灰と焔の御伽噺   作:カヤヒコ

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黎の軌跡、四章までクリア。ネタバレにならないように感想を述べると

グラフィック(こいつ)……動くぞ!?
・やっぱり属性値システムはキャラメイク感あって良い
・戦闘システムは今までで一番好き。ブーストゲージの管理がボス戦だと大事ですね
・黒月の規模が思ってたよりも大きくて、よくルバーチェは争えてたなって思う
・あの女性護衛官さん、ミュラーと凄い意気投合しそう
・軌跡世界の技術力も大分SF味が極まってきた
・アニエスのヒロイン力が強くて新鮮……
・女性キャラ差し置いて主人公(24歳・男)が一番あざと可愛いんだけど

やろうと思ったネタが公式で出て来たり作中キャラの強化プランの良いアイデアになったりと、この作品にも結構影響が大きいですね。現状言えるのは、もしⅢまで行ければクロスベル編が大変地獄(楽しいこと)になりそうです。


メイドと猫と遺跡島

 

 あっという間に六月二十六日。実習当日の朝になった。たまたま早くに目を覚ましたエマはロビーに一番乗りした──と思っていたが、そこに鈴を転がすような声が掛けられる。

 

「おはようございます、エマ様」

 

 振り向けば、声に相応しい妙齢の美女の姿があった。染みひとつない純白のエプロンとホワイトブリムは、彼女の役割を端的に示している。

 

 シャロン・クルーガー。定期試験の終わりに第三学生寮の管理人としてやって来た、ラインフォルト現社長兼会長の秘書を務める女性だ。ついでにアリサの姓がラインフォルトであることも発覚したが、これについてはⅦ組の半数は察していたので特に驚きもせず受け入れられた。「隠し通せてたと思ってたのに……」とはしょぼくれた社長令嬢の談である。

 

 彼女の背後のキッチンに視線をやれば、綺麗に切り分けられた食材の数々が目に入った。

 

「朝食の準備ですか?」

「はい。今回は特に早い出発とお聞きしていますので、列車で召し上がっていただけるようなランチボックスを用意しようかと。あと少しで出来上がりますのでソファに座ってお待ちください」

「それなら私にもお手伝いさせてください。代わりに少し相談に乗って頂きたいんですが……」

「……かしこまりました。前任のエマ様の申し出とあれば喜んで」

「別に管理人だった訳ではないんですけど」

 

 苦笑するエマだが、実際シャロンが来るまで寮則の整備や雑務全般の管理をメインでしていたのは彼女である。何ならサラから寮の鍵だって預かっていた。

 

 エプロンを付けてキッチンに入り、シャロンの指示に従って野菜をカットする。料理慣れしているエマの手際もそれなりに良いが、隣のメイドは別格だった。複数の工程を平行しながらも動きは洗練されており、純白のエプロンには一切の汚れを許さない。

 

「おはよ……あれ、エマもいるの?」

 

 メインのサンドイッチをバスケットに収め終えたところで、アリサが降りてきた。眠気が残っているのか、目尻は緩み足取りもどこか覚束ない。

 

「おはようございますお嬢様。今朝は一段と早起きでございますね」

「一応士官候補生なの。このくらい当たり前でしょう」

「あら、昔のように私が起こして差し上げようと思っていましたのに残念です。毛布の中でぐずるお嬢様はそれはもう愛らしかったのですが……」

「い、一体いつの話をしてるのよ!! もう子供じゃないんだから!」

(起こされたくなかったから今日早起きだったんだ……)

 

「シャロンさん、こっち終わりましたよ」

「ありがとうございます。後は私がやりますから、お嬢様と一緒にお待ちください。紅茶のご用意をさせていただきます」

 

 シャロンと入れ替わるようにキッチンを出たエマは、憮然としたままソファに座るアリサの隣に腰を下ろした。

 

「とても優秀な方ですね。もう一週間になりますけど驚かされてばかりです」

「……まあね。私の知る限りミスしないどころか、仕事に不満を持った人なんていないんじゃないかしら」

 

 どこか投げやりな調子でアリサは従者をそう評する。赴任して一日で寮内の雑務を全て把握し、次の日にはその完璧な仕事ぶりを見せつけていた。そのクオリティには公爵家子息(ユーシス)が手放しに称賛を送ったほどである。

