灰と焔の御伽噺   作:カヤヒコ

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仕事の繁忙期で一月ほど書いてなかったら見事にスランプに陥ってました……。


一応山場のひとつなので、今回の文字数はいつもの六割増しです。


魔女と騎士②/⓪

Ferrum umbra(昏き刃よ)

 

 詠唱と共に、エマを囲むように魔剣が現出する。白い炎を剣の型に押し込めたようなそれらの数は、実技テストの時の倍である十本。杖を掲げる動きに合わせ、魔剣は一斉にその切っ先を≪獣≫へと向けた。自身を脅かしうる術を持つ少女に≪獣≫も敵意を集中する。

 

 先手は≪獣≫。突進してくる黒い巨躯に対し、魔剣の半数が飛び出す。エマの魔力を凝縮した白刃は、導力銃で傷一つ付かなかった甲殻を容易く切り裂いた。傷口からは血液の替わりに黒い蒸気が噴き出すが≪獣≫は止まらない。瞳のない黒一色の双頭が、確かな殺意を抱いて牙を剥く。

 

 エマは即座に待機させていた魔剣を眼前に呼び出すと、刀身を噛ませることでこれを防御。更に二本が≪獣≫の頭部を脳天から顎まで串刺しにした。

 

 脳を破壊されて無事な生物がいる筈もなく、その身体が崩れ落ち──次の瞬間、泡立った首から同じ頭が形成される。この世の常識を疑うような現象だが、生憎と常識から半歩外に踏み出しているエマに動揺はない。

 

 彼女がこれまで相手にしてきた魔性達の構造は、いずれも実在する生物のそれとはかけ離れていた。肉体の一部を破壊しただけでは容易く再生され、物理的な攻撃手段が全て通用しないなんてことも珍しくなかった。≪獣≫の肉体がこれまで捕食した魔獣をベースとしているのあらば或いは……とも考えたが、そこまで甘くは無かったようだ。

 

(なら次は……)

 

 打つ手を思案していると、≪獣≫は広げた翼を羽ばたかせて浮上した。魔剣で牽制しつつ、エマは後方へ駆け出す。負傷者から≪獣≫を引き離すと同時に、先にある狭い通路に誘い込んで行動を制限する狙いであった。

 

 しかし≪獣≫は両翼で空気を叩いて急加速。魔剣を振り切りエマの背後の壁に貼りつくと、そのまま急降下する。転身することで押し潰されることは回避したが、鎌のような尾の一撃を躱せない。寸でのところで魔剣を差し込み軌道をなんとか逸らしたが、エマは肩口を浅く斬り裂かれた。

 

 ファイアボルトを炸裂させ、爆風で強引に距離を取る。更に≪獣≫の真上から落下させた魔剣が肉厚の薄い翼を引き裂き、≪獣≫は苦悶の声を上げた。

 

「エマ君!! くそ、僕も……」

「来ないで!! 皆さんの治療を優先させてください!!」

 

 声を張り上げて、こちらに加わろうとするマキアスを制止する。今は≪獣≫の狙いを自分に集中させることで凌いでいるが、それは薄氷の上を歩くように危うい。敵の狙いが分散すれば対応の幅が増え、エマ一人の手では負えなくなってしまう。状況を好転させるには優れた前衛が必要だが、フィーは負傷して継続的な戦闘が困難。ユーシスは怪我を除いても単純に実力が足りない。

 

(セリーヌやリィンさんがいてくれたら……)

 

 ここにはいないパートナーを思い浮かべてしまい、すぐに打ち消した。存在しない希望に思考を割く余裕はない。

 『裏』に目を光らせ、『表』の人々を守る。それが魔女の──否、エマ・ミルスティンが自身に課した使命なのだから。

 

 

 一瞬だけ背後に視線をやれば、マキアスとユーシスが領邦軍の兵士の手当てを行っていた。フィーも回収して治療を済ませており、状況に対応できるよう翡翠のような目を凝らしてこちらを見つめている。

 

「ふぅ……」

 

 呼吸を整え、エマは魔力を編み上げる。魔剣の半数を消去し、残りに魔力を集中させて強度を底上げした。

 ≪獣≫は身体を震わせると甲殻と翼を体内に収め、代わりに尻尾を三アージュ近くまで伸長させる。素早さと不死身の肉体で動きを止め、尾の刃で両断するのが狙いであろう肉体の変異は、最早知性すら魔獣の域を逸脱していることを示していた。

 

 漆黒の異形が石床を滑るように疾駆する。エマは魔剣を周囲に散らしつつ、進路上に魔力の障壁を展開。さして広くもない通路では避けられず≪獣≫は頭から障壁に激突し、勢いのまま粉砕する。床を蹴る脚は止まらないものの速度は僅かに鈍らせることは出来た。

 続けて火のアーツを放つ。これは跳躍で躱されるが、着地の瞬間に脚と両の頭に高速で魔剣を撃ち込んだ。床に足を縫い付けられたまま加速を止められない≪獣≫は姿勢を制御できずに派手に横転する。

