灰と焔の御伽噺   作:カヤヒコ

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思いの他長くなったので前後編に分けました。

過去と現在が交互に展開して分かりづらいと思う方もいると思うので、今回から過去の話には◇を、原作時間軸の話には*を最初に付けることで区別しようかと思います。それでも読みにくければ感想か作者宛てにメッセージいただければ。


創の軌跡も情報が出てきて面白そうですね。個人的に緑髪眼鏡のジャスティスコンビのストーリーが気になってます。


魔女の学院生活(五月編)・上

 

「全く、朝から悲鳴を聞いた時は何事かと思ったわ」

 

 妖精の湯でのハプニングの後。

 

 ローゼリアのアトリエに戻ってきたリィンは、朝食を食べながらローゼリアから多くの話を聞いた。

 

 世間から切り離された隠れ里であるエリン。歴史の裏から帝国を見守ってきた魔女と魔術の存在。自分が助けられた経緯と、身体に起きた異常について。余りにも非現実的な話だったが、リィン自身も説明のつかない異能を宿していることもあって、ひとまずはそういうものだと受け入れることが出来た。

 

「それでヌシに訊ねるが、その力は一体何なのじゃ」

 

「分かりません。一年前にこの力に目覚めてからは、表に出さないように努めてましたから」

 

「……込み入った話にはなるが、親族に心当たりのありそうな者はおらぬのか?」

 

「……自分は小さい頃、今の家族に拾って貰った身でして。実の家族については何も覚えていないんです」

 

「お、おう……それは済まぬの」

 

 リィンは無意識の内に心臓の辺りを抑えていた。

 

 自分を捨てた実親に特に恨みはない。化け物のような力を持って産まれたのなら無理もないだろうと思っている。捨てられる前――つまり物心つき始める五歳までの記憶が一切ないことは疑問だったが、その理由は余り考えたくはなかった。

 

 

「ありがとうございました。このご恩はいつか必ずお返しします」

 

 椅子から立ち上がり、丁寧に頭を下げたリィンは部屋を出ていく。身体に倦怠感は残るが、日常生活に支障がない程度には回復している。ローゼリアは何気なくその背中を見送って、

 

「……って待たんか!! 何サラッと出ていこうとしておるのじゃ!?」

 

「ぐえっ」

 

 叫んだローゼリアが指を動かすと、不可視の糸に引っ張られるかのようにリィンの身体が浮き、元の椅子に収まった。

 

「助けて貰った上に食事まで頂いて、これ以上お世話になる訳には……」

 

「一応訊くが、どこに行く気じゃ? ユミルまでは相当距離があるじゃろうし、そなた今無一文ではないのか」

 

「今更実家には帰えれませんよ。取り敢えず魔獣を狩ってセピスで路銀を稼いで、その後は仕事を見つけて何とか生活を……」

 

「なんじゃそのちっぷすより脆い計画は?! お主の容体を安定させるのに一晩かかったのじゃぞ! 上手くいかずにその辺で野垂れ死にされては妾の苦労も水の泡ではないか!!」

 

「う……。でもやっぱり悪いですよ」

 

「子供が一丁前に気を遣うでないわ。まずは体調を戻すことに専念せい。妾が許可するまでこの里から出さんからの」

 

 見た目日曜学校に通うような幼い少女に言われても説得力はないが、有無を言わせぬ気迫は本物だ。こくこくとリィンが頷くと、ローゼリアはリィンを客室に案内する。彼に自覚はなくとも、体力が回復しきっていない。十分に食事を摂った後は程なく眠りに就くだろう。

 

「……出てきても良いぞ」

 

 厨房に繋がる扉に向けて呼びかけると戸が開き、孫娘のエマが顔を見せた。顔だけをリビングに出して周囲を確認すると、安堵の息を吐いてローゼリアの前にやって来る。

 

 妖精の湯でリィンと遭遇した彼女は即座に立ち去り、先にアトリエまで戻っていた。後で帰ってくるリィンと顔を合わせるのを避けるため、食事の準備をしつつ厨房に閉じこもっていたのである。

 

「お主も気にし過ぎではないかのう? 真っ裸を見られた訳でもあるまいに」

 