 紅茶を待つ間もアリサの視線はキッチンに注がれており、不機嫌そうだ。

 

「シャロンさんが苦手、とか?」

「そういうのじゃないんだけど……私、家から自立するつもりでトールズに入ったのよ。なのに身内が世話役になるってのも格好つかないっていうか」

 

 色々やってくれるのは助かるけどね、と小さくため息をつくアリサ。シャロンの赴任初日には随分と荒れていたことも含め、ファミリーネームを隠していたのはトラブル避けの為だけではないらしい。

 

 数分後ティーセットを手にやって来たシャロンを交えて、ラウラとフィーのことを相談する。数日前にリィンがフォローを入れてくれたようだが、やはり根本的な改善は難しく緊張した関係が続いたままだ。

 

 これまでの経緯を説明し終えると、彼女は整ったおとがいに手を添えて考え込む。

 

「……話を聞く限りでは、やはりラウラ様の意識が重要かと」

「まあそうよね。フィーはあまり気にした様子もないし、あっちが軟化しないことには始まらないか」

「でもラウラさんは自分に否があるのは認めているんですよね。その上で今の態度ですので、感情面で折り合いがついていないのでしょうけど」

「内からの改善が難しいのであれば、やはり外……環境の変化が鍵でございましょう」

「どういうこと?」

 

 私見に過ぎませんが、と前置きした上でシャロンは続けた。

 

「知り合って僅か一週間ですが、ラウラ様がアルゼイド流の後継者に相応しいお方であることは疑いようもありません。性格や在り方も含めて、才に驕らず理想に向けて真っすぐに努力を重ねてきた賜物でありましょう。……ですが、だからこそ足りないものもあるのかと」

「だからこそ、足りないもの……」

 

 ラインフォルトグループ会長の秘書として、海千山千の人物と接してきた故の慧眼だろうか。エマ達には見抜けないラウラの問題を、彼女は察したようだ。

 

「そういった意味では、此度の班構成は良い機会になるやもしれません。サラ様のことですから考慮の内と思いますが」

「ええー本当に? この前相談したけど丸投げされただけよ」

「そこはサラ様なりの教育方針なのでしょう。教官になったと聞いた時は驚きましたが、よくよく考えればあの方向きだと思いますわ」

「……シャロン、教官のこと知ってたの?」

「サラ様の生活態度からは想像しづらいやもしれませんが、あの方は史上最年少でA級となった遊撃士ですもの。ギルドの活動が縮小されるまでは名の知れた有名人でした」

 

 壁に掛けた時計が六時を告げ、上階から物音が聞こえ始める。ティーカップを下げて立ち上がったシャロンは、はたとアリサのある部分に目を留めた。

 

「お嬢様、制服の裾が少し解れています」

「ホントに……って、別に大したことないじゃない。時間無いしこのままで良いわ」

「いけませんお嬢様。会長からお世話を任された身としてそのような姿で外出を認める訳にはいきません。意中の殿方にだらしがないと思われてしまいますわ」

「い、意中って何よ!? 別にリィンはそんなのじゃ……」

「あら? 誰とは申し上げたつもりはなかったのですが」

「────」

 

 ここまで「やってしまった」という表現が似合う顔をエマは見たことが無い。パクパクと口を開閉させ、顔色が真っ赤と真っ青を行き来しているアリサと愉しそうに微笑むシャロンが対照的だ。

 

「ご安心くださいお嬢様。すぐにこのシャロンが手直しいたしましょう。その間に“色々と”お話を聞かせていただきますわ♪」

「だから全然違うの! エマ助けてー!!」

 

 優雅に、しかし有無を言わせぬ力強さで哀れな子羊は連行されていく。助けを求めて伸ばされた手に、エマは同情と哀悼を捧げて見送った。戻ってくる頃には真っ白な灰になっているだろう。

 

「でも実際仲は良いですよね」

 

 四月に和解してからはよく話しているし、試験前の雨の日には一緒に下校していたのを見かけている。エマから見ても二人の相性は悪くないように思えた。もし彼女がその気があるのなら、最初の一歩くらいは背中を押してあげたいと考えている。エリゼの手前、全面的なサポートとはいかないが。

 

(導き手ってこういうのも役目の範囲なのかな……おばあちゃんもドライケルス大帝周りで色々苦労があったみたいだけど)