 

 重要なのは威力ではなく狙いとタイミング。敵の勢いを利用して崩す『螺旋』の動きをエマなりに再現した魔剣捌きだった。

 

 すぐには起き上がれない筈の≪獣≫だが、ぴん、と鋭利な尻尾だけがバネ仕掛けのように跳ね、しなりながら振るわれた。エマから見て右肩から左膝までを両断する袈裟懸けの一閃。三アージュという驚異的な間合いに逃げ場などありはしない。

 

 恐怖を飲み込み、エマは駆け出した。意識を集中させ、幾度となく見てきた『彼』の剣筋を己が魔剣になぞらせる。

 

 盾にするのではない。尾が描く軌道と平行になるよう魔剣を置き、尾と魔剣が重なった瞬間に魔剣をズラして弾き上げる──!

 

 命を乗せた天秤は、エマの側に傾いた。

 

 至近で鳴る風切り音。掠めたのか、耳が火を点けたように熱を帯びる。踏み込んだ先は≪獣≫の懐、間合いの内。槍を扱うように突き出された杖の先には、蕾のように膨らんだ灯があって。

 

「ヴォーパルフレア!」

 

 灼華が咲いた。瞬時に膨張した青い炎が解き放たれる。ゼロ距離からの砲火は≪獣≫を飲み込み、その半身を焼き払った。残る半身は壁に叩きつけられ、黒い汚泥となって溶け落ちていき──再生する。

 

「あれでも駄目なのか……!?」

 

 顔に絶望を浮かべたユーシスの呟きは、周囲の人間全ての気持ちを代弁していた。目の前で繰り広げられる常識の埒外の戦闘に割って入ろうとする気はもうない。実力不足以前に、前提が違う。世界が違う。絶対的なルールがあるとして、それを知らない者と熟知している者とでは闘い自体が成立しないように。

 

 唯一希望を見出しているのは、会心の一撃が効かなかったはずのエマだった。

 

(見えた……!)

 

 ≪獣≫が再生を始めようとする瞬間、金に煌めくエマの瞳は≪獣≫の体内に埋まっている、拳大の球体のようなものを捉えていた。それこそが霊核と呼ばれる存在の源。物理攻撃を受け付けないタイプの魔性でも、現世に留まる要石である霊核だけは例外だ。この手の相手を滅するには、この霊核を探し当てて破壊しなくてはならない。≪獣≫は色々と例外だが、倒し方が分かったのは大きな収穫だ。

 

(けど、私一人じゃ倒せない……)

 

 一手違えば即死する極限状態の中、全力で魔術行使もしていたのだ。急速に擦り減った精神と消費した魔力は疲労という形で肉体にフィードックされ、手足が重く感じる。このままいけばエマが先に音を上げるのは目に見えていた。せめてもう少し、皆が逃げられるだけの時間を稼がないとと気合を入れ直すエマ。そして見つける。

 

 ≪獣≫から長い尻尾が、まるでホースのように水路に沈んでいるのを。

 

「左!!」

 

 フィーの叫びに反応して剣を盾にした直後、視界が回った。高速で景色が流れ、腹部の衝撃で強引に息が吐き出される。

 尻尾だけいち早く再生させ、身体の再構築に紛れて水路に潜ませていたのだと理解した時には、二足甲殻型(フェイトスピナー)へと変異した≪獣≫が鎌状の腕を振り下ろしていた。杖を差し込んで盾にするが、尋常ではない力に腕がバラバラになりそうだ。

 

 エマを救おうとマキアスの銃撃が入るが、甲殻に弾かれてしまう。接客しようとするフィーは尻尾に牽制されて近づけない。そうこうしている内に凶爪がエマの鼻先にまで接近し──カラン、という軽い音を耳にした。

 

「え……?」

 

 一瞬だけ、音源に視線を向ける。

 

 尾で叩かれたときに引っ掛けたのだろう。裂かれたブレザーの内ポケットから落ちてきたのは、綺麗に形を整えられた水晶に紐をつけたペンダント。エマが作った、世界で二つだけの『お守り』が光を発していた。

 

 それが意味するところに背筋が凍るエマだったが、よく見れば光は一定の間隔で点滅を繰り返している。お守りにそのような機能は備えていない為、異常の原因は片割れを所持する相手方にある。もしもそれが意図的なものであるのなら──。

 

「……!!」

 

 閃いた。根拠もないのに何故か確信があった。

 魔力で懐のARCUSに干渉し、強引にオーブメントを起動させる。必要なプロセスの一切を省略して発動したアーツは属性すら定まらず、行き場を失った導力は双方の目の前で爆発した。怯んだ≪獣≫はその場から飛び退き、爆風に身体を叩かれたエマは地面を転がる。

 

Et manu capiet coniecturam adest(標はここに) Viam sternere volunt(彼方への路を拓く)

