見てもとっても素敵な人だったんです」

 

 宝物の箱を開けるように語るエマの口調は誇らしげだ。優れた姉に対しての嫉妬も見受けられない。心の底から、本当に姉のことが大好きなのだろう。その気持ちはリィンにもよく理解出来た。

 

「そういえば、リィンさんってご兄妹はいらっしゃるんですか?」

「三つ離れた妹が一人いるんだ。血は繋がってないけど、俺なんかには勿体無いくらいの良い子だよ」

「それなら九歳くらいですか……まだまだ可愛い時期ですね。いいなあ」

「妹が欲しかったりする?」

「お祖母ちゃんも姉さんもセリーヌも、私を子供扱いしてくる時あるんですよ。普段色々と面倒みてるのはこっちなのに……。まあ、ですので妹がいれば思いっきり甘やかしちゃうかもしれませんね」

 

 小さく笑う彼女を見て、リィンはあることを思い付いた。エマのことをそれほど知っている訳ではないが、エリゼと共にいるこの少女の姿を思い浮かべると不思議としっくり来たのだ。

 

「……エマさえよければ、俺の代わりに(・・・・・・)妹と会ってみてくれないかな? きっと仲良くなれると思うんだ」

「わ、私がですか!? で、でも魔女がみだりに里の外に出ることは禁じられてますし」

「でも巡回魔女になれば外に行けるんだろう? 使命のちょっとしたついでにとかダメかな」

「それはそうですけど……うーん」

 

 思ったより揺れているらしく悩み始める見習い魔女。やや突拍子もない頼みに動揺したのか、間に挟まれた重要な言葉を聞き逃していたことに気づかない。

 

 

「勿論無理強いはしないけど、前向きに考えてくれると嬉しい。あの子は皆に好かれてるけど、領主の娘ってことで寂しい思いをすることもあると思うんだ」

「リィンさん?」

「今日はもう戻るよ」

 

 エマを置いて立ち上がる。休憩で体力は回復していたが、これ以上剣を振る気にはなれなかった。

 

 元々異能を制御する為に始めた剣術だ。ローゼリアの封印によって暴走の危険がなくなったのなら、リィンには剣を握る理由がない。あの厳しい修業もしなくて済むのだから万々歳だと、無理矢理にでも自分を納得させようとする。

 

(そもそも、あれだけ必死に修業したのに性懲りもなく暴走してしまったんだ。間違いなく破門だよな)

 

 何もかもを見透かすような老師の視線に宿る失望の色を思い浮かべると、胸がズキリと痛む。やはり自分のような人間かも定かではない者に、栄えある八葉は分不相応だったのだ。

 

 重い足取りのままアトリエの扉を開けると、そこには見覚えのある青年がローゼリアと話していた。

 

「ユークレスさん……いつ戻られてたんですか?」

「たった今だよ。これを見つけたから早めに帰ってきたんだ」

 

 そう言うと、ユークレスは手に持った一枚の紙を見せてきた。そこにある写真には、見慣れた顔が映っている。

 

 

「遊撃士協会に、君の捜索依頼が出回っている」

 

 

 ──時は待たない。決断は往々にして、突然迫って来るものだ。

 

 

 五月二十九日の早朝、特別実習初日。ユーシス・アルバレアは制服姿で第三学生寮をのロビーにいた。

 

 実習地にして故郷でもあるバリアハート行きの列車が到着するまで一時間はある。偶然早くに目が覚めたのもあるが、何かと噛みついてくるあの男と廊下で鉢合わせしない為にいち早く降りてきたのだった。

 

「…………」

 

 まだ暗さの残る無人の空間をぼんやりと眺めながら、この二ヶ月を思い起こす。

 

 

 ユーシスにとって、特科クラスⅦ組は都合の良い居場所だ。

 

 四大名門出身の彼の周りには、常に誰かがいた。実家のアルバレア城館には昼夜問わず使用人が行き交い、外出すれば人の目が集まり、社交会に出席すれば老若男女に囲まれる。そこで浴びせられるのは賛美の言葉と綺麗な笑顔──その裏に隠された打算と欲望、そして羨望。それが高貴な生まれの義務とでも言うように、彼らは言外の感情を無遠慮にぶつけてきた。

 

 望まないものであっても、自分の生まれから逃れられないことはアルバレア家に引き取られて数か月すれば嫌でも理解することとなる。ならばせめて、その名に恥じないような生き方をしようと幼心に誓った日より彼なりに努力を重ねている。誰よりも敬愛している、自分などより遥かに大きなものを背負っている兄の力に少しでもなれるように。

 

 トールズへの入学もその一つ。学べることは多いだろうが、進学理由を一言で言ってしまえば箔付けということになる。初日に落とし穴に落とされて、境遇の全く異なる同級生と一つ屋根の下というのは流石に予想外だったが。