 

「おはようエマ。なんかアリサの悲鳴が聞こえた気がしたんだけど、何があったんだ?」

「……相変わらず間が良いのか悪いのかわかりませんね、リィンさんは」

「へ?」

 

 こちらの気も知らないで吞気に降りてきたパートナーに、魔女はジト目をくれてやるのだった。

 

 

 今回の鉄路は帝都まで同じ列車の為、両班揃っての出発になる。未だピリピリとした空気のラウラとフィーを刺激しないよう、他のメンバーが話題を振って列車を待っていた。話の中心になったのは、エマが抱えるセリーヌである。

 

「前に町で見たことあったけど、エマの猫だったのね」

「はい。室内は嫌いなので放し飼いにしてるんです。ほらセリーヌ、皆さんに挨拶して」

 

 エマの腕から飛び降りたセリーヌがⅦ組に向けてみゃあと鳴くと、周囲から感嘆が漏れた。人間と変わらない知性を持つセリーヌには、人に受けがいい仕草を演じることもお手の物。本人のプライド的に受け入れがたいこともあるが、そこは理性で抑えている。

 

 セリーヌを実習に連れていく許可をサラに求めると、意外なほどあっさり下りた。実習先でもしっかりと面倒を見る等、当たり前の注意を受けたくらいである。顔見せは今朝が初めてだがB班には事前に話も通してあった。

 

 軽やかに跳躍したセリーヌはリィンの肩と背中に着地すると、小声で耳打ちする。

 

「(ノルドにある巨像、余裕があるなら見ておいて)」

「(ん、分かった。セリーヌもエマ達のことよろしく頼む)」

「(正直トラブル続きなアンタの方も放っておけないんだけど……ま、なんとかしなさいな)」

 

 リィンが頭を撫でてやると、セリーヌは身動ぎしつつも目を細めて受け入れる。四年間で培われた力加減は彼女にとって最適だ。

 

「リィンもその子と仲良さそうだね」

「エマと一緒に知り合ったから四年の付き合いだからな。新鮮な魚が好きだから、もし向こうで手に入る機会があればあげてやってくれ」

 

 エリオットとそんな話をしていると、セリーヌはエマの腕の中に戻っていく。そこへフィーがとトコトコと歩み寄ってきた。

 

「ねえ委員長、撫でてみてもいい?」

「いいですよ。はいどうぞ」

 

 小さな手が黒猫の頭に乗る。初めはぎこちなかった手つきは、次第に滑らかなものになっていく。感触は悪くないらしく、セリーヌはされるがままだ。

 

「……ふふ」

 

 年相応の可愛らしい笑みに、その場の全員が目を奪われた。ラウラはそこに驚きも含まれていて、琥珀色の瞳が大きく開かれる。

 

「サンクス委員長。帰ってきたらまた撫でてみてもいい?」

「勿論。この子結構気ままなので、中々捕まらないかもしれませんけど」

「構わない。追いかけっこには自信がある」

 

 列車の到着を告げるアナウンスがホームに響く。

 

 最後にセリーヌへ温かい、どこか懐かしむような視線を送ると、ご機嫌なフィーはいの一番に改札をくぐった。

 

 

 帝都でA班と別れて、B班は都内の空港からオルディス行きの飛行船に乗った。鉄道なら移動だけで一日目の大半が潰れてしまうが、空路であれば昼過ぎには現地に到着できる。

 

 空の旅に心躍らせながら、一同はブレード(技術棟でクロウに布教された)や適当な世間話で道中の時間を潰していた。ラウラの表情が少し硬いものの意気込みに変化はない。過去二回ともユーシスとマキアスのせいで胃を痛め続けたエマは険悪な雰囲気のない旅路ってこんなに素敵なんだなあと心の中で感動の涙を流している。

 

「さて、到着前にブリオニア島のおさらいをするとしよう」

 

 目的地まであと二駅となったところで、マキアスが鞄から一冊のノートを取り出した。開けば独自に調べたであろう情報がビッシリと、それでいて読みやすいように並んでいる。彼の几帳面さと真面目さがこれ以上ないほど表れていた。

 