 

 膝立ちになって、再び肉薄してくる≪獣≫を前に強引に作った猶予で組み上げるのは召喚の術式。使い魔や特定の証を刻んだものを自分の手元に呼び寄せる魔術だった。術者の技量によって呼び寄せられる範囲が左右され、今のエマではオーロックス砦まではどうあっても届かない。

 

 けれど分かる。

 

 絶対に、いる。

 

Veni huc eques lexus(我が下に来たれ 無彩の騎士よ)!!」

 

 叫ぶような詠唱と同時に空間が揺らめき、焔の一閃がエマと≪獣≫を別つ。

 少女の青い瞳には見慣れた背中が広がって。

 

「無事か、エマ!!」

 

 太刀に残る火の粉を振り払いながら、リィン・シュバルツァーが現れた。

 

 

 時は少し遡り、オーロックス砦からバリアハートまでの道中。人形兵器に足止めを喰らい鬼の力を使うことも考え始めたリィンの前に、闖入者は現れた。

 

「『ラグナヴォルテックス』!!」

 

 突如として吹き荒れる突風と網膜を貫くような稲光。咄嗟のことで目を閉じたリィンが目蓋を開けると、視界に映っていたのは半壊した人形兵器の片割れと白いコートを羽織った短い金髪の青年だった。

 

「よ。無事だなリィン?」

 

 軽い調子で手を振って話しかけてくるこの人物をリィンは知っている。巡回魔女修業の旅の中で出会い世話になった、今となっては数少ない帝国で活動している遊撃士。

 

「トヴァルさん!? どうしてここに……」

「いやなに、おまえさん達に何かあった時のフォローをサラから頼まれててな。つっても大概面倒なことに巻き込まれてるみていだが……っと!」

 

 背後の気配に反応し、トヴァルは手に持っていた戦術オーブメントを掲げる。

 駆動時間は一秒未満。弾けた金色の球体(ゴルトスフィア)が人形兵器の放ったミサイルを全て相殺した。

 

「どうやってオーロックス砦から抜け出したとか色々訊きたいが、今は不問にしといてやるよ。エマちゃんが地下に閉じ込められたお仲間を助ける為に動いてるから、ここは俺に任せておまえは行け」

 

 マキアスのことだと確信したリィンは、奇術師から聞いた黒い怪物の話を思い出して焦る。アレが既に市街地で暴れているのなら大きな騒ぎになっている筈だ。無論遭遇していない可能性も十分あるが……そうでなくともやっていることは脱獄の手引きだ。手を貸すにせよ止めるにせよ、早急に合流したほうが良いだろう。

 

「……すみません。この借りはいつか必ず返します」

「おう。頑張って助けてやれよ『騎士』サマ」

「そ、それは言わない約束だったでしょう!」

 

 多様なアーツが人形兵器に襲い掛かり、リィンはその脇を抜けて走り出す。一流の遊撃士であるトヴァルには幾度となく助けられたことがあり、その実力はリィンも良く知るところ。人形兵器一体なら心配はいらないはずだ。

 

 人気のない街道を駆け抜けながら、エマと合流する手段を考える。設備が整っていないバリアハート、増して地下ではARCUSで通信も届かない。街に着いてからユキノに調べてもらうのが確実だが、それでは間に合わないかもしれない。ひとまずは自分の存在を伝えられる方法を考えて、

 

「……杞憂でも俺が怒られるだけだしいいか」

 

 苦笑したリィンは懐を探り、水晶型のペンダントを取り出す。エマが作ってくれた『お守り』は鬼の力を感知して、万が一暴走した場合は精神を落ち着かせる結界を自動で張って暴走を抑えてくれる優れものだ。

 

 お守りを握りしめ、意識を内へと向ける。火種を大きくするようなイメージで鬼の力を暴走させない程度に引き出そうとするが、同時にお守りが光を発し、ローゼリアの封印術式によって抑えられることで光は消えた。それでも構わずリィンは何度も鬼の力への干渉と封印を繰り返し、光も点いては消える。

 お守りはエマの持つものとリンクしており、エマ側からでも状態の把握が出来る。サインが正しく伝われば、後は彼女の判断に任せれば良い。

 

 程無くして眼前の空間が歪み、開いた穴からは別の景色が映し出される。そこに黒い異形が見えた瞬間、リィンは躊躇なくその穴に飛び込んだ。

 

 

 

 ──やっぱり、こうなるんだ。

 

 リィンの姿を認めたエマは、そんなことを思った。

 ここまでに戦いがあったのか、制服ではない簡素な上着は汚れており、破れた裾からは腹に巻かれた包帯を覗かせる。肩は激しく上下していて、息を切らして走ってきたのが一目瞭然だ。傷は塞がっても万全とは程遠い状態で、だ。

 何で、どうやってと問い詰めたい気持ちはあれど、結局はエマ自身がリィンだからという理由で納得してしまう。誰かの為に無茶をする彼の悪癖(善性)と、だからこそ救えたものを見てきたからだった。