「気にするに決まってるでしょう! 里の皆ならともかく、外から来た人に見られるなんて……!」

 

「脱衣所にあ奴の服があるのに気づければ避けられた筈じゃろう。普段から周囲の観察を怠るでないわ」

 

「それはそうだけど……」

 

 腕を抱き、羞恥で顔を赤く染めるエマ。同年代の異性に知り合いがいないので刺激が特に強かったのだろう。年頃じゃのうとほっこりする祖母であった。

 

「あの人をどうするの?」

 

「取り敢えず封印術をもっとマシなものにせんとの」

 

 現在リィンに施した封印術はあくまでも応急処置的なものだ。封印を安定させるのはリィンの反応を見ながら調整を加えていくため数日は必要になるだろう。数百年ぶりに遭遇した未知の異能だが、魔女の長のプライドにかけてキッチリ解決するつもりだ。

 

「という訳で妾はこれから術式の調整に入る。里の案内と小僧の世話は任せるからの」

 

「はいはい、分か……ちょっと待っておばあちゃん!? 私がやるの!?」

 

「犬猫ではないが、拾ってきたお主が面倒を見るのが筋じゃろう。一応妾の客人扱いになるしの」

 

「う……」

 

「それにあやつは≪灰≫の候補者。お主が巡回魔女になれば宛がうつもりだった相手じゃ。取り込めとは言わんが、縁を結んでおいて損はあるまいよ」

 

 正論を並べられて返答に詰まるエマ。ローゼリアが言うまでもなく介抱するつもりだったのだが、渋っているのは湯着姿を見られて恥ずかしがっているだけである。

 

 結局折れた孫娘に後を任せ、ローゼリアは自室で魔術の準備に取り掛かる。必要となる霊薬の材料を揃えながら思い浮かぶのは、先ほどのリィンのことだった。

 

 話をする中で感じた、どこか虚ろな雰囲気。貴族の子息らしい礼儀正しい少年かと思えば、人の手を借りることを過剰に忌避する一面もある。異能とは別に、あの少年が抱えた問題は根が深そうだ。それも恐らく、ローゼリアには不向きな類の。外の人間とのコミュニケーション経験が少ないエマも向いているとは言えないが、巡回魔女を目指す彼女にリィンとの交流は良い経験になるだろう。

 

(それにまだ子供とは言え、衣食住含めて世話するのじゃ。落ち着いたらあやつには色々と働いてもらうとするかの)

 

 それなりに貴重な材料――《表》に流せば扱い次第で一財産築けるであろう品々を、身の丈ほどもある大釜に背伸びしながら放り込む。

 

 

 何であれ、物事は対価ありきで廻るもの。ただ優しいだけでは善き魔女は務まらないのだ。

 

 

 午前五時前。まだ暗闇に浸る第三学生寮で、エマ・ミルスティンは目を覚ました。

 

 不規則な生活を強いられることの多い魔女にとって、この程度の早起きは慣れたもの。姿見の前で髪を編み、魔力封じの眼鏡を掛ければ士官学院生としての彼女が完成する。

 

「……今日はまた早いですね」

 

 ドア越しの足音を耳にしつつ、エマは教科書を開く。早朝は授業の予習復習の時間だ。特待生として主席入学した以上成績の維持は必須。早朝のひんやりとした空気の中、ノートにすらすらとペンを走らせる。Ⅶ組はマキアスを筆頭に成績優秀者が多い。主席の座に拘っている訳ではないが、委員長として彼らに恥じないだけの成績はキープしておきたい。

 

 一時間ほど経って太陽が顔を出す頃合いになると、エマは一階に下りてキッチンで湯を沸かしていた。玄関の扉が開き、姿を見せたのはリィンとラウラだった。どちらも動きやすい薄手のシャツとズボンスタイルで、流れる汗をタオルで拭っている。

 

 特別実習で打ち解けて以来、二人は早朝の鍛錬を共にすることが多くなった。いつもより早い時間に寮を出てからの今の様子から、今日は本格的に打ち合っていたのだろう。

 

「二人ともお疲れ様です。お茶の準備がもう少しでできますから、座って待っていてください」

 

「ありがとうエマ」

 

「そなたに感謝を。いつも助かる」

 