 

 不安しかなかった共同生活だったが、これが意外と悪くない。まずこちらに媚びて付き従ってくるような貴族生徒──ハイアームズ家の三男坊にくっついている男子のような──とは、寮の場所やカリキュラムの都合で距離を置くことが出来る。貴族生徒専用のサロンには執拗に誘われるが、一度でも応じれば余計なしがらみに縛られるのは目に見えているので断っていた。

 

 クラスメイトの貴族生徒二名は家柄に固執するタイプではなく、他も過剰に畏まらずにある程度自然体で接してくれる気の良い人間だ。一名鬱陶しいのがいるが、陰口ではなく正面から物を言ってくるだけ幾分かマシだった。

 

 アルバレアとして見られても、求められはしない環境。常にきつく締めてきた襟元を、少しだけ緩められる機会が多いというのは思っていた以上に気楽である。

 

 

 しばらくすると階段を踏む音が聞こえ、リィンが姿を見せた。

 

「おはようユーシス。今日は早いんだな」

「レーグニッツよりも遅れれば、嫌みを言われるのは目に見えているからな」

「……確かにな」

 

 その光景が容易に想像できてしまい苦い顔をするリィン。ユーシスは言うまでもないが、次点でマキアスに敵視されているのが彼である。

 

「そういえばユーシスにとっては里帰りになるのか」

「二か月ではそう感慨もないがな」

「それもそうか。……向こうではユーシスへの態度も変えたほうがいいのか?」

「必要ない。あくまでクラスメイトとしていつも通りにしていろ」

「了解。あ、紅茶を飲もうと思ってたんだけどユーシスもどうだ? 茶葉ならメジャーなのは一通り揃ってるけど」

「別にいらん。……わざわざ出発前に飲むほどの愛好家とは知らなかったな」

「そこまでって訳でもないんだけど……最近はずっと朝にエマが用意してくれてたから習慣になってさ」

 

 紅茶じゃなくてハーブティーだったけど、とユーシスのぞんざいな物言いを気にした風もなく、リィンはキッチンに引っ込む。

 

(リィン・シュバルツァー……シュバルツァー男爵家、か)

 

 アルバレア家にシュバルツァー家との交流は殆どない。領地のユミルはノルティア州──先輩のアンゼリカの実家であるログナー家の管轄だ。爵位も公爵家と男爵家では天と地ほどの差がある。嫌な言い方をしてしまえば、関係を築くメリットがない相手である。

 

 そんな訳でユーシスにとっては全く馴染みはなかったが、クラスメイトとなる貴族のことを全く知らないのも問題だ。入学してすぐに家老(アルノー)に頼んで調べてもらった。

 

 基本的な情報を除いて、判明したのは三点。

 

 一つ目は男爵家ながら皇族と縁があり、時の皇帝から下賜された旅館は今でも皇族が訪れることがあるということ。

 

 二つ目は兄が一度だけ現当主のテオ・シュバルツァーに鷹狩りの指南を受けていたこと。

 

 三つ目はそのテオ・シュバルツァーがここ数年社交界に最低限しか出席しておらず、領地に引きこもっていること。そしてその理由が、どこの生まれとも知れない浮浪児を拾って養子にしたことで中傷を受けたからという噂があること。

 

「よっと」

 

 程なくしてキッチンから戻ってきたリィンは、トレイにティーポットと四つのカップを乗せていた。ソファに座り慣れた手つきでポットを傾けると、琥珀色の液体がカップに注がれる。独特の香りがユーシスの鼻腔を擽った。

 

「意外と手馴れているな」

「実家でも偶にやってたから。大抵は母さんと妹の仕事だったけど」

「自分で淹れていたのか?」

「そりゃあ使用人なんていないし、家のことは自分たちでやらないと。……って、公爵家だと考えられないよな」

「そんなことは……」

 

 無い、と苦笑するリィンに言いかけて、結局言葉にならずに口を閉じた。もう八年も前の、二度と戻らない光景だ。易々と語る訳にもいかない。

 

 胸中に差した翳りを振り払うように、ユーシスはリィンの対面に座る。

 

「ユーシス?」

「さっきはああ言ったが、やはりいただこう」

「それはいいけど味の保証は出来ないぞ?」

「構わん」

 

 注がれた紅茶を口に含む。少し温く、お世辞にもユーシスの肥えた舌を満足させる出来栄えではなかったが、丁寧に作られたことが分かる味わいだ。リィンの性格が良く出ている。

 

「……悪くはないな」

「それは良かった。あ、カップもう一つ持ってこないと」

「レーグニッツがお前から振る舞われたものを飲むとは思えんが。それにあの男はコーヒー派だろう」

「そう言えばそうだった。でもコーヒー豆はキッチンに無いしな……」

 