 

 今回は巻き込まないと決めていたのに頼ってしまって。けれどやっぱり、助けに来てくれたことが嬉しくて。いつだって矛盾する心は本当にままならない。

 

 

「リィン!?」

「どうやって……というか今、何もない場所から現れなかったか!?」

 

 空間を転移してきたリィンにマキアス達が驚いているが、説明している暇はない。≪獣≫は乱入者であるリィンを警戒しているのか、身体を怪鳥に変化させてこちらの様子を伺っているからだ。

 

「姿が変わった……」

「捕食した魔獣の形態と能力を得ています。複合させることも可能のようです。霊核を見つけたので、本質的には霊体の類かと」

「……分かってたけど、まともじゃない相手ってことか」

 

 太刀の切っ先と視線を《獣》に向けたまま、リィンは倒れたエマに手を差し伸べて告げた。

 

「──いけるか?」

 

 その声に、その横顔に、疲労を訴えていた身体が奮起する。いつだって、この少年がくれる信頼がエマ・ミルスティンを支えてきた。

 

「……勿論。導き手が先に倒れる訳にはいきませんから」

 

 騎士の手を借りて魔女が立ち上がる。リィンの一アージュ後方がいつもの立ち位置。小規模ながら幾つもの異変を解決してきた二人が今、反撃の狼煙を上げる。

 

 太刀を手にリィンが駆け出す。接近を嫌う≪獣≫は翼を広げ、太刀の届かない上空へと浮上した。

 そこへリィンと≪獣≫の間を結ぶように魔剣が三本並んだ。リィンは加速の勢いを乗せて大きく跳躍し、刀身を足場に更に跳ぶ。階段を段飛ばしで駆け上がるかのようにして上空の《獣》へ一気に接近した。

 

 唐竹割りが片翼を斬り落とす。バランスを失い墜落する≪獣≫の肉体を噴火(ヒートウェイブ)で打ち上げた。先に着地したリィンが追撃を放つ。

 

「業炎撃!!」

 

 大上段から太刀を振り下ろし、≪獣≫を再度地面に叩き落とす。地面を転がる黒泥の塊に追撃を重ねるが、それは鎧を思わせる盛り上がった肉体に受け止められた。

 四肢を生やし犬型となった≪獣≫が太刀に喰らいつく。得物を奪われまいと抵抗するが、凄まじい膂力に太刀を取り上げられてしまう。丸腰となったリィンに≪獣≫は飛び掛かり、

 

「させない! 大いなる守りよ(Scutum)!」

 

 魔力の障壁に頭から激突する羽目になった。サポートに集中できる分、強度は先程よりも固い。たたらを踏む≪獣≫に明確な隙が生まれる。

 

「リィンさん、使ってください!」

 

 開かれたリィンの掌へ吸い込まれるように魔剣が落ちる。純白の柄を握ったリィンは腰を落としたまま右半身を後ろにずらし、弓を引くようにして剣を肩と水平になるように掲げた。八葉にはない突きの構えは、シュバルツァー家に伝わる騎士剣術のもの。

 

「──フッ!!」

 

 真っすぐな一突きが≪獣≫の下顎を抉り、太刀が地面に落ちた。拾い上げようとするリィンに対する≪獣≫の妨害はエマが魔剣を巧みに操って防ぎきり、無事回収したリィンは緋空斬で距離を空ける。

 

 ≪獣≫を挟んで向かい合う二人が交わす視線は一瞬だけ。ARCUSを繋ぐ光線の輝きが増す。

 小さく頷いたエマは新たに二振りの剣を召喚する。先程よりも長く鋭い、リィンの太刀に似た形状だった。

 

「行くぞエマ!!」

「はい!!」

 

 先の意趣返しのように、水路に潜ませていた魔剣が一本、≪獣≫の横っ腹に向かって飛ぶ。奇襲は反応されて尻尾で弾かれるが、隙はそれだけで十分だ。

 

「明鏡止水……我が太刀は無」

 

 疾走する剣士に魔剣が呼応する。繰り出すのはかつて老師が見せた漆の型が奥義の一つ。魔女の導きが、リィン一人の力では未だ届かない領域へと押し上げる。

 

『相の太刀、【白葉】!!』

 

 リィン本人と、彼の太刀筋をトレースした二つの白い太刀。絡み合う三つの剣閃は嵐を呼び、≪獣≫の全身に斬線を刻み、斬り飛ばす。嵐の後に残ったのは、輪郭を削り落とされて黒い泥を垂れ流す奇怪なオブジェのみ。

 

「今だ核を!」

「視えてます!」

 

 戦術リンクの視界共有によって、エマが霊視しているものをリィンも把握する。弱点の霊核は丁度≪獣≫の肉体の中心に位置していた。黒泥という鎧の大部分を剥いだ今が絶好の機会。エマは蒼炎を槍に変えて撃ち放ち、