 二人の剣士がテーブルについて程無く、エマはトレイにティーカップを二つ載せてリィンとラウラの前に置いた。カップの中で波打つ液体は淡い水色をしていて、湯気と共に花の香りが広がる。

 

 エマが独自にブレンドした、疲労回復に効果のあるハーブティーだ。元々エマは魔女の魔法料理の修業の一環としてハーブティーを良く淹れており、里ではリィンに何度も振舞っていた。トールズに来てからもそれは続き、最近ではラウラにも試飲してもらっている。

 

「今日は少し配分を変えたんですけど、どうでしょうか」

 

「……うん。この前より甘く飲みやすいな。私はこちらの方が好みの味だ」

 

 しばし三人で和やかなお茶の時間を過ごす。話題は手合わせの反省会から始まり、ラウラの所属する水泳部のことへ。新入部員は泳ぎの経験がある生徒とそうでない生徒が半々で、ラウラは同級生の基礎指導に当たっているらしい。

 

その後二人より先に三階の自室に戻ったエマは、鞄を持って同階の一室をノックする。返事が無いことに溜め息をついていると、そこに丁度部屋を出たアリサが通りかかった。

 

「今日も?」

 

「みたいですね……。すみませんが、また貸してもらえないでしょうか?」

 

「いいわよ。今日は時間の余裕あるし私も手伝うわ」

 

 アリサは再度自室に戻り、エマはノックした扉のノブを回す。入寮した時と然程変わらない殺風景な部屋が目に入った。

 

 

――カーテンの隙間から溢れる朝の日差しが、布団からはみ出た銀色の髪を照らしている。

 

「フィーちゃん起きてください。もう朝ですよ」

 

「ん……あと五時間」

 

「それじゃあ半日経っちゃいます。ほら、顔を洗ってきてください」

 

 布団を引き剥がすと、そこには寝惚け眼の小柄な少女フィー・クラウゼル。小さく欠伸する姿が子猫のようで可愛らしい。彼女はエマに言われるまま危なっかしい足取りで洗面台へと消えていく。

 

 授業が始まった当初はよくサラに引きずられるようにして登校していたフィーだったが、授業が本格化し始めた最近では忙しくなってきたサラが連れてくるのも難しくなってきた。一度昼前登校という大遅刻をやらかしてからは、エマが毎朝様子を見るようになった。今ではその世話焼きぶりを遺憾なく発揮して完全にフィーのお母さんだ。

 

 フィーが戻ってくるまでの間に、エマはクローゼットにしまわれていた制服を手に取りベッドの上に寝かせた。目につく汚れはないが、皺がそれなりに目立っている。

 

「お待たせー。フィーは洗面台?」

 

 自室から目的の物を持ってきたアリサが訊いてくる。

 

「ええ。制服は私がやりますから様子を見てきてもらえますか?」

 

「はいはい。それじゃこれでお願いね」

 

 アリサがエマに渡したのは、ラインフォルト社製の最新型導力スチームアイロンだった。やや重いがその分性能は折り紙付きで、エマも偶に借りたりする。一度このアイロンについてアリサと話をした時、明らかに一般人が知らないような制作秘話を喋っていたのは、まあ色々と察するものがあったりしたが。

 

 アイロンのスイッチを入れてボタンを押すと、やる気万端とばかりに蒸気が底から噴き出した。広げた制服の上からプレートを押し当てて皺を伸ばしていると、洗面台の方から慌ただしい物音が。見ればアリサがフィーの頭にタオルを押し当てている。

 

「ほら、ちゃんと髪を拭きなさい。風邪ひくわよ」

 

「めんどい」

 

「またそんなこと言って……ってああもう、右側跳ねてるじゃない!! 櫛貸して!」

 

 渋々ながらも素直に従うフィーはアリサにされるがままに髪を手入れされている。これで戦闘になれば別人のように優秀な遊撃手となるのだから、人も分からないものだ。

 

 悪戦苦闘の末に寝癖を直し終えるのと同時にアイロンがけも完了し、ようやく身だしなみを整えたフィー。時計を見れば七時過ぎ。学生会館の一階で朝食を食べてからだとHRの始まるギリギリになる。

 

 春の陽気に押されるように、少女達は慌ただしく寮を飛び出した。

 

