◇
リィンにとっての運命の日、空模様は曇天だった。
山中のユミルと麓を結ぶケーブルカーの中には、五人の男女が座っている。
「なんじゃこれ割と揺れるの……やはり転移で直接来た方が良いのではないか?」
「もう、大人しくしてて」
リィンの向かいには興味深そうに車内を歩き回るローゼリアと、それを窘めるエマがいる。名目上(実質的にも)彼女らの保護者となっているユークレスはリィンの隣に座り、魔女達の様子に苦笑を浮かべていた。見た目も中身も子供にしか見えない里長の相手は慣れているのだろう。
まだ季節外れの雪が残る山肌を撫でる風が、ケーブルカーを一際大きく揺らす。窓から見える景色が見慣れたそれと重なり、程なく到着することを察したリィンは、残る一人に向けて言った。
「ヴェンツェルさんも、ここまでありがとうございます」
「見届けまでが仕事の内だ。君が気にすることではない」
ヴェンツェルと呼ばれた短い金髪の青年は目を合わせ、淡々と答える。胸元には支える籠手──遊撃士協会のエンブレムが刻まれていた。
──リィンが異能を暴走させてから三日が経った。
ユミルに帰る旨をローゼリアに改めて宣言した後、身体の休養と外出の準備、そして『設定』を練り上げるのに丸一日費やした。その後里を出た四人はルーレまで転移して遊撃士協会を訪ね、長い手続きを済ませてルーレで一泊。翌日になって手が空いたヴェンツェルが合流し、ようやくユミルに向かうことを許された。
実家には既に遊撃士協会から訪れる日時の連絡が入っているので、あちらが一行を迎える準備は整っているだろう。遊撃士の立ち合いもある以上、お互い逃げ場はもうないのだ。
「………………」
気を落ち着けようと深呼吸すればするほど、鳩尾の辺りが重くなる気がする。鉛を飲んでいるかのようだ。
エマの言う通り、理性では家族が心配してくれているのだと分かっている。
けれど、恐い。自分を見て怯える、もしくは腫れ物に触るかのような扱いをされる光景を想像しただけで身体が冷え切っていく。全てを失ったリィンにとって、シュバルツァー家は何物にも代えがたい繋がりなのだ。
「リィンさん」
呼び声に顔を上げれば、目の前に少女の顔。膝の上で固く結ばれた両の拳を、白い手が包んだ。
「大丈夫です。多分、必要なのは一言だけですから」
「一言……それって一体なんなんだ?」
「それは……教えられません。ご自分で考えてください」
「ええ……?」
困惑するリィンに、エマはそれ以上何も言わず離れていく。直後、ケーブルカーに備え付けられた音声がユミルへの到着を告げた。
「大丈夫かい?」
「……はい。行きましょう」
ケーブルカーから降り、自然とリィンが先頭となって歩き出す。乗り場は簡素なもので、幾つかの待合用椅子とが並べられているだけだ。
そこに、家族がいた。
「な……!」
父も母も妹も、入口の正面に並んで立っている。家で待っているとばかり思ってたリィンにとっては不意打ちだ。その場で立ち竦み、咄嗟に目線を床に落としてしまう。
しん、と。一拍、無音があった。
「……、さま」
義妹のか細い声が耳朶に触れる。緊張で言葉が喉に張りついて、上手く話せない。それでも、せめて格好だけでも向き合わなくてはとリィンは顔を上げれば、
「兄様……っ!!」
叫んだエリゼが、リィンの胸元に飛び込んだ。
「良かった……本当に良かった……! 私、もう二度と会えないんじゃないかって!!」
「エリゼ……」
エリゼは精一杯の力でしがみついたまま、整った顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃに濡らし、嗚咽を漏らしている。
良く見れば目元には酷い隈が出来ており、素人目にも何日もまともに寝ていないのが見て取れるほどだ。
「リィン」