 

 それより先に、黒が弾けた。

 

「っ……なんだ!?」

 

 咄嗟に顔を覆った腕に、粘ついた感触と不自由さを覚えるリィン。それらを強引に振り払ってみれば、そこに≪獣≫の姿はなく、床や壁に幾つもの黒い染みが点在する光景だった。

 呆然としたのは一瞬。肉体を数十に分裂させたのだと気づいたリィンは周囲を見渡して、動く黒色を探す。

 

「……上だ!!」

 

 霊核を維持できるギリギリのサイズまで小さくしたのだろう。黒いトカゲが天井に貼りついていた。逆さまのままで這いながら、壁や天井にへばりついている僅かな黒泥(肉体)を回収して逃走する。エマが追撃するも命中せず、≪獣≫は暗がりの中に飛び込もうとしていた。元より薄暗い地下で、照明は廊下のみ。影に紛れてしまわれると探し出すのは困難を極める。

 

(マズイ、追いつけない……!!)

 

 尋常ではない戦闘力と適応力を持つ≪獣≫をバリアハートに留めてしまえばどれほどの被害が生まれるのか想像もつかない。トヴァルやユキノのような実力者を待つ暇はなく、ここで逃がす訳にはいかないのだ。

 しかし大技を繰り出した直後で余裕のない二人には無情にも≪獣≫が逃げ切るのを見送るほかなく、

 

 

「逃がすか!! 頼んだフィー!!」

Ja(ヤー)

 

 だからこそ、いざという時に備えていた三人がその役割を担った。

 

 ユーシスが用意した土の槍(アースランス)を発射台としてフィーが飛ぶ。梁に結んだワイヤーで身体を支えながら壁を走り、≪獣≫へと接近。マキアスが射撃で≪獣≫の足を止めた隙を逃さず、空中で身体を捻って蹴りを放った。しなる白い足をまともに受けた黒いトカゲは吹っ飛び、少し離れたところに落下する。

 

「ユーシスさん、お怪我は……」

「心配ない。兵も粗方治療を済ませて、上への報告とここの封鎖に当たらせている」

「そうか……。よし、後は俺とエマでなんとかするから──」

「退けと言うなら聞かんぞ」

「あれをどうにかする算段があるならさっさと話したまえ」

「……ええっと」

 

 二人はフィーを連れて下がっていてくれ、と言う前に詰め寄られて思わず口を閉じてしまう

リィン。昨日とは打って変わって協力的な様子に戸惑い、エマに視線を投げると苦笑で返された。それで自分が寝ている間に何らかの良い変化があったのだろうとリィンも察する。

 

「……行きましょう。指示は走りながら出します」

 

 エマが促し、四人は倒れた≪獣≫の下に急ぐ。更なるワイヤーを経由して壁伝いに移動するフィーを視界の端に捉えつつ、途中リィンは小声でエマに訊ねた。

 

「(いいのか?)」

「(難しいところですけど、ここで時間を浪費する訳にもいきません。確実に倒す為の手が足りないのも事実ですし、それに……)」

「(それに?)」

「(皆で戦う機会は、これからの為にも必要かなって)」

 

 魔女として判断するなら、彼らを魔性との戦いに巻き込むのは当然アウトだ。だがⅦ組の委員長としては、先月から続く二人の関係がようやく改善の兆しを見せようとしているこの状況を見逃せない。

 魔性から人々を守る。Ⅶ組の仲間と実習をやり遂げる。義姉ならこの程度鼻歌交じりにやってのけるだろうに、追いつこうとする自分が出来なくてどうするのか。

 

 短い道中でフィーも合流し、五人揃って≪獣≫の下に辿り着く。黒い泥はボコボコと泡立ち、その体積を増やしていた。

 

「もう再生が始まっているか……」

「でも速度は落ちてる。一気に叩けばいけるはず」

「足を引っ張るなよレーグニッツ」

「こっちの台詞だ。君こそ遅れをとるなよ」

「作戦は伝えた通りに。皆さんお願いします!」

 

 一歩前に踏み出したリィンが太刀を掲げ、口を開く。

 

 

「特別実習の総仕上げだ……。士官学院≪Ⅶ組≫A班、全力で目標を撃破する!!」

『おう!!』

 

 不思議と良く通る声が、全員の闘志に火を点けた。

 

 マキアスの援護射撃を受けながら、まずはリィンが≪獣≫と打ち合いアーツ駆動までの時間を稼ぐ。頃合いを見計らって距離を取り、ユーシスが『エアリアル』を発動。直接的な攻撃ではなく、≪獣≫を竜巻で囲うことで逃亡を阻止する為だ。猟犬へ姿を変えて風の檻を強引に食い破ろうと動く≪獣≫の付近に、ワンテンポ遅れて空の導力が満ちる。

 

「駆動は意地でも保たせる。全力でやれ!!」

「分かりました……『ダークマター』!」

 