 

 どうにか予鈴には間に合い、授業を乗り越えて放課後。エマは学生会館の二階に足を運んでいた。今日は彼女が所属する文芸部の活動日だ。

 

「お疲れ様です、ドロテ部長」

 

「いらっしゃいエマさん。他の皆もすぐ来るでしょうから、それまではゆっくりしてて」

 

 紙の匂いと共にエマを迎え入れたのは、赤いフレームの眼鏡が特徴的な黒髪少女。文芸部の部長を務める二年生のドロテは手にした本を机に置いた。

 

「それは?」

 

「先月、帝都の学術院で発表されたばかりの論文です。獅子戦役前後の文化の変化を文学の観点から纏めたものなんですけど、中々面白いですよ。後でエマさんにもお見せしますね」

 

 あまり人目を引くタイプではないが、誰にでも丁寧に接し成績優秀な彼女は文芸部員から広く慕われている。特に歴史と文学の知識についてはエマも驚嘆するほどだ。

 

 ドロテの言葉通り他の部員も程なくして揃い、今日の部活動が始まった。

 

 文芸部の部員は十数人程度の少数だが、活動は活発だ。月に一度は広報紙を発行し、平行して他の文科系部活が合同で出す学内新聞の校閲も担当。他校の学生と自筆小説の品評会を開くなど学外に足を運ぶこともある。またトールズの特色の一つとして、図書会館に新しく追加する図書の選定も一部担当している。優秀な学生が集うトールズの図書会館は利用者も多いため責任は重く、選定の話し合いは時間をかけて行われる。

 

 今回はまさにその一回目で、様々な意見が飛び交った。

 

 貴族生徒からは、貴族派と革新派の対立構図の理解を深めるために双方の背景を解説した本を。軍事学に詳しい平民の二年生からは、士官候補生らしくより実践的な兵法書を。一年生の女子生徒からは、最近人気の恋愛小説を。帝国中から選抜された本の虫達が本の話をして大人しく終わるはずもなく、図書の候補を絞りきったときには下校時間を迎えていた。

 

「お疲れ様です、ドロテ部長……」

 

「うう、ありがとうエマさん。毎回この話し合いは胃が痛くなります……。皆さん良い本を薦めてくれているだけに」

 

部室に入った時と同じ言葉を、今度は心底からのねぎらいを込めて疲弊しているドロテに送った。用事を頼まれたエマ以外の部員は既に帰っている。

 

 渇いた口内を紅茶で湿らせ、エマは口を開く。

 

「それで部長。聞きたいことというのは……」

 

「ええ。その……差し支えなければなのだけど、Ⅶ組のことを教えてくれませんか? 寮生活の様子とか、クラスメイトのこととか」

 

 メモ帳をペンを手に、申し訳なさそうに――しかし隠し切れない好奇心に目を輝かせて、ドロテはそんなことを訊ねてきた。曰く、今年新設されたⅦ組は、その特異な面子も相まって他クラスからも注目されているが情報が不透明な部分もあり、虚実混じった噂が流れているそうだ。風評被害で余計な溝を生まないよう、学内新聞の一コマで軽く紹介しようという話が持ち上がっているらしい。

 

「……という名目で小説のネタが欲しい、ということでしょうか?」

 

「う……否定できませんけど、嘘という訳でもないんですよ。委員長のエマさんならソースとしては信頼出来ると思ってますから。記事の件もあくまで候補というだけで、不快に思われるなら載せませんので」

 

「……分かりました。大した話は出来ませんが、それでも良ければ」

 

 Ⅶ組は皆周りに配慮してくれる人達だが、それでもこれまで全く異なる環境で暮らしてきた九人だ。共同生活を送れば常識のズレは頻繫に起こる。エマを筆頭に大雑把なルールを作っているが、対処しきれていないのが現状だ。そういったエピソードを個人のプライバシーを損なわない程度に話していく。

 

「ふんふん。確かに貴族生徒と平民生徒だとそう言った問題が――――」

 

 適度に相槌を挟みつつ、取材……もとい小説のネタになりそうな部分を書き留めていくドロテ。小説家を目指す彼女の文章力は相当なもので、見せてもらった自筆小説はプロ顔負けの出来栄えだ。新作の助けになるのなら嬉しく思う。