呆然としていると、今度は父テオの声。彼は引き締まった表情でリィンに近づくと、徐に腕を上げた。その袖口からは巻かれた包帯が覗いている。
自身に向けて伸ばされる手を前に、叱られる幼子のように目を閉じて縮こまるリィン。怯える彼に父の大きな手が頭に載せられた。
「よく戻って来てくれた。きっと、私達には話さなくてはならないことは色々とあると思う。だが──」
「もうあなた。長い話は後にしてください」
「……ああ。そうだな」
最後に母ルシアが右腕をリィンの、左腕をテオの背中に回し、家族を一つに包み込む。
そして、
「────お帰りなさい、リィン」
数えきれないほど告げられてきたはずの言葉は、リィンの中に深く染み入り、闇を解いた。
じわりと、少年の目元が滲む。
二度と戻らないと思っていたものは、何も変わっていなかった。最初から、ずっとここにあったのだ。
リィンは同じように両親の背中に腕を回す。喉元にせり上がる熱を抑え、その『一言』を口にした。
「────うん、ただいま」
*
技術棟、という施設がトールズ士官学院には存在する。
学院の各種備品を管理する倉庫を改築した建物であり、技術部の部室を兼ねている。比較的歴史の浅い部活ではあるが、潤沢な部費と高い技術を有する部員の存在もあって備え付けられた設備は都市の導力工房にも劣らない。
出入りする人間は殆どが技術部員で、例外的に今代の部長と親交のある二年生の三人組が時折溜まり場にしている程度。在学中一度も立ち寄らない生徒が大多数の目立ないスポットである。
──昨年までは。
「失礼します」
「ども」
六月上旬のとある放課後。技術棟の扉を一組の男女──ガイウスとフィーが揃って開けた。Ⅶ組一番
の長身と最も小柄な二人が並べば、一見親子か歳の離れた兄妹に見えるだろう。
そんな二人に声を掛けたのは、この二ヶ月ですっかり顔馴染みとなった技術部員達だ。
「お、お前らか」
「やっほフィーちゃん。ARCUSの調整?」
「今回は早めにやっとこうと思って。ジョルジュ先輩は?」
「ごめんね~部長同士の会合あってまだ来てないの。クオーツだけなら作れるけどどうしよっか?」
「ん。お願い」
「ガイウスはどうする?」
「自分はスロットの開封だけなので、迷惑でなければこちらで待たせてもらいます」
「あいよ。そこで座っといてくれ。お茶はその辺から勝手に持っていって構わん」
軽い口調とは裏腹に、彼らは素早い手つきで傍らの機材を操作していく。二人は彼らの前に自身のARCUSを置いた。
最新型かつ試験機のオーブメントであり、戦術リンクという特殊な機能を組み込んだARCUSの調整を行える設備があるのは学内でもこの技術棟だけだ。加えてラインとスロットの変化は所持者に直接影響を与えるため、その場での細やかな調整が必要になる。技術部員も日々学んではいるが、現在それを完璧に熟せるのは部長のジョルジュ・ノームのみであった。
そしていかにジョルジュが優れた技術者であってもその身は一つ。多忙故に順番待ちが発生することも多く、自分の番が来るまでは技術棟で過ごすⅦ組の人間も増えてきた。オイルの臭いは多少気になるが、最新式の導力ケトルやコーヒーメーカーもあって意外と居心地は悪くない。教官に内緒で戦術殻を使わせてもらえることもあり、武術を嗜む面々にも割と好評なのである。
フィーとガイウスが半刻ほど時間を潰していると、ようやく待ち人が訪れる。平民生徒であることを示す緑色の制服に身を包んだジョルジュは二人を見て申し訳なさそうに頭を掻いた。
「二人ともごめんね。もしかして待たせたかな?」
「待ってたよ先ぱ──」
「やあフィー君! 君から私を待っていただなんて可愛らしい台詞を聞ける日が来るとは思わなかったよさあさあ私の腕の中で君の香りを堪能させてくれ!!!!!」
「っ!!」