 真剣に頭を悩ませるリィンには初めからマキアスを除外する選択肢は頭にないらしい。つくづくお人好しな男だと呆れながら、噂話を今一度思い起こす。

 

 浮浪児と血の繋がりのない家族。偶に見聞きする貴族らしからぬ、それでいて貴族らしい人の良さ。推測が正しければきっとこの男も──

 

(──下らん。だからどうしたという話だ)

 

 気付けばリィンに対して抱いている親近感を、ユーシスは自分で一蹴した。所詮は噂で、どこまで信じられるのかも分かったものではない。出自で人格を判断するなどユーシスの思う誇りある貴族の姿ではない。

 

 少なくともリィン・シュバルツァーは、アルバレアの人間に級友として紅茶を差し出すことの出来る人間だ。それだけ分かれば十分だった。

 

「委員長の淹れる紅茶は美味いのか?」

「紅茶もおいしいけど、お勧めはエマが自分で作ってるハーブティーかな。興味があるなら、実習が終わった後で聞いてみたらどうだ?」

「……考えておこう」

 

 

 それきり無言になった二人は、やがて三人がやって来るまで穏やかな時間を過ごすことになる。

 

 兄の前で緊張しながらでもなく、アルバレアに取り入ろうとする相手と腹の探り合いをするでもなく。

 

 

 ただ誰かと飲む紅茶は思いの外温いらしいと、益体もないことを覚えた朝の一幕だった。

 

 

 

 

 

 

 同時刻、公都バリアハートにて。

 

 

 貴族の街であるバリアハートには、当然客層もそちらに寄る。大々的な看板、整えられた内装、贅を凝らした品々、それらを飾る謳い文句。時に商品が持つ本来の姿を覆い隠してしまうほどに過剰な装飾の数々は、少しでも目が肥えた貴族の目に留まろうと工夫を重ねた証であり、貴族御用達の店が並ぶ職人通りではその傾向が特に強い。

 

 しかしそれとは逆の、所謂『隠れ家』的な店も存在する。

 

 例えば、平民の住む家屋の一部屋。例えば、路地裏の死角。例えば、高級店の立ち入れない上階──客から見れ ば、店主の居住スペースとしか見られない。多くの人の視界に入りながら、風景としか認識されないような場所。そう言ったところに看板ひとつ掲げずに店を開けて、ごく限られた客だけを相手にするスタイルだ。

 

 

 彼女の店も、そういった類のアンティークショップだった。

 

「……いらっしゃい」

 

 平民の居住区に建つ、とある貸家だった。部屋の奥のカウンターで雑誌を読んでいた女性は、来客に顔を上げる。

 

「やあ店主殿。半年ぶりになるかな」

 

 来客は純白を基調とした、目立つ礼服に身を包む男だった。横髪を掻き上げる仕草が芝居がかっており、全体的に胡散臭い。この雰囲気が作られたものなのか素なのかは、そこそこの付き合いがある女性も知らない。きっと彼が所属する組織の面子に訊いても分からないだろう。適当に付き合わないと疲れるタイプである。

 

「しかし随分と急な来店じゃない。目ぼしいお宝でも見つかった?」

 

「フフ、遠からずと言ったところかな。我が美のライバルが育てようとしている雛鳥達を見に来たのだが……今回は面白いものが見られそうでね。微力ながら、この翡翠で飾られた舞台を盛り上げたいと思ったのだよ」

 

「それはまた……気の毒な子たちだこと」

 

 美の探求家を自称するこの男のお眼鏡に叶ったターゲットとその周囲を取り巻く人間は、例外なくその悪趣味に付き合わされて悲惨な目に遭う。女店主自身も割とロクでなしの自覚はあるが、彼を見れば少しは自己を顧みようという気分になるものだ。

 

 とは言え、男は数少ない上客の一人。客は選べど人は選ばない、がポリシーの女店主はさっさと本題に移ってしまうことにした。

 

「それで今回は何がお望みかしら。今は古代遺物(アーティファクト)が品薄だけど、代わりに幻獣の素材は良いのが入ってるけれど」

 

「そちらも興味はあるが……まあいつものを頼もうか」

 

「残念。奇術師を名乗るのなら少しは冒険したら?」

 

「完成された芸術とは、使い慣れた道具から生まれるものなのだよ」

 

 取り置いていた品を紙袋に入れて渡し、対価のミラを受け取る。

 

「ではこれで失礼させてもらうとしよう。今後ともよろしく頼むよ、魔女殿」

 

「はいはい。ヴィーちゃんによろしくね」




バリアハート行くまでに一話使うことになるとは思いませんでしたが、マキアスだけ触れるのもなーということで。


最後の店主はファルコムの某作品のキャラから外見と名前を借りてますが、中身は結構別物になると思います。

客はバレバレだとは思いますがお馴染みのアイツ。バリアハート編難易度アップの原因その1。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。