 

 ……ただ一点、問題があるとすれば。

 

「ユーシスさんはイメージ通りの乗馬部……。ワイルドなガイウスさんが美術部……ああでも寧ろそのギャップが……」

 

 次第に相槌が無くなり、無言でペンを走らせる。

 

「はあ、はあ、はあ……やはりここは定石通りのガイウスさんいや対立の果てに生まれる絆という点ではユーシスさんとマキアスさんああでも大人しいエリオットさんやリィンさんがシチュエーション次第で化けるというのも…………ぶぱっっっ!!」

 

 荒い呼吸を繰り返して一心不乱に書き殴ったメモ帳は、自らの出した鼻血によって真っ赤に染まる。外なら憲兵からの職質は避けられないレベルの変態的絵面である。安らかな表情で机に突っ伏す姿を、エマは何とも言えない表情で見つめていた。

 

 問題というのは、ドロテの得意分野……というか趣味のジャンルが、青少年達の汗と涙と複雑な愛情を綴った腐臭めいたナニカでなのである。なまじ読み物として優れているのが質が悪い。ちなみにドロテほどオープンではないものの、文芸部の女子生徒の半数は彼女の同志だ。

 

 とりあえずドロテを起こし、ティッシュで鼻血を止める。

 

「ふふ……やはり私の見込んだ通り、Ⅶ組は逸材揃いですね。ありがとうエマさん」

 

「…………一応言っておきますけど、くれぐれも参考程度に留めておいてくださいね」

 

「ええ、分かっていますよ。……そうです、この機会にエマさんも是非こちらの世界にっ! 大丈夫、初心者の方にも読みやすものは一通り揃えていますから!!」

 

「け、結構です!!」

 

 

「あら、今から帰り?」

 

 貧血でふらつくドロテに代わって戸締りと鍵の返却を終え、職員室を出た後。エマは頭上からの声に顔を上げる。階段を登った先の踊り場で少女がエマを見下ろしていた。

 

「べ、ベリルさん……」

 

「名前覚えててくれたのね。嬉しいわ」

 

 くすくすと笑うベリル。その仕草は童女のようにも遊女のようにも見える。

 

 人影は他になく、気のせいか校内外の喧騒も遠い。西日でオレンジ色に塗られた廊下を挟んで、二人は向かい合う。

 

「オカルト部の活動も終わりですか?」

 

「ええ。これから鍵を返すところよ」

 

「……普段、どんな活動をされてるんです?」

 

「色々よ。占いをしたり、専門の雑誌の記事を書いたり。興味があるなら入部しないかしら? 確か、掛け持ちも出来るはずだけど」

 

「お誘いはありがたいですけど。文芸部で手一杯なので遠慮しておきます」

 

益々硬度を帯びるエマの声。

 

 彼女が所属するオカルト部は、色々と謎が多い。

 

 今年に入って新設された部活だが、部員は彼女一人。にも関わらず正式な部活動として成立している。魔女にとって大抵のオカルトネタは子供騙しに等しいが、何となく気になって見学に行った先で悟った。

 

彼女は、本物だ。

 

「そう恐い顔をしないで頂戴。貴女達の使命に干渉する気は無いわ」

 

「……」

 

「ただ私は、人と比べて色々と『視えて』しまうだけ。……色々と制約もあってね。学友として助言程度なら出来るから、気が向いたら遊びにいらっしゃい」

 

 全てを見透かすような黄金の瞳に翳りが差したように見えるのは、踊り場に夕陽が入らないからか。彼女の誘いが善意から来るものであることは、何となく察したエマだった。

 

 階段を下りたベリルはオレンジ色の境界線を踏み越える。警戒するエマを余所に平然と横を通り過ぎる。

 

 

 

「水路と《獣》に気を付けなさい」

 

「……え?」

 

 振り返った先に異常はない。少女が帰路に就く、いつも通りの放課後があるだけだ。




文芸部の活動内容や学内新聞は独自設定ですが、トールズって新聞部や放送部がないので広報活動は各部で兼任しているのではと考えてみました。レックスやヴィヴィが帝国時報に就職したのは自分で記事書いた経験あってのことだったり。

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