 元よりアーツに関して抜群のポテンシャルを誇るエマがその導力の大半を注ぎ込んで生み出した吸引力場は、周囲の大気を竜巻ごと引き寄せる。結果、風の檻は圧搾空気となって≪獣≫の全身を締め上げた。

 

「ぐ……」 

 

 外と内からの抵抗に何度もアーツの制御を手放しそうになりながら、必死に竜巻を維持するユーシス。

 

 アーツの効力が途切れ、生身の肉体であれば挽肉になっていたであろうほどに強い力で圧し潰された≪獣≫が力なく崩れ落ちる。その目の前に妖精が飛び出した。

 

「シルフィード……ダンス!」

 

 ≪獣≫に貼りついたフィーが縦横無尽に双銃剣を振るう。鼻先、目元、耳、脚の健……五感と行動の起点に狙いを定め徹底的して狙い、反撃の芽を潰していく。次第に呼吸が続かなくなり足が止まるが、その隙をマキアスと復帰したユーシスが押し留める。稼げた時間はおよそ十秒。その間に呼吸を整えたフィーは再び急加速し斬撃を見舞った。

 

 ……しかし、どれだけ必死にダメージを与えても黒い肉体は瞬時に再生される。対してこちらは常に限界まで力を振り絞って戦っている極限状態。肉体的にも精神的にも疲労が加速度的に増していく中、パフォーマンスを維持するのはどうしても困難になる。

 

「しまった……!」

 

 フィーとマキアス&ユーシスによる封殺ループの三巡目に、マキアスが銃撃を外してしまう。妨害から解放された黒犬が狙うのは、インターバル中の床に蹲っているフィー。酸欠に喘ぐ身体をのろのろと回避に動かすが間に合うはずもなく、牙を突き立てようとする。

 そこへユーシスが投擲した騎士剣が、黒犬の首に突き刺さって動きを止めていた。再生までの僅かな時間でフィーが復帰する。

 

「助……」

「……ッ!」

 

 礼を告げる時間すら惜しいと、視線で黙らせるユーシス。得物を失った動揺を見せることなくARCUSを手に駆動に入る様子に、マキアスもまたショットガンのリロードを無言で済ませ次に備える。

 

 気の遠くなるような思いに苦しみながら、何度も何度も、彼らは綱渡りの時間稼ぎを繰り返す。

 

 

 その一刀へ、繋げる為に。

 

「……」

 

 最初に≪獣≫と打ち合ってから退いた後、目の前の戦闘をリィンは見ていなかった。瞳を閉じたまま腰を落とし、静かに闘気を練り上げている。今繰り広げられている綱渡りの状況を見てしまえば、きっと何も考えずに助けに入ってしまうと判断したエマの指示によるものだった。

 

「ッ、エマ……!」

「駄目です。まだ、もう少しだけ堪えてください」

 

 足止めを任せ、黒泥ごと霊核を斬る。チャンスは一度きりのそれを成功させることが、今回リィンの役目。絶対に失敗できないからこそ、今にも飛び出していきたい衝動を必死で堪えていた。

 

月の光よ(Lux lunae) 彼の者に魔を打ち払う加護を授けよ(Dare potestatem daemonium)

 

 エマは霊杖プレアデスを掲げ、魔力をリィンの太刀に集める。魔力を武具に宿らせる付呪の術(エンチャント)と呼ばれる魔術だ。

 属性は『月』。夜の象徴であり、古来より魔に属する物と深い結びつきがあるとされたそれの概念を帯びた物体は、転じてこの世ならざるモノに強く干渉できる力を得る。

 白い輝きが満ちる愛刀に、リィンもまた自身の闘気を焔に変換して太刀に纏わせる。二つの力は融け合いながら一体となり、白銀の炎が刀身を覆った。

 

 闇を包む──魔を肯定する月。闇を払う──魔を否定する焔。相反する二つの光を湛えた太刀は、魔を屠る刃となる。

 

「神技……月焔剣」

 

 神秘的な銀炎に気づいた≪獣≫が、怯えたように後ずさった。

 

「──今です!」

 

 凛とした声は、暗闇の中で進むべき道を示す篝火のようにリィンを導く。

 目を見開いた剣士は、弾丸の如く飛び出した。

 

 初めて危機的脅威を認識した≪獣≫は、既に息も絶え絶えだった三人を吹き飛ばし、重厚な甲殻の鎧を構築する。リィンやエマの攻撃も弾き返してきた鋼鉄さながらの堅牢さはそのまま、厚みは三倍となり最早壁に近い。

 

 だというのに。

 

 

「斬……!!」

 

 袈裟懸けに振るったその一太刀は、その壁を容易く両断する。

 

 感触は、溶けたバターを割くように軽かった。抵抗を感じないままリィンは走り抜け、≪獣≫の凡そ三分の一を斬り捨てる。白銀の焔は切断面に燃え移り黒泥を焼いていく。肉体の損壊に一切反応しなかったはず