ジョルジュの背後にいて気づかなかった変質者、もといアンゼリカ・ログナーの抱擁から、持ち前の瞬発力で逃れるフィー。両手は油断なく腰の双銃剣に添えられており、あと一歩でも踏み込んでくれば発砲も辞さない覚悟だった。男臭い部室に可憐な花が増えたとご機嫌なアンゼリカの奇行は慣れたもので、技術部員は何のリアクションもしていない。
ひとしきりじゃれ合った(アンゼリカ視点)後、ジョルジュの手によってフィーのスロットの開封作業が始まった。机上に置かれたフィーの腕にはリストバンドのようなものが巻かれており、小さなモニターとコードで繋がっている。微弱な導力波を当ててその人の七耀脈を測定する機器で、モニターに映し出された結果を確認しながらジョルジュが手を動かしていた。
「しかし戦術オーブメントとは凄いものだな。故郷で魔獣退治をする時にこれがあればと何度も思ってしまう」
調整を横から眺めていたガイウスが、ふとそんな感想を漏らした。
導力革命以降多くの在り方が激変したが、戦いを生業とする者にとって大きな恩恵を与えたのがこの戦術オーブメントだ。所持しているだけで身体能力を底上げし、武術の心得のない者でも容易に扱える
自分の腕に視線を落としたまま、フィーも「そだね」と同意する。
「これひとつで色々出来ちゃうし、団でも厳重に管理されてたよ。敵の野営地で保管されてた戦術オーブメントを盗む任務なんかも任されたことある」
「ほう、猟兵とはそんなこともやるのだな」
「戦わずに済むならそれに越したことはないし。ゼノっていうのが率いる妨害工作専門のチームもあったんだ」
先月の実習以降、フィーには少しだけ変化があった。端的に言えば、かつての猟兵時代のことを偶に話すようになったのだ。然程やる気を見せていなかった(それでも同級生の大半を圧倒する実力はあった)武術教練もここ最近は真剣に取り組んでいる。あまり多くは語らないが、五月の実習で何かしら心境の変化があったらしい。
フィーが猟兵だと明かした時にはクラスメイトに戸惑いが広がったが、エマを中心に五月A班がフォローを入れたことで、彼女が受け入れられるのに然程時間はかからなかった。元々好戦的な性格でもなく、周囲から世話を焼かれて可愛がられる子猫のような少女に警戒心を抱くのも難しい。
……とはいえ、全員がフィーを受け入れた訳ではなく。猟兵という出自は新たな火種をⅦ組にもたらしていた。
しばらく時間が経ってから、技術棟にラウラが入って来た。
「失礼します。ARCUSの調整に来たのですが……!!」
軽く室内を見渡したラウラは、フィーの姿を見るなり顔を顰めた。礼節を重んじ、表情には珍しく嫌悪が滲み出ている。ひりつく空気を敢えて無視して、ジョルジュが問いかけた。
「二人先約があるけど、ここで待つかい?」
「……いえ、明日また出直します」
一礼して踵を返すと、ラウラはその場を後にする。鋭い視線を向けられていたフィーは特に気にした風もなく、小さく欠伸していた。
「あの二人、何かあったのかい?」
「ええ……この前の武術教練で、少し」
訊いてくるアンゼリカにガイウスは数日前の武術教練での出来事を話し始めた。
*
その日武術教練を担当していたサラから告げられた授業は、『一人一回相手を指名して模擬戦を行え』というシンプルなものだった。参加人数も決着方法も自分達で決めて良し、という良く言えば生徒の自主性を尊重した、悪く言えば適当な内容は、二日酔いで考えるの面倒だったからに違いない。
そこでいの一番に名乗りを上げたラウラが、フィーとの一対一を指名した。
どちらも戦闘においてはリィンに次ぐ実力者である。興味を惹かれる者も少なくはなく、フィーの合意もあって二人は戦うことになった。
常よりも気迫に満ちたラウラと、気だるげなフィー。対照的な二人は向かい合い──結果、ラウラは惨敗した。