 ノートを軽く読み返しながらマキアスは語る。

 四大名門の一角にして帝国最大の貴族カイエン公爵家が治める海都オルディス。その名の通り海に面した都市の周辺には小島が点在しており、その中で最大級の面積を誇るのがブリオニア島である。特徴とされているのは島に残る古い遺跡群で、研究によればその歴史は七耀歴成立以前にまで遡る。帝国政府からも重要文化財に指定されており、その筋の人間には有名なスポットだ。魔獣が大人しくなる時期には一般人の観光も解禁される。

 

 特に夏至祭の日には島でも盛大な祭が執り行われる。丁度実習の最終日と重なっているのも、何らかの関連があるとマキアスは確信していた。

 

「あれ? でも夏至祭って来月じゃ……」

「違うぞエリオット。帝都が一月遅れなだけで、本来は六月の祭事だ」

「あ……そうか」

「まあ無理もない。僕も下調べの時にようやく思い出したくらいだからな」

 

 マキアスは苦笑する。獅子戦役の終戦月に因んで、帝都では一月遅れの七月に夏至祭が執り行われる。通りには屋台が立ち並び、ただでさえ活気に溢れる帝都が一段と喧騒に包まれる。生まれも育ちも帝都な男子二人にとって、夏至祭は真夏に開かれる年に一度の盛大な“お祭り”なのだ。

 

 対して地方出身の女子組にとっては、夏至祭はまた違った意味合いを持っている。

 

「私の故郷では領民総出で豊作と死者の鎮魂を祈るものだな。今頃は町中の飾り付けに勤しんでいるだろう」

「私のところはお祭りというより儀式ですね。里の皆で作った祭壇を囲んで、一年の無事を祈願します」

 

 因みに魔女にとっても夏至祭は縁が深い。七耀教会の教えが広がったことで廃れて久しいが、エリンでは未だ精霊は信仰の対象である。魔の森の一角に祠を建て、一族を挙げて儀式を行うのだ。

 同時に、一年で最も忙しい時期でもある。夏至祭で捧げられる多くの祈りは、時として人ならざる怪異を呼び込んでしまうのだ。それらを抑える為に里中の魔女が駆り出され、巡回魔女であるエマはその実働の中核を担ったのである。

 

「(去年は酷かったわね……)」 

 

 同じように思いを馳せていた膝上のセリーヌが遠い目をしていた。リィン、セリーヌと共に三日間ほぼ休みなしで怪異を千切って祓って斬り捨ててのデスマーチは冗談抜きで死ぬかと思った。

 

「催し一つでも地域で全然違うものだな……」

「それは無理もないかと。私達の国は千二百年もの間、封建制で成り立ってきました。現代のように交通網や通信が発達するまでは、州が違えば別の国と言っても過言ではなかったと思いますよ」

 

 帝国の頂点に座する皇帝と、それを支える四大名門という柱。その更に下に幾層にも重なる主従関係。今でこそ革新派による中央集権化と平民の台頭が進んでいるが、ひと昔前までは土地を治める領主の貴族こそが王であったと言っても過言ではない。近代までは一部の例外を除いて領地の外に出ることなど認められず、生まれた土地で死ぬまで過ごすことが当たり前だったという。そんな状況下で各地方では独自の文化が形成されてゆき、今日まで受け継がれてきたのだ。

 

「A班のノルドもそうだが、今回の実習は帝国の歴史や文化に触れさせようとする意図があるのかもしれないな」

「そう言われるとレポート纏めるの大変だなあ」

「まあそこは主席と次席殿がいるのだ。頼りにさせてもらうとしよう」

 

「歴史と言えば、ブリオニア島って昔からある巨人像が有名じゃなかった?」

「ん゛ん゛っ!!!??」

「にゃあ!!?」

「い、委員長どうしたの!? 今すっごい声出たよ!」

「な、何でもないですよアハハ」

 

 不意打ちに膝上のセリーヌを落としそうになったが、どうにか堪えて取り繕う。隣に座るラウラは

 

「私も聞いたことがあるな。確か百アージュ近いのだろう?」

「ああ。島の裏手にあって、観光名所の一つだ。当時の建築技術からしてもありえないとされて、出自に関しては色々と憶測が語られているらしい」

「お、憶測とはどんなものなのでしょう……?」

「それほど詳しくはないが、女神が遣わした守り神だとか、旧ゼムリア文明のゴーレムだとかの眉唾物が殆どだったな」

「そう、ですか」

 