の≪獣≫が、ここにきて初めて苦悶の叫びをあげた。

 

 窮地に立たされた≪獣≫の生存本能が更なる進化を遂げさせる。腹から一抱えサイズの黒泥を幾つか溢すと、それらは小型の犬型魔獣となり、殺意を滾らせてリィンとエマに襲い掛かった。

 

「分裂……いや、産んだのか!?」

「惑わされないで! 核のある本体だけを狙ってください!」

 

 最初に向かってきた一匹を斬り裂くも、後続の黒犬に噛みつかれる。痛みは大したことないが、自分より小さく機敏に動き、かつ抜群に連携の取れている複数体を相手に苦戦を強いられてしまう二人。

 

「弧月一閃!」

 

 リンクをエマから切り替えた(・・・・・・・・・)リィンは全方位へと銀炎を放ち、黒犬を一掃する。銀の熱波をかき分けて進んだ先では≪獣≫が巨大な腕を生成し、石塊──砕けた柱の一部を手にしていた。

 

 魔性相手には強力な特効を発揮する月焔剣だが、物理的なものに対してはその限りではない。受ければ太刀ごと持っていかれることは想像に難くなく、迫る石柱を屈んで避ける。続けての振り下ろしを前に、リィンは太刀を手放して叫んだ。

 

「任せたユーシス!!」

 

 

 無手で石柱を横から弾くリィンの脇を、太刀を受け取ったユーシスが駆け抜けた。

 

 慣れない重さと柄の感触を手に走る。実家の膝元たるバリアハートの真下で現れた脅威、解き放たれれば多くの領民に危機が及ぶこの状況で奮わずして何が貴種かと、疲労困憊な身体に力を入れる。

 

(──いや、それだけではないか)

 

 戦術リンクを通して伝わってくる思念。ここまで皆が懸命に繋ぎ、今自分に託してくれた信頼はユーシスにとって初めて感じる熱であった。自分を通した実家への畏敬や期待ではない、一人の男に向けられた仲間としての対等な信頼。

 応えなければならない……否、応えたいと強く思った。

 

「おおおおおおおおおぉ!!」

 

 これまでに一度も出したことのない大声を張り上げ、≪獣≫へと肉薄する。両者を遮るものはもう何もない。小細工のない単純な突きを≪獣≫の中心に向けて放ち──止められた。

 

「こいつ、腕の方を……」

 

 ≪獣≫の最後の悪あがき。全身から手当たり次第に生やした触腕でユーシスの肩や腕を強く押さえる。太刀に直節触れれば消滅するのなら、太刀の持ち手を遠ざけてしまえばいい。

 あと数リジュ詰めれば切っ先が≪獣≫に届くというのに、その僅かな距離が遠い。ジリジリと押し返されながらも拘束されて身体を動かせないユーシスに、伸びた大鎌が振り下ろされようとして、

 

「ユーシス・アルバレア!!」

 

 リィンとの間に結ばれていたリンクを吹き飛ばすような勢いで、光のラインがマキアスからユーシスへ届く。膝立ちで叫んだマキアスが銃口の狙いを定めるが、運悪くユーシスの背中が盾になってしまう位置であった。ぎょっとする一同の中で、戦術リンクを介して伝わった無謀な思考にユーシスは思わず顔をしかめる。

 

 ああでも、不思議と悪い気はしなかった。

 

「……やれ!!!」

 

 響く銃声。対人用のゴム弾──それでも直撃すれば骨折は免れない──を、最大出力で解き放つ。ユーシスの背中に激痛が走るが、その衝撃が最後の一押しとなって彼の身体を前へと進ませて。

 

 

 銀炎の刃は今度こそ、≪獣≫の霊核を貫いた。

 

 

 

 闇夜の中を、白い髪が流れる。

 

 呆然とするエマを、暴走するリィンは待たなかった。雄叫びを上げながら突撃し、無防備な彼女に向けて腕を突き出そうとする。

 

「下がりなさいエマ!!」

 

 間に割り込んだセリーヌが、魔術で障壁を張る。黒い瘴気を纏う拳が突き刺さり、ビリビリと振動する。

 

「セリーヌ!」

「……っ、何て馬鹿力なのよ」

 

 魔獣さながらの力任せな殴打が繰り返され、耐えかねた障壁が破壊された。セリーヌは即座に呪文を唱え、光る鎖がリィンを縛る。

 

「これが、リィンさんの異能……」

 

 あの優しい少年が、凶暴な魔獣のように変貌してしまう。これを恐れるなという方が無理だろう。本人が善良な人間であるなら尚更だ。

 

「ゥ……ガアアアアアァ!!」

 

 手足を縛られたリィンは暴れる。光の鎖からはガラスの割れるような音が連続しており、拘束が長くは保たないのは明らかだった。

 