戦いが始まってから押していたのはラウラである。大剣を巧みに操り、速度に勝るフィーを剣先で捉え続けていた。そうして逃げ場のないグラウンドの端に追い込んでいき、止めの一撃が放たれようとした瞬間、フィーはスカートの裏に潜ませていたスタングレネードを落として炸裂させたのだ。
至近で閃光をまともに浴びたラウラは大きく怯み、その隙を刈り取られた。一気に加速したフィーが懐に潜り込むと、勢いのまま飛び掛かる。次にラウラが目を開けた時には、自身の腹上で馬乗りになったフィーが首元に双銃剣を突きつけていた。
「勝者フィー」という教官の宣言が、呆然としていたラウラを現実に引き戻す。
「……なんだ。こんなもんか」
得物を収めてラウラを見下ろすフィーの視線には、はっきりとした落胆の色があった。
「っ! そなた、最後以外は手を抜いていたな! 最初から全力なら、私の剣も避けられたはずであろう!」
「そんなのめんどいし、手の内を隠してただけ。あんな単純な手に引っかかるそっちが悪いでしょ」
「なんだと!?」
「はいはいそこまで。アタシの頭に響くから叫ばないの」
身体を起こしフィーへ詰め寄ろうとしたラウラに、サラが割って入る。
この日を境に、ラウラからフィーへの態度は急速に硬化していくこととなった。
*
「……なるほど。時間を置けばと思いましたが、そう簡単にはいきませんか」
夕方。技術棟での出来事をガイウスから話を聞いたエマは表情を曇らせていた。いつもの三つ編みは後頭部でお団子に纏められていて、白いうなじが露わになっている。空色のエプロンを付けた彼女の前にはサモーナの切り身が並んでいた。
ここは第三学生寮の一階。キッチンには夕食を作る四人の男女が揃っていた。
寮の管理人すら存在しない第三学生寮の家事は当番制だ。掃除、洗濯、炊事をローテーションで回しており、夕食は三人以上で作ることを基本ルールとしている。
料理出来るに越したことはないという委員長の方針の下、ラウラ・フィー・マキアス・ユーシス・ガイウス(帝国の食文化や味付けに慣れていないため)の料理に不慣れな組をAグループ、アリサ・エマ・リィン・エリオットの料理が出来る組をBグループと分け、なるべく双方のメンバーが一緒になるようシフトは調整されていた。貴族も平民も関係なく、Aグループは実践しながら料理を覚えていくのだ。
「確かにフィーが自分を猟兵だと言った時、ラウラが険しい顔をしていたのは知っていたが……彼女が誰かに対してあそこまで露骨に隔意を見せるものとは思わなかったさ」
背の高い棚から調理道具を取り出しつつガイウスは呟く。誰を相手に物怖じも分け隔てもなく、誠実かつ堂々と接することができるのがラウラ・S・アルゼイドという少女にガイウスが抱いていたイメージだった。
「ただ正直ラウラ君の気持ちも分かる。猟兵は報酬次第で略奪や虐殺を行うことも珍しくないと言われているし、一部では死神と揶揄する声もあるからな。隣国のリベールでは猟兵を雇うことを法律で禁じているくらいだ……っとと」
横から口を挟んだことで注意が逸れたのか、マキアスがジャガイモをやや不揃いなサイズに刻んでいく。その更に隣では、アリサが氷水から取り出したトマトの皮を剥いていた。こちらは慣れた手つきで切り分けたトマトを圧縮鍋に入れ、手間取るマキアスから残りのジャガイモを奪い取って包丁を入れていく。
「まあ私も猟兵に良いイメージは抱けないし、ラウラは正義感強いから受け入れられないってのは納得できるわ。エマはどう思う?」
「戦いに於いては、フィーちゃんの言い分も一理あります。正直ラウラさんにはもう少し歩み寄っていただきたいのですが……簡単にはいかないでしょうね」
あの二人の対立は、ある意味ユーシスとマキアス以上に溝が深い。根幹にあるのが身分の差異ではなく、本人達の気質の問題だからだ。
片や武門の名家として、正当な鍛錬によって磨かれた剣。片や猟兵として、血と硝煙の臭いが渦巻く戦場で鍛えられた刃。お互い真逆の道を歩いて力を積み上げてきた者同士、簡単に譲れるものではないのだろう。ラウラは勿論、フィーもああ見えてプライドは高いのだ。