 ごく一般的な説にエマは胸を撫で下ろす。前者は当たらずとも遠からずだが、それらの話を真に受けているのは信心深い人か七耀教会に席を置いている者くらいだろう。真実を知るとなれば、その更に一部──教会の上層部と『回収屋』か。

 

「おさらいとしてはこんなところだが、エマ君から何か補足はあるか?」

「補足ですか……」

 

 マキアスの話した内容は予習としては十分で、エマの知識とも相違はない。とはいえ期待の眼差しを向けられて何も返せないのも悪い気がする。

 少し考えて、エマの脳裏に話題がひとつ思い浮かんだ。

 

「実習に関係はありませんが……折角なので、あの地域に伝わる伝承でもひとつご紹介しましょうか」

「伝承?」

「はい」

 

 ぴんと指を立てて、教師のようにエマは言った。

 

人魚(セイレーン)──船乗りに二つの顔を見せる、とある精霊のお話です」

 

 

 午前十一時。オルディスに到着した一行は飛行船を降りて空港の入口に向かう。事前の連絡では、そこに島までの案内人が待っているとのことだ。

 

 外に出たエマ達を迎えたのは、正に海の都。

 

 生ぬるい風は潮の香りを運んできて、視界に広がる建物の屋根はまるで海原で染め上げたような碧色だ。遠くに見える海には漁船と思しき船が行き来してる。

 

「うわあ……あれが海……」

「バリアハートでも思ったが、こうも景観が統一されていると圧巻だな」

「カイエン候のお膝元だ。このくらい出来ても不思議ではあるまい」

 

 各々感想を述べていると、近くから人影が二つ近づいてくる。身形の良い老夫婦で、豪奢ではないが上質な衣服を着ていた。

 

「失礼、君達がトールズ士官学院のⅦ組でいいのかな?」

「は、はい。実習活動でこちらに参りました。……今回私達を案内していただける方でしょうか?」

「うむ。セオドア・イーグレットと言う者だ。一応伯爵の位を戴いているが、既に隠居した身なので気にしないでくれたまえ。こちらは家内になる」

「シュザンヌです。皆さん初めまして」

 

 老夫婦改め、イーグレット伯夫妻は朗らかな笑顔で自己紹介をする。エマ達が慌てて挨拶を返すと、イーグレット伯は少し離れた場所に停めてある導力車へ手を伸ばした。

 

「この時間では昼食もまだだろう。まずは私達の屋敷に招待させてもらおうか」

 

 

 

「では、今回の実習は閣下からの依頼ではないのですか?」

 

 屋敷で昼食をご馳走になった後、B班は改めて実習についての話を聞く。受け答えは班で唯一の貴族であるラウラが自然と受け持つようになった。

 

「うむ。私はあくまで本来の依頼者への橋渡しと顔貸しに過ぎない。実習内容については聞かされておらんのだ」

「(……どういうこと?)」

「(名目上の責任者ということかと。ラウラさんに聞きましたが、イーグレット伯爵は先代カイエン公の相談役を務められていたそうで。貴族派としての体裁があるのだと思います)」

 

「ならば私達を島へ案内していただくのは……」

「儂の友人だ。そろそろのはずじゃが……お、来おったの」

 

 来客を告げるメイドにイーグレット伯が許可を出すと、新たな人物が室内に入って来た。

 

「済みませんセオドア殿。わざわざ彼らの出迎えまで頼んでしまって」

「全くじゃ。お前さんの夏至祭の入れ込みようは知っているが、若人を待たせるものではない。大体もうそろそろ六十だろうに少しは落ち着かんか」

「今でも趣味を増やし続けてるあなたには言われたくありませんね」 

 

 六十歳近いようだが、百八十リジュ近い身体は年齢を感じさせない活力に溢れている。彫りの深い顔立ちはよく日に焼けた肌の陰影を濃く映し、若い頃は女性を惹きつけて止まなかったであろうことが窺える。

 

 肩を竦めたその男性はエマ達に向き直ると、快活に笑ってこう言った。

 

「ブリオニア島で実習の監督役を務めさせてもらうトーラ・アンセムスだ。士官学院の諸君、三日間どうかよろしくお願いするよ」




4話もかけてしまいましたが、次回からようやくブリオニア島編スタートです。
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