「……逃げるわよエマ」

「え?」

「今のアタシの手には負えない。ロゼを呼んで抑えてもらうしかないわ」

「そんな、リィンさんはどうするの!?」

「どうも出来ないから放っておくしかないでしょ。今はアンタの身が優先よ」

 

 破砕音。鎖を力尽くで引き千切ったリィンは二人に襲いかかろうとして、その動きを止めた。胸を搔き毟りながら膝を折って蹲る。雄叫びを上げるばかりだった口からか細い声が漏れた。

 

「エ、マ……、セリー…ヌ……」

「リィンさん!? 意識が戻ったんですか!?」

「逃ゲ、ロ……。まだ、オレが残っテいル内二……」

 

 手元にあった石を握れば砂粒のように細かく砕け、掌についた傷はたちどころに塞がれる。異能は確実にリィンの肉体を変質させており、湧き出る破壊衝動に意識が飲まれかけているのが分かる。

 

「もうイイ……。コレで、今度コソ終ワりにスルかラ」

 

 リィンにローゼリアを待つ気はない。エマとセリーヌの退避を確認した後は、このまま人目の届かない森の奥に行くつもりだ。そう遠くない内に人間ではなくなってしまうけれど、これで誰にも迷惑は掛からない。初めて異能を解放した時からこうすべきだと分かっていたが、今回でようやく踏ん切りがついた。

 

 黒い瘴気は勢いを増し、リィンの全身を包むほどになる。もう時間がない。

 

「早、ク……!!」

「……ロゼが間に合えば希望はあるわ。少し待ってなさい」

 

 転移魔術が発動し、魔法陣がエマとセリーヌの足下で輝き出す。目まぐるしく動く状況にエマは流されるだけ。リィンを助けられる手段を持ち合わせておらず、何も出来ない半人前未満の未熟者の魔女はただ視線を往復させる。

 

 

 黒いカーテンの向こう側。両の瞳から透明な滴を流す彼の、ぎこちない笑顔。こちらを安心させようと作った笑みを見て。

 

 ──エマ・ミルスティンの(こころ)に、火が点いた。

 

 

 反射的に動いていた。転移の魔法陣を飛び出し、リィンに正面から抱きついた。

 

「!?」

「ばっ……何してるのよエマ!? 早くそいつから離れなさい!!」

 

 振り解かれないよう必死にしがみつきながら、エマは首を横に振る。溢れる瘴気はエマを侵し、吐き気と倦怠感が彼女の全身を包んだ。

 

「離レロ……ッ! モウ嫌なんダ、誰かヲ傷付ケルのハ」

「嫌です! 絶対に離しません!!」

 

 顔を上げて、彼の赤くなった瞳を見た。敵意と殺意、その奥にある畏れ。それらから目を逸らさず、伝えようとしていた言葉を告げる。

 

「貴方は分かってない!! そうやって一人で決めて、納得して、いなくなって……それで残された人がどんな思いをするかなんてこれっぽっちも考えていない!!」

 

 いつもと変わらぬ笑顔で出て行った母は帰らぬ人となった。姉のように慕っていた女性は何も言わずに姿を消した。

 いつだって、エマ・ミルスティンの大切な人は突然に自分の下から去ってしまう。それは彼女の心奥で生々しく残る傷跡(トラウマ)だ。

 

 誇らしげに家族のことを語ってくれたリィンを思い出す。あんな風に他人を言える人間は絶対に孤独ではない。両親も義妹もリィンを愛している確信がある。

 

 きっと、家族はリィンの帰りを待っているから。自分と同じ目になんて、絶対に遭わせたくはないから。

 

「何も言わずに離れるなんて絶対にダメ!! 傷つけたことちゃんと謝って、話さないと許さない!!」

 

 外の事情に深入りすべきではないという魔女の掟はとうに彼方。家族を愛する一人の少女として、勝手に堕ちようとする彼への憤りをぶつける。

 

 その感情の昂ぶり、剥き出しのエゴがトリガーとなった。

 

 

 どくんと高鳴る鼓動と同時に熱が広がる。白い焔が、エマの身体から噴き出した。

 

「『魂の灯』……」

 

 白炎は爆発的な勢いで拡散するとリィンを包み込む。触れても熱くない、まるで陽だまりのような温かさをしていた。心地よさを覚えて、そこで破壊衝動が大人しくなっているのに気づく。中心にいる二人は分からないが、外から見れば白炎が黒い瘴気を燃やしていた。

 

 拮抗する白と黒は、前者に軍配が上がる。やがて瘴気は消え去り、リィンの髪と瞳は元の色を取り戻した。

 

「エマ……」

「お願い……まだ、間に合うはずだから」

 

 

 駆けつけて来るセリーヌの声が遠い。気力の尽きた二人は、折り重なって地面に倒れた。

 

 

 




本作のこの時点のエマと、原作Ⅲ時点のエマを比較すると以下のようになります。


魔力量(MP)  原作>本作
魔術の技量   原作≧本作
単独での戦闘力 原作<本作 

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