エマはバターを溶かしたフライパンの上にサモーナの切り身を投入する。焼ける皮目に油断なく目を凝らしながら、焦げ付かないようにフライパンを揺すり、時折バターを切り身の上から掛けてやる。湯気に乗った香ばしい匂いに誰かが喉を鳴らした。
切った野菜は鍋に全て投入し、導力コンロに火を付けて煮込み終えれば工程の大方は終了する。
今日のメニューはサモーナのムニエルとトマト入りのポトフ。後は細かい味を整え、適当にサラダを作れば完成だ。一段落したところで、キッチンの四人は向かい合って話を再開した。
「それについては今どうこう出来る話でもないだろう。それよりも目先の問題に注力するべきじゃないか?」
「目先の、ですか?」
「中間試験」
「う、今くらい忘れようとしてたのに」
二週間後に迫った学生の本分であり、新入生の前に立ちふさがる最初の壁。士官教育に加え幅広い分野の授業が行われるトールズは試験の科目数も膨大で、難易度自体も最高峰だ。その極悪さは各々部活の先輩から聞き及んでいる。彼ら曰く、入学したことで抱いていた自信が粉微塵になったとか、新入生気分でいると地獄を見るとか。順位も貼り出されるので、成績優秀者の多いⅦ組としてはそうそう手は抜けない。
「こうやって回してる家事も結構負担になってくるわよね……。はあ、第一寮にいるメイドまでは望まないにしても、せめて管理人が来てくれないかしら」
「…………」
「どうした委員長、難しい顔をして」
「いえ、何となく望まない形で願いが叶いそうな気が」
「?」
「ただの予感ですから気にしないでください。テスト期間の家事については、夕食の後にでも全員で話し合いましょう」
「マキアス。試験勉強というのも慣れないのだが、具体的に何から始めれば良いんだろうか?」
「まずは自分の中で理解の薄い部分を探すのが手っ取り早い。これまでの小テストが残っているなら、見直しに付き合おうか?。数学や政経なら力になれると思うぞ」
「それは助かるが……マキアスの負担にはならないだろうか」
「気にしないでくれ。他人に教えることで自分の見落としを発見できるかもしれないし、僕にとってもメリットがあるさ」
「あら……」
「へえ……」
女子二人の意外なものを見る目にマキアスがたじろぐ。
「な、なんだ二人ともその顔は」
「べっつにぃ。何でもないわよねーエマ」
「ふふ、そうですね。前からなんだかんだ面倒見は良いですし」
「君達なあ……」
夕食の準備が大方終わり、後は配膳だけとなったところで寮のドアが開く。帰ってきたのはリィンとユーシスだったが、二人の肩と頭は濡れていた。
「二人ともどうしたの?」
「帰りがけに夕立に逢ったんだ。傘用意する暇もなかったからこの通り」
「え、降ってるの?」
「ついさっきからな。中々の勢いだぞ」
「言われてみれば、風が湿っているな」
言われて耳を澄ましてみれば、確かに雨音が聞こえてくる。一過性のものと
そんな中、マキアスがポツリと一言。
「……そういえば、洗濯物干したままじゃなかったか?」
「「「………………」」」
凍り付いた顔を見合わせる一同。雨足は増々勢いを増して壁を叩いている。そして洗濯物は屋上で纏めて干している──
「嘘でしょ!? 今日のやつお気に入りなのに!」
「残りの準備は私達でやるので、アリサさんは洗濯物の取り込みお願いします」
「任せた! あーもう絶対洗い直しよ!!」
「男子の分は俺とユーシスでやって来るよ」
「お身体冷やさないようにしてくださいね。タオルは用意しておきます」
俄かに騒がしくなるロビー。窓の向こうの雨を眺めて、エマは小さく呟いた。
「……慌ただしい時期になりそうですね」
ラウラとフィーの確執については少し掘り下げていこうと思っています。